同世代のUMAさん   作:カニ漁船

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安田記念ですわ~。


第56回安田記念

 6月4日の東京競馬場。この日もまた、かなりの客入りを見せる。春のマイル王を決める戦い安田記念が開催されるから、だけではない。

 

「なぁなぁ、ハレヒノカイザーどんくらいで勝つと思うよ?」

「いや~、京王杯の勝ちっぷりを見てると、結構な差をつけて勝つんじゃねぇか? とんでもなかったからな!」

 

 ハレヒノカイザーの存在。京王杯を大楽勝した彼の存在は、ファンにとって無視できないものとなっている。あの勝ちっぷりを見たファンの中には、ハレヒノカイザーの勝利は揺らがないと見る者もいた。

 無論、ハレヒノカイザーがダントツ1番人気。デビュー当初の人気薄からは信じられないほどに、人気を集めている。続く2番人気はダイワメジャー、3番人気は海外からやってきたブリッシュラックだ。

 ファンの目に映るのも、ハレヒノカイザーのみ。どんな勝ち方をするのか、どんなレースを見せてくれるのか。評論家やマスコミも、ハレヒノカイザーの勝ちは揺らがないだろうと評している。

 異様。クラシック戦のディープインパクトの時と似たような、異様な雰囲気がある。ハレヒノカイザーがどんな風に勝つしか興味がない、そんな雰囲気だ。

 ファンの熱は高まっている。しかし異様としか言えない空気。発走の時は、まもなくだ。

 

 

第56回安田記念

 

 

枠順番号馬名牡/牝人気

1
1ダイワメジャー牡5
2

1
2ダンスインザムード牝55

2
3テレグノシス牡76

2
4ブリッシュラック
3

3
5メイショウボーラー牡514

3
6ハットトリック牡58

4
7ハレヒノカイザー牡4
1

4
8シンボリグラン牡415

5
9ローエングリン牡718

5
10フジサイレンス牡617

6
11カンパニー牡57

6
12バランスオブゲーム牡710

7
13インセンティブガイ牡512

7
14アサクサデンエン牡711

7
15ザデュークセ716

8
16ジョイフルウィナーセ69

8
17オレハマッテルゼ牡64

8
18グレイトジャーニー牡513

 

 

 カイザーのパドックでの調子は好調そのもの、体調面の心配だけがあったが、杞憂に終わって一安心だ。

 

「頑張れよー、カイザー!」

「ラインクラフトの分まで、頑張れー!」

 

 ここでファンが名前を上げたのは、先日引退したラインクラフトだ。彼女の分まで頑張ってくれと、ハレヒノカイザーを応援する。

 ラインクラフトとハレヒノカイザーの仲が良いのはファンにとって周知の事実。そんな彼女の分まで頑張ってほしいと願うのは、ファンとして当然の心理かもしれない。

 重圧がかかるこの状況。ハレヒノカイザーは──いつも通り、なんら変わりはなかった。

 

うん、勝とう

 

 そう、変わらない。

 

 

 ファンファーレが響き渡り、各馬がゲートへと入っていく。

 

《春のマイル王を決める戦い、第56回安田記念を迎えました。東京競馬場芝1600m、馬場の状態は良馬場の発表。注目はやはり!》

《そりゃあもちろん、ハレヒノカイザーですよ! 京王杯ですさまじい勝ちっぷりを披露してくれましたからね~。この安田記念でも、注目が集まります!》

《海外からはチャンピオンズマイルを制したブリッシュラックがこの安田記念に連続参戦。前回4着の雪辱を果たせるかどうか。2番人気はダイワメジャー。マイラーズカップを制して順調といったところ。役者が揃った安田記念、栄光は誰が掴むのか?》

 

 ハレヒノカイザーに騎乗する岡邉は、カイザーの首を優しく撫で、今回の指示を出す。

 

「京王杯と一緒だ。君の好きなペースで走れ」

 

 岡邉の指示に特に反応を示さないカイザー。分かった、とばかりに頷いて、ゲートが開く瞬間を待っていた。

 大外枠のグレイトジャーニーがゲートへ収まる。まもなくゲートが開いて発走、そんな時だ。

 

多分、このタイミングかな?

 

 まだゲートが開いていないタイミングで、ハレヒノカイザーが動く素振りを見せた、瞬間である。

 ゲートが開いた。カイザーの身体は動き出していた。結果──ハレヒノカイザーだけが抜け出したかのような状況になる。

 

やっぱりこのタイミングだった。合ってた合ってた!

