同世代のUMAさん   作:カニ漁船

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クラシックから数えるとお初な距離。


第51回京王杯スプリングカップ

 ハレヒノカイザーの京王杯スプリングカップ出走は、大きな話題を呼んだ。元より話題性抜群なのもあるが、ダービー馬の参戦など盛り上がらないはずがないだろう。

 距離1400m。安田記念を目標に据えたローテ、調整なのは明白。後は、ハレヒノカイザーがどこまで距離短縮に対応できるかにかかっている。

 ただ、この距離短縮にはいろいろなところから疑問の声が上がっているようだ。

 

「中距離で圧倒的な強さがあるのに、どうして宝塚記念を狙わないんだ?」

 

 大阪杯での勝ちっぷり。唯一のG1も日本ダービーと中距離だ。得意なのは明白、どうしてこちらに絞らないのかと疑問は尽きない。

 富士澤調教師は選択肢の幅を広げるため、と前々から言っているが、邪推したくなるのが人間というもの。その中でも特に大きいのは──ディープインパクトとの対戦を避けるため、なんて批判だ。

 

「宝塚記念はディープが出走するから避けたに違いない」

「ディープインパクトに勝てないから逃げたんだ」

 

 一部のファンの言葉が波及していき、小競り合いにまで発展するところもあったほど。ディープに勝てないから距離短縮して逃げた、なんて言葉は、カイザーのファンからすれば許せない発言だった。

 もっとも、秋には2頭とも凱旋門賞に出走する。現在()()()()()()()()()()()()()()()が起きているようだが、どの道秋には対戦するのだ。逃げたなんて言葉は嘘でしかない、と両ファン共に納得。あまり大きくなることはなく、気づけば沈静化していた。

 

 

 話は逸れたが、カイザーが京王杯に出走することに、ファンからは心配する声は上がっていない。

 

「カイザーは瞬発力ある方だからな。問題なくこなせる!」

「距離短縮だろうが、持ち前の賢さですぐに対応できるに決まってるさ!」

「頑張れカイザー! お前なら勝てるぞー!」

 

 これまでのレースっぷりから、たとえ短い距離でも対応可能と勝利を確信するファンもいる状況。単勝1.1倍の1番人気を誇っていた。

 加えて、レース前の陣営コメントからも自信がうかがえる。

 

「ハレヒノカイザーは距離短縮でも問題なくこなせる。元よりスピードがある馬、走るぐらい訳はない」

 

 かつてタイキシャトルを育てた富士澤調教師の言葉だ。言葉の端々から自信があふれており、京王杯で躓くことはないだろうと確信させるようなコメントを残している。

 また、騎手である岡邉も自信満々だ。

 

「びっくりすることになる。ハレヒノカイザーの強さに、ね」

 

 カイザーの資質に惚れ込んでいる岡邉のことだから誇張されているだろうが、自信があるのが伝わってくる。きっと勝ってくれるだろう。それがファンの認識だ。

 

 

 焦点を当てられるのは、ハレヒノカイザーがどんなパフォーマンスを披露してくれるのか? 雨の影響により稍重と発表された東京競馬場の馬場で、ハレヒノカイザーが走ろうとしていた。

 

 

 

 

第51回京王杯スプリングカップ

 

 

枠順番号馬名性齢人気

1
1ハレヒノカイザー牡4
1

2
2ロードフラッグセ915

2
3トールハンマー牡69

3
4グレイトジャーニー牡55

3
5テレグノシス牡7
3

4
6ローエングリン牡710

4
7ネイティヴハート牡87

5
8インセンティブガイ牡56

5
9フジサイレンス牡68

6
10シンボリグラン牡4
2

6
11ニシノシタン牡612

7
12プレシャスカフェ牡711

7
13オレハマッテルゼ牡64

8
14グランリーオ牡614

8
15アルビレオ牡613

 

 

 各馬返し馬を順調に済ませ、ゲート入りの時間がやってくる。

 

《51回目を迎えました、東京競馬場京王杯スプリングカップ。何と言っても注目は、ハレヒノカイザーの出走でしょう。唯一ディープインパクトに土をつけたダービー馬が、この京王杯に出走してきました。距離短縮でも行けると陣営は太鼓判、しかしそれほどこの世界は甘くないと、他の陣営も気合いが入っているのが印象深いですね》

《元々ハレヒノカイザーはスタミナがある方ではないと言われてますからね。もしかすると、こちらの方が適性は高いかもしれません》

《ダービー馬の資質が試される一戦、京王杯を制するのはどの馬になるのか? 今、大外枠のアルビレオがゲートに入りました》

 

 最後のアルビレオがゲートに入り、静かな空気が東京競馬場を支配する。雨の音だけが聞こえる中で──ガコンっ、と。ゲートの開く音が聞こえた。

 

