同世代のUMAさん   作:カニ漁船

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今日も仲良し。


夏休みを過ごしました

 せいやっさ、私です。北海道で夏休みを満喫していますよ~。

 

『大丈夫? クラちゃん』

『だ、大丈夫ですっ。私のことはお気になさらず、カイザーさんの好きなように!』

 

 どっちかというと、夏休みというよりは夏合宿が近いかもしれない、と思うこの頃。なんせ、お休みしている時間だけでなく、調教の時間も取ってあるわけですからね。北海道に来た頃から思ってましたけど、クラちゃんが来てからはより強く思うようになった次第です。

 もはや恒例となったクラちゃんとの併走。他の子と走る機会がほぼなくなったので、ちょっぴり残念です。ま~仕方なしな理由があるのですけど。

 

「やはり、ラインクラフトレベルでないと相手にならないか」

「そのラインクラフトでも、得意距離で何とか、ってところですもんね」

 

 私の練習相手になるような子、こっちにいないんですよね。人間さんが、そんなことをボヤいていました。

 正直な話、私は他の子に合わせようと思えば合わせることはできます。でも、それじゃ私の練習になりません。厳しいかもしれませんが、これが現実ということで。

 ちなみに、クラちゃんが来る前は同じ厩舎のダンスインザムードことムードちゃんが務めてくれました。ムードちゃんは牝馬です。牡馬がいない件について。

 どうにか付き合ってくれましたが、ムードちゃんにも自分のレースがありますから。私の相手ばかりはしていられません。クラちゃんが来たのと同時に、私のパートナーから外れました。

 いろいろとありますが、現状について思うことは一つ。

 

『楽しいな、楽しいな!』

『くっ!』

「成長が止まらんな、ハレヒノカイザーは。秋のレースではどうなっていることやら」

 

 クラちゃんと走るの、大変楽しい。

 

 

 調教が終われば、シャワーと蹄の掃除をしてもらって、馬房でご飯。最近では食べる量も増えてきたんですよ。

 今までが6升? とかそんな感じ。今では8升まで増えました。多いのか少ないのかは知りません。

 

「たくさん食べろよ、カイザー。太って、絞って、強い身体を作るんだ」

 

 はーい。ケガをしない、強い身体を作りますよ。

 ご飯を食べ終わった後は、しばらくのリラックスタイム。この時間で私は、新聞を読ませてもらったり、ラジカセで音楽を聴いたりします。

 

『カイザーさん、なんでしょうか、今聴こえているのは?』

『これ? ラジカセのクラシック音楽。よく分かってないけど、なんかお洒落な感じしない?』

『……まぁ、それとなく。そんな気はします』

 

 隣の馬房でクラちゃんも一緒に音楽を聴きます。分からずともリラックスできる、音楽は偉大ですね。

 さて、新聞をまた読ませてもらいましょう。人間さんの袖を引っ張って催促です。

 

「分かった、分かった。今広げるよカイザー」

 

 急かすようで悪いですが、こちとら気になるもんでね。さぁて、今日のニュースはいかに?

 ……おっ! ろ、ロブロイさんのニュースがあるじゃありませんか!

 イギリスに渡っていたロブロイさん。そのレース結果が載っていますよ。さてさて、気になる結果の方はっと、あら。

 

(2着、ですか。惜しいですね)

 

 7頭中の2着だったそうで。宝塚記念に続いて、惜しい結果になってしまいました。

 ただ、人間さん的には嬉しいこともあるみたいで。悔しそうにしつつも、少し笑顔を浮かべていました。

 

「さすがに海外の壁は厚いな。けど、前哨戦を挟まずに2着は十分立派だよ。ハナ差まで追い詰めてるし」

「ですね~。立派にやってくれましたね、ロブロイは」

 

 会話を聞いていると、海外のレースを勝つのはそれだけで凄いんだとか。

 慣れない環境での戦い、遠征で移動する際のストレス、なにより相手は本場の馬になる。いろいろと要因があって、海外のレースを勝つのは厳しいんだとか。

 それでも勝った馬はいるらしい。私の厩舎の先輩にいる、タイキシャトルって方がフランスのレースを勝ったんだとか。

 というか、私と同じ厩舎、つまりは先輩か。

 

(ロブロイさんやクリスエスさんよりも上の先輩。会う機会はなくても、会ってみたいな~)

 

 もうとっくに引退しているので、望みは薄いですけどね。

 

『カイザーさん、よく分かりますね。私にはなにがなんだか』

『ま、慣れよですよ慣れ』

 

 こちとら元人間ですからね。慣れてくれば読めますよ。クラちゃんからの尊敬のまなざしが心地良いです。

 めぼしいニュースはこれくらいかな。今日もありがとうございましたー。

 

「それじゃ、そろそろ放牧の時間だな。2頭とも、一緒に出るぞ」

 

 よっしゃ、放牧の時間です。この時間が大好きなんでね。

 

『クラちゃんクラちゃん、今日は日向ぼっこと走るの、どっちにする?』

『えっと、今日は走る方で』

『分かった! じゃあ一緒に走ろう!』

 

 クラちゃんと一緒に、いざ出発!

