ちょりーっす、私です。いやはや、なんとも凄いニュースが舞い込んできましたよ。私の気分は有頂天、最高潮に高まっております。
なんだか気になりますか? 勿論、気になりますよね。その凄いニュースとは!
【史上初の二連覇!ゼンノロブロイが強豪下してジャパンカップを制す!】
なんと、ロブロイさんが大きいレースをまた勝ちました! いや~、流石はロブロイさんです。強くてかっこいい、富士澤さんが育てたエース。
しかもレコードですってよレコード。ジャパンカップをレコード勝ちですってよ奥さん。こりゃ凄い。レコード勝ちって聞くと、なんとなくすごそうな気がしますよね。ちなみに私が勝った日本ダービーもレコード勝ちですよ。ふふん。
それにしても、連覇っていうのが凄いですね。今までロブロイさん以外の誰も、ジャパンカップを連破した馬はいないらしいです。
つまり、ロブロイさんが最初の達成者。う~ん、何度見ても凄い。
(良かったですね、ロブロイさん)
調教ではあいにくと一緒になれませんでしたが、放牧の時間を利用してお手伝いをしました。その影響がちょっとでもあったなら嬉しいですね。
さて、そんなロブロイさんですが。前回のレースはかなりの激戦、疲労も溜まっているらしく。次のレース、有馬記念まではお休みらしいです。
『いや~、ずっと休みでもいいわ~』
なんて、いつものコメントを残していましたね。ロブロイさんらしいですし、頑張ったんだから休んでも当然。休ませないなら私が抗議しますよ抗議。
ロブロイさんは調教お休みですが、私は勿論ありますよ。今日も今日とて、脚の負担が少ないダートコースでのトレーニングです。
「プールトレーニングばかりなのもいけないからな。ダートコースから、徐々に慣らしていこう」
はいはーい、頑張りますよ。
ダートコースは砂なわけですが、芝よりもパワーを使う分、脚には優しいんだとか。言われたらそんな気がしますね。
ただ芝よりも走りにくい……なんてことは別になく。走れるっちゃ走れるけどどっちが得意? って聞かれたら芝、って答えるぐらいの走りやすさですよ。ダートを主戦にする子もいるらしいですが、私にそんな話はないので、関係ないことですね。
(いや、でも芝と砂の二刀流はかっこよくないだろうか?)
どっちも走れますよ、というのはかなり凄いことなのでは? そう考えると、ダートのレースはありかもしれません。決めるのは富士澤さん達なので私じゃどうしようもありませんけど。
次のレースも芝のレースって決まりましたしね。新たなる目標に向けて、頑張っていきますよ。あ、ちなみに産経大阪杯ってレース名です。
後気になったことと言えば、私の今後の指標が決まったことですかね。
「富士澤さん。カイザーの今後のことですけど」
お、ちょうど壬生さんと富士澤さんが話しますよ。
「今後はマイルから中距離のレースに絞っていく、でしたよね? 富士澤さん」
「そうだ壬生。これは春陽さんにも話をしたが、長距離は合わない気がするからな」
「走れると合わない、は違いますもんね」
私は今後、菊花賞みたいな長いレースは走らないそうです。ちょっぴり残念。
(まぁ、今回ケガしちゃったから当然と言えば当然か)
「中距離は走れるようだし、カイザーの瞬発力ならマイルもこなせるだろう。おそらくだが短距離もな」
「さすがに、ぶっつけ本番で高松宮記念はキツいですもんね」
「それもある、が。一番は中距離を中心にレースを組み立てるからだな。下手にリズムを崩したくはない」
なんて狙いがあるらしく。中距離メインで他にも出走しますよ~、でもマイルまでしか走りませんよ~ってもんですね。
しかしマイルですか。確か、ムードちゃんが同じ距離をメインに走ってる、って聞きましたね。その関係もあるかもしれません。
「大阪杯で復帰戦。その後マイルを挟んで、次のレースをどうするか、というところだ」
「結構長いこと空きますから、実践の勘を取り戻せるか、ですね」
私の次走は大阪杯。頑張りまっしょい。
調教が終わりました。へい壬生さん、いつもの頼みますよ。
「持ってきたぞ~カイザー」
「ヒヒン(ありがとうございます)」
今日も新聞を見ましょう。さて、今日の話題は~っと……お、ロブロイさんが出走するレースのことについて触れられてますね。確か、有馬記念でしたか。
ファン投票なるものも開示されてる。ふ~ん……え?
(出走しないのに、私の名前がある、だと!?)
