同世代のUMAさん   作:カニ漁船

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ケガの具合とリハビリ施設。


温泉に行きました

 やいやーい、私です。突然ですが大変なことになっていますよ。

 

「……どうですか、ハレヒノカイザーの脚は」

 

 目の前には獣医さんっぽい人。というか獣医さん。痛む私の脚を診てくれています。てか痛い、マジで痛い。過去一痛いよコレ。プイちゃんと初めて走ったあの日のことを思い出すよ。あの日よりも格段に痛いけど。

 あの時は炎症で済んだ。でも、今回は絶対にそうじゃない。走るのに問題ないくらい、軽ければいいんだけど、そんなことはないんだろうな。

 果たしてどんな診断が下されるのか。富士澤さん達と一緒に固唾をのみます。

 

「乖離骨折だね、右第1指骨剥離骨折。ただ、程度は軽い。3ヶ月ほどあれば、また実践復帰は可能だ」

 

 3ヶ月……3ヶ月? というか骨折って。私の骨折れてんの!?

 

(た、確かに、ぱきっ、みたいな音が聞こえたかもしれません!)

 

 骨が折れてるってことは、私はもう走れないということも全然あり得る……いや、程度は軽いって言ってましたね。なら大丈夫か。

 

「残り50mで失速した原因でしょう。レース後、あまり動かなかったのがよかった。被害を最小限に食い止めることができた」

 

 実際には、感じたことのない痛みがあったから動かないようにしていたわけですが、それが良かったってことですね。ナイス判断私。

 

 

 ほっと安心する私ですが、富士澤さんは気が気でない模様。

 

「それで、ケガの原因は?」

 

 原因を探るべく、獣医さんに話を聞いています。私もちょっと気になるな。何が原因なんだろう?

 獣医さんは、難しい表情をしていますね。なしてそんな表情を? もしや、なにか深刻な問題が?

 

「……おそらくですが、長い距離に身体が耐えきれなかったのでしょう。初めて走る距離に、ハレヒノカイザーの身体が耐えられなかった可能性が考えられます」

「体質、ですか」

「えぇ。ただ、ハレヒノカイザーはまだ3歳馬。今後成長していけば、長距離を走り切れる身体になる可能性は十分にあります」

 

 ほ~ん、走り切る前に私の身体が耐えられんかったと。よもやそんなことになるとは。

 でも、う~ん。なんとなく走るのは問題なさそうな気がするんですよね~。長距離だってこなせそうな気はします。ただ、今回はダメだっただけで。

 そのダメだった原因にも、しっかりと心当たりがある。プイちゃんとの最後の勝負だ。

 

(もっと先に行きたい、って思って。いつも以上に強く踏み込んだら、脚に鈍い痛みが走った)

 

 自分の力を引き出そうとして、頑張ったら骨が折れた。そんなところだろう。

 ま、これは私の推測に過ぎず。富士澤さんに伝える手段もないのでね。

 

「元々、血統的にも不安がある長距離だ。今後長距離は走らない方向性で行こう」

「走れて有馬までか? 一雄さん」

「……今の話を聞いていると、有馬が限界だろうな。状況次第では分からんが」

 

 富士澤さんと岡邉さんの会話。その間も、春陽オーナーが私のことをずっと撫でている。

 

「痛いよなぁ、ごめんなぁカイザー」

 

 心配かけてすいません本当に。

 

「まぁ、ここで話すことではない。今後のことはまた後でだ」

「……そうだな。すまない、カイザー。お前に負担をかけさせてしまって」

 

 いやいや、大丈夫ですよ岡邉さん。そこまで気に病まないでください。

 それに、何とかなりますよ。というか、なんとかします。未来に希望を持って生きましょうや。そうした方が人生も楽しくなるってもんですよ。私は馬生だけど。

 

 

 あ~、それにしても骨折か~。しばらくの間は走れないんだよなぁ、それが一番辛いですね。

 

(できるだけ右前脚の負担がないように動かないとだし。いろいろと山積みですね)

 

 今のうちに3本脚で歩くトレーニングでもしましょうかね? どこ需要かは知りません。少なくとも今の私には需要があります。

 さてさて、どうしたものか。帰ったらロブロイさんに心配されるんだろうな~。

 

「ひとまず、いわきの温泉に掛け合うか」

 

 なぬ?

 

「だな。復帰するまでは、いわきの方で様子を見ることになるだろう」

「よ、よろしく頼みますね。富士澤さん」

「はい。今回は申し訳ありませんでした、幸光さん」

 

 温泉、だと!?

 

 

 

 

 

 

 菊花賞が終わって、結構な時間が流れた現在。ロブロイさ~ん! 今、私は~、温泉にきておりま~す!

 

「なんか、元気ですねハレヒノカイザー。骨折してるのに」

「温泉って聞いてからずっとこうで……悪化しなきゃいいんですけど」

 

 壬生さんに連れられて、やってきましたいわきの温泉! こりゃあテンションが上がらなきゃ嘘ってもんでしょ!

