同世代のUMAさん   作:カニ漁船

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この年に万博があったことを知る。


マル秘情報①:ハレヒノカイザーの馬体重は現在460前後


意識を変えました

 どすこい、私です。今日も今日とて調教を頑張っていきますよ~。まずは癖の矯正ですね。

 私にあるとんでもない癖。なんでも口を割り頭を上げて走ってしまう癖があるのだとか。これはあまりよくないということで、これまで矯正に努めてきたのですが……結果は芳しくなく。

 痺れを切らしたテキこと富士澤さんが、最終兵器として用意したのが。

 

(物理的に口を開かなくする皮の紐である!)

 

 無意識に口を開くのであれば、口を開かなくすればいいじゃない。ということで、皮の紐で口周りを固定しています。鼻呼吸なんで呼吸は問題ナッシング。コイツを使って、私は癖を治すために頑張ります。

 

「よ~しよし、皮の紐にも慣れてきたな。順調に走れているぞ」

 

 ふふん、そうでしょうそうでしょう富士澤さん。私はやればできる子、褒めればもっとできる子!

 皮の紐を装着して2週間。次のレースに向けて、私の矯正は万全ともいえるでしょう!

 

「そろそろ装着しないでやってみるのもいいな。着けないに越したことはないんだから」

「そうですね。それじゃ、最後は外して併走をしますか?」

「……そうだな。最後は外して走ってみよう」

 

 お、ついに外して走ることになりましたか。ふふ、任せてくださいよ富士澤さん。そろそろ私も大丈夫だってことを教えてあげましょう。

 

『あれ、最近着けてる変なのは良いのカイザー?』

『ふっふっふ、アレは所詮私を縛る枷。枷を外したということは、私の強さは跳ね上がるということです!』

『なんかよく分かんないけど、今日もがんばろーなー』

 

 併走相手は美浦所属の同世代の子。いざ、尋常に勝負!

 

 

 結果はと言いますと。

 

「……多少マシにはなったか」

「本当に多少ですね。最終的に口を割ってましたし」

 

 う~んおかしいですね。私の中では完璧に走れていたと思ったのですが。私の癖はどうして治っていないのでしょうか?

 いえ、私にはまだ伸びしろがあります。私、まだまだ成長期。つまりこれからどんどん成長していくわけですよ。

 そこに私の癖が治ればまさに鬼に金棒、パーフェクトカイザーが誕生しちまうわけですよ。こうなったらもうだれにも止められない、UMAのプイちゃんにだって勝てますね。

 私の未来は明るい! 何でもできそうな気がしますよ~! あの皮の紐とも、これでご卒業かもしれませんね!

 

「ま、お疲れ様だカイザー。これからもあの皮の紐で頑張ろうな」

 

 あ、はい。頑張ります。

 

 

 

 

 

 

 突然だけど私の馬房はとあるお馬さんと隣である。そのお馬さんというのが、ゼンノロブロイさんだ。

 

『ただいま~ロブロイさん』

『おっ、お帰りカイザー。今日も頑張ってたみてぇだな』

『超頑張った!』

 

 私からしたら気の良い近所のお兄ちゃんみたいな馬です。美浦に来た当初は随分とお世話になりましたねぇ。

 

『よし、カイザー。今日もいい感じの手の抜き方を教えてやろう』

『ロブロイさん好きだね、手を抜くの』

『大丈夫だ、レースでは本気出すから』

 

 なお、当のロブロイさんは私のためと言って手の抜き方を教えてくれます。あんまり役に立ったことありませんけどね。いえ、別に手を抜くのが嫌いとかそういうわけじゃないですよ? 私の場合、気づいたら手を抜くことなく走っているだけです。走るの楽しくて好きだからね。手の抜き方とかよく分かんない。

 それでロブロイさんなのですが、普段はのんびり屋。でも厩舎ではエースを張ってます。エースですよエース、厩舎で一番強いってことです。

 

『ロブロイさん大きいレース勝ったんですよね? よく知らないですけど』

『おう! これでクリスエスさんにも顔向けできるってもんだよ!』

 

 クリスエスさんというのは、私がここに来たばっかりの頃にいたロブロイさんより前のエースです。シンボリクリスエスさんと言って、ロブロイさんが尊敬しているお馬さんです。

 私もちょっとだけお世話になったことがありますよ。私のデビューとクリスエスさんの引退が重なったから、あまり多くの時間はいられませんでしたけど。

 ともかくとして、私はロブロイさんにいろいろなことを教わっているのだ。

 

『G1ってのはな、凄いぞカイザー。人間がたっくさんいるんだ』

『ほへ~、どれくらいですか?』

『もう見渡す限りの人間、人間、人間ってくらいだな。どこもかしこも人間ってレベルだ』

 

 例えばレースの最高格付けであるG1のこととか。ほうほう、G1ともなるとそんなに人が多くなるんですね。

 

『私がこの前出たレースも多かったですけど、それ以上ですか?』

『間違いなくそれ以上だ。G1ってのは、出れるだけでも凄いレースだからな』

『はへ~』

 

