同世代のUMAさん   作:カニ漁船

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新しい子と仲良くなったね。


色々と教わりました

 そいや、私です。日本ダービーが近づいている今日、クラちゃんとお別れの日がやってきましたよ。

 

『いや~短かったね~』

『もっといたいです。こっちに住みます』

『人間さんが困るから止めようね』

 

 ただでさえ覆永さんがげんなりしてるのに。

 毎度毎度私の隣を陣取っては、絶対に動かないぞとばかりに踏ん張ってるから。それがほぼ毎日ですよ、毎日。そりゃ疲れちゃいますって。

 クラちゃんは明日にでも旅立つらしい。旅立つと言っても、栗東に帰るだけなんだけど。

 あ、そうだ!

 

『クラちゃんNHKマイルおめでとう! 勝ったって聞いたよ!』

『はい。頑張って勝ちました。ありがとうございます、カイザーさん』

 

 なんとクラちゃん、NHKマイルを勝ったそうで。NHKマイルはG1レース、これでクラちゃんはG1を2勝だ。う~ん、凄い。

 しかも、NHKマイルは私みたいな牡馬との混合戦、らしい。牝馬は基本的に不利で、それでも勝ったんだ。やっぱりクラちゃんは凄い子。

 

『よ~し、私もクラちゃんみたいに勝つぞ~!』

『カイザーさんなら勝てます。絶対に』

『ありがとうねクラちゃん! 私頑張るから!』

 

 ま、プイちゃんという壁が高すぎるんですけどね。これからも頑張りましょうか。

 

 

 ここにいるのはクラちゃんと私だけ。人間さんが気を利かせて2人っきりに、なんていう話ではなく。クラちゃんが私のところに行きたいと駄々をこねたので仕方なく、が事の真相。ロマンチックの欠片もないね。

 クラちゃんと過ごすの楽しいから私としては構わない。むしろウェルカムよウェルカム。

 さてさて、何を話しましょうか。別に今生の別れ、ってわけじゃないけど、聞きたいことは割とあったりする。

 

『そうだ、クラちゃん。ちょっと聞いてもいい?』

『カイザーさんのためなら、なんでも』

 

 それは嬉しい。でも気軽に言っちゃダメよ。

 まずはクラちゃん、というよりも他の子に聞きたかったこと。

 

『クラちゃんって、レースしてる時楽しい?』

『楽しい、ですか?』

『うん。私はさ、走ってる時でもレースしてる時でも。走ってれば楽しいんだ。でも、他の子はどうなのかな~って思って』

 

 気になるんだよね。レースしてる時も楽しいって感じてるのか。クラちゃんほどの実力者が、レースの時はどんな気持ちで走っているのか。

 

『カイザーさんの気持ちは、ちょっと分からないです。レースは他の子よりも速く走りたい、その一心で走ってますから』

『は~、そうなんだ』

『勝ちたい、負けたくない。私もそうですけど、人間もその気持ちが強いですから』

 

 確かにそうですね。富士澤さんも岡邉さんも、私が負けたらかなり悔しそうにしてます。これは分かりますよ。

 

『だから、レースを楽しいって思ったことはありません。勝つのに必死で、考えもしてこなかった』

 

 ふむふむ、そう考えると私は結構異端寄りの考えなのだろう。大体察してはいましたけどね。

 

『私は、勝ちたいと思っています。1回負けて、凄く悔しかったから。同じ気持ちは嫌だから。負けるのは、嫌だから』

『なるほど。勝ちたい、と』

『けど、カイザーさんは、そのままでいいと思います。なんというか、カイザーさんらしいので』

 

 私らしい、か。嬉しいこと言ってくれるねクラちゃん。

 クラちゃんの意見は大事にしましょう。とても参考になりました。

 やっぱり、他の子も似たような感じなんでしょうね。楽しいなんて考える暇はなくて、勝ちたいを優先している。もしかしたら、それすらも考える余裕がないのかもしれません。

 

『参考に、なったでしょうか?』

『うん。超参考になったよ。ありがとうクラちゃん』

『ッ! 良かったです!』

 

 ほほう、嬉しそうにするじゃあないですか。こっちも嬉しくなるってもんですよ。

 1つ目の質問も終わったし、さぁ次の質問、って時に。

 

『少し、生意気かもしれませんけど。カイザーさんにちょっとした助言のようなものを』

『ほう? 助言とな』

 

 クラちゃんの方から話を振ってくれました。私に助言、何を言われるんでしょう?

