同世代のUMAさん   作:カニ漁船

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ついに?


目途が立ちました

 いえっさー、私です。今日はね、嬉しいニュースが2つもありますよ。大変お得です。

 嬉しいニュース一個目。プイちゃんがジャパンカップを勝ちましたー! 凄いですねプイちゃん、流石はプイちゃんです。ぱちぱち。

 新聞にもね、でかでかと写っていますよ。プイちゃんの雄姿が。

 

【帰国後でも問題なし!ディープインパクト圧巻の5馬身差V!】

 

 遠征した後は疲労やらなんやらの影響がある、なんて聞いていましたが、プイちゃんはものともせずに勝ちました。

 

「【第4コーナーから一気に捲り、最後の直線で先頭を走るコスモバルクを早々に捕まえる圧勝劇。これぞディープインパクトという勝ち方であり】。ディープインパクトはやっぱり凄いっスね」

「そりゃね。時代が違えば無敗の三冠間違いなしの逸材だし」

「それはカイザーにも言えることっスけどね、壬生さん」

 

 プイちゃんは後1回レースに出たら引退らしいです。その後は種牡馬になると書いてました。種牡馬……後世に血を残す的なものらしいですね。

 

(私も将来的には種牡馬? ってやつになるんですかね)

 

 どんな生活なんでしょう。ロブロイさんが言うには、カワイ子ちゃんとのいいことが待っている~、と言ってましたが。私としては、走れるかどうかの方が重要ですけどね。走っても許されるなら種牡馬でもオールオーケーです。

 ロブロイさんも懐かしいですね~。元気にしているんでしょうか? 向こうでクリスエスさんと再会できたんでしょうか? 気になるところ。

 

 

 一つ目はプイちゃんが勝ったこと。続いて2つ目の嬉しいニュースでございますが。

 なんと私、帰国の目途が立ちましたー! ハイ拍手。

 

(なんだかんだフランスに滞在して4カ月ほどですか。8月に来て12月の中旬に帰国。中々の長期遠征でした)

 

 主な原因は私にありますが。

 それはともかくとして、ついに日本に帰ることができます。帰国しても影響はないだろうとのことで、アレクさんからの許可が出ました。

 

「『ようやくお前らも帰国だ。嬉しいんじゃねぇのか?』」

「『はい、はい! 本当に、ありがとうございましたアレクさん!』」

「『感謝してもしきれないっス! 本当に、カイザーのことありがとうございました!』」

「『るせぇ。俺は医者として当然のことをしただけだ。感謝するんだったら、後は行動で示してこい』」

 

 相変わらずそっけない人です。職人気質ですねぇ。

 そんなアレクさんは、私のとこに歩いてきます。いつものように検診する……のかと思いきや。

 

「『お前もよく頑張ったな。痛いのを我慢して、ずっと耐えてくれた。だからこそ、これほど早く帰ることができる』」

 

 おん? 頭を撫でてくれますね。むふふ、もっと撫でてください。

 

「『今までよく頑張った。そして、これからも頑張ってこい。どうなるにしても、な』」

 

 撫でながら褒めてくれるアレクさん。フランス語、どことなく理解できるようになってきましたからね。なんて言ってるのかは大体分かりますよ。私は賢い子ですから。

 にしても、いつも仏頂面のアレクさんの微笑みは中々レアではないでしょうか? 壬生さんも氷見さんも、驚いた表情で見てますよ。

 

「「……」」

「『んだテメェら。そんな目で見やがって』」

 

 言わんとしたいことは分かります。ただ、言わない方がいい気がしますよお2人さん。

 

「『アレクさんも笑うことできたんですね』」

「『驚いたっス。そんな優しい顔することもあるんスね』」

「『随分遠慮なくなってきたなテメェら。俺だって笑うことぐらいあるわ』」

 

 この3人もかなり仲良くなりましたねぇ。うんうん、大変いいことです。

 

 

 と、まぁ。嬉しいニュースが2つもあったわけですよ。なんなら3人が仲良くなったので、嬉しいニュースは3つもあります。とってもお得。

 ですがお得ではないことに、悪いニュースも一つあるんです。それも、大変に悪いニュースが。

 それは……なんと!

 

(検疫の日数がすんごい延びることです!)

