同世代のUMAさん   作:カニ漁船

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復帰が決まったハレヒノカイザー。課題はいろいろと山積みで?


レースを決めました

 3月も終わりを迎え、新生活が始まろうとしている4月に入ろうとする頃。競馬界に激震が走った。

 

「ハレヒノカイザーはもう1年だけ現役を続行します」

 

 種牡馬入りがほぼ確定し、もう走ることはないとされていたハレヒノカイザー。仕方ない事情があるんだから諦めよう、後は彼の子に夢を託そう。そう考えていたところに突如として発表された新情報。ファンの目が飛び出るには十分すぎるものだった。

 困惑と歓喜。それ以上に感じる──疑問。一度は引退を発表したのに、撤回したのはなぜか? 頭に浮かんでくる。

 

「ただ、担当した獣医師から1年は走らない方がいいと診断を受けました。なので、レースを走るのは1回のみ、10月以降のレースと考えています」

 

 考えている間にも、富士澤へのインタビューはとんとん拍子で進んでいく。あまり多くを語りたくないのか、それとも質問がないからスムーズに進行しているだけなのか。呆けている間にも、もうすぐインタビューが終わろうとしていた。

 記者の目が覚めたのは終わりの頃。すぐさま富士澤に質問攻めをする。

 

「ど、どういうことですか!?」

「ハレヒノカイザーは年内にもう一度だけ出走します。10月以降のどれかにです」

「なぜ今その発表を! 舎代への種牡馬入りが内定したのでは!?」

「事情が変わりましたので。この件は舎代も了承済みです」

 

 記者からの質問に淡々と答えていく富士澤。あらかじめ聞かれることが分かっていたのか、淀むことなく答えていた。

 そして、ある記者からの質問。それは、誰もが思っていながら聞くことを躊躇っていた質問。

 

「なぜまた走らせるのですか! 凱旋門賞の一件を忘れたのですか!」

 

 どの口が。そう言いたくなるような言葉だが、事実ハレヒノカイザーが走る意義は薄い。これまでのレース成績も立派であり、舎代で種牡馬をやっていけるほどの馬であることは周知の事実。もう一度だけ走るなど、本来ならばあり得ないことなのだ。

 しかも、ハレヒノカイザーの場合は前走が前走。凱旋門賞の悲劇は今なおファンの記憶に深く刻まれており、暗い影を落としているのは事実。

 走りを見たい。けれども無事でいるだけで十分だ。そんなファンが多数を占めている。走ることよりも無事であることを願っている。

 だが、突如として出走することになった。馬の安全はどうしたと、これ以上酷使してどうするつもりだと声を上げる人間が出てくるのもおかしくはない。

 記者からの言葉に、富士澤は答える。

 

「カイザー自身が願いました。自分を走らせろ、と」

「は?」

 

 あの一件、検疫厩舎脱走事件のことは伏せて、起こった出来事で自分が感じたことを話す。どれだけ批判されようとも構わない、富士澤は覚悟を決めていた。

 

「あの子が走りたそうにうずうずしていたので。オーナーである春陽さんと私自身がこの目で見ました」

「だ、だからと言ってケガをしたら」

「そうさせないために我々がいる……一厩務員にそう教えられましたからね。最後のレースに向けて、万全の態勢を整えるつもりです」

 

 意志を曲げる気はない、出走させるつもりで自分たちは調整する。宣言し、インタビューは終わった。

 

 

 終わった後も放心する記者達。彼らの心境は、複雑だった。

 

「ハレヒノカイザーが走ることを願う声は多かった。けど」

「引退しても仕方ない、そんな事情があったからこそ、無理は言わなかったが」

「なんでだ? どうして富士澤厩舎は出走を?」

 

 凱旋門賞の栄光と悲劇。同時に起きたあの事件があったからこそ、引退の話が出た時は仕方ないの声で溢れていた。

 お疲れ様、新天地で頑張って……そうは思いつつも、ファンとしてはもう一度走る姿が見たかったのは事実。事実ではある。

 しかし、実際に走るとなると嬉しい気持ちよりも心配の気持ちが湧いてくる。一度決めた引退を撤回してまで出走してくるのだ、なにか勘繰ってしまうのは当然と言えるだろう。

 なにか裏に黒いものがあるのではないか? 記者としては気になるところだが……下手な記事を書くことはできない。

 

(真偽不明の記事を書こうもんなら、JRAに訴えられる……!)