 なんていうか、凄そう。

 ですが、そんな私もG1に出走できる権利を得ましたよ。この前富士澤さんが話してましたからね。これで私も最高位格付けってことです。

 

『私もG1に出れることになりましたよ。なんだっけ……皐月賞とか、そんな名前のヤツ』

『何!? そいつは良いじゃねぇかカイザー!』

 

 あ、ロブロイさんが馬房から身を乗り出してきた。にゅって感じで。

 

『G1は、人間も多いからやかましいがそれ以上に強いやつらがたくさんいるからな。走れるだけでも凄いことって人間が言ってたぜ』

『ふふん、つまり私は凄いってことですね!』

『そうだ。カイザーは凄いぞ。きっとクリスエスさんだって褒めてくれる!』

 

 ロブロイさんからも褒められる。あ~もっと褒めて。というか、人間さんって私達の会話どう見えてるんだろうね? なんか仲良くしてるな~ぐらいにしか思われないのだろうか?

 

『よし、今日もいいことを教えてやろうカイザー』

 

 ともかくとして、ロブロイさんから新たな知恵を授かる。

 

『G1ってのは凄いやつらの集まりだ。出走するだけでも凄いし、勝てたらもっと凄い。そして』

『ご、ごくり』

『そんなG1を3つ勝ってる俺はかなり凄いってことだ!』

『お、おおお!』

 

 やっぱロブロイさん凄い! 勝つだけでも凄いG1を、3つも勝ってるだなんて! よっ、アンタがエース!

 

『ロブロイさん凄い! さすがはロブロイさん!』

『俺が本気を出せばこんなものよ』

 

 得意げなロブロイさん。やっぱり先輩は凄いものですね。ま、私もいずれは並び立つ(予定)の馬ですから。今後はさらに頑張っていきますよ~。

 

『それに、頑張れば人間はたくさん休みをくれるからな。俺も夏まではお休みだ』

『最近レースの話を聞かないと思えばお休みしてたんですね』

『おー。たっぷりともらったよ』

 

 私もロブロイさんに続くぞ~。

 

 

 会話が終わると、いつものようにラジカセから音楽を鳴らします。馬の蹄だとちょっと難しいんですけど、もうコツは掴みました。ふふん、さすがは私。

 

「こいつもう自分でラジカセつけてやがる……いつもこうなのか? 壬生」

「最近ではな。今更驚かないよ。カイザー、今日の新聞もってきたぞ~」

 

 お、待ってました。今日のニュースを見せて頂戴な。

 

「新聞が読める馬とかそういう次元じゃない……いくらなんでも賢すぎる。中に人間がいるって言われても驚かんぞ」

「俺も最近そう思ってきたよ」

 

 ま、実際中に人間がいるみたいなもんですけどね。転生前は人だったので。前世では馴染みのなかった新聞にハマることになるとは。いまだによく分からないけど。

 今日はどんなニュースがあるんでしょう。楽しみですね……あ、万博あるんだ。

 

「カイザーの調教、どんな感じだ? 相変わらず癖の矯正が難しいって聞いてるが」

「変わらずだよ。どうしても口を割って走ってしまう。これは矯正するのに骨が折れそうだ」

「デビュー前からずっとそうだもんな~カイザーは」

 

 万博、万博ねぇ。いまいち何をするのかよく分からないのが正直なところ。でも楽しそうだから良いな~! 私も参加できないでしょうか? もしかしたらできるかもしれません。

 壬生さん達の会話を耳に入れつつ新聞に集中……あ、そろそろ捲ってください壬生さん。

 

「捲れって? 分かったよ……カイザーに必要なのは、勝ち気だって言ってたよ。賢いから、勝ち気がどうしても薄いらしい」

「富士澤さんも岡邉さんも同じことを言ってたのか?」

「そ。2人とも同じ意見だった。手を抜くってわけじゃないんだけど、勝つことよりも面白さを優先しているかもしれない、ってのが富士澤さんたちの見解だ」

 

 また出ましたね勝ち気問題。う~ん、やっぱりもうちょっと勝ちに集中した方がいいんでしょうか?

 

「走ってくれるのも嬉しいけどさ、やっぱり勝ったらもっと嬉しいよな~。ゼンノロブロイの時なんかも凄かったし」

「アレは別格だろ。秋古馬三冠だぜ? テイエムオペラオーしか前例のなかった」

「それをまさか、ゼンノロブロイが達成するんだもんな~」

 

 隣にいるロブロイさんめっちゃ喜んでそうですね。私だったら喜びで飛び跳ねていること間違いなしです。

 ふむふむ、勝ったらもっと嬉しい、か。

 

(やっぱり春陽さんもそうなんでしょうね)

 

 私のオーナーである春陽さん。重賞も私が勝つまでは取れなかったみたいですし、G1を取ったとなると嬉しさで爆発するかもしれません。

 ……よし、決めました!

