同世代のUMAさん   作:カニ漁船

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フランスの様子……?


反省しました

 

わ た し で す 。

 

 いやね、大変にハードな状況となっていますよ私は。全部自業自得なんですけど。

 世界の頂点を決める戦い凱旋門賞。そこに出走していた私とプイちゃんでございますが、事後報告にて私とプイちゃんはワンツーフィニッシュを決めたことを知りました。

 勝ったのは私。凱旋門賞のレコードタイムを3秒近く縮めるという、恐ろしい速さで制しました。さらにはワールドレコード決着。かつてロブロイさんが記録したジャパンカップとやらのタイムよりも速かったそうで。

 これで日本の悲願は達成されました。凱旋門賞はとっても欲しかったタイトルで、ついに手にすることができたのですから。

 ……勝った割には嬉しくなさそうだなって? そりゃ当然でしょうが。

 

「『アレク、さん。カイザーの容体は?』」

「『その質問は今日に入って3度目だ。いい加減学べ壬生、なんも変わらねぇとな』」

「カイザー、大丈夫っスからね。きっと、もうすぐでお家に帰れますからね」

 

 今の私は右の前脚を包帯でぐるぐる巻きにされてるんですから。壬生さんも氷見さんも、凄く心配そうに私を見ている。手放しで喜べるはずがありませんよ。

 

 

 えぇ、私は凱旋門賞を勝ちました。ですがその代償に……私はゴールした後右の前脚を骨折してしまいました。

 複雑骨折、と獣医師さんは語っていましたね。復帰するには1年以上かかると、淡々とそう告げていたのを覚えています。ついでに、その時のやり取りも。

 

「『こいつは幸運だな』」

「『幸運、だと? カイザーがこんなことになってるのに、幸運も何もあるかよ!』」

 

 獣医師であるアレクさんの言い方がアレなせいで、気が立ってた壬生さんが怒ってましたけど。睨まれてすぐに沈黙しましたが。

 

「『黙れ。そもそも運がよくなけりゃこいつはとっくにお陀仏だ。このケガで、死なずにここまで来てんだぞ? 幸運に決まってんだろバカが』」

「うぐっ」

 

 そして、アレクさんは語ってくれます。丁寧にホワイトボードに書き出して、通訳さんが翻訳してくれて、私の状況を詳しく説明してくれました。

 

「『まず、コイツが骨折したのは()()()()()()だ。減速しつつあったコイツは、脚が折れたまま駆け抜けることなくすぐに止まった。だから、これ以上の被害を防げた』」

「それは、はい」

 

 入線後の骨折。減速してた私はまずい音が聞こえたのですぐに止まりました。これが功を奏し、被害が拡大する前になんとかなった、というのがアレクさんの見解。

 そして、幸運だったのはこれだけじゃありません。

 

「『コイツは動き回ることなく立ち止まっていた。痛みで苦しいだろうに、動くことなく3本の脚で支えていた。理解してんだろうな、右の前脚がヤバいって』」

 

 大体の状況を悟った私が、右の前脚をできるだけ地面につかないようにしていたことです。

 私の体重を支えるために、折れた脚も使っていた場合被害が広がるのは想像できます。そうならないためにも私は、できるだけつかないようにしていました。これもまた、良い方向に働いた。

 

「『おかげさまで、手術も順調にいった。他にもいろいろとあるが、でかいのはこの2つ。コイツが今も生きているのは、幸運という他ねぇ。それが医者である俺の見解だ』」

「「……」」

 

 いろいろと端折りましたが、要約すると私は今も生きている、ということです。首の皮一枚繋がった、ってところでしょうか。

 ただ、油断はできません。骨折は術後も怖い、アレクさんは口を酸っぱくして言ってます。

 

「『ここから違う病気を発症したら洒落にならねぇ。だから神経を張り詰めとけよ、と言ってるんだが』」

 

 ちらりと私の方を見たアレクさんは、わずかに表情に笑みを浮かべて一言。

 

「『コイツは賢い。療養中の最善手を常に打ってくれる。医者からしたら、これほどやりやすい馬もいねぇな』」

 

 そう言ってくれました。簡単に言うと、術後の経過は順調、ということです。

 

 

 ま、油断できない状況というのは変わらず。プイちゃんたちには先に帰ってもらって、私は今もフランスで療養していますよっと。

 

(正直、今も右の前脚は凄く痛い。地面につけることなんてしたくないし、避けたいことなんだけど)