《態勢整いました。芝1400m、稍重の馬場がどんな影響を及ぼすのか、京王杯が今っ、スタートしました! 揃って綺麗なスタートを切ります15頭、先行争いに入ります。内枠を活かしてグングン上がっていくハレヒノカイザー、外からはローエングリンにオレハマッテルゼ、オレハマッテルゼも果敢に行きます。しかしこれはハレヒノカイザーだ、ハレヒノカイザーが先頭に立ちます! ローエングリンとオレハマッテルゼを突き放しにかかる!》

 

 15頭が綺麗なスタートを切る。飛び出したのは──ハレヒノカイザーだ。

 

今日は我慢する必要はない。このまま行け。進む脚を緩めるな

 

 逃げの指示を出す岡邉。鞭も入れて、絶対に先頭を譲るなと指示を出す。

 

今日は逃げていいの!?

 

 ハレヒノカイザーは勢いのままに駆けていく。脚を緩める気はなかった。先頭を取りに行く動きを見せる。

 ここで驚くべきことが一つ。ローエングリンやオレハマッテルゼが先頭を奪おうと上がってくるが、ハレヒノカイザーがあっという間に抜け出したのだ。

 内枠の有利、加えて加速が頭一つ抜けているハレヒノカイザー。すぐさま先頭を奪い去り、そのまま逃げ切りを図ろうと先頭をキープする。

 

《さぁ先頭に立ったのはハレヒノカイザーだ、ハレヒノカイザーが先頭に立ちます。あっという間に先頭を奪ったハレヒノカイザー、間からローエングリンが追走、オレハマッテルゼと外からはグランリーオも来ている。しかしじわじわと突き放しにかかるハレヒノカイザーあっという間に1馬身の差がついたぞ!? まだ1ハロンを過ぎたばかりだぞハレヒノカイザー何という加速!》

 

 オレハマッテルゼとの差を1馬身つける。負けじとオレハマッテルゼが上がってくるが、ハレヒノカイザーはキッチリ1馬身の差をキープしたまま走り続ける。

 

このくらいで大丈夫かな? もうちょっと差を広げようかな?

 

 その走りには、()()()()()()()()を感じさせた。

 

 

 固まったまま進む第3コーナー。ハレヒノカイザーは先頭を譲ることなく、オレハマッテルゼとの差を1馬身キープしたまま、気ままに走っている。

 余裕。恐るべきことに、余裕すら感じさせる走りだ。これが2つ目の驚くべきこと。観客も思わず困惑する。

 

「やっぱ凄いぜカイザー……! 岡邉の言ってたことは本当だ!」

「いっけー!カイザー!」

 

 気の早いファンも出ているが、そんな感想を抱くほどにハレヒノカイザーは凄まじい。距離短縮の不安など吹っ飛ばすほどの走り、圧巻の強さを見せようとしている。

 コーナリングも見事だ。綺麗にカーブを曲がり、最内をキープし続けている。後ろにつけているローエングリンは内から抜くことを決めたものの、最内をキープするカイザー相手に厳しいと感じていた。

 最短経路を最速で走る。言葉にすると簡単だが、それがいかに難しいかは誰もが知るところ。

 だが、ハレヒノカイザーはその難しいことを実践しているのだ。こともなげに、いとも簡単に。

 

もうちょっと速い方がいいかな? まぁこれくらいでキープできてるしいいか

 

 ハレヒノカイザーは先頭を譲らない。差を詰めようと競りかけてくれば、同じだけスピードを上げて突き放す。ペースが下がったことにすぐさま気づき、自分もまた下げる。今までのレースでやってきたことを、1400の距離でも実践していた。

 これには岡邉も驚く。あまりの学習能力の高さに。

 

(これまでの経験を活かして、自分の最適なペースを探している。しかも、余裕すら感じさせる!)

 

 電撃戦でこれほどの余裕。いったい底はどこにあるのかと、果たしてどこまで未知の世界を見せてくれるのかと、ドキドキせずにはいられない。

 第4コーナーを回る各馬。先頭を走るカイザーは、歓喜を覚えていた。

 

楽しいな、楽しいな。みんなと走るの楽しいな!

