同世代のUMAさん   作:カニ漁船

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果たしてどうなるのか。


有馬記念の展望

 有馬記念の日は刻一刻と近づいている。迫ってくるほど、競馬ファンは実感する。

 

「本当にハレヒノカイザーが出走するんだな、夢じゃないんだな!?」

「あぁ、夢じゃねぇんだっ!」

 

 かつて凱旋門賞で沈んでしまった【太陽の皇帝】ハレヒノカイザー、彼が有馬記念に出走する事実が。有馬記念のファン投票に彼の名前を書き込めることで、都合の良い夢ではなく現実だと理解する。

 多くのファンがハレヒノカイザーの名前を書く。今年一度も出走していない彼の名前を。

 理由? そんなものはシンプルだ。

 

「必ず彼に出走してほしい」

「絶対に彼の走りを見たいから」

 

 ハレヒノカイザーを見たい、それだけである。結果、ファン投票は堂々の1位。最終的に15万を超える票を獲得した。

 ただ、やはりというか勝ち負けに絡めるかは微妙と考えているファンが多い。そちらもまたシンプルな理由。

 

「最後に出走したの、凱旋門賞だろ?」

「あぁ。中448日……トウカイテイオーの比じゃねぇぞ」

「出走はしてほしいけど、かなり厳しいよね」

 

 凱旋門賞以来、出走していないこと。トウカイテイオーが記録した中363日をさらに上回る、中448日での出走となることだ。

 長期休養明けでのG1ということもあり、ファンも不安になる。

 

「け、けど! トウカイテイオーの息子だぞ? きっと」

「そうだったらいいけどよぉ、テイオーの勝利だって奇跡みたいなもんだぜ?」

「また同じような奇跡が、起きるのかな?」

 

 重賞、という括りならばハレヒノカイザー以上の記録は存在している。だがG1に限定すると、これまでの最高記録はトウカイテイオーの有馬記念が最大だ。

 長期休養明けの勝利は難しい。馬の走る気持ちの問題もあるし、ケガの影響が必ず出てくる。出走は嬉しいが、それとこれとは別の問題なのだ。

 

 

 また、出走してくるメンバーも強者揃い。年末の大一番に相応しいメンバーが集まろうとしている。

 64年ぶり、牝馬によるダービー制覇を成し遂げ、父娘でのダービー制覇という唯一無二の記録を持つウオッカ。ダービー以降の戦績はピリっとしないものの、期待をかけられている。

 さらには二冠馬にして天皇賞春秋連覇のメイショウサムソン、二冠牝馬でエリザベス女王杯を制したダイワスカーレット、そのダイワスカーレットの兄であるダイワメジャーも出走を表明している。

 どの馬も人気と実力を兼ね添えた実力者。実績という面ではハレヒノカイザーが一番だろうが、やはりケガ明けというのがどうしても足を引っ張ってしまう。

 

「やっぱ厳しいだろ、カイザーは」

「いや、それでもテイオーのように勝ってくれる!」

「どうだかなぁ……てかよく見たらハレヒノカイザー完全連対じゃねぇか」

「その連対記録も、ここまでかねぇ」

 

 出走してくれるのは嬉しい。けど勝ち負けに絡むのは難しいだろう。ファンのハレヒノカイザー評は、そんなところだった。

 トウカイテイオーという前例があるとはいえ、あのような奇跡が起きるのは稀な事例。二度も同じような奇跡は起こらないと、ファンは認識している。

 

「無事に走ってくれればいい」

「また走る姿が見られたらそれでいい」

 

 心のどこかで勝利を願いつつも、現実的な見方をするしかない。勝利は厳しいと、誰もが思っていた。

 

 

 それでも、せめて枠番はどうかと期待を込める。ファンの期待は。

 

【有馬記念の枠順発表。ハレヒノカイザーは大外枠の8枠16番】

 

 最悪も最悪の形で裏切られる。わずかばかりの勝算も完全に消え去ったと、ファンは諦めた。

 今回はフルゲートでの出走となった有馬記念。その16番枠といえば、もはや勝ちは望めないと言われるほど。これまでに掲示板入りを果たした馬すらいない、死の枠番である。

 

「おいおい、これもう無理だろ」

「有馬記念の16番枠って、もう見放されてるじゃん」

「どんだけカイザーのこと嫌いなんだよ神様!」

 

 細かった希望の糸はさらに細くなり、髪の毛一本にも等しい糸となる。天にすら見放されたハレヒノカイザーの勝ちは、さらに厳しいものになった。

 

 

 

 

 

 

 カイザーの最終追い切りが終わり、有馬記念までの調教が全て終わった。

 

「タイムはどうでしょうか?」

 

 元々、富士澤さんは追い切りでタイムを求めない。だから参考にはならないけど、一応確認しておくことに。

 富士澤さんは、淡々としている。

 

「悪いな。少なくとも、厳しい戦いを強いられるのは間違いない」

 