 

 それでも、たまにはつけないといけない。なんせ、3本脚で身体を支えるのはリスクが大きすぎるから。余計な病気をしないためにも、痛みは必死に耐えるしかない。

 

「大丈夫だからな、カイザー。痛いのも苦しいのも、すぐに治まるからな」

 

 壬生さんはずっと私のお世話をしてくれます。寝ずの番、私のために行動してくれている。

 それは、壬生さんだけじゃない。

 

「大丈夫っスよ、カイザー」

 

 氷見さん。私の追っかけらしい彼女もまた、フランスに残ってくれました。先輩である人を説得して、滞在許可をもらって、私のお世話をしてくれます。私は、良縁に恵まれたようで。

 だからこそ、今のこの状況をしっかりと反省しなければなりません。

 

(これは、私が招いたこと)

 

 もうね、過去最大級のやらかしですよこれは。人生ならぬ馬生で、これ以上更新することはないだろう出来事です。私は私に対して怒っていますよ。

 

 

 確かに勝つのは大事です。勝てばみんな喜びますし、笑顔になってくれます。これまでの経験上、間違いないことです。

 ですがね、そこには必ず、私も無事であることが含まれるんですよ。菊花賞のことを忘れたんか? 私。

 

(軽い骨折でも、春陽さんを心配させてしまったというのに。なにも反省していませんね)

 

 今回の凱旋門賞は、()()()()()()()()()。これに尽きます。ついでにここで語っておきましょうか。どうすれば本気を出せるのかの結論について。

 前々から、どうすれば本気を出せるのかとかマジになれとか言われてきた私ですが、京王杯あたりでなんとなく察しはついたんですよね。

 

(レースの比重を、勝ちにもっていくこと。勝ちを意識すればするほど、私は強くなれる)

 

 簡単に言えば、何が何でも勝ちたい! という思いを抱くことですね。こちらに意識をもっていくことで、私は本気になれることを理解しました。

 ただ、どれだけ持っていけばいいのか分からない。なので、京王杯以降のレースは全部そちらにリソースを割きました。どれくらいで行けるのか? と。

 そんでまぁ、少しずつ勝ちに傾けていったわけですけど。凱旋門賞は、1()0()0()()勝ちに行きました。楽しむという気持ちを捨てて、勝ちに行くことだけを考えていました。そうしなければ勝てないと踏んでいたので。

 その結果が、あのワールドレコードです。紛れもない本気は、新聞で圧勝と書かれるほどの結果を叩き出した。

 

(もっとも、微塵も嬉しくありませんがね)

 

 嬉しくない理由なんて決まってる。だって、勝っても誰も喜んでいないのだから。違いますね。喜びよりも悲しみが勝っているのだから。だから私は少しも喜べません。

 そりゃあ、勝った代償に私が骨折したんです。私を大事にしている富士澤さんたちが喜べるはずもありません。ファンの人だって同じ。本当にやらかしましたよこれは。

 アレクさん曰く、私が骨折した原因はシンプルなこと。

 

「ハレヒノカイザーが出せる力に、身体の方が耐えきれなかった」

 

 本気の力に、身体の方が悲鳴を上げた、というわけですね。

 思えば菊花賞の骨折も、これが原因なんでしょうね。もっと先に行きたいと願った結果、無意識に本気を出そうとした。その結果、骨折した、と。

 現在進行形でヤバい私。ですが、私だけじゃない。

 

 

 新聞を通して、どんな状況になっているかは概ね理解しています。富士澤さんも生江さんも、大変な状況になっていると。

 

(岡邉さんも引退しちゃいました。私が骨折してしまったのが原因で)

 

 責任を感じてしまった岡邉さんは騎手を引退。ひっそりと姿を消すことを選んだのだとか。

 新聞では批判の記事がたくさん出ている。擁護するような記事だって同じくらい出てますけど、それでもネガティブな記事が大変多いです。

 ここフランスでも、批判的な記事を見ます。それこそ、嫌というほどね。

 

「『壬生、新聞は読んでねぇだろうな? あんなカスどもの戯言を聞いてやる必要はねぇ』」

「……『分かっては、いるんですけど』」

 

 壬生さんの落ち込んだ表情。さてはまた読みましたね? んもー、そんなの見る必要ないと言ってるのに。私じゃなくてアレクさんが。

 アレクさんも不機嫌です。ただ、気持ちは分からないでもないのか特に追及はしませんが。

 

