同世代のUMAさん   作:カニ漁船

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完成しました。

この話の執筆にあたり、以下の素材を参考させていただきました。素材を提供してくださった製作者様に最大限の感謝を

素材提供元

https://syosetu.org/novel/273050/


ハレヒノカイザー

ニヨNIYOニヨNIYO大百科PEDIA()
ハレヒノカイザー(競走馬)      

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タイトル

 

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・・・

その他

 

 

 

 

 

世界を変えた速さ

 

 

 

「ヒーロー列伝」No.63ハレヒノカイザー

 

 

ハレヒノカイザーとは、2002年生まれの鹿毛の牡馬。「英雄」ディープインパクトに土をつけた唯一の競走馬であり、世代のダービー馬。

また、人間のエゴと悪意にさらされ続け、それでもなお己を貫き続けた日本競馬界に燦然と輝く「太陽の皇帝」である。「月の暴君(tyran de la lune)」とも。

 

 

 

13戦10勝2着3回

主な勝ち鞍

2004年:新潟2歳ステークス(GⅢ

2005年:日本ダービー(GⅠ)、セントライト記念(GⅡ

2006年:安田記念(GⅠ)、凱旋門賞(GⅠ)、産経大阪杯(GⅡ)、京王杯スプリングカップ(GⅡ)、フォワ賞(GⅡ

2007年:有馬記念(GⅠ

 

2006年カルティエ賞最優秀古馬、年度代表馬

 

 

誕生~期待されなかった牡馬~


2002年3月3日に誕生。父トウカイテイオーの母ブランシュテル、母父ダイタクヘリオスという血統であり、なんともまぁ反応に困る血だった。いや、この時のトウカイテイオーだから悪くはないんだけど。

 

生まれである日比谷牧場も、当時は全然注目されていない無名であり、そんなところのサンデーでもないよく分からん血統の馬などまぁ見向きもされない。1年経っても売れ残っており、馬主である故・春陽幸光に購入されなければあわや廃用といったところだった。もしここで廃用になっていたらと考えるとぞっとする。

価格はというと400万。おっそろしいくらいの格安馬だ。それがとんでもない偉業を成し遂げるのだから、競馬というのは分からないものである。

 

馬体の評価はどうなの?と思うかもしれないが、実は特段悪いところはなかった。立派な馬体に整った顔つき、調教師である富士澤一雄も「コイツは走るぞ」と太鼓判だったそう。また、富士澤は「なんで売れ残っているのか不思議でならなかった」とコメントを残している。

また、当歳馬の頃から走るのが好きだったようで、気づけばずっと走り回っているような牡馬だったそう。簡単に言えばサイレンススズカやディープインパクトの同族である。

 


 

 

 

注目されなかったデビュー、ライバルとの出会い

 


 

シンボリクリスエスにゼンノロブロイで有名な富士澤一雄厩舎に入厩したハレヒノカイザーは、順調に調教を進めていく。ハレヒノカイザーは一部困った悪癖があったものの人間の言うことに従順であり、素直で利口な子だった。調教に手間取ったことは一度もないと富士澤は証言している。

騎手には名ジョッキーであり、現在は評論家である岡邉幸生を迎え、万全の体勢で新馬戦へと臨んだ。ちなみに岡邉騎手、この頃から相当ハレヒノカイザーに惚れ込んでいたらしい。それが後にあんなことになるとは……

 

体調不良もなく、好調で挑んだ新馬戦。人気は……5番人気。こんなものである。

 

で、実際のレースはというと。最初こそ行きたがる素振りを見せたものの、岡邉の指示に素直に従い好位追走を選択。後の代名詞ともなるルドルフ戦法であっさりと勝利を掴んだついでに口を割って走っていた。富士澤と岡邉は「これぐらいできて当然」とコメントを残している。期待が重すぎやしないか?

 

その後は馬主である春陽を説得して新潟2歳ステークスへと出走。これまで重賞を取ったことがないオーナーに初重賞をプレゼントするべく、ハレヒノカイザーは出陣した。

 

人気はというと4番人気。どうやら新馬戦はまぐれと思われていたらしい。人気が出始めたのはクラシック以降だから仕方ないっちゃ仕方ないが。

レースはまたも王道の好位追走。逃げ馬を最後にあっさりと抜き去ってしかも笑いながら、いとも簡単に重賞をプレゼントした。これが春陽の初めての重賞である。最初は現実を受け入れるのに時間がかかっていたらしい。そらそうよ。

 