しかも3位とかいう高い順位! なんてこった、私の人気もうなぎのぼりだったわけですね。
ふふん、これだけの人に応援されるなんて、嬉しい限りですね。思わず笑顔になっちゃいますよ。
ま、出走はできないんですがね。こればっかりは仕方ない事情があります。というか、ファン投票1位はプイちゃんなんですね。あ、ロブロイさんが2位だ。
(ロブロイさん、プイちゃんと戦うことになるんですよねぇ)
プイちゃんの強さを、私は知っています。けどロブロイさんも強いのでね。なんの心配もしていませんよ。
他にめぼしい記事は特になく。読み終わったのでもう大丈夫ですよ壬生さん。
「お、もういいのか? それじゃ、俺はもう行くからな。放牧の時間までゆっくりしててくれよ」
「ヒヒーン(はーい)」
壬生さんは別の仕事へと向かいました。さて、お隣のロブロイさんはっと。
『ロブロイさーん』
『あん? どうしたよカイザー』
『いえ、今日の放牧も走りますか? って思いまして』
そろそろ調教も再開するらしいですし、今のうちに走りこんどいたほうがいいのではないでしょうか?
『お前が走りたいだけだろ』
『その通りです!』
『威張るんじゃねぇ』
ぶっちゃけ私がロブロイさんと走りたいだけですがね! 仕方ないじゃありませんか、ロブロイさんもうすぐいなくなりますし。なら今のうちにたくさん走っておかないと。
『ま、お前が走りたいって言うなら構わねぇよ。ずっと暇を持て余してるってのも、良くねぇからな』
『わーい! やったやった!』
今日もロブロイさんと走れるぞー! やったぞー!
そして放牧の時間。ロブロイさんと走りますよ。走るとは言っても、軽くですけどね。
『それにしても、有馬記念でプイちゃんと走るんですねロブロイさん』
『おう。お前に勝ち越してるのがどんなもんか、気になるわ』
強いですよ、べらぼうに強いです。
『本当に強いですね。後、走ってて楽しいです!』
『お前が走ってて楽しいってことは、最大限警戒しなきゃダメってことだな』
『なんで?』
どうしてそうなった。私が走るのを楽しいと思う相手は、めちゃくちゃ警戒しなければならないと?
『そりゃお前、少なくともお前と競り合えるってことだろ? 楽しいってことは』
『まぁ競り合えるのは確かですよ』
『だったら、最大級に警戒しなきゃダメじゃねぇか。お前と互角なんだから』
私と互角というだけで警戒しなければならないとは。私の実力をかなり評価してくれているみたいですね、ロブロイさん。最高。やっぱロブロイさんしか勝たん。
『にしても、これが俺の最後か。勝ちきれなかったけど、ようやく勝つことができたし。次も勝って、有終の美って奴を飾りますかね』
『有馬記念も勝ちましょう、ロブロイさん!』
『おう。後輩に情けねぇとこは見せられねぇからな。悔いがないように、頑張ってくるよ』
その意気ですよロブロイさん。頑張ってください。
話題はレースのことだけでなく、私やロブロイさんの今後のことまで。それはもういろいろと話します。
『引退したら何が待ってるんですか? ロブロイさん』
『ん~? 聞いた話じゃ、カワイ子ちゃんとののんびりスローライフが待っているらしい! こりゃ今から楽しみだ!』
へ~、そうなんですね。
『……お前興味なさそうだな』
『まぁ、はい。私走る方が好きなので』
『なんつーか、ぶれないなお前。まぁ俺ものんびりしている方が性に合ってるけど』
どっちも別に好きなものがありますからね。特に惹かれないのである。あ、でもカワイ子ちゃんといえばクラちゃんが思い浮かびますね。クラちゃんとののんびりスローライフなら悪くないですね。
後カワイ子ちゃんといえば……ムードちゃんか。どの道走ることになりそうだなぁ。
『お前はまだまだ走るんだろ? 頑張れよ』
『はい! マイルと中距離を走るらしいです!』
『へ~。詳しい距離は分からんけど、とにかく頑張れよ。クリスエスさんと応援してるわ』
な、なんですと!? クリスエスさんと応援してくれるなんて。これはもう元気百倍勇気凛凛ですよ。
残り少ないロブロイさんとの時間。今日も楽しく走って過ごしました。
◇
日が沈むのも早くなり、寒くなってきた。コタツが恋しい季節になった今日だが、見過ごせないことがある。
一雄さんから見せてもらった、カイザーの調教のタイム。そこには、驚くべき事実があった。
私だけではない。一雄さんも、担当厩務員である壬生さんも驚いている。