 

 

 いやね、ずっと、ず~っと前から思ってたんですよ。馬にも温泉ってあるのかな、と。

 シャワーも悪くありません。ですが、常々思っていたわけです。温泉に入りたいな、と。湯船につかりたいなと!

 それが今日、成就する! 朝からドキドキワクワクが止まりませんよ。

 

「あんまり興奮するなよ、カイザー。ケガが悪化しちゃうからな」

 

 ふふ、それは無理ってもんですよ壬生さん。今の私はテンションMAX、触れると火傷しますよ? さすがにそこまではいかないか。それくらいはテンション高いってことで。

 

(ケガが悪化しちゃうのもまずいか。温泉は楽しみだけど、しっかり治すことが大事ですからね)

 

 これ以上心配をかけるわけにはいきません。さて、こちらの職員さんにバトンが渡されて、私はいわきの温泉施設、もといリハビリセンターへ短期の遠征……遠征? お引越しかな。することになりました。

 

 

 施設を案内されていますが、結構お馬さんいるんですね。ここにいる子達はみんな、ケガからの復帰を目指している、ってことですか。

 

「今日はさっそく温泉に入りましょうね~。楽しみにしているみたいだし」

 

 なんと。来て早々に温泉に入ってもいいのでしょうか? なんて最高の施設ですか。

 職員のお姉さんに連れられて、やってきました!

 

(おぉ!……お、お、おぉ?)

「さ、ここで疲れを癒しましょうね~」

 

 いや、あの、なんすかこれ? え、なにこの学校のプールで見たことあるようなやつ。あの、プール入る前に消毒するためのやつ、だっけ。そんなのが目の前にあるんですけど。

 水は張ってある。湯気も微かに出てるから、お湯なんでしょうね。え、でもまさかこれが温泉なんて言いませんよね?

 

(想像していたものとは全然違う!)

 

 私の想像する温泉はさ、こう、岩とかあって、景色が凄く良くて。こう、The・温泉! って感じなんですよ。分かります? これ。

 目の前にあるのはプールで消毒する時みたいなやつ。温泉っぽさがなんもない!

 

(でも湯船に浸かれる! 最高! 突撃!)

 

 もっとも、どれも今の私には関係ないぜ。湯船に浸かれるだけでも最高ですからね。

 

「気持ちよさそうね~。それじゃ、シャワーもね」

 

 ……なんか、思ったより浅くて脚しか入りませんね。まさかの足湯ですか。これが馬の温泉か。

 ですが中々の気持ちよさ。シャワーだけでは得られない満足感がありますね。グッド、ベリーグッドです。

 

(ふむん、こうしていざ入ってみると、中々悪くありませんね)

 

 脚の先からじんわりとあったかくなっていく感じがたまりません。ずっと浸かっていたいです。

 それから入ること少し。時間にして20分も経ってない頃でしょうか?

 

「は~い、それじゃあ上がろうね~」

 

 え、もう? 早くないですか?

 

(まだ入って20分も経ってないのに!)

 

 もっと入らせろ~。この温泉の気持ちよさを味わいたいんじゃ。具体的には1時間ぐらいは入らせて。

 

「……ハレヒノカイザー? もう温泉の時間は終わりよ?」

 

 嫌だい嫌だい、もっと入るんだい。

 分かりました、1時間でダメならこちらも譲歩しましょう。59分、いや、55分でどうですか?

 

「ほら、早く上がって……力強ッ!?」

 

 やだー! 後30分ぐらい入らせてー!

 

「ダーメー! 早く上がりますよー!」

 

 もっと入るんだー!

 

 

 この後、冷静に考えて粘っても脚の負担がヤバいな、と考え。すぐさま抵抗を止めて上がりました。やってしまいましたね、私。

 職員のお姉さんは息も絶え絶え。他の職員さんも何事か、と集まってきましたよ。事情を説明しています。

 

「き、気に入ってくれたのは嬉しいけど、流石に」

「毎回こうなることを頭に入れておいた方がいいな」

「温泉好きなのね、この子」

 

 いや、はい。すいませんでした。足湯とはいえ、久しぶりのお風呂をもっと堪能していたかったもので。

 

「それじゃ、今度はお家の方に行きましょうか。こっちよ」

 

 はーい、大人しくついていきますよ。

 

 

 

 

 

 

 そんなわけでリハビリセンターでの日々ですが。特にこれといって変わったことはありませんね。温泉に入ることが追加されたぐらいで、後は普段の調教とほぼ変わりません。

 基本的にはプール調教。脚の負担を少なくするには一番だそうです。確かに、心なしか体の負担が抑えられているような気がしますよ。

 

「よ~し、ゆっくりで大丈夫だからなカイザー。ゆっくり進めよ」

 