その後は朝日杯フューチュリティステークスに向けて準備が進められていたが、脚部不安により回避。一説ではこの頃関東に上陸していたディープインパクトの併せが原因ではないか?とされているが真相は不明である。というか触れない方がいい。荒れるから。

 

新潟2歳ステークスが最後の出走となり、2歳時は2戦2勝で終えた。順調な滑り出しである。

 

陣営が次に見据えたのは皐月賞。そのステップレースである弥生賞を目標に定めた。この弥生賞では誰が出走していたか?そう、かのディープインパクトが出走している。

弥生賞前も、ディープの主戦騎手だった岳隆が「ライバルになるとしたらハレヒノカイザー」と言葉を残すほど意識していた相手。今なお語り継がれる2頭の因縁は、この弥生賞から始まったと言っても過言ではない。

 

本番の弥生賞ではディープインパクトが圧倒的1番人気。さぁライバルのハレヒノカイザーは!……5番人気である。なんでや!

実際のレースは、ディープインパクトが早めに捲って上がり、追従するようにハレヒノカイザーが先行集団から抜け出した。2頭が並んで最後の直線に入り、たたき合いの勝負が始まる。他の馬?気づいたら千切られてたよ。2歳王者のマイネルレコルト涙目である。

互いに譲らない勝負が繰り広げられる。どっちが先に抜け出すかと注目が集まったが……ここはディープに軍配が上がった。アタマ差の勝負を制したのだ。

ただ、口を割って走っていたカイザーに対し、ディープは入れる予定のなかった鞭まで入れている。これがどれほど恐ろしいことか分かるわね?苗〇君、競馬ファンなら分かるだろう。

 

なんにせよ、敗北は敗北。潔く受け入れ、皐月賞に向けて駒を進めることにしたカイザー陣営である。なお、ディープとカイザー両ファンはこの時点ではまだ平和な民度だった模様。どうしてあぁなったんやろなぁ……。

 

 


 

 

 

始まるクラシックと人間の悪意

 


 

もうすぐ皐月賞。クラシック本番に向けて、ハレヒノカイザーは口を割って走る癖を矯正するように努めた。どうも最後の直線で口を割ってしまうハレヒノカイザー、早めに治しておくに越したことはないそれを治すなんてとんでもない!。悪いことだと分かっていてか、本番までにはしっかりと矯正できていた。他の馬も見習ってほしいものである。

 

皐月賞本走。ダントツの1番人気はディープインパクト。単勝支持率60%超えの大人気である。ハレヒノカイザーはここでようやく2番人気に浮上、ディープインパクトのライバルとして名を上げるようになった。

ハレヒノカイザーはまずまずのスタートを切ると、道中は8番手で追走。周りのペースに流されることなく、内側をキープしながら走っていた。ディープインパクトは変わらずの後方策である。

レースが動いたのは第3コーナーの手前。ぐいぐい上がっていくディープインパクト、大外から一気に捲っていく。ハレヒノカイザーは、馬群で待機していた。鞍上の指示が飛ぶまで、じっと機会を窺い続けていたのである。

ハレヒノカイザーが動いたのは第4コーナー。すでに自分たちよりも前にいるディープインパクトを捕まえるため、一気に馬群から抜け出そうとした。弥生賞を再現するかの如く、2頭が外から飛び出してくる。

 

またも繰り広げられる2頭の戦い……かと思いきや、なんとハレヒノカイザーがディープよりも前に出たのである。差を広げようと一気に加速するハレヒノカイザー。これはディープが負けるか!?と中山競馬場は騒然としていた。

しかし、ここはやはりディープインパクト。今まで以上のキレを誇る末脚を発揮して、ハレヒノカイザーを躱す。そのままゴール板を駆け抜けた。あと一歩届かず、クビ差の2着で敗北してしまった。

 

この皐月賞について、岡邉は自分の騎乗ミスと反省している。どうやら、思ったよりも早く来たディープに後手を踏まされたらしい。確かに驚くわな。

 

これでカイザーの2連敗。次の日本ダービーでリベンジを果たそうとしていた。

 

……そして、この頃からまぁ酷かったのである。何がって?ディープインパクト押しだよ。

どこもかしこもディープ一色の応援。1つ勝つだけでかなりの盛り上がりであり、仮に負けようもんなら大変なことになるんじゃないか?と思わざるを得ないほどの大盛況だったのだ。これをJRAも後押ししていたのだから性質が悪い。

先走って銅像を作ったりするわ、すでに三冠が確実とか書くような記者もいるわと大変だった。嘘だと思うだろ?本当のことなんだぜ、コレ。

 

