ほいほーい、私です。いやぁ、皐月賞は激戦でしたね。ま、私負けちゃったんですけど。
(やっぱプイちゃん強いなぁ。本当にUMAだよUMA)
それに並んで走れてる私も大概UMAではないだろうか? 馬でありUMA、これは客が取れますよ。なんの客かは知りませんけど。
皐月賞、私はプイちゃんの2着に敗れた。最後の最後に抜かれて、クビ差の2着である。
正直に白状しましょう。悔しいですッッ!!
『もうちょっとだったんだけどな~。もうちょっとで届いたのに~』
クビ差ですよクビ差。マジでちょっとの差じゃないですか。時間にして0.1秒もありませんよ。いや、知りませんけど。
皐月賞はいつも通りにレースができていた。ちょっと後の方で走ることになっちゃったけど、岡邉さんが焦ってなかったので大人しく待機。獲物を狙うスナイパーの気分を味わっていました。
それからしばらくは大人しかったんだけど、何個目かのカーブを曲がった時、後ろからプイちゃんがやってきた。思わずついていきそうになったけど、ここは私冷静。ついていかないようにキッチリと我慢しましたよ。私、できる子。
けど、岡邉さんから鞭が入った。プイちゃんを追え、という合図。すぐさま飛び出してプイちゃんに並びましたね。
(プイちゃんと並んで、一時は追い越すところまでいったんだけどね~)
後ろからプイちゃんを追い越して、これはいける! と思ったのもつかの間。プイちゃんはすぐさま並んできました。いやはや、差をつけても追いついてくるとは。さすがはプイちゃんです。
ずっと並んでいたけど、先にゴールしたのはプイちゃんの方。私は後にゴールしたわけで、結果が覆ることは絶対にないわけです。
あ~悔しい。本当に悔しい。宝くじで当選番号の数字と2つずれてた時ぐらい悔しい。
とはいっても、だ。
(けど、私にはまだまだ伸びしろがあるんでね。これからどんどん成長して、プイちゃんに勝ってやりますよ)
あんまり敗北を引きずりはしないかな。そりゃ悔しいし、叫びたいって気持ちもありますよ。馬になってからというもの闘争心? みたいなものが人間の時よりも大きくなっているので。
富士澤さん達が私のために力を尽くしてくれているのも知っています。春陽さんが朗らかな笑みの裏で残念そうに、悔しそうにしていたのも覚えています。そりゃ悔しくてゴロゴロ地団駄踏みたいって思いますよ。
けど、所詮は過去のこと。結果なんて覆るわけがないんですから。いつまでもうじうじ引きずるよりも、明るく楽しい未来のことを想像していきましょう。
(みんなを笑顔にするために、まずは私が笑顔にならなきゃ)
見える、見えますよ。私がプイちゃんに勝つ姿が! これは楽しみですね。
ともかくとして。私のG1初勝利はお預けです。ゆくゆくは取りますよ。楽な道ではありませんが、語るだけならタダですからね。
そのためにも調教を頑張りましょう。勝つためにね。
「よーしカイザー。今日も一日頑張ろうな」
あ、壬生さんが来ました。最早慣れた一日の始まり、頑張っていきましょーう。
◇
岡邉さんを乗せて、トラックで運動です。今日はウッドチップコースで走りますよ~。あ、ウッドチップコースというのは、細かく砕いた木片のコースのことです。
(脚の負担が少なく済む、とか言ってましたね)
初のG1明けということもあってか、かなり慎重になっているご様子。
コースを何周かして、状態を確かめます。皐月賞からそんなに経ってないですからね。今日は軽めの調整で済ませるって言ってました。
「……皐月賞のダメージが少しあるな。もうしばらくは軽めの調教にしよう」
「そうだな。ここはまだ無理をする段階じゃない。日本ダービーに向けて、調整をするべきだ」
富士澤さんと岡邉さんは軽めの調教にすると判断。それよりも、新しいレース名が出てきましたね。
そう、私の次走は日本ダービーらしいです。なんかすごそうなレースですが、実際にすごいレース。世代の頂点を決める戦いなんて聞きましたよ。
そんなレースともなると、出走できるかどうかの心配があるわけですが私は問題なし。なんてったって皐月賞2着ですからね。まず弾かれることはないだろうと聞いてます。
「やはり最大の敵はディープインパクトだな。皐月賞もあと少し、というところまでいったんだが」
