同世代のUMAさん   作:カニ漁船

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晴れ舞台。


新馬戦を迎えました

 はいはい、私です。私は現在、新潟にいますよっと。新潟と言えばお米ですよね。

 新潟にいる理由ですが、新馬戦がこの新潟で開催されるからですね。7月25日、夏真っ盛りでのデビューです。

 

「よーしよし、それじゃあ行こうかカイザー」

 

 手綱を引かれて、いざ決戦の地へ。それにしても、いよいよ私もデビューってことですか。富士澤さんたちに言われたことはちゃんと覚えているぞ。

 

(新馬戦は私の今後を占う大事な一戦、だったね。早く抜け出すに越したことはないって)

 

 今回のレースを勝たないことには、これから先の計画にも支障が出るとかなんとか。たくさんのレースがあるんだけど、出走するためには今回勝つことがほぼ必要不可欠。なので、できるだけ早いうちに抜け出しておこう、という話だ。

 ふっふっふ、任せてくださいよ富士澤さん。要はあれでしょ、レースだから1番最初にゴールすればいいんでしょ?

 

(私は素質があるらしいので。さらには賢いので! これはもう勝ち申したよ!)

 

 一緒に走る子には必ず先着の実績がありますからね。こーれは私の実力が完全に上であることの証! 吉報を届けてやりますよ富士澤さん。馬主さんともどもどっしりと構えていてください。あ、馬主さんというのは私の所有者の人です。名前は春陽さんだとか。今日は見に来てくれてるみたいなので、さらに気合いが入りますよ。フンスフンス。

 

 

 長い道を通ってやってきたのはパドック。お客さんがそこそこいて、私や他の子達の身体を眺めていた。でもおじさんしかいないね。お兄さんとか女の人とか全然いないや。しかもおじさん達の中には目が血走ってる人もいるのでちょっと怖い。

 パドックを眺めてはブツブツと。さてさて、どんなことを言ってるのやら。

 

「トウカイテイオーの子かぁ。馬体は悪くないけど切りだな」

「素質馬らしいけど、それでもトウカイテイオーの子ってのはねぇ」

「まぁ来ないだろ。それよりもパラダイスクリークが父のコスモフェイマスの方が」

 

 あるぇ? 私の評価って思ったより高くない? なんてこった。ま、今日のレースで私のことを覚えて帰ってもらうとしよう。ハレヒノカイザー、ハレヒノカイザーをよろしくお願いします。

 

「あんまり気にするなよカイザー。大丈夫だ、レースが終わる頃にはみんなお前のファンになってるよ」

 

 お、岡邉さん……! よっしゃ、いっちょ頑張りますかね!

 そのままとんとん拍子で返し馬も済ませて競馬場へ。なんというか、新鮮な気分だ。

 

(見たことがない競馬場で、これからレースをするんだな。しかも、知らない子達と一緒に)

 

 私以外に12頭のお馬さんが。これだけの数で走るってのは、今まで経験したことがないからドキドキしている。それに、今回の対戦で勝者になれるのはこの中の一頭だけ。

 

(私は13頭の中で、誰よりも速くならなくちゃいけない)

 

 体が震える。なんていうんだろうな、怖いとかそんな感情は一切ない。あるのは楽しみだって気持ちだけ。知らない子達と走るのが楽しみで、これからどんなレースになるのか楽しみだなって気持ちが抑えきれない!

 

「落ち着けよ、カイザー。大丈夫だからな」

 

 大丈夫だよ岡邉さん。私、自分でも不思議なくらい落ち着いて……いや、落ち着いてられない! 早く走りたいぞー!

 

「わっとと、落ち着けカイザー!」

 

 あ、はい。すいませんでした。

 

 

 試験の時にも入ったゲートの前でぐるぐるしながら順番を待つ。私のゼッケンは8番だから、8番目に入るのかな? ここの順番はちょっと分からない。係の人が誘導してくれるし、岡邉さんが合図してくれるから大丈夫でしょ。

 

「それでは、ハレヒノカイザーどうぞ」

 

 おっと、私の番か。誘導されてゲートに入る。このゲート、狭いけど割と落ち着くんだよね。こういう狭いところも私は嫌いではない。

 

『窮屈だなー』

『狭いよー。早く走らせろー』

 

 周りはその限りじゃないっぽいけど。落ち着きがない子でたくさんだぁ。

 

《今、大外枠のタケイチミリオンがゲートに収まりました。新潟第5R新馬戦、芝1200mバ場の状態は良馬場の発表。まもなく発走となります》

 

 ゲートの中で開くその瞬間を待つ。ゲートが開いたら、レースが始まる合図らしい。ゲートの中で静かに待っていると──バンと音を立ててゲートが開いた。ということは!

 

(よっしゃー! いっくぞー!)