ディープ一色のクラシック戦線。ダービーでも当然のようにディープインパクトが1番人気。単勝支持率は70%超えであり、どれほどの期待がかけられていたかがわかる。ちなみにハレヒノカイザーは2番人気。この頃になると人気が安定するようになってきた。

……先ほどからカイザーの記事なのにディープの話題多くね?と思うかもしれないだろう。だが、これはかなり重要なことであり、カイザーを語る上で外せないことが起こる。それも、このダービーで。

 

始まる日本ダービー。カイザーは抜群のスタートを切って逃げ馬を煽り、自分はベストな位置をキープする好位追走のスタイル。ディープインパクトは変わらずの後方だった。

このレースは岡邉曰く、「カイザーに仕掛けを教えられた」と回顧するレースだったらしい。カイザーの賢さについては後で触れておくとして、この日本ダービーではカイザーが実質的にレースを支配していた。

仕掛けたのは第4コーナーよりも前。逃げるコスモオースティンを捕まえたインティライミとシャドウゲイトの外から並び、あっという間に差を詰める。第4コーナーを越える頃にはコスモオースティンを完全に捕まえ、独走態勢を作っていた。

楽な手応えで先頭を走るハレヒノカイザー。最後の直線を先頭で入ると、後続を突き放す圧巻の走りを見せていた。後方からディープインパクトが追い上げてくるが、残り200mでさらに加速するハレヒノカイザーを捕まえることはできず。悲鳴に包まれる東京競馬場の空気など関係ないとばかりに、ハレヒノカイザーは日本ダービーを制した。シンボリルドルフ、トウカイテイオーから続く3代でのダービー制覇を成し遂げたのである。ちなみにこの記録はさらに伸びるし並ぶものがいない大記録である。

 

日本ダービーを制したハレヒノカイザー。彼に浴びせられたのは……罵声。具体的に言うと、お前の勝つところなんか見たくねぇんだよという心無い声が浴びせられたのだ。

ファンが見たかったのはディープが勝つところであり、ディープが無敗の三冠を取るところを見たかった。そう口にし、邪魔をしたハレヒノカイザーを批判する。信じられないと思うだろう?だが全て本当のことだ。なにせ、岡邉や富士澤、さらにはディープに騎乗していた岳さえも苦言を呈するほどのありさまだったのだから。

これにはカイザーファンも憤慨。一触即発、殴り合いになりかねない雰囲気の中、天を衝くような嘶きが東京競馬場に響き渡った。

発生源はハレヒノカイザー。殴ろうとしているファンを一喝するかのように、カイザーは嘶いたのである。

これにビビったファンは素直に謝罪。すごすごと引き下がった。最初からそんなことするんじゃねぇ。

 

いろいろとあったが、ハレヒノカイザーはダービーを勝った。2馬身差の完勝である。てか罵声を浴びせられたのに気にしていない様子なのはメンタルが強すぎるだろコイツ。

ただ、これからも幾度となく彼は悪意に振り回されることになる。

 

 


 

 

 

秋のアクシデント、兆候はこの頃から

 


 

陣営は菊花賞を目標に、次走にセントライト記念を選択。放牧では正妻ラインクラフトとの仲睦まじい様子が撮影されるなど、充実した夏休みを過ごしていたようだ。うらやまけしからん。

 

さて、セントライト記念はというと、他に有力馬らしい有力馬もおらず。ハレヒノカイザーが突き抜けた1番人気での出走となる。なんとハレヒノカイザー、ここでようやく初の1番人気である。

ちなみにレースは普通に勝った。特に面白みもなかったし。調教師も「これで負けたら嘘だ」とか言うぐらいの出来栄えで、馬なりの圧勝劇を披露したのだから文句もない。

 

気分を良くした陣営は菊花賞に向けて早めの現地入り。栗東トレセンの坂路を存分に活用して、スタミナに不安が残るハレヒノカイザーの調教を進めていた。

この長距離はハレヒノカイザーにとって試練の時。元々スタミナがある方ではないハレヒノカイザー、距離が伸びるほど不利だというのが富士澤の見立てだった。

少しでも克服するためにスタミナを鍛えに鍛える。菊花賞を勝ってダービーと菊の二冠を取ろうと励んでいた。

 

迎えた当日。馬場も悪くなく、客入りもダービー以上。皐月賞馬とダービー馬の激突に心を躍らせていた他の馬は残念ながら……

突き抜けた人気を誇るディープとカイザー。ディープが1番人気なのは、やはり血統的な距離不安がカイザーにはあったからだろう。仮にも長い距離を勝ってるのはカイザーの方なんだけどね。

