同世代のUMAさん   作:カニ漁船

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血統とかいろいろと。


1年が過ぎました

 気づけば馬に転生してから1年が経っていました。時間が過ぎるのって早いね本当。

 その間の生活と言えば、特に変わり映えはしなかった。だってご飯食べてゴロゴロして寝るだけだもの。学校もなければ習い事もない、ただただの~んびりと過ごす。スローライフ万歳。

 

(人間さん優しいし、ご飯たくさんくれるし。待ち受けている未来がアレじゃなかったのが分かったし、転生したのも悪くないね)

 

 てか本格的な固形の餌になったんですけども、凄いね。感じる味覚が人間の時とは全く違う。最初は草を食べることに抵抗があったけど、今はもうむしゃむしゃよむしゃむしゃ。

 

(まさか草があんなに美味しいとは。人間さんも食べないと損では?)

 

 なんなら調理できるからさらに美味しくできる可能性がある。草の可能性は無限大だ。まぁ感じる味覚が違うせいだから人間さんが食べるとまた別の味になるんだろうな。

 さて、草が美味しいとか水が美味しいとか過ごしている間にもいろいろなことが分かったので、ちょっとおさらいしてみよう。整理するためにもね。

 

 

 まず、私が生まれたのが2002年のこと。それから1年が経っているので、今は2003年だ。人間さんの会話から年代を知ることができた。これが一番の収穫だね。

 2003年、2003年か。ちょうど私が赤ちゃんぐらいの頃かな。そのぐらいだったはず。

 

(何が起こったのかはよく知らないんだよな~)

 

 でも、未知の世界を体験できるからそれはそれでお得。これから何が起こるのか楽しみだね。

 そして、ここはどうも馬以外の家畜はいないらしい。たまに猫とかが紛れ込んでくるぐらいで、他の動物は見たことがない。加えて、その馬も数が少ないみたいだ。

 

(私と同じくらいの子が2、3頭くらいか。もっといるものだと思ったけど、そうでもないのかな?)

 

 その子達とは簡単な意思疎通くらいは取れる。会話という会話は成立しないけど、お話しするだけで楽しいからね。母馬と離れて暮らしている今、私を含めたこの4頭での生活が基本になっている。もっと多くの子がいれば嬉しいけど仕方ない事情があるのかもしれない。今の生活は楽しいから問題はないけどね。

 次に、なんか知らないものがついている、ってことだろうか。

 

(ぷらぷらしているこれは何だろう?)

 

 股の間についている謎のモノ。少なくとも見たことがない。馬にだけ備わっている特別なもの?

 

(……考えたらダメな気がしてきた)

 

 よし、これについては考えるのを止めよう。なんとなく嫌な予感がするから。考えないに限る。

 後は、そうだね。これは個人的なことなんだけど。

 

(よし、またやろう)

 

 確認するように脚を動かす。最初は歩くのも苦労したけど、1年も経てばさすがに慣れた。右の前脚、左の前脚。後脚の方もしっかりと具合を確かめて、私は──地面を思いっきり蹴り上げる。

 瞬間、私を襲う風。私の行く手を阻むように、風が立ちはだかる。

 

『う、はぁっ!』

 

 私は、走った。四本の脚を使って、勢いのままに、本能のままに走る。

 風を切る感覚が気持ちいい。空気の壁を切り裂いて、全身で風を受けるこの感覚。広い牧場を、青い草原を走っているこの感覚がたまらない。人間の頃では味わえない速度で駆け抜けるこの時間。自然な坂を上ることは苦痛なはずなのに、走ったら疲れるはずなのに。そんなことが気にならないくらいに楽しい!

 

(やばいやばい、超楽しい!)

 

 人間の頃にも楽しい遊びはたくさんあった。スマホのアプリゲームとか、球技とかたくさんあった。そりゃあ走ることだってできた。

 でも、この感覚はたまらない。凄く楽しい。どんなに面白いゲームよりも、この風を切って走る感覚が一番楽しい。人間の頃に走った感覚とはまるで別物だ!

 

『馬の身体サイコー!』

「今日も元気に走ってるなぁ、モーントのヤツ」

「いつも楽しそうに走ってますよね。こっちも元気貰っちゃうっていうか」

 

 いくらでも走れちゃうね! この感覚、本当に最高だ!

