同世代のUMAさん   作:カニ漁船

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騎乗の件とかいろいろとね。


いろんなことを聞きました

 いぇいいぇい、私です。6月が終わって7月に入りました。

 早速ですが、嬉しいニュースがございます。

 

「まだキャンター段階なので、少し騎乗するだけで」

「分かりました。ひとまず顔合わせで来ましたから」

 

 なんと、ついに私の騎手が決まりましたーいえーい! これで私はレースに出れるぞひゃっほい!

 

 

 私に騎乗してくれるのは岳隆さん。プイちゃんの主戦だった人ですね。

 ちゃんと覚えていますよ。私にとっても接する機会が多かった人なので。どこでって? フランス。

 いやはや、プイちゃんの主戦だった人が私に騎乗するなんてね。なんとも不思議な縁ですね。

 

「本当に、ありがとうございます岳さん。カイザーの騎乗を受けてくださって」

「いえ、元より興味がありましたので。むしろ、あの時は答えを先延ばしにしてしまって、申し訳ありません」

 

 おや、話自体は大分前からあったんですね。答えたのはつい最近、と。

 

「決心がついたんですか?」

「えぇ。背中を押されてしまったので。それに、いつまでも逃げるわけにはいきませんから」

 

 ふむん、なにかいろいろとあるご様子。いったい何があるのやら。

 ま、こうして私に騎乗してくれるわけですから。何も言うことはありませんよ。

 これからよろしくね岳さん。一度だけのコンビですが、頑張っていきましょう。

 

「それじゃあ、早速騎乗しましょう。早いうちに慣れておいた方がカイザーも安心……カイザーは誰でも変わらないか」

「そうなんですか?」

「えぇ。カイザーは人懐っこいですし、メンタルが強いですから。きっとすぐに順応すると思います」

 

 そう、私賢いので。なので不安要素はありませんよ。ご心配はなさらずに。

 岳さんを乗せて早歩き。まだまだキャンターから脱することはできません。これはこれで中々楽しいので好きですが。

 

「本当だ。全然不安がってない」

「でしょ? 元々岳さんと面識がある、というのも関係しているかもしれませんけど、それでもカイザーは不安に感じていません」

「ははは、君は強いね」

 

 そうでしょうそうでしょう。もっともっと褒めてください。

 それからしばらく。岳さんを乗せてのキャンターを終えます。

 

「一日で順応しちゃいましたね」

「あはは。これから何度も通って、心を通わせていく予定だったけど、心配はなさそうかな?」

「そうですねぇ。こんなにすぐ慣れるとは思いもしませんでした」

 

 ふふん、褒められて私の気分も有頂天。今すぐにでも走りたい気分です。心配かけるからしませんけど。

 去り際に。岳さんは私を撫でて。

 

「これからよろしくね、ハレヒノカイザー」

 

 今後ともよろしく、というあいさつをもらいました。

 

「ヒヒィン(よろしくね)!」

 

 こちらこそ、よろしくお願いしますね岳さん。私と一緒に、レースを楽しみましょう。

 

 

 

 

 

 

 騎手が決まってさらに数ヶ月。夏は避暑地でバカンスという名の休みをもらった後、秋の調教が始まります。

 秋からは私も本格始動。これまでのキャンターやプール調教に変わって、コースでの走りになる。

 

「ウッドチップコースから慣らしていこう」

 

 脚の負担が少ないコースから徐々に、ということでね。私も頑張っていこうってわけですよ。

 岳さんとも随分仲良くなりました。あの後も通っていただいてね、できる限り私に会う時間を増やしてくれました。

 

「知りたいことがありますから」

 

 理由は分かりませんが、餌もくれたりしましたね。リンゴはいいぞ。

 

 

 さてさて、そんなわけで岳さんを乗せての初走りですが。

 

「……大丈夫だ、落ち着け僕」

 

 めっちゃ緊張してますね岳さん。岳さんってかなりのレジェンドとお聞きしていますが、それでも初めての馬に騎乗する時は緊張するんですねぇ。

 

(ただ、緊張というよりは不安? のようなものを感じますね)

 

 岳さんからいろんな感情が伝わってきますが、一番大きいのは不安。なにかに怯えているような、そんな感情が見え隠れしています。

 なんてこったい、私に不安を感じているわけですか。いったいなにゆえ感じているのやら。

 

(なんにせよ、これからの走りで不安を払拭してくれると嬉しいですね)

「よし、軽く1周走ってこよう。速く走ろうと意識しすぎなくてもいい」

 

 おーけーおーけー、分かっていますよ富士澤さん。任せてくだしあ。

 脱走事件を除けば、これが私の復帰後初の走り。とりま意識すべきは──現段階の能力。

 合図が出されて、私は駆け出す。周りはいない、私だけが走っている。

 

(うはぁ、久々だけど本当に楽しいなぁ!)