 

 何もない検疫厩舎で過ごす日が、私は長くなっているんですよ! ゆ、許されていいんですかそんなことが!

 海外遠征には60日ルールというものがあります。簡単に言えば、60日を境目にして、検疫の期間が延びるかどうかを判断するものですね。過ぎた場合は、それはもう凄く延びます。

 具体的に言えば、帰国する際に5日かかる輸入検疫が10日に延長し、着地検査とやらが3週間から3ヶ月になります。大分違いますね。

 60日以内であれば、短い期間で終えることができます。それでも中々長いですがマシな方でしょう。

 ですが、私はフランスに滞在してからすでに60日を超えているわけでして。

 

(どうあがいても3ヶ月は隔離される!)

 

 またあの暇な場所で長い時間を過ごさねばならぬということです。

 何ということでしょう。これはとんでもなく悪いニュースです。主に私の。

 いやね、ルールだから仕方ないのは理解しています。万が一があると大変なことになりますからね。これもまた当然の処置と言えます。

 けど暇になることが確定しているんですよこれは。おまけに私、多分ですけど走るのほぼ禁止されるでしょうし。

 

(さすがに全部禁止とはならないと思いますけど、骨折ですからね~。監視の目が厳しそうです)

 

 また骨折でもしたら大惨事、というか私的にもしたくない。なので、検疫厩舎で大人しく3ヶ月間過ごすこと確定でござーい。ま、ふかふかの寝藁とラジカセがあれば暇を潰せますしいいでしょう。

 

 

 壬生さんは現在、日本に戻っている富士澤さんと連絡を取り合っています。私が帰国する段取りを進めているみたいですね。

 

「はい、はい。帰国は18日の予定で。はい、リークされないようにしっかりと……」

 

 どうも、秘密裏に帰国しなければいけないようで。日本の状況を考えたら、仕方ないことかもしれませんけど。

 日本の悲願ともいえる凱旋門賞。それを制した私が帰国するとなれば、大変注目されます。これは当然のことですね。

 さらに、私の情報はかなり秘匿されていたようで。フランスのどこで療養中なのかも伏せられていた状態。無事に治療を終えて帰ってくるとなれば、どったんばったん大騒ぎは間違いなし。空港が人で埋め尽くされる可能性もあります。

 

(人気者も辛いですね。壬生さんたちにも迷惑をかけます)

 

 情報を徹底的に伏せて帰るのは当然の判断。周りに迷惑がかかりますからね。

 思えば、私も随分なスターになったもんです。帰ってくるだけでファンの子をキャーキャー言わせてしまうとは……罪な馬ですね。

 新聞記者の氷見さんがいるけど大丈夫なの? なんて疑問は湧きますが、彼女に関してはちゃんと書類で契約しているとか。帰国することを他言無用にとね。

 ちなみに、氷見さんがいる理由は私の現状を報告するため。熱心にお願いしてきた氷見さんに折れる形で、富士澤さん達が許可してくれました。術後が順調という情報を送ったのも氷見さんです。

 

「カイザーがどうなっているのか、不安に思う人が絶対にいるっスから。だから、嘘偽りなく伝えたいんス。今カイザーがどうなっているのかを」

 

 なんて、そう言ってくれました。これはサイン1枚という特例を破ってサイン20枚ぐらいは書きたいですね。ありがとう氷見さん。とても感謝しています。

 まぁサインなんて書けるはずもなく。氷見さんの顔を舐めるぐらいにしときましょう。

 

「わっ、わ……わぁッ!?」

 

 うわ、びっくりした。どうしたんですか急に大声出して。もしかして、お嫌でした?

 

「か、か、か……カイザーに、舐められたっス!」

「ありがとう、って伝えたいのかもしれないですね。カイザーも、氷見さんに感謝している」

「うう、嬉しいぃ……! 推せる……っ!」

「うん、この人も大概変な人だったか」

 

 嫌じゃなかったようで。それならよかったです。別の方法を考えるところでしたよ。

 

 

 帰る準備もできた。さぁて、日本に帰りますよー!