 

 

 ひとしきり走った後、ブレーキをつけて走るのを止める。

 

(さすがに疲れてきた。でも、やっぱり)

『走るの最高ー!』

 

 この身体で走るのはたまらないね。どんなものよりも熱中できる。大げさかもしれないけど、私からしたら前世でやっていたどんなゲームよりも楽しいって断言できる。

 ま、これが個人的なこと。馬の身体で走ることがとんでもなく爽快だってことだ。

 生まれたての頃は走ることもままならなかった。歩くのに慣れる必要があるし、走ろうにも上手くいかないし。だから最初の方は分からなかったんだけど。

 

(いざ走ってみるとヤバいね、これ。病みつきになりそう)

 

 すでになってるけど。とにかくこの身体で走るのが最高、ということだ。

 休憩したらもう一走りしよう、と思っていると視線を感じる。この視線は、アレだね。

 

「今日も元気だな~、モーント」

(あ、人間さんだ)

 

 人間さんは牧場の柵越しにこっちを見てる。ニコニコした顔、グッドだね。

 あ、モーントというのは私のお名前。月のような流星があるからモーント、って人間さんは言ってた。流星って、お星さまのこと? つまり私はお星さまを宿しているということか。なんか凄そう。

 

(というか、月なのにモーント? よく分からない。どんなつながりが?)

 

 その辺は分からないけど、可愛い名前なので気に入ってる。いいよね、モーント。牛さんみたいで。

 で、今私に話しかけてきた人間さんはここの偉い人。名前は日比谷さん。ここの牧場を所有している人らしい。見た目40代なのに凄いな。

 

「その調子で、すくすくと育ってくれよ。お前が走ってる姿を見ると、こっちも元気貰えるからよ」

 

 お、それは嬉しいね。私も走るの楽しいし、私の走る姿で人間さんも嬉しい。これはWin-Winというやつかな。

 

「立派な競走馬になるんだぞ、モーント」

 

 あ、また出た競走馬。去年もそこそこ聞いた言葉だ。

 どうも私、競走馬というものになるらしい。農業で馬だからアレかと思ったけど違うようで。ひとまず暗い未来はなくなったというわけだ。

 

(全然知らない単語だったけど、会話で大体のことは分かった)

 

 人間さん達曰く、競走馬というのは走る馬のこと。前に聞いたJRAというのも競走馬に深くかかわっているところらしい。

 走る馬、走る馬か……え、最高では?

 

(走るの大好きだし、これぞ天職というやつでは? 最高かな?)

 

 お先真っ暗かと思えば急にハッピーになった気分。今は早く競走馬になれないかな~って思うぐらいには未来が楽しみになっている。まさか本当に薔薇色ハッピーライフが待っているとはね。ワクワクが止まらないよ。

 

「じゃあ俺はもう行くぞ。またお家に入れるときに来るからな」

 

 去っていく日比谷さん。また帰る時に会おうね~。

 

 

 ……さて、日比谷さんは行ったな。

 

(んじゃ、遠慮なくアレをやっちゃいますか)

 

 周りをちゃんと見て、他の子が私の方を向いてないことを確認。よしよし、いい感じにあっちの方を向いてるな。

 日比谷さんがいた柵の方へと近づく。柵の近くまで来たら2、3回地面を蹴って、感触をしっかり確かめて、と。

 

(それじゃ、いつもみたいに行くぞー!)

 

 いち、にのっ、さーん! で大ジャーンプ!

 

(跳躍力も凄いや!)

 

 そして見事に着地。私は牧場の柵を飛び越えて、区画を飛び出した。それにしても我ながら慣れたものだね。最初は助走をつけて走り幅跳びの要領で抜け出したけど、今となっては助走なしでも抜け出せるようになった。これが成長ってやつだね。

 馬の身体能力は凄いもので、こういうこともできるらしい。他の子達が真似したら困るかもしれないから、基本的には目の届かないところでやるけど。後人間さんに怒られるので。

 

(だから人間さんの方に行くのはダメだな。またいつもみたいに他のところに行こう)

 

 実は馬がいるのは私がいるところだけじゃない。他にも何個か同じようなところがあって、区画ごとに馬がそれぞれの生活をしている感じだ。隔てているのはさっき私が飛び越えた柵。柵の中が、放牧ってやつの生活圏内になっているらしい。

 で、今向かおうとしているところは私よりも大きい馬ばかり。けどみんな優しいのでなにも問題はない。

 

『みんな~、来たよー!』

『お、いつもみたいにやんちゃ坊が来たな』

『今日も柵を飛び越えてきたのか? ほどほどにしておけよ』

 

 温かく出迎えてくれるのだ。それにこっちのお馬さんとは意思疎通ができる。お話ができるので楽しい。それにしても坊、坊か……なんか複雑。

 こっちの区画の馬は結構な数。少なくともあっちよりも全然多い。

 さて、見つからないようにみんなの中に紛れ込んでいよう。見つかったら大目玉食らうからね。

 

『おし、今日も走るか坊』

『いいの? やったやった!』

『おーよ。お前さんは楽しそうに走るからな。つられてこっちも楽しくなっちまうんだよ』

 

 それは嬉しいね。やっぱ笑顔がなんぼよ。私もみんなと走るの楽しいからね。

 さ~て、今日も走っちゃるぞ、なんて思っていると。

 

「あ、やっぱりここにいた!」

 

 ゲッ!? 今日は見つかるのが早い! なんでなんで!?