 淡々と、現実的な言葉を述べていた。

 まぁそうだろう。分かっていたことだ。

 先日、ダイワメジャーと併せて走った。向こうも有馬記念を走る、相手としてはもってこいだからと承諾。本番を想定した調整を行った。

 結果──カイザーはダイワメジャーに千切られる。勝つことはできなかった。

 とはいっても、そこまで悲観はしていない。

 

(カイザーの気持ちは切れていない。走ることを楽しむ、笑っている。あの時のように)

 

 カイザーからは走ることを怖がる気持ちは感じられない。むしろ、あれだけのケガがありながら走ることを楽しんでいる。ケガなんて微塵も関係ないと、調教も楽しそうにしていた。

 馬の気持ちが切れていないならば、戦うことはできる。有馬記念を前向きに捉えることができる。

 

「問題は本番だ。ハレヒノカイザーの気持ちを切らさないように……不安はないか」

「カイザーですから。有馬記念でもきっと、楽しく走ってくれます!」

「間違いないですね。なんたって、ハレヒノカイザーですから」

 

 富士澤さん達に不安はない。僕よりもずっと長く携わってきたからこそ、分かっているのだろう。

 カイザーに問題はない。だから後は、僕の問題だ。

 

(スズカ……)

 

 いまだに僕を見据える、スズカの幻影。何を伝えようとしているのか、僕に何をしたいのか、答えはいまだに分からずじまいだ。

 

(カイザーと接していくことで、ちょっとずつ前向きに捉えることはできてきたけど)

 

 それでも、怖い。彼は、どんな気持ちで僕を見ているのだろうかと。

 震える手を抑えるように掴む。それを、富士澤さんに見られていたようで。

 

「大丈夫か、岳」

 

 心配するように僕を見ていた。

 大丈夫だ、焦るな僕。問題はない、しっかりとしろ。

 

「……大丈夫です。問題はありません」

 

 富士澤さんには事情を話してある。僕の現状を、カイザーに騎乗すると決まった日から教えていた。

 カイザーを利用する形になったことを謝罪した。僕が前に向くために、力を貸してもらうことを誠心誠意お願いした。

 富士澤さんは、それでも構わないと言ってくれた。

 

「カイザーのおかげか、最近は明るく捉えることができてきたので。彼の前向きさに救われています」

「そうか。君の問題も、晴れるといいな」

「はは」

 

 あくまで最優先すべきはカイザーのこと。彼を無事に走り切らせることが、僕の使命だ。

 

「頑張ろうな、カイザー。もうすぐ君のラストランだ」

「ヒヒン」

 

 強豪が集う有馬記念。石走さんとメイショウサムソンのコンビも出走してくる。

 今のカイザーがどれだけやれるか。僕は本番で、しっかりと騎乗することができるか。考えれば考えるほど不安は大きくなっていく。

 それでも。

 

「やりましょう、富士澤さん壬生さん」

「あぁ、行こうか」

「はい!」

 

 前に進む。カイザーが今も前に進んでいるのと同じように、僕も前に進むんだ。

 

 

 馬房で、またカイザーにお話をする。彼はどうも、僕の話を聞くのが面白いみたいだ。

 

「ほら、カイザー。君の全妹の記事が書かれてるよ」

「ブルル?」

「君の妹だ。君の活躍があったからこそ、また同じような配合を試したんだろうね」

 

 言葉を交わせるわけじゃないし、どんな気持ちで聞いているのかは分からない。

 けど、少なくとも悪いことはないだろう。彼はいつも楽しそうにしているから。

 

「そうだなぁ。今日は、岡邉さんが騎乗していたシンボリルドルフについて話をしようか」

「ヒヒン!」

「とはいっても、岡邉さん程詳しくはないけどね。印象に残っているのは……」

 

 カイザーとのコンビが決まってからずっと、僕はこうして話をしていた。

 一方的に話すだけ。それでもカイザーは心地良さそうにしている。

 時折機嫌が良さそうに鳴いて、相槌を打つように首を振って。

 

(賢いな、この子)

 

 思わず笑みを零す。僕が笑えば、カイザーも嬉しそうに笑う。

 

「本当に、笑顔が好きなんだね君は」

「ヒヒィィン!」

「わっと、さすがにこれは分かるな。ズバリ当たってただろ?」

 

 嬉しそうに首をぶんぶん振る。こちらの言葉に頷くように。

 

(壬生さんも言ってたな。カイザーは人の笑顔が好きだって)

 

 だからこそ、ダービーの一件があったのかもしれないね。いろいろと、思い出したくないことだけど。

 

「もうすぐ有馬記念。君のラストランだ。知ってるかい? ダイワメジャーも引退するそうだよ」

「ヒヒン!?」

「君と一緒に引退するみたいだ。引退式も、2頭で一緒にやる予定だって」

 