 

(もうちょっと勝ちを意識してみましょう。ちょっと難しいかもしれませんが)

 

 しかし私ならできる。なんせ私、賢いので。できる子なので。難しいことでもやれちゃうんですよ。

 次の調教でやるべきことは決まりましたね。頑張りますよ~。

 

 

 

 

 

 

 早速次の日の調教。

 

「今日も昨日と同じメニューだ。最後には皮の紐を外して併走をしよう」

「昨日の今日で治りますかね?」

「……まぁ、念のためがあるかもしれんからな」

 

 よ~し、頑張るぞ~。

 ぶっちゃけ最初のトレーニングは普通にこなします。矯正用の皮の紐を装着してもらって、普通に走る。ここまでは変わりません。

 大事なのは最後の併走です。今回のお相手は、またも西からの刺客です。

 

『へぇ、お前が東のディープインパクトってやつか?』

『え、君もプイちゃんを知ってるの?』

『プイちゃん……? まぁいい、お前がハレヒノカイザーだな?』

 

 ご名答。何も隠さないですが私がハレヒノカイザーです。私も有名になったものですね。てか私、東のプイちゃんと呼ばれているのか。

 まぁいいでしょう。私の名前は知ってもらった、ではあなたのお名前を教えてもらいましょう!

 

『そうだよ! 今日はよろしくね!』

『……なんかのほほんとしたやつだな。本当にそうなのか?』

『ねぇねぇ名前は? 名前はなんて言うの!』

『分かったから近づくな! 俺はヴァーミリアンだ! ヴァーミリアン!』

 

 ヴァーミリアン……ヴァー君だね!

 

『よろしくねヴァー君!』

『なんだそれ!? 今すぐ訂正しろ!』

『え~、良いと思うけどな~ヴァー君』

 

 どうやらお気に召さなかった様子。心の中で呼ぶことにしましょうか。

 

「ぐいぐいくるネ、ハレヒノカイザー」

「元々こういう気性の子なんだ。今日はよろしく頼む」

「ウン。お手柔らかに頼むヨ」

 

 ほほう、それにしてもヴァー君の騎手は外人さんなのか。見た目がそれっぽい。

 さてさて、そんなわけでヴァー君との併走です。私が外、ヴァー君が内ですね。ちなみに豆知識なんですが、基本的に強い馬が外を走ることが多いそうですよ。

 軽めのスタートを切って並んで走ります。ゆったりとしたペース、になるはずもなく。ヴァー君がガンガンペースを上げていきます。

 

『オラオラぁ!遅れると置いていくぜハレヒノカイザー!』

 

 ふふん、まぁそう慌てなさんな。今から──追いつきますから。

 軽く、それでいて今までよりも速くすることを意識。風の抵抗が強くなって、より進路を阻むように立ちはだかります。ま、問題はありませんけどね。

 

『ッ! へ、なかなかやるじゃねぇか……なら、これはどうだ!?』

 

 ヴァー君さらにペースアップ。ま、()()()()()()()()()

 ぴったりと、並んで走ります。うんうん、良い感じにできてますよ。

 

「……カイザー?」

 

 大丈夫ですよ岡邉さん。任してください私に。今回の併走は、ちょっと勝ちを意識しますので。

 

「ッ!」

 

 そろそろ最後の場面かな? なら、さらにペースを速めましょう。

 

『こ、なっ、く……そっ!』

『アハハ』

 

 ペースを速めたら、その分だけ風は強くなる。私は、強くなっていく風を切り裂いて進む感覚が堪らなく好きだ。

 

『っん、でっ』

『アハハハ』

「ッカイザー!」

 

 もっとずっと先へ。

 

『……んだよ、このバケモンは!?』

『アハハハハ!!』

「ッ!? 口を、割らずに走っている……!」

「す、すごい! 治ってるじゃないかカイザー!」

 

 さらにスピードを速くしますよ!

 今の私は風。そう、風と一体化していますよ! ひゃっほう気持ちいいですね! このままどこまでも進んでいきますよ!

 だけど。

 

「止まれ、止まれ!止まれカイザーッッ!!

 

 ぐふっ!? た、手綱引っ張られて急ブレーキですと!? 仕方ありません、ここはペースを緩めましょう。

 

「カイザー、お前……」

 

 おや? どうしたんでしょうか岡邉さん。というか、ヴァー君はいずこへ? 楽しく走れたし、この喜びを共有したいものですが……あれぇ!? 結構遠くにいるんだけど!?

 

「富士澤さん、これじゃ併せにならないよ……」

「……まさか、ここまでの能力があるとは」

 

 うん、これあれだね。私やらかしたね。やっちまったぜ。

 

「岡邉、ヤバいネその子」

「……そうだな」

 

 これは反省。ま、でも。口を割らずに走れたっぽいし大丈夫かな。

 問題があるとすれば。

 

(警報? みたいな感覚があったことぐらいかな。このままだとまずい、みたいな)

 

 なんだろうね。よく分からないや。未知の感覚で身体が戸惑っているのかもしれませんね。

 

「ひとまず、今日はここで終わりましょう。ヴァーミリアンにも悪影響が出ないうちに」

「頼みますよ富士澤さん」

「今日は本当に申し訳ないです」

 

 さ~て、これで口を割って走る問題はほぼ解決みたいなもんですね。この調子で頑張りまっしょい。




癖の矯正は済んだが……少しの不安要素が。
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