 

レースはお互いに変わらずのスタイル。ゴールを勘違いしていたディープが掛かっていたものの特に問題なくレースは進んでいった。ハレヒノカイザーはアドマイヤジャパンの後ろ、3番手でレースを展開。ルドルフ戦法も板についてきたようである。

大逃げをかますシャドウゲイトにつられないハレヒノカイザー。岡邉からの指示が出るまでずっと待ち続けていた。この気性の良さが、ハレヒノカイザーの持ち味の一つだろう。

下り坂を利用して先頭に立つアドマイヤジャパン。見事な奇襲で普通ならば勝っていたものの、相手が普通ではなかったため残り200mで躱されてしまったこの2頭がいなければ勝ってたともっぱらの評判

やはりカイザーとディープの2頭が競り合う展開。後続を突き放し、2頭だけの世界を作り上げる。

どちらが勝つのか目が離せない。最強のライバル対決の結果は!その結末は……唐突に訪れた。

 

残り50mでハレヒノカイザーが失速。ディープインパクトがあっさりと躱して二冠達成。は?となった観客も多かったらしい。

失速の原因は、ハレヒノカイザーの骨折である。右第1指骨剥離骨折、程度は軽いものの、ハレヒノカイザーは最後の最後に身体が耐えきれなかったのだ。

 

これは仕方ない、切り替えて次に行こう。陣営はそうコメントを残し、年内のレースプランをすべて白紙にして来年度に目を向けることにした。

 


 

 

 

年明けの始動戦、進化する怪物

 


 

ケガから復帰して年明け。陣営は産経大阪杯を目標に掲げる。そして、菊花賞の結果から長距離は向いてないとのことで天皇賞・春は出走しないと明言した。残当。

また早めに関西に遠征し、栗東トレセンの坂路で鍛えに鍛えるカイザー。なお、栗東で調教パートナーを務めるラインクラフトは距離の問題から相手ができず。単独でのトレーニングになった模様。

ケガから復帰したハレヒノカイザーはさらに仕上がっていた。スピードが増し←!?、さらにキレが増したようである。これ以上速くなるとかウッソだろお前。

 

さらにこの頃から、ハレヒノカイザーの動向はかなり注目されるようになった。ライバルだったディープインパクトは年度代表馬に輝き、そのディープに唯一土をつけたライバルとして、日本競馬界に名を轟かせていったのである。

有名になったことで、本馬もご満悦だったのだとか(担当厩務員談)。とにかく、ハレヒノカイザーもディープ同様注目されるようになった。これが良いことなのか悪いことなのか……それは分からないが。

 

さて、復帰戦となる大阪杯。アドマイヤジャパンも出走する中で、ハレヒノカイザーはダントツの1番人気での出走となる。レースはまぁ……重馬場なのに7馬身差の圧勝を飾るほどのレースだった。どうなってんの?私にも分からん

この重馬場巧者っぷりに、海外のレースも行けるのではないか?と富士澤は考えた。実際重馬場を得意としていたのかは分からないが、これで選択肢がさらに増えたとコメントしている。

 

次走は当初の予定通り、安田記念を目標に掲げた。マイルも走れるという選択肢を増やすためである。安田記念前に一叩き、京王杯スプリングカップを次走に選択した。

 

調教パートナーはラインクラフトが務める、のだが。ここで一つ困った事態が発生した。

ハレヒノカイザーが速すぎてラインクラフトじゃ務まらなくなってきたのである。仮にもG1を3勝していたラインクラフトすら千切るって、コイツの脚どうなってんだ……。

調整はできるのでパートナーは継続。これが結果的にラインクラフトの引退を早めてしまったのだろうか……真相は分からない。

 

迎えた京王杯。初の短距離出走なのだが、ここも1番人気での出走。対抗馬として高松宮記念2着の珍名馬オレハマッテルゼが挙げられていた。

レース前では、岡邉が記者やファンに対し、「ハレヒノカイザーの強さに驚くことになる」とコメント。お前のカイザーとルドルフに対する主観は誇張が入るだろというツッコミはさておき、期待に胸を高鳴らせる。

肝心のレース内容はというと。初の短距離戦で2着に2馬身差をつける大楽勝を披露した。勿論ノーステッキである。えぇ……(困惑)。

 

圧巻の内容で安田記念へと駒を進めるハレヒノカイザー。同厩舎のダンスインザムードに最強マイラーのダイワメジャー、京王杯で2着だったオレハマッテルゼ、海外からブリッシュラックも参戦。これほどの強敵が相手となるのだから、ハレヒノカイザーといえど厳しい勝負になるだろう、と目されていた。

なお現実。ハレヒノカイザーが馬なりレコード勝ちとかいう頭おかしいことをやってのけて優勝した。どうなってんだよこいつマジで!