 

 

 

 

 

 

 ハレヒノカイザーが帰国する準備が進められる中、壬生は改めてアレクサンドル医師の下を訪れていた。これまでの感謝をするために。

 

「『本当に、ありがとうございましたアレクさん。カイザーを一生懸命診てくださって』」

 

 頭を深く下げて感謝する壬生に対し、アレクは鬱陶しそうにしている。

 

「『前から言ってるが、俺は医者として当たり前のことをやっただけだ。仕事をこなしただけなんだよ』」

「『だとしても、です。カイザーが生きているのは、アレクさんのおかげです。だから、感謝させてください』」

 

 譲る気はない壬生の態度に、アレクの方が根負けする。頭をガシガシと掻いて、気恥ずかしそうにしていた。

 

「『そうかい。ま、日本に戻っても元気にやれよ』」

「『はい。アレクさんもお元気で』」

 

 そこで会話は終わる……と思われたが、壬生は部屋から退出しようとしなかった。まだ何か聞きたいことがあるのか、アレクをジッと見ている。

 帰ろうとしない壬生に対し、アレクは怪訝な表情を浮かべる。

 

「『どうした、まだ何かあんのか?』」

「あ、いえ、その」

「『はっきりしやがれ。俺にまだ何か聞きたいことがあるんだろうが。さっさと話せよ』」

 

 少しばかり苛立ちが混じる語気。壬生は、アレクに聞く。

 

「『カイザーは、まだ走れますか?』」

 

 ハレヒノカイザーはまだ走れるのか、という質問。また、ではなくまだ、だ。

 考え込むアレク。その表情は険しい。あまり良い答えは期待できなさそうな顔だ。

 

「『走ることはできる。ただ、凱旋門賞のような走りはまずできねぇ。それは頭に入れとけ』」

「『カイザーの身体が耐えきれないから、ですか?』」

「『その通りだ。前も説明したが、アイツの身体は本気の出力に耐えきれない。同じことになれば、また脚をぶっ壊すことになる』」

 

 淡々と事実を連ねていくアレク。医者である彼の言葉に、壬生は耳を傾けていた。

 

「『それに、骨折の影響もある。あれほどの走りをするのはかなり厳しいな。できんことはないだろうが』」

「『そう、ですよね』」

「『もっとも、アイツは二度と同じ真似はしないだろうがな。アイツの賢さと俺の勘だ』」

 

 凱旋門賞のような走りをするのは無理、それでも走ることはできるだろうとアレクは語る。

 ただ、壬生が聞きたいのはそうではない。

 

「『けど、カイザーは』」

 

 言いにくそうにしている。口から発することを拒んでいる。言ってはいけない、事実になってしまうからと、言葉にするのを拒む。

 そんな壬生の言いにくいことを。

 

「『レースで走るのはもう無理だろうな』」

「ッ!」

 

 ピタリと言い当てた。壬生の肩が跳ねる。

 ハレヒノカイザーがレースで走るのは難しい。その理由は──将来を見据えてのことだ。

 

「『アイツの種牡馬価値は莫大だ。欧州(こっち)じゃ絶滅危惧種のヘロド系、日本でもそうだったか? なんにせよ、アイツの血はかなり貴重だ』」

 

 カイザーの血はヘロド系。日本はおろか欧州でも父系で見ることは稀な血統であり、貴重である。

 そんな馬が日本のダービーを制し、凱旋門賞で規格外のレコードを出した。これだけでも種牡馬としての価値は高い。

 

「『加えて、アイツの得意距離は主流になりつつあるマイルから中距離。ここでも価値が跳ね上がる』」

 

 カイザーの得意距離もまた、種牡馬価値を上げる要因になる。長距離よりもマイルと中距離、特にスピードが重要視される近年では、ハレヒノカイザーの適正距離はドンピシャで需要を満たしているのだ。

 そして、トドメに。

 

「『極めつけにスピードだ。あれほどの快速馬、産駒に遺伝したらとんでもねぇことになる』」

「『カイザーの、スピードが』」

「『断言してもいい。アイツはヘロド系の救世主になりうる存在だ。世界中がアイツを欲しがるだろうよ』」

 

 ハレヒノカイザーがもつスピード。凱旋門賞のレコードを3秒近く塗り替える脚を発揮した彼の速さは、それだけで価値が跳ね上がる。馬産家ならば喉から手が出るほどの逸材なのだ。

 アレクの言葉も、間違いじゃなくなる可能性が非常に高い。それを証明するようなことが、今世界で起こっている。

 

