同世代のUMAさん   作:カニ漁船

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誰が騎手になるんやろなぁ(棒)。


騎手と出会いました

 はい、私です。年が明けて、私もついに2歳ですよ2歳。年の数え方って誕生日とかではなく、年が明けたら自動的に上がるんですねお馬さんって。新たな発見です。

 そんな私が今何をしているのかと言いますと。

 

『き、キツ……も、むり……』

 

 調教がキツ過ぎてバテました。食欲も湧かないし、身体を動かすのも億劫な状況、初めて走った時に似てますね。無敵感を覚えて走りまくってたらぶっ倒れそうになったあの日を。

 

「食欲なさそうですね、カイザー」

「調教が堪えたんだろう。量をかなり増やしたからな」

「結局年末から徐々に増やしましたからね、富士澤さん」

 

 そう、富士澤さんは調教の量を増やしてくれたのである。なんでも、この先を見据えてとのことらしいけど。にしたって限度があると思いますよ。急に倍に増やされた私の気持ちにもなってください。いや、別に減らさなくてもいいです。なんだかんだ走るのは楽しいので。でもちょっと抑えてくれると私嬉しい。どっちなんだろうね。どっちだとより嬉しいのか自分でも分かんない。

 

「なんか抗議してそうな目ですね、カイザーのヤツ」

「……いやいや、もっと増やしてってことだろう。さらに増やすとするか」

 

 何てこと考えやがるこの野郎! これ以上量を増やすとか正気ですかあなた!

 私知ってるんですからね、今の調教の量が同じ年齢の子よりも多いってこと! 富士澤さんはいつも同じ年齢の子はこれくらい軽くこなすぞー、とか言ってますけど、会話を盗み聞きしてる私はそれが真っ赤な嘘だって知ってるんですからね! あまり私を舐めたらいかんですよ!

 

「けど、ハレヒノカイザーの量は多いですよね。普通の2歳馬の倍近い量はこなしてますし」

「ハレヒノカイザーは利口だからな。一部言いつけはしっかり守るし、騎手の言うことにも従順だ」

 

 ほう、急に褒めだしましたね。ですがその程度で揺らぐ私ではありませんよ。もっと褒めて褒めて。今以上に褒めたら頑張りますよ。その一部については触れないでおきます。

 

「やはり、売れ残っていたのが不思議なくらいの才覚だよカイザーは。気性も大人しいし、伸びるポテンシャルはある。春陽さんも、ついに重賞を取れるかもしれないな」

「そこまで褒めるなんて……確かに、カイザーの能力は高いですよね。他の2歳馬と比較しても、良いタイム出してますし」

「あぁ。この時期の2歳馬にしてはトップレベルだ。えらいぞカイザー」

 

 むっふっふ~、そこまで褒めてくれるなんて。こりゃあもう期待に応えるしかありませんね。仕方ありませんね~、調教も頑張っちゃりますか!

 確かにキツいかもしれない、が。ここまで褒められて悪い気はしないというもの。ならば頑張るしかないでしょう。頑張って褒めてもらって、そうしたらみんなハッピー、笑顔の花が咲き乱れるってもんですよ。笑顔は大事、笑顔大好き。気合いが入るってものです。

 

「な? 聞こえるように褒めると露骨にやる気を出すだろ、カイザー」

「凄いやる気ですね……もしかして、これを見越して?」

「やる気出したら凄いからな、カイザー。にしても分かりやすいな」

 

 明日の調教も頑張るぞ~!

 

 

 そんな私の生活にも変化が。変化っていうかアレだ。壬生さん達は本当に新聞とかラジカセとか持ってきてくれた。

 確かに新聞は読めるけどねぇ。よく分かんない。

 

(ぶっちゃけ新聞なんてよく分からないんだけど。字が多くてめんどくさいなぁ)

 

 漫画くださいよ漫画。日本の情勢がどうたらとかよく分からないので。それよりも漫画の方が面白そうですし。

 いや、待てよ? ここで新聞読めたら私かっこよくないだろうか? よし、頑張って読もう。内容なんて一ミリも分からないけど読もう。なんたって私、賢いので。後褒めてくれるかもしれないので。

 

「不満そうだな……本当に読めてるのか?」

「読めてはいるが、内容が分からないとかだろう。もっと簡単なもの、絵本とか持ってきてみるか?」

 

 そそ、そんなことありませんよ。私ちゃんと読めてる。大丈夫よ大丈夫。けど絵本だとありがたいです。

 

「なんか楽しそうじゃありません? 富士澤さん」

「そんなことはない。次はラジカセで音楽を流してみるか」

 