 

 風の抵抗はあの日よりもずっと少ない、スピードだって全然だ。けれど、やっぱり走るのは最高に楽しい!

 この感覚だ、この感覚のために今日まで私は我慢してきたわけだ。ならば、存分に堪能しないと!

 

(楽しい楽しい、最高に楽しい!)

 

 走るのサイコー! これならどこまでもっ?

 どういうことでしょう、背中に乗っている岳さんの不安が、さらに強まったような? そんな気がします。

 

(そんなに私が心配なのでしょうか?)

 

 確かにケガ明け初の走り、不安になる気持ちは分かります。

 けれど私はできる子ハレヒノカイザー。岳さんが不安に思うようなことは何もありません。

 任せてくださいよ、しっかりと走りますから……なんて、思いましたけどね。

 

(ふむん、これはどうにも()()()()()

 

 これは私に対する不安ではない。正確には、()()()()()()()()()()()、といったところでしょうか。

 騎乗している人の感情はある程度伝わってきます。

 あ、今不安に思ってるんだな~とか、今は楽しそうだな~とか、それはもういろいろと伝わってきます。なんとなく理解できるんですよ、今どんな気持ちなのか。

 

(どんな不安を抱えているのやら。知ることはできませんけど)

 

 不安に思っているならば、やることは一つ。

 

(今は走る、ただそれだけです)

 

 走って、走って。岳さんの気持ちを少しでも紛らわせる。そしてあわよくば楽しくさせる! これしかないでしょー!

 ちょっとばかり力を入れて走る。ケガへの恐怖? また骨折するんじゃないか、怖くないのかって? 別にありません。まぁ大丈夫でしょ。

 というか、そのラインはしっかりと見極められているので。これだけ出したらヤバいな~とか、これ以上はダメだな~とか分かりますよ。ほら、私賢いので。

 

(ほらほら、楽しいでしょ岳さん!)

 

 ……おかしい、不安が先ほどよりも強くなりましたね。なんなら手綱を緩めようとしてますね。これ以上はいかんのでは?

 

「待ってくれ、スズカ!」

 

 誰よその女! なんて冗談はともかく、本当に誰のことですかねスズカ。涼花って名前の人ですか?

 ただ、なんとなく読めましたよ。

 

(岳さんの不安の原因、ですね。私にも関わってくるんでしょうが)

 

 速くすると、さらに不安が強まった。ならばこれは良くないということ、ですか。

 ならばスピードを落としましょう。こうすれば、正気に戻ってくれる。

 

「ハァ、ハァ……」

 

 岳さんは息を切らしている。疲れたとか、そういうのじゃありませんね。

 

(メンタル的に追い込まれる何かを感じていた、ってところですか)

 

 一体、何を抱えているのやら。ま、今は気にしないでおきましょう。

 

 

 慣らし運転が終わって、今日の総評に入ります。

 

「途中走りたそうにしていたが、及第点だな。スピードはかなり落ちているが、それでも今の段階なら上々だ」

「これからまた戻していけばいい、ですよね」

「そういうことだ。ところで……大丈夫か? 隆君。なにやらやつれているようだが」

 

 私の評価は問題なし。スピードが格段に落ちていますが、これからのトレーニングで戻していけばいいでしょう。

 問題は岳さんの方。岳さんはメンタル的に随分とやられているのか、疲労の色が濃いですね。たった一回の騎乗でこうなるとは。

 

「も、問題ありません。いろいろとありまして……」

「そのいろいろについては、後で聞くとしよう。ひとまず今日の調教はこれで終わりだ」

 

 課題が見えた調教。走るの楽しかったな、って気持ちは勿論ありますが、それ以上に。

 

「……」

 

 岳さんが不安ですね。ま、これから先大丈夫にしますよ。

 

 

 調教が終わって、放牧も終わった後。夕暮れ時に、またも突然やってきました。

 

「やぁ、カイザー」

 

 おぉ! 岳さん、岳さんじゃないか! また馬房まで来てくれたんですね。

 表情は、浮かないですね。調教のことを気に病んでいるんでしょうか?