 

 スタートしてもいいってことだよね! 一目散に駆け抜けるぞー!

 勝たなきゃいけない新馬戦。だけど問題はない。なんてったって、私には秘策があるんだからね!

 

(勝つには1番最初に駆け抜ける必要がある。ならば、やることは一つ!)

『最初から最後まで先頭で走れば1着取れるでしょ!』

 

 なんてこった、私賢い、とても賢い! 誰にも譲らず最初から最後まで先頭なら1着! ふっふっふ、自分の頭の良さに自分でびっくりしちゃうね。

 そうと決まれば、さっそく先頭を奪いに「まだ抑えろカイザー!」ぐえっ!? た、手綱引っ張られた!

 

(なんで!? 先頭で走り続ければ勝ちじゃない!)

「しっかり落ち着いてレースをするんだ。大丈夫、私に任せろ」

 

 え~、ずっと先頭で走り続ければそれすなわち勝ちでは? 大丈夫でしょ、多分。

 でも、岡邉さんが言うことだ。素直に聞いていた方がいいでしょう。なんでって? 私よりも年上だからですよ。ゆーて私2歳ですからね。岡邉さんなんて大先輩よ大先輩。私なんかよりもよっぽどレースのことを知ってるんだから、そりゃあ指示に従った方がいいでしょ。

 

《3番のレオルーセントが出遅れました。それ以外はそろって綺麗なスタート。ハナを切るのはどの馬か? 1番のジュライワンが内枠を活かして果敢に行きます。激しい先行争い、抜け出すのはどの馬か?》

 

 てかちょっと待って。多い多い! なんか多くありません!? 窮屈な気がするんですけど!

 

(そりゃそうだよね! 今まで1対1でしかやってこなかったんだもん!)

 

 それが急に12頭も増えたんだからそりゃこうなるよ! 密集して身体とかぶつかりそう!

 

「もう少し内に寄れカイザー!」

 

 う、内側に? おーけい、指示に従いましょう。幸いにも隣にはいないっぽいですし、このまま行けたらっ、て、寄ってきてる子がいる!

 

(譲ろうにももう内には行けないし、どうすれば!?)

 

 やばいやばい、頭がパニクる! どうすりゃいい「このままどっしりと走れカイザー。心配しなくても、ぶつかっては来ない」お、岡邉さん?

 

「私がお前を導く。このレースを勝つためにな」

 

 お、岡邉さん……! その言葉、信じますぜ!

 前を走ってる子が蹴り上げた地面がたまに顔にぶつかるけど、特に気にはならない。痛くはないし。目に入らないように注意だけしながら、レースを進めていこう。

 

 

 

 

 

 

 7月の晴れ空が広がる新潟競馬場。第5Rの新馬戦が開催されていた。

 ハレヒノカイザーの人気は──5番人気。トウカイテイオーの産駒でタイキシャトルやシンボリクリスエスを管理していた名伯楽・富士澤一雄が太鼓判を押す才能を受けながらも、やはり血統の問題から5番人気に収まっていた。

 そんな彼は現在3番手でレースを追走。騎手にベテランの岡邉幸生を乗せて、冷静にレースを進めていた。

 

《ハナを取りますジュライワンが先頭、ジュライワンが先頭。競りかけるように3番レオルーセント、ちょっと掛かり気味か? 3番手は楽なペースで追走しています8番ハレヒノカイザー期待のトウカイテイオー産駒。馬群は広がっていません、団子状態のままレースは進んでいきます、まもなく第3コーナー。少し早めのペースで第3コーナーへと入ります》

「いけー!頑張れー!」

「お前に賭けてるんだぞー!」

 

 歓声と怒号が飛ぶ競馬場。2歳のサラブレッドたちが一生懸命に駆け抜けている。

 

 

 早めのペースが災いしてか、コーナーで外に膨らむ馬群。その中でただ一頭だけ──内側を陣取りながらキープしている馬がいた。そう、岡邉騎乗のハレヒノカイザーである。

 見事なコーナリング、ほとんどロスなく曲がる姿。前を走るジュライワンとレオルーセントに並ぶか?というところまで来た。

 しかし、すぐに差をつけられる。追いついたのは距離のロスがなかっただけ。距離のロスを埋めるようにスピードを上げてきたジュライワンとレオルーセントの後塵を拝するハレヒノカイザー。それでも、岡邉の顔に焦りはない。

 

《3コーナーから4コーナーへ。ジュライワンとレオルーセントが先頭、3番手はハヤチマル。トーセンブリーズも上がってきた、ハレヒノカイザーはまだ動かない。内側でじっと構えている》

 

 内側で走ることを止めない岡邉とハレヒノカイザー。どこで仕掛けるのか、どこで動くのか。にわかに注目が集まり始める。

 