「『いいか? 批判記事の大半は嫉妬だ。ハレヒノカイザーがもつスペックに、嫉妬してんだよ』」

「『アレクさん……』」

「『凱旋門賞を、フランスの頂点ともいえるレースを、未来永劫塗り替えることは不可能と言われるレベルのレコードで駆け抜けたんだからな。そりゃ粗さがしに必死になるわな』」

 

 新聞を投げるアレクさん。拾った壬生さんが見てますね。ちょうど私にも見える位置にありますよ。

 え~っと……【馬に無理を強いてまで取る栄誉に価値はあるのか?】、まぁ批判記事ですね。耳が痛いです。

 記事の内容を要約すると、日本は凱旋門賞を取るために私を犠牲にした、というもの。ははは、抜かしおる。

 実際にはそんなことありません。みんな私がケガをしないように細心の注意を払っていましたし、とても優しくしてくれていたことを知っています。というか、犠牲にする気満々だったら今頃私死んでますよ? つまりただのゴシップですね、これは。

 ただ、フランスではこんな記事が出回っています。売れ行きも悪くないんだとか。知りたくなかったそんなこと。

 

「『三流どもは粗さがしに必死になる。叩くところなんてたくさんあるからな。金にもなるんだから、喜んでやるさ』」

「……」

「『落ち込んでんじゃねぇ陰気くさい。大体、悪いことばかりじゃねぇんだ』」

 

 また新聞を投げるアレクさん。新聞投げるのが趣味なんですかね。

 え~っと、今度のは【今こそ立ち上がれ!ハレヒノカイザーは讃えられるべき勝者である!】ですか。肯定的な記事ですね。最近は批判に負けないぐらい増えてきたやつです。

 

「『この前きた犬畜生どもと違って、上層部はカイザーの擁護派だ。加えて、こっちの調教師はほとんどカイザー側についてる。それだけでもマシなんじゃねぇのか?』」

「……」

「『第一、テメェが陰気くさいと馬が悲しむだろうが。悪影響になるから、それ以上暗くなんならとっとと出ていけ。邪魔だ』」

 

 そうですよ壬生さん。もっと明るくいきましょう。暗くなっても状況は好転しない、ならば行動しないと。ほらほら。

 

「わっぷ。ご、ごめんなカイザー……『そうですよね。こんな状況だから、前を向かなきゃダメですよね』」

「『当然だ。日本は知らんが、少なくともフランスは擁護派が増えてきている。それだけは頭に入れとけ』」

 

 ちなみに日本はというと、氷見さん曰く批判の方が多いらしいです。私のせいとはいえ悲しいなぁ。

 

 

 現状において、私の凱旋門賞は賛否両論。日夜議論がされて、大変な状況になっている。

 私がやらかしてしまったのは、それだけのこと。勝ちを意識しすぎた代償は、とても高くつきました。

 みんな沈んでいる。私の骨折が、大きな反響を呼んでいる。

 

(なら、どうすればいいのか)

 

 そんなの、決まってますよね。

 

()()()()()()()()()()。私は無事だってことを、世界中の人に教えてやるとしましょうや)

 

 私は無事に走れるってことを、世界中の人に証明してやりましょう。そうすれば、ちょっとは状況が好転するはずです。

 

(私に同情している。批判している人のほとんどは、私がもう走れないから可哀想だと思っているはずです。だから、私が走れるって分かれば、一気に傾くはず)

 

 加えてレースを勝てば、さらに盛り上がること間違いなしではなかろうか? なんてこった、私は大変賢い。

 走ることが怖くないのかって? いえ、別に。私は走れればそれでいいので。

 あ、勿論凱旋門賞みたいなレースをする気はありません。アレは一度きり、もう二度とやりません。

 大体ね、やっぱ私には合わないんですよ。勝ちを意識する戦いってのは。私のレースは楽しんでなんぼ、楽しんだうえで勝つ。誰に何と言われようと、これが私のスタイルなんです。

 

(貫き通すべきでしたか。みなさんには悪いですけど、これが私です)

 

 今はこんな状況なので勿論走れません。ですが、もうすぐギプスは取れるはず! 根拠はありませんが。

 そうなったら、少しずつリハビリをしましょう。リハビリをして、レースを走る準備をして。そしてまたレースに出ましょう。

 世界の人達に分からせるんです。ハレヒノカイザーはここにいると、今も元気に走っていると。

 それに、私は【太陽の皇帝】ですよ? 太陽と言われているんです。

 