 

「放牧地にいないと思ったら……やっぱりここに紛れ込んでたなモーント!」

 

 ……あ、やべ。そういえば職員さんの巡回のこと忘れてた。というか、やっぱり怒ってる! ここは仕方がない!

 

『逃げる!』

「あ、こら! 待ちなさいモーント!」

『じゃあねみんな、また会おう!』

『おーう、元気でな坊』

 

 また柵を飛び越えて逃走。ふふん、人間さんが私に追いつけると思うなよ!

 私と人間さんの差はどんどん広がっていく。馬の方が速いから当たり前だ。向こうは息を切らしてるけど、私は軽く走ってるからまだまだいける。このまま放牧地まで行けそうだ。

 

「待て、モーント! 元の放牧地に戻ってくれぇぇぇ……」

 

 ごめん、ちゃんと戻ります。バレちゃったからここにいるのもまずいしね。

 

 

 私と人間さんの追いかけっこは私が元の場所に戻るまで続いた。人間さんは息を切らしてこっちを見ている。

 

「ゼェ……ゼェ……も、戻ってきてくれたのは良いけど、脱走は本当に止めて……」

 

 ごめんね人間さん。ダメなのは分かってるけど衝動は止められないんだ。怒られることよりも楽しさの方が勝ってるんだよね。人間の頃は感じなかったなぁこれは。動物の本能ってやつなのだろうか?

 けど、さすがに悪いとは思っている。労いの意味を込めて顔を舐めよう。

 

「わっぷ。ま、柵を越えるなんてお前の能力が高い証だ。競走馬になった時が楽しみだよ」

 

 こうして舐めると人間さんは嬉しそうにする。愛情表現みたいなものなんだろう。ペロペロ舐めてごめんなさいだ。

 

「これで脱走癖がなくなったらなぁ……」

 

 それは無理です。

 

 

 脱走癖、と言われるように、私はここをよく脱走してたりする。人間さん達ももはや呆れるぐらいは抜け出してる自信があるね。

 一番の理由はまぁ、情報収集のためだ。そのおかげで今が何年とか、私の用途に関してとかの情報が入ったのだから。

 

「モーントのヤツ、また脱走したのか?」

「はい。我々が目を離した隙に……抜け目ないやつですよ」

 

 ま、そのせいで私は脱走する馬としてこの牧場の人に認知されているんだけどね。てへぺろ。騒ぎを聞きつけてやってきた日比谷さんも呆れ顔だ。

 後はそうだね。私の父親、というよりは父馬。そして母馬の情報とかも入手できた。なんでも私、昨今ではとっても珍しいらしい。

 

「でも、父親譲りのバネですね。トウカイテイオーも柵を軽く飛び越えてたらしいですし」

「母のブランシュテルには全然似てませんけどね。どちらかというと、母父のダイタクヘリオス似な気がします」

 

 はへ~、そんな馬なんですね。いや、名前なんて一ミリもピンときませんけど。そして私の母馬の名前はブランシュテル。どことなく気品がありそう。私にとっても優しくしてくれた母馬でした。脱走する時に会ってますけど、今も元気にしてますよ。向こうも私が心配だったみたいで、大丈夫? とか怪我はしてない? とかいろいろと優しくしてくれます。

 

「それにしても、どうして今更こんな配合を? 昨今の勢いを考えたらサンデーサイレンス系じゃないですか」

「いや、そうだけどさ。なんていうか……」

 

 日比谷さん言いにくそうにしてるな。サンデーサイレンス……響きがグッドだね。

 

「死んだじいちゃんがさ、トウカイテイオー好きだったんだよ。だからまぁ、飛びついちゃって」

「それにサンデー系は高いですからね」

 

 なんてこった。私の出生には世知辛い事情が絡んでいた件について。やっぱり世の中お金なのね! いや悪いとは思わんけど。お金は大事よやっぱ。

 

「この子はシンボリルドルフみたいな流星がある。さらにはトウカイテイオーのようなバネ……モーントはきっと強くなる」

「そうですね。もしかしたら、ウチの牧場を有名にしてくれるかも?」

「アハハ。無事に走ってくれたらそれでいいよ」

 

 その後も細々とした内容に耳を傾ける。やれ今はここが凄いだの、私のきゅうしゃ? をどうするだの、この人が私に興味を持っているー、とか。ほほう、私に興味を持っている人がいるのか。ちょっとこそばゆいな。

 話に区切りがついたところで、日比谷さん達はハッとする。これは、お話終わりじゃな?

 

「この子達の前で話す内容でもないな。ちょっと場所を変えますか」

「そうですね。モーント、もう脱走するんじゃないぞ~」

 

 あ、無理です。




モーント(幼名)

父:トウカイテイオー
母:ブランシュテル(架空馬)
母父:ダイタクヘリオス
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