 話す。時間の許す限りたっぷりと。

 

「カイザー。岡邉さんに見に来てほしいかい?」

「ブルル」

「……さすがに分からないな」

「ヒヒィィィン!?」

 

 話す。後悔がないようにしっかりと。

 

 

 そして、時間が来た。

 

「岳さん、そろそろ」

「あぁ、放牧の時間ですか」

 

 壬生さんが馬房へとやってくる。お別れの時間が来たみたいだ。

 最後に、カイザーの頭を撫でる。

 

「本番は頑張ろう、カイザー」

「ブルル」

「最優先は君の安全、とはいっても、賢い君なら分かっているかもしれないね。それじゃあ、また」

 

 気持ちよさそうに目を細める彼に別れを告げて、僕は馬房を後にする。

 帰り道では、有馬記念のことを考えていた。

 

(カイザーの現状は厳しい。走りが戻っているかが不透明で、タイムも全盛期には程遠いそうだ)

 

 加えて、スタミナがあるわけでもない。これに関してはまぁ、特に問題視していないけど。オグリキャップみたいな前例もあるわけだし。

 最大の武器でもあるスピード。圧倒的な巡航速度は、果たして戻っているのか? そんな不安が頭をよぎる。

 不安要素はそれだけじゃない。

 

(さらには枠番だ。今回の有馬記念はフルゲート、つまりは)

 

 16番という死の枠番が存在している。これまで勝った馬はいない、掲示板にすら入れない枠番が。

 ここは避けたいところだ。ただでさえ厳しいカイザーが、さらに厳しい状況に追いやられるから。

 

「せめて枠番だけはなぁ」

 

 淡い期待を抱きながら帰る。どうか16番はやめてくださいと、神様に祈った。

 

 

 その神様は、どうやら試練を与えるのが好きなようで。

 

「16番……8枠の、16番」

「そ、そんなに悪いのかい? 大外枠が不利なのは、まぁ分かるけども」

「春陽さん。有馬記念の16番で掲示板に入った馬はいません。それぐらい厳しい勝負です」

 

 カイザーは最悪の16番を引いてしまった。一番避けたかった番号を、どの陣営もここだけは嫌だと口を揃える場所を引いてしまった。

 

(まさか本当に引くとはなぁ)

 

 いや、別に絶対に勝てないわけじゃないんだけど。それでもなぁ。

 

「なんでこう、よりによって!」

「お、落ち着いてくださいテキ!」

 

 富士澤さんの慌てようも分かる。そりゃこれだけ不利が重なれば嘆きたくもなるから。

 長期離脱明けの出走、全盛期には程遠い状態、そしてこの枠番。どんだけ見放されてるんだろうか、カイザーは。

 いまだに嘆く富士澤さん。

 

「富士澤さん、大丈夫ですよ」

「……なにがだ? 岳」

 

 僕は、にっこりと笑う。

 

「ここまで来たら逆に天に愛されてると思いましょう。ほら、これだけ悪いことが重なっているわけですし」

「そんなこと思えるわけないだろうが!」

 

 ですよね。

 

 

 

 

 

 

 もうすぐ有馬記念。私の、ラストラン。

 

(もう掴んだ。どれが最適で、どう走ればいいのか)

 

 後は、岳さんがどう判断するか。でも、きっと私の好きなように走らせてくれる。

 そして、岡邉さん。

 

(観戦、来てくれるでしょうか? いいえきっと来ますね)

 

 なんたって私のレースですから。引退して、レースの世界を退いているとはいえ、私が出走するから見に来るに決まってます。

 泣いても笑っても最後のレース。このレースで私は、みんなに伝えたいことを全部伝える。

 

(勝ったとしても負けたとしても。私は私のやりたいことをやる)

 

 さぁ、決戦の日はもう間近ですよ。

 

 

 てか富士澤さんが嘆いてましたけど何があったんですかね。枠番がどうこう言ってましたが。

 

「なんだってこの枠番に!」

「落ち着いてくださいって!」

 

 耳を傾けていると、どうも嫌な枠番を引いたそうで。なんでも、これまで勝った馬はいないという死の枠番だとか。

 ほ~ん、へ~。

 

(つまり私が先駆者になれるということでは?)

 

 これで私が勝てば、私は死の枠番で初めて勝った馬ということになる。そうすれば死の枠番はなくなって、大変縁起が良くなるのでは?

 なんてこった、私は凄く賢い。ものすごく賢いですよ。

 こーれはやる気が出ますよ! 頑張るぞ私!

 

「ヒヒィィィン(頑張るぞー)!」

「ほら、カイザーはやる気出してますよ」

「むぐぐ……っ!」

「もう決まったことですから。なるようになれですよ」

 

 いろいろとある有馬記念。決戦はもうすぐです。




次回、有馬記念


ちなみにちょこっと情報が出たカイザーの全妹ちゃん、世代は2009年クラシック世代です……はい()
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