「あの岳君が太鼓判を押すだけあって、さすがの強さだ。日本ダービーでも強敵になるだろう」
ふふん、そりゃあプイちゃんですからね。それにしても、日本ダービーはまたプイちゃんと走れるのか。弥生賞から3連続ですね、私達。運命感じちゃいます。
「だが、カイザーもあと一歩というところまで来ている。日本ダービーでは勝つ」
「そのあと一歩が、遠いわけだがな」
ははは、そんなことありませんよ富士澤さん。仮に遠いとしても、私はすぐさま差を縮めちゃいますよ。根拠? 別にありません。でもやれる気がします。ほら、できる子ですから。
「ただ、皐月賞では口を割らずに走ることができたな。偉いぞカイザー」
お、なんですか突然。日本ダービーの話かと思えば、急に皐月賞の話に戻るじゃないですか。
撫でてくれる富士澤さん。ふふん、良い気分ですよ。そのまま撫で続けてください。やる気が上がるので。
「……で、騎乗していたお前の意見を聞きたい岡邉。皐月賞のカイザーは本気だったか?」
うん? なにやらキナ臭くなってきましたね。私別に手は抜いてませんよ。信じてください。
しかし、岡邉さんの答えは無慈悲である。
「
な、なんだってー! なんてこった、私には才能があると思っていましたが、まさか自分さえも知らない才能があるとは。これはまさしく天才というやつでは?
「皐月賞の末脚も悪くなかった。あのディープインパクトと並ぶどころか一時は抜いたからな」
「ディープの末脚は先の3戦で知っていた。それに並ぶどころか、追い抜くところまで行ったのはカイザーだけだ」
「ただ、これは騎手としての意見だが……カイザーの真髄はまだ見れていない」
おいおいべた褒めじゃないですか。素質馬素質馬と何度も言われ続けてきましたが、天才と言われて気分が良いです。別に天才とは言われてませんか。似たようなものだから良いでしょう。
「とはいっても、なんて言語化すればいいのか分からないな……とにかく、ハレヒノカイザーはこんなものじゃない。そんな勘だ」
「騎手としての勘、か。ただ、末脚のスピードは頭打ちじゃないか? 今以上に速くなる姿が想像できんぞ?」
「本当に、なんて言えばいいのか分からない。ハレヒノカイザーには絶対に先がある。そんな勘だけが働いているのが現状だな」
岡邉さんにも分からない私の潜在能力とな。これは凄いやつでは? きっと必殺技みたいなものが使えるんでしょう。必殺技……いいね。
なんとなくだけど、岡邉さんの言う潜在能力の出し方は察しがついています。
(勝ちに対する執着、かもしれませんね)
皐月賞ではまだ足りなかったのかもしれません。勝ちへの執着が。
これはあくまで私の予測。ただ、当たっている気がします。なんでって? 私の勘です。なかなか当たるんですよ。
やるべき目標を明確に。次走である日本ダービーにはプイちゃんが出走する。ならば、私がやるべきことは。
「日本ダービーではリベンジを果たす。岳君には先着させないさ」
「潜在能力を引き出す方法は?」
「知らん。これから考える」
「お前な……」
岡邉さんの言うように、プイちゃんへのリベンジですね。私2連敗してますので。これはちょっと許せませんよ。もっと鍛えなければ。
未来の私にこうご期待ですね。きっと強くなりますよ。今のうちにファンになっておいた方がいいですよみなさん。
◇
調教が終わってお家に帰ってきました。落ち着きますね。
というわけで壬生さん。今日の新聞をくださいな。
「新聞か? 分かったよカイザー」
いつも助かるねぇ。さてさて、今日はどんな記事があるのかな~っと……お、プイちゃんが載ってるじゃないですか。
「……やっぱり、ディープインパクトの注目度は段違いだな。他の馬なんて、見向きもされてない」
基本一面を飾りますもんね。それにしても見事な写真、ワザマエです。
ただ、壬生さんは浮かない様子。プイちゃんの活躍が嬉しく……いや、冷静に考えて嬉しくはなりませんね。仮にも敵なわけですし。
さてさて、どんな記事かな~っと。
(【ディープインパクトはまだまだ先がある。日本ダービーではさらに進化した姿が見れると思います】か。なんてこった、あなたも進化する余地を残していたというわけですか)
しかもパーフェクトですってよパーフェクト。飛んでいるような走り……どういうことでしょう? 比喩表現的なやつですかね?