(陽はいつか沈みます。ですが、何度でも昇ります。何度沈もうと、私はその度に昇りましょう)

 

 太陽のように、ね。ちょっとクサいセリフでしたね。

 

 

 目標は決まりました。では、今すべきことはというと。

 

「ヒヒン(餌ください餌)」

「飼葉桶ガンガン鳴らしてるっス……」

「『本当に賢いな。今は栄養が大事だってのが分かってる。おい、すぐに用意してやれ』」

「は、はい!」

 

 ご飯を食べることです。栄養を取らないとね、治るもんも治りませんから。

 さぁて、と。頑張っていきましょうか。復帰に向けて、ね。

 

 

 

 

 

 

 ちなみに余談ですが、アレクさんが呼んでいた犬畜生。アレは競馬統括機関、とかそんな感じの名前だったかな? そこの下っ端役員さんの話ですね。

 私がケガをした後に来たんですよ、その人たちが。用件は何かと思えば。

 

「『ハレヒノカイザーにはドーピング疑惑がかかっている』」

 

 というものでして。どこから出てきたのか知らない証拠品を突きつけてきました。後から知ったんですけど捏造したものだとか。え、怖。

 壬生さんは勿論反抗。ただ、明らかに舐められていたのか、無視されていましたね。

 

「『アレク医師。賢明な判断を』」

 

 アレクさんに選択を突きつけました。従うか、反発するか。反発したら無事でいられないぞ、と脅し付きで。

 

「『そうかそうか。ちょっとこっちに来てくれ』」

 

 ニコニコ笑顔で役員さんを呼び、役員さんは勝ったと確信した笑みを浮かべながら歩み寄ります──その数秒後にぶん殴られましたけど。殴られたとこ真っ赤になってましたね。なんなら歯が折れてました。結構力強いのねアレクさん。

 困惑する役員さんに、アレクさんは。

 

「『いいか? テメェら犬畜生の事情なんか知ったこっちゃねぇんだよ。俺の役目は一つでも多くの命を救うことだ。その邪魔するってんなら──とっとと消え失せろ』」

 

 そう告げました。やはりこの人はプロフェッショナルな人でしたか。

 恐怖に怯える役員さん。けど、これ以上の喧嘩はね、私も見たくないので。

 

「ビヒヒィィィン(止めなさい)!」

 

 吠えて止めました。憎しみをぶつけ合うのは好きじゃないんですよ私は。なるなら笑顔になりましょうよ。

 鋭い痛みが脚を襲う。必死に耐えて叫ぶ。痛いけど、我慢して主張する。だって、今の状況の方が嫌だから。

 アレクさんに、私の意思は伝わったのか。

 

「『今回はコイツに免じて許してやる。失せろ犬畜生が』」

 

 その言葉を最後に、下っ端さん達は逃げ去っていきました。次は気を付けてくるんですよ。

 

 

 こんな一幕がありました。今でも懐かしいですね~。

 

「『優しいなコイツは。自分の方が痛いだろうに、犬どもの心配をするなんてよ』」

「『そうです! カイザーは優しい子なんです!』」

「『はい! それはもう優しい子で』」

「『分かったから2人揃って詰め寄るんじゃねぇ鬱陶しい』」

 

 この一件以降、壬生さんのアレクさんを見る目は変わりました。優しい人だって分かったんですね。いやはや、良きかな良きかな。

 

「『そういえば、この前来た役員さん達はどうなったんですか?』」

「『俺が知るわけねぇだろ。ただ、似たような奴を最近スラムで見たとは聞いているな』」

「『その人たちなら解雇されたらしいっスよ。この前謝罪に来た上層部の人が教えてくれました』」

「『マジかよ。ま、当然だな。上層部に極秘でそんなことやったんだから。公になれば国際問題待ったなしだ』」

「『だからあんなに謝罪してたのか……』」

 

 ……はい。まぁ、因果応報ということで。この一件は公にはなりませんでしたよっと。

 内容は一部伏せて、日本の方にも謝罪してたらしいですよ。氷見さんが教えてくれました。大変なんですね、どこも。

 

「『ただ、日本でも動きがあるみたいっス。JRAが主導して、なにかやろうとしているって、五田さんが』」

「『そうかい。ま、俺には関係ねぇことだ』」

 

 日本も日本で何かあるようで。早く帰りたいですね、日本。




お 待 た せ し ま し た (メンタルが) す ご い や つ 。
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