 

 昨年より、真偽不明でありながら誹謗中傷の記事を書いた場合、JRAから訴えられるようになった。すでに多くの会社が提訴されており、記者には肩身が狭い世界になっている。

 加えて、ファンからは白い目で見られている。あることないことを吹き込み、生江厩舎の評判を著しく下げたマスコミはファンの敵、とまで言われるほど。この機会にもっと反省しろと言われ続けていた。まぁ、マスコミからしたら勝手に信じたお前らが悪い、と言いたくなりそうだが、扇動したのはマスコミである。弁解の余地など微塵もない。

 せっかく面白そうなネタが出てきたのに、自由に書くことができない。記者達は涙目で現状を嘆いていた。

 

「どうしてこんな目に」

「俺達はただ情報を発信してきただけなのに!」

 

 自分たちのせいである。

 

 

 

 

 

 

 いやっほぉぉぉう、私です! 大変テンションが高いですけどね、それだけの理由があるんですよねこれが!

 なんと、私の訴えが通ったことで出走が叶いましたーいぇぇぇい!

 

(年内最後に一回だけ。後一回だけ走ることが許されました。これはあまりにも僥倖)

 

 富士澤さん達曰く、私が走る意義はもうありません。結果を残してますし、このまま種牡馬入りしても全く問題がない状況というのが私の現状。検疫の関係で今年のお仕事は厳しいそうですが、それでも引退してもいいってのが、富士澤さん達のお言葉。

 ですが、今回それを曲げてまで私が走ることを許してくれました。検疫厩舎での脱走騒ぎが、富士澤さん達の気持ちを変えてくれました。

 引退から一転して現役続行へ。後1回だけですが、その1回に私は伝えるつもりです。

 

(私はもう大丈夫だと、そう伝えるには十分すぎますね)

 

 気合いが入りますよ、フンスフンス。ま、もう今回みたいなことは金輪際止めておきましょう。職員さん達に迷惑ですからね。今回ばかりの特例です。

 

 

 さて、復帰が決まった私でございますが。課題は山積みでございます。

 

「まず、どのレースに出走するか、だ。これに関しては、10月以降のレースと決まっている」

「ですよね。アレクさんは、少なく見積もっても1年以内の復帰は無理だって言ってましたし」

 

 どこのレースで復帰するか問題。これがなかなか難しいところなわけですよ。

 

「ケガの影響は計り知れない。なにより、骨はすでにくっついたが状態を見極めながらやる必要がある」

「負荷の強いトレーニングは当然できませんし、レースなんてもってのほか。ケガをしないためには、10月は無理ですよね」

「あぁ。この時点で、天皇賞・秋は除外される。他の重賞もだ」

 

 アレクさんが言うには、私が復帰するには1年以上を要するとのこと。これは術後の経過が順調かどうかにかかわらず、どうしてもかかってしまうものだと説明してました。

 

「テメェは直ったものをすぐに使おうと思うか? んなことしたらなおさら寿命を縮めるだけだ」

 

 なんてことを言ってましたね。

 なので、私が本格的に復帰できるのは凱旋門賞から1年以上。それも、11月以降のレースに絞られます。11月以降の重賞が、私が出走できるラインですね。

 検疫厩舎で走り回っていましたが、アレは全然本気じゃありません。遊びの範疇ですよあんなの。遊びであっても、人間さんを翻弄するくらいは訳ないですから。

 

「ただ、()()()()()()に強い要望があるだろうな、カイザーのラストランは」

「……あぁ。なんとなく察しがつきました」

 

 さて、私のレースを決めようとしている富士澤さん達ですが。なんかもう決まってそうな雰囲気? なんですかその強い要望って。私にも教えて頂戴よ。

 