 

 

 

 

 

 

 放牧地にて、クラちゃんと一緒に走り回った後。寝転んで休憩します。

 いやはや、やっぱり走るのは楽しいですね。たまらなく楽しい。

 

(自由になっている感覚が最高。何物にも代えられないよ)

 

 でも。隣をちらりと見ると。

 

『や、やっぱり、速いですね。カイザーさん』

『あ~、うん。なんかごめんね? クラちゃん』

『大丈夫、です。楽しそうに走るカイザーさんを見るの、好きなので』

 

 明らかに私より疲れた様子のクラちゃんがいる。はい、加減せずに走って申し訳ございませんでした。

 言い訳させてほしい。私ってば他の子を走りに誘っても、ほぼ確で断られるんですよ。これはムードちゃんも例外じゃない。

 抑えて走れば、なんて思うかもしれないですが、調教じゃない時の私は細かく制御できません。楽しさが勝って、気づいたら他の子を千切っています。暴走機関車か何かかな?

 だから、現状唯一受けてくれるクラちゃんは私にとって希望の光なわけなんです。

 

(でも、うーん。さすがに自重すべきですねこれは)

 

 クラちゃんは優しいから何も言わない。その優しさに甘えるばかりはダメですね。私、反省。

 今はもうゆっくりタイム。走ったりせずに、のんびりとくつろいでいます。

 

『なんというか、日に日に速くなってますね、カイザーさん』

『そう? どっちかというと、今まで溜めてた鬱憤を発散しているだけなんだけど』

『え?』

『私はまだ変身を後2回残している、的な?』

 

 漫画のセリフを言いましたが、案の定クラちゃんはよく分かっていないようでした。そりゃそうだよね。

 ぶっちゃけた話をしましょう。まだまだ走れそうな気はするんですよ。もっと速くなれそうな気はするんです。

 けれど、いかんせん力の出し方が分からん的な。

 

『なんかもっと速くなれそうな気はするんだけどな~。どうしたらいいんだろうね?』

『さ、さぁ?』

 

 クラちゃんも困惑。当然か。

 どうしたもんかね。次のレースもあと1ヶ月ほどだというのに。これじゃあスーパーカイザーになる日は、まだまだ遠そうですね。

 

『ま、考えても仕方ないか。クラちゃん、私は寝るよ』

『はい。おやすみなさいカイザーさん』

『おやすみ~』

 

 起きたらクラちゃんと代わってあげなきゃですね。ぐーすかぴー。

 

 

 

 

 

 

 さてさて、クラちゃんと楽しい日々を過ごしていた私ですが、ついに別れの時がやってきました。

 時は9月。私は美浦に、クラちゃんは栗東に帰る日がやってきましたよ。

 なお、現在馬運車の前。何をしているかと言いますと。

 

「ほらクーちゃん! 栗東に帰るよー!」

『グギギ……!ずっとここにいます……!』

『ずっとここにいても私は美浦に帰るからいないけどね』

 

 クラちゃんによる激しい抵抗。凄いな、手綱を握っている手がうっ血してそう。

 なんとなくデジャヴを感じる光景。ほどなくして、クラちゃんは馬運車に乗りました。

 

『またどこかで、カイザーさん』

『うん! またねー!』

 

 先に帰っていったクラちゃん。栗東、栗東か。

 確か、私が出走予定の菊花賞は関西の京都で開催されるらしい。

 そうなると、私は栗東に行く可能性が少しは存在しているわけだ。

 

(案外、近いうちにまた会えるかもね、クラちゃん)

 

 ふふん、これは楽しみです。

 

「それじゃカイザー。お前はこっちな」

 

 はいはーい。人間さんに連れられて、私は馬運車に乗り込みます。長いようで短かった夏休み。また来た時はよろしくお願いしますね、北海道!

 

 

 馬運車に揺られること少し。美浦トレセンよ、私は帰ってきた!

 

(凄い、2ヵ月ぐらいしか離れてなかったのに、随分と懐かしく感じる)

 

 久しぶりですねこの空気。どことなく美浦って感じの空気がしますよ。意味が分からないですけど。

 戻ってきた私を出迎えてくれたのは、私の担当である壬生さんだ。

 

「おかえりだな、カイザー。今日からまた、こっちでよろしく頼むぞ」

「ヒヒン(よろしくね、壬生さん)」

 

 わしゃわしゃ撫でてもらって、美浦の馬房に戻ります。お隣のロブロイさんは、どうもまだ帰ってきてないみたいで。

 

(ロブロイさんはまだ外国なのかな?)

 

 向こうで頑張ってほしいですね。まさか、ずっと海外なわけはないでしょうけど。そうだとちょっと寂しいので。

 

「ロブロイの馬房をジッと見てるな。ロブロイなら、日本には戻ってきてるぞ。こっちにはまだ帰ってこれないけど」

 

 あらやだ日本には帰ってきてたんですね。私の取り越し苦労でしたか。

 

 

 次の日からは早速調教。壬生さんを背に乗せて、頑張っていきますよ。

 

「お、でかくなったな、お前」

(そうでしょう、そうでしょう。頼れる背中になりましたよ)

 

 夏を経て、私はさらに成長しました。身体も大きくなった、気がしますよ。

 それに、身体だけではありません。勿論走りだって!