 

 迎えた新潟競馬場最後の直線。358mの戦いが始まろうとしている、このタイミングだった。

 

《最後の直線に入ります。レースは団子状態先頭はジュライワン、ジュライワンが先頭で入ってきました。ですが、おーっと! 内からハレヒノカイザーが上がってくる。最内から8番のハレヒノカイザーだ! 岡邉騎乗のハレヒノカイザーがぐいぐい上がってきている!》

 

 最内を陣取り続けていたハレヒノカイザーが飛び出してくる。一時は6番手まで落ちた彼だが、気づけばあれよあれよと先頭に食らいつく位置にまで追いついていた。

 驚く観客。いつの間に上がってきたんだと、頭に浮かぶ。それだけではない。ハレヒノカイザーは──口を割って走っていたのだ。

 笑いながら走っているようにも見える姿。なのに楽な手ごたえでジュライワンに追いついたかと思うと、残り200mで岡邉の鞭が入る。

 瞬間、ハレヒノカイザーがさらに加速した。

 ここからさらに伸びるのか! 現地のファンは思わず声を上げそうになった。明らかに口を割って走っているのに、それでもなお衰えないスピード。いろんな意味で目を離せない新馬に、気づけば釘付けになる。

 

《ハレヒノカイザーが内側から上がっていきます。ハレヒノカイザーが独走独走。ジュライワンをあっという間に抜き去ってハレヒノカイザーが先頭に立ちました。後方からトーヨーフレンチも伸びてくる。しかしハレヒノカイザー速い速い! これは速いぞハレヒノカイザー! 驚きの加速で他馬を圧倒ハレヒノカイザー!》

 

 最小のロスで、しっかりと足を溜めていたハレヒノカイザー。実力をいかんなく発揮して、ハレヒノカイザーは見事1着で駆け抜けた。

 

《ハレヒノカイザー、ハレヒノカイザーだ。ハレヒノカイザー1着文句なし! 新潟第5Rの新馬戦を制したのはハレヒノカイザーです! ラスト200mであっという間に躱した。2着トーヨーフレンチとの差は4馬身。これは文句なしの完勝です! 勝ったのはトウカイテイオー産駒のハレヒノカイザーだ!》

 

 楽勝。言葉通りの強さを見せつけて、ハレヒノカイザーは新馬戦を勝利した。

 飛び交う紙くずとなった馬券。さながら祝福の紙吹雪のように舞っている馬券を横目に、観客席の人間はハレヒノカイザーを見つめる。

 

「くっそー! ハレヒノカイザーがきたか!」

「来ないと思ってたのに~!」

 

 悪態をつきながらも、オーバーランをしている鹿毛の馬体を見つめる。

 勝った嬉しさからかぴょんぴょん飛び跳ねているハレヒノカイザー。咎めるように手綱を締める岡邉。すぐさま反応してシュンとするハレヒノカイザー。かと思えば楽しそうにステップを刻み始めた。

 

「……ぷっ!」

「あっははは! なんだよあれ! おもしれー!」

「つかあれ、テイオーステップじゃね!? マジかよ!」

 

 見る者を飽きさせない面白さ。母父ダイタクヘリオスのように笑いながら走っていたと思えば、父であるトウカイテイオーのようなステップを刻む。喜怒哀楽がすぐさま伝わるような感情の豊かさに、馬券で負けたことさえも忘れて笑みを浮かべる人もいた。

 

「面白いぞー! ハレヒノカイザー!」

「その調子で頑張れよー!」

 

 この日、ハレヒノカイザーのファンは確かに増えた。そして、ハレヒノカイザーは新馬戦を早々に勝ちぬけたことになる。

 

 

 

 

 

 

 富士澤調教師のコメント

「これくらいはまぁやれるかなと。能力の高い馬だし、今回のメンバーなら問題なく勝てると踏んでいました。4馬身差の完勝に文句はないけど、口を割って走ってたのは減点ですね。調教でも時々見られてたんですが、今後矯正しないといけませんね。あまり良いことではないですから。でも、中々なパフォーマンスを見せてくれました。今後のレースが楽しみです」

 

 

岡邉騎手のコメント

「これくらいは当然。まだまだ課題が多い馬。まだ新馬戦を勝っただけだから気は抜けない。ハレヒノカイザーはG1を獲れる逸材ですからね。ひとまずは口を割って走る癖を矯正するところからですね」

 

 

春陽オーナーのコメント

「なんというか、あ、勝ったなぁって。そんな軽い気持ちでレースを終えました。今までこんな楽に新馬戦を勝った子なんていなかったから。富士澤調教師たちが仰っているように、素質が高い馬なので今後が非常に楽しみです。無事に走ってくれると嬉しいですね」




口を割って走ったのに普通に勝つ馬。
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