 

『その、カイザーさんは人間の言うことにとても素直ですよね。逆らったところ、見たことがありません』

『ま~ね~。特に逆らう理由もないし、こっちのこと考えてくれてるわけだし』

 

 お前はよく脱走するだろって? 知りませんねぇ。

 

()()()()()()()()()()()()()()()

 

 んん? どういうこっちゃ。人間さんの言うことを聞きすぎるのがよくない?

 

『素直に聞くだけだから、勝てない相手がいるのかもしれません。カイザーさんはとっても強いのに、わがままを言わないから。思うように力を出せない』

『ははん?』

『いいんじゃないでしょうか? わがままになって、騎手を振り回すくらいが。カイザーさんの隣にいたい、私のように』

 

 わがままに、ねぇ。あんまり考えてこなかったな。岡邉さんの言うこと聞いてれば勝てる、だったから。

 わがままじゃないから全力を発揮できない。騎手に逆らってみるのもいい。なるほど、一考の余地ありですね。

 

『その、迷惑かもしれませんけど、気になったので』

『ううん、大丈夫。とっても参考になったよ! ありがとうクラちゃん!』

『ッ! は、はい!』

 

 クラちゃんが嬉しそうで私も嬉しいよ。

 

 

 私とクラちゃんの話は時間の限りまで続いた。人間さんに連れていかれるまでずっと。

 そして次の日。クラちゃんが栗東に帰る日がやってきたのだ。

 

『カイザーさん、また会いましょうね!』

『うん。また会おうね~』

 

 馬運車に乗せられて、栗東に帰っていくクラちゃん。この日は珍しく、お見送りまでさせてくれました。

 

「カイザーは大人しいので、ここまで着いてきても大丈夫でしょう」

「それに、ラインクラフトも1秒でも長くカイザーを見たいでしょうから。特別にです」

 

 ふふん、私は信頼されていますね。苦しゅうないですよ。

 クラちゃんとの出会いは貴重だった。いろいろと聞けたし、後は日本ダービーに向けて調整するだけ。頑張りまっしょい!

 

 

 

 

 

 

 日本ダービーに向けて猛特訓という名の調教です。クラちゃんからいろいろと教えてもらったことを実践していきますよ。

 まず教わったのは、わがままになるということ。

 

(岡邉さんだって人間。間違えることはある。その認識をしっかり持っておかないと)

 

 私より頼りになるのは確か。でも、そんな岡邉さんだって間違うことがある。勝敗に直結することだってあるのだから、時には自分の直感を信じることも必要。

 ここで重要なのは、じゃあ岡邉さんを信頼したらダメ、とはならないこと。あくまで全部任せるのがダメってことだ。

 

「……少し乗り心地が違うな」

「カイザーがどうかしたのか?」

「いや、大丈夫だ。もう少し様子を見たい」

 

 次に教わったのは、目標を高く持つこと。

 ずっと先の目標のことじゃなくて、目先の目標。これくらいの力を出せる、自分ができる限界を高く見積もっておくことだ。これもクラちゃんが言ってた。

 

『自分ならこれくらいできる、もっとやれるって意識を持つのがいいかもしれません。カイザーさんなら、普通にできてると思いますけど』

 

 レース中にも上昇志向を。任せてくださいよクラちゃん。そういうの、私の得意分野なので。なので。

 走っている最中、もっと自分ならやれると意識を持つ。

 

(風を切るだけじゃない。むしろ私なら、風と一体になれる!)