 

 楽な手応えで最後の直線に入るハレヒノカイザー。先頭は──一度も譲らない。

 

《最後の直線に入りました、ハレヒノカイザーが先頭です! オレハマッテルゼ、オレハマッテルゼも競りかけようとしているが、これはハレヒノカイザーが楽な手応えで先頭を走ります、リードはキッチリ1馬身差! 序盤からずっと1馬身差をキープし続けていますハレヒノカイザー、これが名手岡邉の計算高さ! さぁ最後の直線に各馬一斉に雪崩れ込んできた、真ん中からローエングリン外からグランリーオ! 内からはトールハンマーハレヒノカイザーの後ろにつけて坂を上ります!》

 

 圧倒的な強さを見せつけていた。

 

 

 他の馬に騎乗するジョッキーも、ハレヒノカイザーが誇る圧倒的な強さに驚愕している。

 

なんだアレは

スピードが違いすぎる

あれほど楽に走る短距離馬など見たことがない

 

 最初の立ち上がり1ハロン。他とは一線を画すスピードを刻んで先頭を奪ったハレヒノカイザー。勢いのままに駆け抜けるかと思えば、後ろのペースに合わせるように走る。

 最初の1ハロンで勝負は決していた。そう思わせるほどの強さを今、実感している。

 今回シンボリグランに騎乗している岳隆も、あまりの強さに目を見開いていた。

 

(大阪杯と遜色ない強さ、ってだけじゃない。あのスピードを制御している!)

 

 突き放して逃げるのではない。かといって油断しているわけでもない。いつでも動けるように脚を溜め、寸分狂わぬタイミングで仕掛けようと準備をしている。

 隙がない。それが、岳の結論だった。

 

《ハレヒノカイザー先頭を譲らない、ハレヒノカイザーが圧倒している! さぁ残り200m、残り200しかないぞ、後続はハレヒノカイザーを捉えることができるか!? ハレヒノカイザー脚を緩めない、決して油断はしないハレヒノカイザー! 盤石の態勢で他馬を迎え撃つ! ネイティヴハート上がってきた、外からはプレシャスカフェ、プレシャスカフェ! 勢い止まらないハレヒノカイザー先頭!》

「「「おおおぉぉぉッッ!!」」」

 

 最終的に。一度も先頭を譲ることなく走り続けたハレヒノカイザー。稍重の馬場を軽やかに駆け抜け、勝利を飾った。

 

《ハレヒノカイザー、ハレヒノカイザーだ! この馬はこの距離でも強いハレヒノカイザー1着ゥゥゥ! あっという間に先頭を奪い、あっという間に駆け抜けた! これがハレヒノカイザー、ディープのライバル! 2着オレハマッテルゼに2馬身差をつける大楽勝だぁぁぁ!》

「……すっっっっげぇぇぇ!」

「カイザー強すぎるだろ! なんだこれ!」

「いや、本当に! なんだこれ!」

 

 3度目の驚き。ハレヒノカイザーが見せた圧倒的な強さに、観客の熱は高まっていた。

 歓喜に震えるファン、鞍上の岡邉、調教師の富士澤。ハレヒノカイザーという太陽に、魅せられる。

 

「やっぱ凄いっスよカイザー! カッコいい~!」

「氷見ちゃんすっかりカイザーのファンになったなぁ……」

「なんか言ったっスか五田さん」

「なんにも」

 

 沸き上がる歓声。外れ馬券の紙吹雪が舞う中で、ハレヒノカイザーは思う。

 

(クラちゃんは明日だよね。頑張ってねクラちゃん!)

 

 ラインクラフト。遠征で来ている間、ずっと調教パートナーを務めてくれた相手。とても仲の良い牝馬。

 

(相手はムードちゃん。ムードちゃんも手強いよ。どっちも頑張れ!)

 

 相手は強敵。どちらにも心の中で声援を送る。ハレヒノカイザーは、そのまま岡邉の指示に従って歩みを進めた。

 

 

 後に判明することだが、ハレヒノカイザーは立ち上がりの1ハロンで唯一11秒台を刻んでいた。記者が個人的に計測していたもので、信ぴょう性に関しては微妙だが、それでも他とは段違いの速さだったのは事実。恐るべき加速力に、各陣営は震えあがった。

 

 

第51回京王杯スプリングカップ勝者・ハレヒノカイザー

 

 

 

 

 

 

 緊迫した空気が流れている世戸口陣営。明日に控えたヴィクトリアマイル、重大な決断を迫られていた。

 

「……どうしますか、テキ」

「腹積もりは決まってる」

 

 ラインクラフトの担当厩務員である武村の言葉に、世戸口は即答した。

 

「迷う必要なんてない。ラインクラフトのことを考えたらね」

「わかりました。じゃあ」

「あぁ。すぐに報告する」

 

 別れる2人。その顔は──晴れやかなものではなかった。




【ラインクラフト、出走直前に回避。ヴィクトリアマイルは混戦模様!】
【圧倒的1番人気を誇っていたラインクラフトが回避。世戸口調教師「歩様に乱れがある」】
【ラインクラフトが左前繋靭帯炎を発症。復帰は絶望的か】
【ラインクラフト引退。G1・3勝の名牝がターフを去る】
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