有馬記念。ファン投票というだけじゃない、シンボリルドルフやトウカイテイオーとも縁が深いこのレースが、カイザーのラストランになるだろう」

「二連覇に、奇跡の復活を遂げた有馬記念。ファンはみんな、ここに出走してくれと願うでしょうね」

 

 ほほう、有馬記念。ロブロイさんが勝ったレースの名前ですね。そこの出走が最有力候補、と。

 

(ファン投票で選ばれるらしいですからね。果たして私は大丈夫なのか)

 

 ですが人気には自信がありますよ。ハレヒノカイザー、ハレヒノカイザーの出走に清き一票をお願いします。

 

「カイザーが大丈夫であることを証明する、ファンが望むレースに出したい。そうなると、有馬記念一択だろうな」

「そう、ですね。期間も十分に取れますし、有馬記念の出走が一番ですか」

「あぁ。春陽さんからすでに許可は取れている。問題はない」

 

 おっと、レースの問題は解決ですね。この調子でバンバン解決していきましょう。

 

「2個目の問題。まだ負荷の強いトレーニングはできないことだ」

「プール調教とキャンターぐらいしかできませんもんね」

 

 ま、2個目の問題からすでにアレなんですけどね。私、トレーニング無茶できませんし。

 さっきも言ったように、私はまだまだ無茶ができない状態。本来ならあの脱走騒ぎだって止めたいところでした。

 ともかくとして、トレーニングも無茶ができない状態。坂路を上り下りしたり、軽い運動ぐらいに留めておく必要があります。もどかしいですね。

 

(ですがこれも復活のため。いくらでも我慢しましょう)

 

 放牧で走るのもできる限り止める予定。心配かけさせちゃダメですしね。

 で、2つの問題のうち1つ目を解消。なんなら時間が解決するので実質2つとも解消しています。

 残る大きな問題ですが……これが多分一番でかいですかねぇ。

 

「それに、騎手の問題もあるからな。これまでずっと岡邉に任せてきたが」

「岡邉さん、もう騎手免許も更新してませんからね……騎乗することができない」

 

 私に騎乗する人間さんの問題です。うーん、あまりにもでかい問題が残っている。

 言うまでもなく、これまではずっと岡邉さんが私に騎乗していました。私は岡邉さんから競馬を教えてもらいましたし、たくさん勝たせてもらいましたね。

 で、その岡邉さんはというと。すでに騎手を引退している身です。なんてこったい。

 

「免許を更新していない以上、アイツはもう騎乗することができない。だから代わりの騎手を探す必要がある」

 

 私達に乗るのにも免許が必要。言うなれば車の免許みたいなものですね。

 その免許を持っていないから、岡邉さんはもう騎乗することはできません。悲しいですが、これはルールで決められたことですから。

 なら、他の騎手を頼る。こうなるわけですが、上手くいかない問題があるわけですよ。

 

「ですが、カイザーに乗ってくれる騎手がいるかどうか……」

「今のカイザーは爆弾だ。騎乗しようと思う騎手は、まぁいないだろう」

 

 なんでや! 私別にそこまでワガママ言いませんよ! 気性難? とやらでもないですし、全く問題ありませんって!

 と、思いましたが。どうやら別の理由があるそうで。

 

「下手な騎乗をすればすぐさまバッシングが飛ぶ、またケガをさせてしまったら痛烈な批判を浴びるからな。無論、そうはさせないようにするが」

「ケガをする可能性が0じゃない以上、リスクは避けたいですもんね」

「凱旋門賞で有名になりすぎた。掛かるプレッシャーが半端じゃない。今のカイザーに騎乗するには、相応の覚悟が求められる」

 

 おぉ、そういわれるとカッコいいですね。フッ、認めた人しか乗せませんよ? 私としては誰でもウェルカムですが。

 この騎手の問題が、どこまでも立ちはだかります。

 

「一応周りに声をかける予定ではいるが……厳しいだろうな」

「すぐに見つかるといいんですけど」

「気長に待つ。それしかない」

 

 あまり顔色がよろしくないお2人。先行き不安なのが見て分かりますね。

 

 

 すでに暗雲立ち込めている私の復帰プラン。まぁ何とかなりますし何とかしますよ。




あまりにもでかすぎる騎手の問題。
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