なんにせよ、岳さんとやらに大絶賛のプイちゃん。喜んでそうだな。わたしだったら間違いなく嬉しいね。もう小躍りしちゃうね。
他には何かないかな……って、これは!
「どうしたカイザー?……あぁ、お前の記事だな。良かったな、お前の記事もちゃんとあるぞ」
ディープインパクトに比べれば小さいけど、なんて言われてますけどどうでもいいんですよ。あることに意味があるんです。
それに、これから大きくしていけばいいんですよ。いつかは新聞一面に私の姿を飾ってやりましょう。
(そうすれば私の認知度が上がりますからね。少しずつ増やしていって、私の活躍を耳にして)
そうすればみんな花丸笑顔のハッピーってやつです。小さくとも一歩を踏み出せている。今後が楽しみですね。
……ん? 私の記事でプイちゃんの騎手が私にコメントしていますね。
私とプイちゃんはライバル。ということはこの騎手さんも私のライバルということになりますね。さてさて、どんなコメントを残してくれているのやら。
(【三冠が確定じゃないのは、この馬の存在が大きいですね。ハレヒノカイザーは強い馬です】……ふふん、中々良いことを言うじゃないですか)
さすがはプイちゃんの騎手。分かっていますね。
(【ハレヒノカイザーがいるレースでは油断できない。気を抜いたら喰われてしまうから。あの馬が恐ろしいですよ】さすがの私も人間さんの肉はちょっと)
そんなに怖いですかね、私。もっと愛嬌を振りまくべきでしょうか?
しかし、岳さんは私のことをとても評価してくれているみたいで。これは嬉しいですね。褒められて嬉しくない馬はいませんよ。
新聞には他の騎手さんのコメントも。そのどれもが私を褒めるものだったので気分が良いです。
「~♪」
「機嫌良さそうだな。まぁお前の機嫌が悪い時ってのがないんだけど」
それはそう。だってカッカしても面白くないですからね。
それに、私は毎日が楽しいので。怒るなんてことはないです。
「もうすぐ調教も本格的なものになる。頑張ろうな、カイザー」
勿論。今度こそプイちゃんに勝ちますよー。
◇
| 【まずは一冠!皐月賞をディープインパクトが制す!】
4月17日に開催された皐月賞。クラシックの第一戦となる今回は、ディープインパクトが単勝支持率60%越えの期待に応え勝利した。第4コーナーで先行集団に追いつくと、最後の直線を向く段階で先頭に躍り出る。後は突き放すばかりで、圧巻の勝利というべき内容だろう。 しかし、ディープインパクトと並んで走る馬がいた。7枠13番のハレヒノカイザーである。弥生賞でもディープインパクトと並ぶように走っていた本馬は、皐月賞も後塵を拝する2着。だが、他馬が千切られる中ただ一頭クビ差に迫ったのも事実である。弥生賞で注目度が高まりつつあったが、この皐月賞でさらにマークすべき存在になったのは確かだ。 ・ ・ ・ 岳騎手のコメント まずは一冠目、無事に取れました。やはり油断ができませんね、ハレヒノカイザーは。僕個人としては、ディープに匹敵する逸材だと思っています。今回はディープの方が上でした。パーフェクトな走りをしてくれましたから。
(レース前のディープインパクトとハレヒノカイザーのじゃれ合いについて) ハレヒノカイザーがいるとディープもやる気を出してる気がするんですよね。なんというか、楽しそうにしている。やる気も上がって、今まで以上のパフォーマンスを披露してくれるんです。ライバルには負けられない、ってことかもしれませんね。
(ハレヒノカイザーの印象について) 怖い馬ですね。ディープインパクト同様、潜在能力が計り知れない。皐月賞でも底を見せていないって気がします。どこまで強くなるのか分からないし、一秒たりとも油断できない。次の日本ダービーも最重要で警戒しますし、一緒のレースになったら絶対にマークします。馬も騎手も怖い相手ですから。気を抜いたら喰われてしまいそうです。
(今後の方針について) ディープインパクトは三冠を狙える馬です。日本ダービーも勝ちます。まだまだ成長途中ですから。日本ダービーではさらに進化したディープインパクトが見れますよ。 |
ディープの騎手にも高評価なカイザー。なお怖いと認知されている。