 こちらの人間さんの言うことを素直に聞いて、一日でも早い復帰を目指しましょう。目指すは明日の復帰です。さすがに早すぎますか。意気込みはそれくらいあります。

 調教が終われば、獣医さんの検診。脚の状態を見て、あとどれくらいで復帰できるかを判断してくれます。

 

「どうでしょうか? ハレヒノカイザーの容体は」

「順調に回復していってますね。あともう少しで、美浦の方に戻っても良いかもしれません」

 

 どうやら経過は順調のようで、冗談で言った明日にも復帰が現実味を帯びてきましたね。ふふん、回復も早いハレヒノカイザーをよろしくお願いします。

 

「良いペースですね。温泉での聞き分けもよくなりましたし」

「手のかからない良い子だな。富士澤さんが言っていた通りの馬だ」

 

 そうでしょう。私良い子、凄い子。もっと褒めてくれていいんですよ?

 

 

 後は、同じくリハビリをしている子達とも仲良くなりました。レースの話をすることが多いですね。私の今後に活かせるかもしれないので。

 

『へぇ~、君って大きいレースを勝ってるんだ?』

『そうですよ。もうね、人間さんがたくさん見てる中で勝ったんですから。格別ですよ』

『いいな~、たくさん褒められたんだろうな~』

 

 他の子達は、勝ちたいという思いが先に来ています。勝ったら褒めてくれるからいいこと尽くし。だから勝ちたい、そんな思いで走っている子が多数。

 勝ったら褒められる。褒められたら嬉しい、というのはどの子も思っているそうで。中には頑張りすぎちゃってケガをした子もいるそうです。

 

『勝ったらいっぱい褒めてくれるんだ。撫でてくれるし、餌も奮発してくれるし』

『分かります。たまにあるリンゴが良いですよね』

 

 私の場合は楽しいから走る、その上で勝ったら最高、ってスタンスですからね。この子達とは、ちょっと違うかもしれません。

 

『みんなは、やっぱり勝ちたいからレースを走ってるんですか?』

『そんなの当たり前じゃん。変なこと聞くねカイザー君』

『だって、他の子が前を走ってたらムカつかない? そりゃ勝ちたいでしょ』

『そういうものですか。あんまり感じたことないですね』

 

 この考えが、私の勝ち気がどうこう言われている原因なんでしょうね。新聞の評価でも、私は勝ち気が薄い馬なんて言われてますし。

 ま、悩んでも仕方ありませんから。どうにかしようとは考えませんよ。復帰した時に考えればいいんですそんなの。

 

「それじゃ、お家に帰ろうね~カイザー」

「ヒヒン(はーい)」

 

 リハビリセンターの馬房に戻れば、後は自由時間。用意してもらったラジカセで音楽を聴きながら寝転びますよ。いやはや、壬生さんが用意してくれたんですけど、本当に神。壬生さんisゴッド。

 

「噂には聞いてましたけど、本当に音楽聴いてリラックスしてますね」

「優雅な趣味を持ってるな。まさに皇帝、ってか」

「しかも、寝藁を一か所に集めてふかふかにしている。どこでも寛ぐな」

 

 極楽極楽。走れない日々が続きますけど、こんな日々も悪くないですね。特に、菊花賞は激戦でしたから。

 

(リハビリ終わったら美浦に帰るから、しばらくはクラちゃんやプイちゃんに会えませんね)

 

 向こうでも元気にしているといいですね、クラちゃんとプイちゃん。私がいなくてもしっかりするのよ。

 リハビリ生活は順調。もうすぐ美浦に帰れそうです。

 

 

 

 

 

 

 カイザー君、いなくなっちゃった。

 

(最後、凄く辛そうにしてた。大丈夫かな? 走れるのかな?)

 

 カイザー君と走るのは、凄く楽しい。楽しいから、もう走れなくなっちゃうのは、嫌だな。

 

「ディープ、ここのところ元気ないな……」

「飼葉食いは悪くないです。やっぱり、ハレヒノカイザーが気がかりなんでしょうか?」

「可能性はあり、だな。最後も心配するように駆けよっとったし。凄い仲良かったからな」

 

 元気だといいな。カイザー君、また一緒に走れるといいな。

 

「それだったら大丈夫だな。なんでもカイザー、今も順調に回復しとるらしい」

「え? 本当ですか?」

「おう。骨折の程度も軽いもんだったみたいで、年明けには復帰するっちゅう話が出てるよ」

 

 ッ! カイザー君、大丈夫だったんだ。また、一緒に走れるんだ。

 

(嬉しいな、嬉しいな!)

 

 またカイザー君と走る日が楽しみだな。次のレースにもいるといいな。

 

「……元気になりましたね、ディープ」

「やっぱり、カイザーが心配だったんか。ま、元気になってくれたようで何より。有馬に向けて調整頑張ろうか」

「はい!」

 

 頑張ろう。また一緒に走ろうね、カイザー君。




次回は初の掲示板回。
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