 

 両隣の騎手は呆然としていた。彼らもそれなりのスタートを切れたが、それ以上のスタートを見せる馬がいた。驚かない方が無理だ。慌てて追いかける。

 

《大外枠のグレイトジャーニーが収まりました。第56回安田記念が今っ、スタートしました! あっとこれはハレヒノカイザー、ハレヒノカイザー速い! ハレヒノカイザーが凄いスタートを決めましたそのままグングン突き放しにかかる! 他の馬も慌てて追走、オレハマッテルゼ、メイショウボーラーも良いスタートですがハレヒノカイザーが一段上!》

《これは京王杯の再現ですね! 他馬を突き放しにかかります!》

 

 そのまま、京王杯の時のように加速して他馬を突き放す。オレハマッテルゼが同じように追走してくるが、ハレヒノカイザーはすでに2馬身近い差をつけようとしていた。

 

「はっは、すげぇぜカイザー! そのままいけー!」

「突き放せー! 負けんなー!」

 

 ハレヒノカイザーを応援する声が会場から上がり続ける。またもハレヒノカイザーが単騎で逃げる形になる、と思われたが。

 

《メイショウボーラーが果敢に行きます、メイショウボーラーがハレヒノカイザーを追走します。ローエングリンも行きました、楽には逃げさせないぞと2頭が競りかける。内を通ってダイワメジャーが4番手、シンボリグランがついて、外にはオレハマッテルゼ、オレハマッテルゼが外目この位置についた。ハレヒノカイザーはっ、逃げる姿勢を貫く。果敢に行きますハレヒノカイザー》

 

 メイショウボーラーとローエングリンが併せてきた。このまま突き放されてたまるかと、2頭がカイザーのマークにつく。

 ただ、カイザーに焦りはない。

 

ペース、普通。このまま維持し続けよう

 

 ()()()()()()()()()()()()()で。無理にペースを乱すことなく走ることを心掛ける。メイショウボーラーとローエングリンが必死に追いかける中、ハレヒノカイザーは涼し気に流していた。

 

 

 マイルもまた早いペースで流れていく。先頭のハレヒノカイザーが1ハロン11秒台前半で逃げ続け、メイショウボーラーとローエングリンに2馬身の差をつけながら走っている。

 ファンの中にはオーバーペースではないか? と不安視する者がいる。もしそんな声を調教師である富士澤や騎手の岡邉が聞いたら、無理もないと思いつつ笑うだろう。

 鞍上である岡邉には確信がある。

 

(これでノーマルペース……メイショウボーラーにローエングリンが必死に追ってきているこのペースが、ハレヒノカイザーにとってのノーマルだ!)

 

 高鳴る胸、興奮が止まない乗り心地。圧倒する強さを見せ、今第4コーナーを曲がろうとしている。

 

《先頭はハレヒノカイザー変わりません第4コーナー。メイショウボーラーが続きますその差は2馬身、2馬身の差をつけられているぞメイショウボーラー。外をついてローエングリン、後ろにはダイワメジャーがつけている。内から抜け出しを図っているぞダイワメジャー。外からはオレハマッテルゼが早々に併せに来た、ローエングリンに競りかける!》

 

 富士澤も興奮を抑えきれない。まだ第4コーナーを回ったばかりだというのに、ハレヒノカイザーの勝利を確信するほどだ。

 

「壬生。あれほど余裕綽々で先頭をキープする馬が、かつていたか?」

「い、いえ……俺も、あんな余裕そうにしてるの初めて見ました」

「は、はは。最適正はマイルだったのかもしれんな」

 

 ハレヒノカイザーの高速巡行は止まらない。鮮烈に人々の目に焼き付き、他を圧倒する強さを見せつけている。

 

このペースなら、余裕で持つ。仕掛けは、あそこでいいか

 

 淡々と、冷静にレースを運ぶ。さながら皇帝のように。

 

 

 あっという間に最後の直線。道中2馬身の差をキープしながら、ハレヒノカイザーが先頭で入ってきた。

 

《ハレヒノカイザー先頭だ、ハレヒノカイザーが先頭で入ってきた! その差は2馬身、オレハマッテルゼが上がってくる、内からはダイワメジャーも来たぞ! 残りはこの直線のみ、ハレヒノカイザーが2馬身のリードを保ちながら悠々と、悠々と逃げております安田記念! これがマイルG1初出走の馬の貫禄なのか!? ハレヒノカイザーが2馬身差独走状態で駆け抜ける!》

《いやぁ。もう笑っちゃうしかないでしょこれ! 強すぎるよこれ!》

 

 圧倒。そうとしか言えない走りで駆け抜けている。しかも、微塵も落ちる気配を感じさせない。2番手との差は永遠に縮まらないどころか、むしろ広がろうとしている。

 

「おいおい、まだ開くのかよ!?」

「こっからさらに上がるってのか!?」

 