「ケガからもう戻りつつある……骨折の影響など、まるでないとばかりに」
「回復能力も桁違い、ってことですか?」
「……」
調教のタイムが、すでに戻りつつあるということだ。
元々、一雄さんは調教にタイムを求めない。だから特段どうというわけではないのだが、それでもカイザーのタイムは少し疑問が残る。
軽い骨折だったとはいえ、まだ影響は出て然るべき時期。なのに、カイザーのタイムはケガをする前とほぼそん色がないところまで戻ってきている。
(回復能力が桁違い? それにしたって度を過ぎている。いくらなんでも、早すぎる)
「一雄さんはどう思う?」
「……これといった結論は出ていない。それこそ、壬生の言うように、回復が早いなんて線もあるわけだ」
それだけでは説明がつかない、そう言いたげだ。どうも、私と同じ意見らしい。
医者も、走るのに影響が出ないレベルとは言っていた。だからまぁ、喜ばしいことだろう。本調子に戻りつつあるのだから。
「……ゼンノロブロイとの併せも、これなら大丈夫かもしれんな」
「本当に大丈夫か? まだ影響が残っている可能性だってあるんだぞ?」
「分かっている。もしかしたらの可能性だ。さすがにそんなことはしない」
「けど、カイザーは放牧でいつもロブロイと走ってますよ」
壬生さんの主張。そう言われれば、そうなのだが。
正直なところ、カイザーのプランは無限大だ。取れる選択肢が無数に存在している。
短距離やマイルに絞るのもいいだろう。カイザーの瞬発力ならば、問題なくこなすことができる。並外れた巡航速度を誇る彼ならば、たとえ短距離であろうと走れることは間違いない。
王道の中距離路線に行くのもいいだろう。カイザーのスピードは天下一品、折り合いをつけるのも容易だ。それに、カイザーはダービー馬。中距離こそが主戦場である。
長距離路線にシフトすることだってできる。菊花賞ではケガをしてしまったが、身体ができてくれば問題なく走れるようになるだろう。カイザーの賢さならば、たとえ血統の問題が立ちはだかろうと関係ない。勝つことができる。
カイザーは本当に凄い馬だ。気性の問題で距離が絞られる、素質の問題で絞られることが日常のこの世界で、どの距離だろうと走ることを可能にする、最高の逸材。
(だからこそ、慎重に行きたい)
何がベストで、どこで一番力を発揮できるのか。ケガをしないためには、どこを走るのが一番いいのか。それを見極めなければならない。
無茶はできない。カイザーをより強くするために、間違えるわけにはいかない。
となるとやはり……王道の中距離路線。日本ダービーも最高のパフォーマンスを発揮してくれた。中距離こそが最適正なのだろう。
「やはり中距離がベストだな、うん」
「いきなりなんだ岡邉。急に訳の分からんことを口走るな」
となると。取れるかもしれんな。凱旋門賞。
ルドルフでは挑むことができなかった、遥かなる高み。それをまさか、彼の孫で挑むことができるとは。
これも、何かの運命というやつかもしれない。ルドルフが巡り合わせてくれたのだろうか?
「岡邉さん? おーい、岡邉さーん……ダメだこりゃ」
「ほっとけ壬生。いつものことだ」
凱旋門賞。ハレヒノカイザーで挑んでみたいものだな。
その後、復帰戦に関しては現状維持。大阪杯に照準を合わせることにした。
「中距離の2000mの出来を見て、今後を決める。マイルを走るかもしれんし、そのまま中距離を継続するかも大阪杯次第だ」
「カイザーならば、マイルもこなせるでしょうね」
「一理ある。血統が血統、マイルを走るぐらいわけないだろう」
果たして、来年度はどんなレースに出れるのか。楽しみなものだ。
……ただ、それと同時に感じるのは不安。
それこそ、カイザーのタイムが早く戻ったことに対する拭えない違和感もそうだ。回復が早いんじゃない、別の何かがあると感じさせてならない。
加えて、私自身の衰え。
(もう、満足な騎乗は難しい。判断力も鈍っている)
今季の成績は歴代でもワースト。おそらく、来年も同じようなことになるだろう。世間での評価も散々なものだ。
鞍を譲れ、私ではない誰かがハレヒノカイザーに騎乗しろ。そんな声も上がりつつある。
ただ、それでも。彼の鞍を譲る気はさらさらない。まだまだ、彼には教えるべきことがたくさんあるのだから。
(まぁ、教えられるのは私の方かもしれないがな)
ダービーの時のように。彼はこちらが思っている何倍も賢いのだから。
ひとまずは大阪杯。勝つために、少しでも勘を取り戻さなければ。
岡邉君。