 

「今日は軽い流しだからな。あまり本気を出すなよ?」

 

 あ、はい。そう言われたら何もできないね。せっかく進化を遂げた私の走りをお見せしようと思ったのに。

 見せるのはまた次の機会ですね。それに、岡邉さんがいた方がもっといい反応してくれそうだし。

 むふふ、今から楽しみですよ。岡邉さんを乗せて走るのが。

 

「おい、カイザー。ちょっと速いぞ。もう少し抑えて抑えて」

 

 いや、あの。十分抑えてるんですがそれは。

 無意識のうちに力を解放していたのかもしれませんね。これは反省。もう少し抑えるとしましょう。

 なお、この後さらに抑えろ指示が出ました。なんでぇ?

 

 

 

 

 

 

 北海道から戻ってきたハレヒノカイザーは、見違えるほどになっていた。

 見た目が変わった、体格が大きくなったとかではない。これは、今日初めて乗ったことで気づいた。

 

(厚みが増している、ハリが凄いな)

 

 聞けば、北海道の放牧中もずっと走っていたらしい。桜花賞馬のラインクラフトと一緒に。

 その影響か、絞る体重がほとんどなかった。餌をたくさん食べるようになったらしいが、その分走って消費していたカイザーは、キツい調教で体重を絞る必要がなかった。

 あるいは、太ったままは良くない、と分かっているのかもしれないな。カイザーの賢さならばあり得る。

 そして、一番驚いたのは──スタミナ。

 

(どこか余裕を感じさせる。まだまだ余力を残していると、そう思わせるな)

 

 放牧地をずっと走り回っていた影響だろう。スタミナが増えているように感じられた。

 元々、血統的に長距離は厳しいところがあるカイザー。それでも、スタミナがついた今ならば!

 

(ダービーと菊の二冠。前例は、一頭しかいない)

 

 ハレヒノカイザーが二頭目になる。そんな予感を抱かせてくれた。

 

 

 ……なんて思っていたのだが。

 

「う~ん? プールトレーニングだと、あんまり変わらないですね」

「あぁ。てっきりスタミナがついたものだと思っていたが」

 

 いざプールで調教してみると、夏前とさほど変わらなかったのだ。スタミナがついたと思ったが、違うのか?

 

(スタミナがついたわけではない。となると、なんだ?)

 

 特段スピードが上がった気はしない。スタミナ以外、予想がつかないのだが……本当に何だ?

 余裕を感じさせて、なおかつスタミナではない、となると。

 

(……ッ! ま、まさかっ)

「一雄さん」

「どうした? 岡邉」

 

 ありえない。そんなことが、あっていいのか?

 だが、可能性はもうこれしかない。非常にあり得ないことだが、もしかしたらがあるかもしれない。そして、もしもがあっている場合。

 

「明日、ハレヒノカイザーを自由に走らせてみたい。良いか?」

「神妙な顔で言うことか? それ。何を確認したいかは、大体想像がつくが」

 

 一雄さんも感づいているだろう。この夏合宿で、ハレヒノカイザーがどうなったのか。その結果、何をもたらすのか。

 

 

 次の日。調教でハレヒノカイザーを自由にさせてみた。

 言葉一つだけでいい。それだけで、ハレヒノカイザーは理解する。

 

「自由にしていいぞ」

 

 これだけでいい。

 発揮されたハレヒノカイザーのスピードは──さらに仕上がっていた。

 スピードが上がった気はしない。それは間違いだ。カイザーの速さは、さらに仕上がってきている。

 夏前よりもさらに速く。そして、さらに底へと沈んだような、そんなことを感じさせる。

 

(なんという、巡航速度だ!)

 

 年甲斐もなくはしゃぐ。まだまだ見えない、カイザーがもつ資質に、動悸が止まらない。

 心臓がバクバク鳴っている。惚れた異性に告白する時みたいに、ドキドキしっぱなしだ。

 

「止まれ、カイザー。もう大丈夫だ」

 

 平静を保ちながら、カイザーに止まれの指示を出す。利口なカイザーは、すぐに止まった。

 ハハ、凄いなこれは。

 

「岡邉、カイザーは」

「あぁ。()()()()()()()()()()()

「……やはりか。帰ってきて初日の調教でも、なんとなくそうなんじゃないか、とは思っていたが」

 

 手綱を握っていた手が、まだ震えている。未知の領域を開こうとしているカイザーに、私の知らない景色を見せようとしている彼に、武者震いがする。

 まだ底に到達していなかったカイザーの速さ。その底に、たどり着いたら。どうなってしまうのだろうな?




まだ底じゃない(皐月賞2着・ダービー優勝)。こんなん怖すぎるで。
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