 

 私自身が風になることだひゃっほう! もっと強く、もっと洗練しますよ私はぁ!

 

「ッ!止まれ、カイザー!」

 

 岡邉さんが止めます、が。分かってますよ。

 ()()()()()()()()。これは、緩めるなってことでしょお!

 

(今までの私なら止まってましたね。でも、今の私は止まりませんよ!)

 

 速く、速く! もっと速く! 今の私ならばどこまで「止まれカイザー!」もぉっ!? た、手綱を引かれたらさすがにいけないぜ。

 手綱を思いっきり引っ張られた、ということはこれ以上はダメってことだろう。それに逆らってはダメ。よしよし、しっかりと理解しないとですね。

 走り終えた私を待っていたのは、目を見開いている富士澤さんだ。ほほう、中々良い表情をするじゃないですか。なんか悪役みたいね。

 

「カイザーの走りが、少し変わったか?」

「分かりますか、一雄さん。カイザーは今、自分で考えて動こうとしている」

「自分で考えて、か」

 

 そうですよ。おニューカイザーです。

 

「これまでは私の指示に従うレースをしていた。だが、カイザー自身がレースを理解しつつある今、自分でレースを組み立てようとしている」

「ほう」

「ただ賢く従順なだけのレースを止め、勝つためのレースを組み立て始めた。はは、やはり頭がいいなカイザーは!」

 

 どっちかというと楽しんで勝つためのレースですけどね。勝つためだから間違ってないですけど。それはともかくとしてもっと褒めて褒めて。賢いって褒めて。

 

「それに、自分でレースを組み立てるとは言っても、従う時は従う。最後の方みたいにな」

「まだまだ成長中、ってことか。ただ、日本ダービーまで日はない。この天才児を、なんとしてでも間に合わせるぞ」

「当然だ。ディープインパクトと岳君に負けっぱなしでは終われない。日本ダービーでは絶対に勝つ!」

 

 気合いが入ってるじゃないですか、富士澤さん岡邉さん。そうなると、こっちも気合いが入るってもんですよ!

 

「ビヒヒィィィン!(やるぞぉぉぉ!)」

「はは、大きい嘶きだ。カイザーもやる気十分みたいだぞ!」

「頑張れよ、カイザー。調教が終わったらいっぱい褒めてやるからな」

 

 本当に!? ぜひともお願いします!

 

 

 そのあと無茶苦茶調教した。う~ん、いつも以上に疲れましたねぇ。

 

(え~っと、もっとわがままになって、自分の限界を高く見積もって。勝ちたいって気持ちの比重を少し大きめに)

 

 馬房に戻っても反省会です。それくらいガチですよガチ。

 もうね、2連敗なんですよ。次の日本ダービーこそはプイちゃんに勝ちたいと、リベンジしたいと燃えていますよ私は。過去一燃えています。

 

 

 それにですね、馬房に戻った時に偶然春陽さんに会ったんですよ。普段はあまり来ない人なんですけど、珍しく時間が空いたから私を見に来たと。

 

「久しぶりだねぇ、カイザー。元気にしていたかい?」

 

 優しく撫でる春陽さん。う~ん気持ちがいい、ではなくてですね。

 春陽さんは今まで重賞とは縁がなかったオーナー生活だったらしい。そこに彗星のごとく現れたのが私、春陽さんに初の重賞をプレゼントしたわけですよ。

 

「うん、うん。元気そうでよかったよ。競馬場で見るお前さんは、楽しそうに走るから私は好きでねぇ」

 

 そんな春陽さんは、私に勝てとは言いません。無事に走ってくれ、元気に走ってくれ。聞くのはそんな言葉ばかり。

 

「夢に見てたG1の舞台。お前さんが見せてくれた。それも、あんなに強い馬と競り合って。俺は、それだけで感無量だよ」

 