 新聞のターンは終わってラジカセの番。なんだか久しぶりに音楽に触れた気がする。でも知らない曲ばっかりでどう反応すればいいのやら。うっ〇ぇわとか夜に〇けるないんですか? ないですかそうですか。気持ちは落ち着くからこのままでいいか。

 

「クラシックの音楽を聴いてリラックスしてますね」

「ここまで安らぐか。それがクラシックとは……中々贅沢なやつだ」

 

 ぶっちゃけよく分からないですけどね。しかし悪くはない。この調子で頼みますよ。

 

 

 これが私の生活である。めちゃんこ増えた調教をこなしながら、新聞や漫画を持ってきてもらったり、ラジカセで音楽とかラジオを聴きながら過ごす日々。今なら一芸もできそうな気分。中々贅沢な暮らしをさせてもらっているのではないだろうか?

 

「そろそろ騎手の問題が出てきましたね富士澤さん。騎手は?」

「もう頼んである。向こうも快諾してくれたからな。ぜひともトウカイテイオーの子に乗りたいと」

「あ~……まぁ()()()ならそうかもしれませんね」

 

 騎手、というのは私の上に跨る人のことだ。それがもう決まっていると。しかも向こうも乗り気だと。こりゃあいいね。

 

『気合が入るぞー!』

「カイザーもやる気が出てますね。騎手と会うのが楽しみなのかな?」

「案外お腹が空いてるんじゃないか?」

 

 富士澤さん、あなた私に対して随分とアレね。なんですか、好きな子にはどうたらこうたらというやつですか?

 ともかくとして。その騎手さんとは近日中に会うらしい。その時が楽しみだ。

 

 

 

 

 

 

 迎えた日。私に乗る予定の騎手さんとご対面です。

 

「この子が……本当にルドルフのような流星がある」

「それだけじゃないぞ岡邉。こいつのバネはトウカイテイオーに通ずるものがある。乗ったら驚くぞ?」

「一雄さんがそこまで言うとは。余計に楽しみだな」

 

 ほほう、中々ダンディーなお方で。なんでもこの人、私の父馬であるトウカイテイオーに乗ったこともあればそのまた更に父馬、私にとってのおじいちゃん馬であるシンボリルドルフに騎乗していたらしい。そりゃまたすごい人が私に興味を持ってくれたものだ。

 今日は他の子との併せ馬。同じ2歳馬同士で走ることになる。岡邉さんが私に乗るのだが……おおう、これは凄い。

 

(いつも乗せている壬生さんと大して変わらないや)

 

 体重が極端に変わっているわけでもないからそりゃそうか。

 準備が終わって、いざ出陣!

 

「ッ!」

「これは……ッ!」

 

 あ、は、はは! やっぱり走ってる時が一番楽しいや!

 真っ向から吹いている風をどんどん切り裂いて進んでいるこの感じ。車と同じくらいのスピードを出して走るこの快感! どんなことよりも楽しい感覚だ!

 最近では漫画を読むのだって悪くないし、昔の漫画面白いな~なんて思ってるけど。私にとっての一番は揺らがない。この、走っている時だ。この時がいっちばん楽しいのだ!

 

「併せている同じ歳の馬をぶっちぎる、か……確かにすさまじいポテンシャルだっ!」

 

 もうすぐカーブを迎える。だけど大丈夫、ちゃんと訓練したからね!

 ちょっと減速して、すいーっと曲がる。できる限り内側を走るのがいいって聞いたから、その通りに。

 んで、減速した分は直線で一気に加速! 全部教えてもらったことを実践して、楽しく走る!

 

「走る、というよりは跳ねるような感覚。少しトウカイテイオーに通ずるものがあるな」

 

 このままどこまでも行けるぞ! さぁて、さらにギアを上げ「ここまでだ!」ぐえっ!?

 な、なして急に手綱を引いて、って。あ。

 

(いつの間にかゴールだったか。気づかなかった)

「手綱を引いたらすぐに止まる……賢さも併せ持つか!これは、ますますもって楽しみな子だ!」

 

 そりゃ止まらなきゃダメだね。うぅん、走るのが楽しすぎて止まらなくなるこの感覚はどうにもならんね。

 

「これがハレヒノカイザー、か。一雄さんが手放しで絶賛する逸材なのが分かる!」

「だろう? こいつはG1を獲れる。断言してもいい」

「それだけじゃない、ハレヒノカイザーはそれ以上を目指せる! 脚のバネは天性のモノ、そこに賢さも併せ持っている! ルドルフの賢さとはまた違うが、それはこれからの成長に期待だろう。この時点でこの能力なら!」

 

 岡邉さん私のこと大絶賛してくれるじゃん! 好き! もっと褒めて!