 どよめきが広がる東京競馬場。海外馬のブリッシュラックが中団から一気に上がってきたが、それすらも気にならないほどにファンは先頭に注目していた。

 坂を軽やかに駆け上がり、調整するかのように差をつける。岡邉の鞭は一切入っておらず、手綱もただ持っただけの状態。馬なりのまま先頭を駆け抜けるその姿に、歓喜どころか恐怖すら覚える。

 坂を上り終わって残り200m。真ん中からブリッシュラックが単独抜け出したが、先頭ハレヒノカイザーとの差は2馬身差で変わらない。

 追いつけと必死に手綱を動かし、鞭を入れる。アイツを捕まえろ、このまま逃がしてなるものかと手綱を握るが、ハレヒノカイザーとの差は一向に縮まらない。

 それどころか。

 

この辺で、スパート!

 

 ハレヒノカイザーのギアが、さらに一段階上がった。今までは遊びだった。そう言わんばかりに。

 ブリッシュラックに騎乗する外人騎手は、ここで気持ちが折れた。なぜ逃げていたはずのアイツがさらに加速する? なぜ先頭をキープし続けていたアイツが落ちてこない? 頭に疑問が満ちるが、答える者はいない。

 

《独走独走! その差を3馬身、4馬身と広げるハレヒノカイザー! お前はどこまで加速するのか!? これ以上に加速するのかハレヒノカイザー! 100を切った、これはもう決まった文句なし!》

 

 ハレヒノカイザーは一度たりとも先頭を譲らない。

 

スパートは6、7くらいかな。もっとやれるかな

 

 余裕の勝利。ハレヒノカイザーは、安田記念を圧勝した。

 

《ハレヒノカイザーだハレヒノカイザーだ! これが強さだハレヒノカイザァァァ! いや、何という強さだ! マイルでもその強さをいかんなく発揮する! 圧倒的なスタート、まさにテンよし中よし終いよし! この馬に敵う馬は存在するのか! 2着ブリッシュラックに5馬身差つけての圧勝です!》

《しかも、見てください掲示板を! 赤く光ったあの文字は!》

《マイルG1初出走で、なんとレコードタイムだハレヒノカイザー! タイムは驚異の1:31:5!……え? い、1分31秒ごぉ!?》

 

 しかも、アグネスデジタルが記録したレコードタイムを破る形で。

 明らかな余力を残した状態で、逃げていたカイザーがレコードタイムを樹立した。鞍上の岡邉は、背筋が凍りつく。

 

(……ルドルフ。君の孫は、とんでもないやつだ)

 

 確信する。これで凱旋門賞を勝てなければ嘘だ、と。この走りを、ロンシャンでも発揮できるならば、ハレヒノカイザーの勝ちは揺らがないと思うようになる。

 観客もまた、ハレヒノカイザーに期待する。

 

「頑張れよカイザー! 凱旋門賞も頑張れー!」

「頼んだぞー! 日本の悲願ー!」

「ディープなんかぶっ倒して、お前が世界最強になれー!」

 

 凱旋門賞を勝ってほしい。いまだ成し遂げたことがない偉業を、カイザーが成し遂げてほしい。そんな声を送る。

 ハレヒノカイザーは──飛び跳ねていない。天を仰いで、思考を巡らせている。

 

もっとやれるね。次は、もうちょっとチャレンジしよう

 

 次のレースでは、更なる力を発揮することを誓っていた。

 

 

 第56回安田記念勝者・ハレヒノカイザー。レコードタイムで5馬身差圧勝。

 

 

 

 

 

 

富士澤調教師のコメント

「圧勝だね、うん。初のマイルG1なのにレコードで勝つのは能力が高いことの証明。やっぱり、この馬のスピードは飛び抜けている。もしかしたら、タイキに続いて海外マイルを勝てるかもしれないね

凱旋門賞に向けて素晴らしいレースができた。この調子を維持したまま、フランスに渡りたいね。レースの内容も文句のつけようがない。これは、期待できますよ」

 

岡邉騎手のコメント

「圧勝だ。そうとしか言えない。加えてスタート、これも素晴らしいもの。他馬よりも一歩先にスタートしていたと言っても過言じゃないです。テスコガビーのようにテンよし中よし終いよし、レースっぷりは平成に蘇ったマルゼンスキーじゃないかな。稀代の快速馬だよ、カイザーは。

凱旋門賞に向けて、最高の状態を維持していきたいね」

 

春陽オーナーのコメント

「ダービーと一緒で、レコードで勝っちゃうもんだから腰を抜かしたよ。次はフォワ賞、その後は凱旋門賞。まだ日本馬が勝ってないこのレースをカイザーが勝ったら、こんなに嬉しいことはないですね」




馬なり(傍目)。さらっと恐ろしいこと考えるカイザー。
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