 春陽さんは優しくて、馬のことを大事にしている人だ。人柄もいいし、富士澤さんたちも信頼している。

 そんな春陽さんは、私が負けたら悔しそうにする。ホッと安堵したような表情の後、寂しそうに表情を曇らせるんです。

 あぁ、負けちゃったな。言葉にしなくても、そんな風に語っているように見えて。

 

(そんな表情されたら、余計に勝ちたいって思うじゃないですか)

 

 春陽さんは優しい人。売れ残っている私を買ってくれた、恩人だ。そんな恩人に報いるために、G1を届けたい。

 日本ダービーは特別なレース。日本にあるレースの中で、常に中心に存在しているレースだとか。

 ダービーを勝つことは凄いこと。ダービー馬の馬主やジョッキーになることは最高の誉れ、とまで言われているらしい。

 

(そんなレースを勝って、私は春陽さんを笑顔にさせたい)

 

 きっと、最高の笑顔を見せてくれるはずだ。なので、次のレース。日本ダービーはこれまでにないってくらい仕上げる気でいます。

 

(プイちゃんは速い。けど私はもっと速い。相手はUMA。私もそのUMAに近い存在だ)

 

 岡邉さん曰く、私とプイちゃんの強さはプイちゃんの方がちょっと上らしい。

 ならば、日本ダービーで超えてやろうじゃないか。起こしてやりますよ番狂わせ。

 

(それにそれに、勝ったら人間さんも褒めてくれるからね! みんな笑顔になるだろうし!)

 

 気合いが入りますよ~! 日本ダービー勝利に向けて、明日も調教頑張るぞー!

 

 

 

 

 

 

 オークスをシーザリオが制した後。世間では、日本ダービーが注目を浴びていた。

 話題に上がるのは、やはりディープインパクト。無敗で皐月賞を制した馬が、ダントツの1番人気を誇る。

 

「やっぱりディープだろ! あいつの強さは本物だ!」

「ナリタブライアンとか、シンボリルドルフとか目じゃない。あの馬にとっては、三冠すらも通過点なんだよ!」

 

 皐月賞以降、ディープの人気はさらに勢いを増した。そこにメディアやJRAの猛プッシュも加わり、熱はさらに高まり続けることになる。

 

「名門牧場の名馬が、名ジョッキー・岳隆を背に三冠を達成する!」

 

 なんてふれこみの記事を作るほどだった。

 インタビューでも、ディープインパクトの三冠は既定路線とする内容のものが多い。

 

「岳騎手、日本ダービーに向けての意気込みをお願いします!」

「三冠は楽な道じゃありません。強い相手、ハレヒノカイザーがいますので。ディープに匹敵する逸材、あの馬を負かさないことには三冠はありません」

「慢心はしない、油断はない! そうすれば勝てると、確信しているわけですね!」

「そういうわけでは」

 

 岳自身はハレヒノカイザーを警戒している旨の発言をしているが、記者は油断しない名ジョッキーの姿に勝手に感服。一部だけを都合よく聞き取る姿勢に、岳も不快な表情をしていた。

 果てには銅像さえも作られる始末。まだ皐月賞を制したばかり、さらにはハレヒノカイザーという油断ならないライバルの存在があるのに……と、一部のファンは冷ややかな視線を送っていた。

 その中でも、一部の競馬関係者はディープインパクトの勝利を疑問視する声を上げている。

 

「確かにディープは素晴らしい逸材だが、ハレヒノカイザーも同様だ。皐月賞ではクビ差まで迫っているのだから、ディープの勝利を確実視するのはおかしいだろう」

 

 なお、暖簾に腕押し。より大きなディープを称賛する声の前に、一部の声は埋もれてしまっていた。

 

 

 異様な雰囲気となっている日本ダービー。決戦の日が──来る。




次回はディープ人気がエグすぎる日本ダービー。
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