 岳さんはそのまま、私の馬房へと近づいてきます。ラジカセのリラックスタイムを切り上げて、扉の方に寄りますよ。

 

「今日はお疲れ様。復帰明けだから、これから徐々に頑張っていこう」

 

 勿論ですよ。岳さんも一緒に頑張りましょうや。

 

「ちょっと不甲斐ないとこも見せちゃったけど、できれば僕を乗せてくれると嬉しい。まだ、僕はっ」

 

 な~に言ってるんですか。誰もが私の騎乗を断る中で、岳さんは私に乗ってくれると言ってくれた優しい人。乗せないなんてことがありえるんですか? いいやないね。

 不安に思っているなら、安心させるために顔を寄せておきましょう。気にしてませんよアピールです。

 

「……ごめんね、僕は君を利用しているようなものなのに」

 

 利用? なにに利用しているかは知りませんが、別に構いやしませんよ。それが笑顔に結びつくことなら、私的にはオールオーケー。ただし、笑顔じゃないことならノーサンキューです。

 そんな気に病む必要はありませんよ。顔舐めのセットをつけてあげましょう。

 

「うぷっ、気にしなくてもいい、って? はは、君は優しいな」

 

 優しいですか。そうなんですかね? 気にしなくていいってのは本当ですし。

 それからというものの、岳さんは私の馬房に留まり続けていました。なにか他に用があるのか、ここの居心地がいいのか。

 壬生さんが来ても変わらず。岳さんはまたリンゴを渡してくれました。勿論、壬生さんの許可をもらってね。

 随分と長い時間いるな、と思ったのも束の間。

 

「今日はこの辺でお暇しようかな。また明日からよろしくね、カイザー」

 

 あ、帰るんですね。ばいばーい。

 

 

 さて、岳さんの不安要素が何なのか。大変気になるところではありますが。

 

(話せるわけでもありませんし、ま~気にしなくていいでしょう)

 

 頑張るべきはその不安をどう取り除くべきか。現段階では、スピードを出しすぎると不安が強まるという情報があるので、これを軸に組み立てていきましょうか。

 岳さんの不安を取り除くべく、そして私の完全復帰を目指すべく! 頑張っていきましょうかね!

 

 

 

 

 

 

 それからというもの11月半ば。天皇賞春秋連覇とやらの情報が流れる中で、私の調教は進んでいきます。

 

「順調に回復している。ただ」

「ケガ前には程遠いですね……で、でも! まだ2ヶ月ある!」

 

 タイムは散々らしいですが関係ないね。走るの楽しいから問題ナッシング! いえ、富士澤さん的には問題ありなのでこちらも早急にどうにかせねば。

 そんで岳さんですが。

 

「っく!」

 

 相変わらず、不安を抱えているようです。あまり好転はしていませんね。

 とりま岳さんを励まします。

 気にせんでもいいですよ岳さん。まだまだ時間はたっぷりとありますからね。

 

「……ごめんね、カイザー」

 

 これからも頑張っていきましょうや。

 

 

 岳さんとも随分仲良くなりました。私と接する機会を増やしてくれてね、仲を深めようと頑張ってくれましたよ。

 

(岳さん優しい人。私覚えました)

 

 誠実ですね。

 それに、岳さんがこれまで騎乗してきたお馬さんのことを教えてくれるので、こちらとしても面白い話が聞けて大変嬉しいです。

 今日もまた岳さんがいろいろと話してくれる。そう思っていたところ。

 

「カイザー。僕は──君に話そうと思う」

 

 深刻な表情の岳さん。い、いったい何を話されるって言うんですか私は。

 

「今日はスズカを、サイレンススズカについての話をしようと思うんだ」

 

 あ、いつぞやの人。人じゃありませんね、雰囲気的にお馬さんですね。

 にしてもスズカさん。いったいどんなお馬さんだったのか。大変気になりますよ。

 

「スズカは君と似たような子でね。走るのが大好きで、いつも楽しそうにしていた」

 

 おいおいおい、私と一緒じゃないですか! 大変にシンパシーを感じますよ! ぜひともお会いしたいですねぇ!