 

「分かったから前のめりになるな。落ち着け岡邉」

「す、すまん。だが、私をこの馬の騎手にしてくれたこと、感謝するよ一雄さん」

 

 これで岡邉さんが私の騎手になってくれるのかな? だとしたら嬉しいな。

 それにしても騎手さんというのは改めて凄いな。こっちは車並みのスピードを出しているのに、全然恐怖を感じてなさそうだし。身を守るのはヘルメットぐらいだから、どっちかというとバイクか。にしたってほぼ生身なのに凄いものだ。騎手って職業凄い。

 

「ただ、だからこそ惜しいな。もう少しまともな坂路があればまた話は変わってくるんだが」

「……ないものねだりしても仕方がない。あるもので戦わなければ」

「そうだな。馬に無理を強いるわけにもいかないからな。せっかくの能力も、ケガをしたら全部おじゃんだ」

 

 富士澤さんと岡邉さんは話し合ってる。坂路がどうとか言ってますね。その言葉には聞き覚えがある。坂道のことを坂路と呼んでいるのだ。坂路で鍛えたら凄い効果があるとかなんとか。

 

「それで、どうする? ハレヒノカイザーの鞍は」

「ぜひ乗らせてほしい。持っている能力が2歳馬の中では飛び抜けている」

 

 鞍は確か乗ってくれる人、だったかな。ということは、岡邉さんが私に乗ってくれるのほぼ確定かな? やったぜ。

 

「新馬戦は夏だな。身体もできてきてるし、早めを予定している」

「どこの競馬場を使う予定なんだ? それと、遠征の影響は?」

「長距離遠征は苦にしないタイプだな。生産牧場から美浦に来る時も堪えた様子はなかった。どこの新馬戦かはまだ予定は決まってない」

 

 新馬戦は確か、レースのことだ。今は1対1の走りしかしてないけど、レースになるとたくさんのお馬さんと走るらしい。それも、会ったことがない馬とも走るとか。

 

(楽しみだなぁ。お馬さんに会うのも、走るのも!)

 

 知らないお馬さんと走るのが楽しみだ。未知の出会いに心躍るってやつだね。私の知っているお馬さんってここの子達だけだから、違うとこの子と走るのとか! 関西には美浦トレセンとは違うトレセンがあるらしいし、そっちの子とも走れるのかな? う~ん、ワクワクが止まらない。

 およ? 話し終わった岡邉さんが私に近づいてきたぞ。なんだなんだ?

 

「頑張ったな、ハレヒノカイザー。これからよろしく頼むぞ」

 

 労いの言葉ありがとうございます! 自分、その言葉で頑張れます!

 ちょっと変なテンションになったけど、この人は良い人だね、うん。間違いなく良い人、私がそう決めた。私を褒めてくれるのは良い人。富士澤さんも良い人だし壬生さんも良い人。ここにいる人たちみんな良い人だ。

 

 

 この日以降、岡邉さんが乗ることが多くなった。新馬戦っていう、今度私が走るレースに岡邉さんが騎乗するから今のうちに数をこなしておきたいらしい。

 岡邉さんはいろんなことを教えてくれる。こうした方が走りやすいぞーとかを教えてくれるのだ。

 

「岡邉。カイザーは賢い。口で説明しても分かるぞ」

「……本気で言ってるのか?」

「本気も本気だ。俺も基本的には口頭で説明するからな」

「あぁ、普段のはそうゆう……私はてっきりお前が狂ったのかと」

「はっ倒すぞ!?」

 

 コーナーの曲がり方とか、他の馬のこととか。最近は止める時も手綱で引くよりも口で言うようになった。手綱で引かれると結構びっくりするからありがたいね。

 世間のことも教えてくれる。最近は栗東について聞くことが多くなった。あ、栗東っていうのは関西のトレセンの名前ね。

 

「関西のトレセンは凄いぞ。設備もこっちに負けず劣らずだ。特に坂路が凄い。関西の馬が強い理由は、あの坂路にある」

 

 関西のトレセンは、設備がこっちよりも整っているらしい。へ~、関東と関西で変わったりするんですね。

 岡邉さんや富士澤さんにいろんなことを教えてもらいながら時は流れ6月。とうとう新馬戦とやらに向けての準備が整ったらしい。

 

「時期は7月の25日。場所は新潟の第5Rだ」

「分かった。調整しておく」

「頼んだぞ岡邉」

 

 レースはたくさんのお馬さんと走るのだとか。いつもは1対1で走るけど、それよりもさらに多くなるのか。楽しみだね。

 

「お前の晴れ舞台だぞ、カイザー。頑張ってな」

 

 壬生さんが撫でてくれる。よしよし、いっちょ頑張りますか。




新馬戦だーぞ。
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