「『欧州の奴らもカイザーの種牡馬入りを狙っている。無論、自分たちの牧場でな』」

「『そうですね。富士澤さんから、そんな話があると聞いています』」

「『ディープインパクトの価値も高いが、ハレヒノカイザーはそれ以上だ。シンジケートを組めば余裕で超えるんじゃねぇの?』」

 

 欧州の馬産家のほとんどはカイザーを欲しがっている。自分たちの牧場で、ヘロドの血を広めようと画策している。それだけの価値があるのだ、ハレヒノカイザーには。

 現状は返事を保留にしている状態。それもいつまで続くのかは分からない。だがしかし、確実に言えることは。

 

「『これ以上下手にケガをされたら困る。だからこそ、レースで走るのはかなり厳しい。それが俺の判断だ。テメェもそうだろ?』」

 

 アレクの言葉に沈黙する壬生。考えていることは、全く同じだった。

 ハレヒノカイザーはもうレースで走ることはできなくなるだろう。ケガをしたら大変だし、それが原因で亡くなってしまったら。リスクを考えたら、レースには出さない考えになるはずだ。

 日本に戻って、検疫を追えたら種牡馬に。きっと、カイザーにとっても幸せだろう。人間の悪意にさらされることのないまま、牝馬に種付けをする。それに、放牧で走ることだってできる。幸せになれるはずだ。

 しかし、壬生は。

 

(本当に、それでいいのか?)

 

 違う考えを抱いていた。それで本当にカイザーは幸せなのか? カイザーは納得するのか? そう考えてしまう。

 アレクに聞こうとしたのも、それが原因だ。もしかしたら違う道があるかもしれない、なんて淡い期待を抱いて訪れた。結果はご覧のありさまだが。

 

 

 レースで走ることは厳しい。そう突きつけられた壬生は項垂れる。

 俯く壬生に対し、アレクは。

 

「『だからこそ、()()()()()()()()()()()()()()()()()』」

「──えっ?」

 

 そう、口にした。

 

「『結局のところ、種牡馬にして血を繋げるってのも人間のエゴだ。アイツは、人間のエゴに振り回され続けてきた。違うか?』」

「……」

 

 否定できない。凱旋門賞もそうだが、ダービーでブーイングされたことを思い出す壬生。彼は悪意に、エゴに振り回されてきた。

 

「『言葉を分かれ、とは言わねぇ。だが、テメェはアイツの担当厩務員だろ?』」

「『そう、です』」

「『だったら、アイツのやりたいことは多少なりとも分かるはずだ。だからこそ、テメェはアイツのやりたいことを理解しろ。そして、やりたいようにやらせてやれ。誰に歯向かってでも、な』」

 

 これが最後だ、とばかりにアレクは仕事に戻る。

 

「『話は終わりだ。明日も早いからとっとと戻れ』」

 

 帰れとばかりに手を振るアレク。壬生は、言われたことを噛みしめながら退室した。

 

「カイザーの、味方であり続ける」

 

 帰路につく壬生。もうすぐ、カイザーや氷見と一緒に日本だ。

 

 

 

 

 

 

 そして。

 

「春陽さん、決断の方は」

「……うん」

 

 とある一室にて、富士澤と春陽は話し合う。

 

「引退した方が、カイザーにとって幸せなのかもしれないねぇ……」

 

 ハレヒノカイザーの引退について。

 

「これ以上、あの子をケガさせたくないんだ。だからこそ」

「えぇ。ここで引退するのが、ベストな選択かと」

「……そう、なのかねぇ」

 

 手を強く握り、無理やり自分を納得させる富士澤。心のどこかで、カイザーを引退させることに迷いがある春陽。それでも、2人の意見は一致した。

 ハレヒノカイザーを、引退させようと。これ以上レースに出すのは止めようと、考えていた。




いろんな思いがある。

ここが凄いよ!ハレヒノカイザーの種牡馬価値!
・絶滅寸前のヘロド系
・日本で主流のSSを介さない血統
・欧州のどの血統ともほぼ被らない
・主戦場がマイル~中距離
・凱旋門賞を空前絶後のレコードで駆け抜けるスピード

……大真面目にディープよりも需要高いんじゃないだろうか?
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