 

「ケガ一つしなくて、大人しくて。ちょっと良くない気性を見せることがあったけど」

 

 岳さんの表情は嬉しそうですね。よほどそのスズカさんを大事にしていたのでしょう。

 

「君と一緒で、スピードが飛び抜けていた。凄く速くて、他の馬を一気に置き去りにするんだ」

 

 めっちゃ似たような馬ですね、私とスズカさん。これはもう会うしかないですよ……多分、会えないんでしょうけど。

 なんで分かるかって? なんとなく分かりますよ。岳さんの表情が、どんどん曇っていってますから。

 笑顔から一転して、俯きがちになる岳さん。

 

「だけど、僕が止められなかったせいで……っ!」

 

 その時のことを凄く後悔しているのか、沈んだ表情をしています。何があったのかは話してくれませんが、なんとなく察しがつきます。

 私と似たような気性で、突出したスピード。まぁ、()()()()()()があったんでしょうね。

 

「……ごめん、君の前でする話じゃないね」

 

 いえいえ、気にしないでください。責めたりしませんよ。

 気に病んでいる岳さんを慰めるように、顔を舐めてあげます。ほらほら、気にしなくていいんですよ。

 

「っ、ありがとう。君は本当に優しいね」

 

 ふふん。

 その後もスズカさんの話をしてくれました。レースの話とか、いかに凄かったかの話を。

 

「君とスズカは似ている。走るのが好きなところも、飛び抜けたスピードを持っているところも」

 

 そうなんですね。頑丈さの部分はあんま似てなさそうですけど。

 

「だからこそ、なんだろうね。スズカの幻影が、見えるようになったのは」

 

 おん? スズカさんの幻影? 何の話ですかいったい。

 深刻な顔つきの岳さん。嘘は言ってなさそうですが。

 

「君に騎乗すると、これまで以上に色濃く見えるんだ。スズカの姿が」

 

 そ、そんなことが。もしや、不安の原因ってそれですか? 私に騎乗していると不安そうにしているのは、それが原因ってことですか!?

 お、おぉう。もう分かりますよ。

 

「スズカが僕に何を伝えようとしているのか分からない。僕を責めようとしているのか、軽蔑しているのか。分からないんだ」

(大分深刻なことですね)

 

 これ、大変な問題ですね?

 いえ、別に幻影のことについて不安に思っているのはいいですよ。私を利用しているのも構いやしません。それは全て、岳さんが前を向こうとしているから、だと思うので。というか、乗ってくれるだけでありがたいから気にしてません。

 問題なのは、どうやって吹っ切れるか、でしょうか。岳さんが気に病んでいる原因を、どうやって取り除くか? これが問題になります。

 スズカさんの幻影とやらがなにを伝えようとしているのか分かりません。私には見えませんし。

 ただ、岳さんは悪い方向にもっていこうとしているご様子。じゃなきゃこんな不安な表情はしないでしょう。

 

「いったい、何を伝えたいんだろうね、スズカは……」

 

 スズカさんが伝えたいこと、ですか。

 私には分かりません。会ったこともありませんし、スズカさんの幻影とやらも見えませんので。

 ただ、一つだけ分かっていることがあります。

 

(私に似たお馬さんと言ってました。もし私が現れるとしたら、それはきっと)

「ヒヒン(元気出して)」

「わっ、ど、どうしたんだい? 急に僕の顔を舐めて」

 

 スズカさんは、岳さんのことが心配なんじゃないでしょうか?

 優しい子だと言ってました。だとしたらきっと、岳さんのことを今も心配しているんでしょう。私ならそうしますから。

 似たような境遇の私と会って、岳さんが気に病んでないか心配している。現れるとしたらそんなところ。いいえ、きっとそう思っているはずです。私がそう決めました。

 しかし、伝えようがありません。言葉話せませんしね。うぅんもどかしい。

 ま、やるべきことはもう決まってますけどね。

 

(思いっきり楽しんで走ろう。岳さんが前を向けるぐらいに、思いっきり明るく!)

 

 そうすれば、スズカさんのことも前向きにとらえてくれるんじゃないでしょうか? おっと、なんてこった。私は大変賢いですね。

 ひとまず慰めるように舐め回してあげましょう。気にするんじゃありませんよ。

 

「岳さん大分気に入られてますね」

「あ、あはは……慰められている、のかな? 随分暗い表情してたみたいだ、僕」

 

 今後の方針も決まりました。さてさて、頑張っていきまっしょい。




もうすぐ有馬記念。
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