しかもレース内容も文句がない。この頃から後の代名詞となるロケットスタートを披露し、先頭を一度たりとも譲らない逃走劇。メイショウボーラーにローエングリンが必死に追うが、ハレヒノカイザーは楽な手応えでぐいぐい上がっていく。

結局、一度たりともスピードが緩むことなく。なんならさらに加速しての5馬身差勝ち。もはやバケモンである。UMAだよUMA。

 

こうしてマイルG1も制したハレヒノカイザー。次の舞台は……フランスのフォワ賞だった。

 

 


 

 

 

悪夢の海外挑戦

 


 

時はさかのぼって天皇賞・春。ディープインパクト陣営からとあることが発表される。

 

「ディープインパクトとともに、ハレヒノカイザーも凱旋門賞に挑戦する」

 

名目上はディープインパクトの帯同馬として、ハレヒノカイザーも凱旋門賞に挑む旨が発表された。元々陣営から海外挑戦に意欲的なことが仄めかされていたが、ここでようやくお披露目となったのである。

この時の日本競馬はディープインパクトとハレヒノカイザーの二強状態。他の馬なんか知ったこっちゃねぇ!状態だったので、この発表は大いに沸いた。

この2頭以外に勝てる馬はいない!これで勝てなかったらもうこの先一生勝てない!なんてのたまうファンもいる始末。実際それだけの強さを誇っていた2頭なのは間違いないのだが。それはそれとしてダービーでブーイング浴びせてた連中はどんな気持ちで見ていたのやら。

 

前哨戦を使う使わないで醜い小競り合いが起きていたものの、壮行レースとなっていた宝塚記念を圧勝したディープはフランスへ。同時に、カイザーもフランスへと渡った。

現地では調子が落ちないか心配されていたが、元々メンタルが強いカイザーに親友とも呼べる馬が近くにいたディープ。メンタル的な問題は何一つなかった。

 

ディープは凱旋門賞に直行。カイザーは前哨戦を挟むことになる。

 

カイザーが出走するフォワ賞では、前年度の凱旋門賞覇者・ハリケーンランが出走してきていた。さらにはハリケーンランを下したプライドにコロネーションカップを制したシロッコが出走。我らがハレヒノカイザーは……4番人気。また人気落ちとるやんけお前!ホームじゃないから仕方ないね。

さてさて、気になるレース内容はというと……安田記念で完全にモノにしたのか、ロケットスタートを披露。後続を突き放して逃げ続け、一度たりとも寄せ付けることなく完勝した。は?

しかもこのレース、ハレヒノカイザーは明らかに遊んでいたのである。映像が残っているのでぜひとも見てほしいのだが、道中明らかに手を抜いている。しきりに何かを確認するように走っており、お前らのことなんか眼中にねぇんだわとばかりに勝った。ハリケーンラン涙目である。

当時プライドに騎乗していた名誉日本人C・ロメールも驚愕していた。「ディープだけでも凄いのに、さらに凄いのがいた」とコメントを残している。

 

これは凱旋門賞勝ち申したわ!と日本人は大盛り上がり。メディアも勝利を確信しているかのような記事を刷っていた。お前らそういうとこやぞ。まぁ凱旋門賞馬相手に完勝に近い内容で勝利したのだから無理はないが。

 

後はしっかりと調子を整えるだけ、だったのだが。ここでフランスの一部競馬雑誌からハレヒノカイザーについてある疑惑が浮上したと発表された。それがドーピング疑惑である……は?

なんとハレヒノカイザー、お前ドーピングしているだろと疑いをかけられた。あまりの強さに不正をしているだろと言われたのである。何言ってんだお前ら。

勿論事実無根の言いがかり。お世話になっている厩舎が陰性であることを示す資料を提出してすぐに鎮静化した……表面上は。

最後の最後にひと悶着あったものの、凱旋門賞に向けて調整。そして、われわれ日本人にとって忘れられない第52回凱旋門賞が始まる。

 

前評判では、ハレヒノカイザーが圧倒的な1番人気だった。ハリケーンランを子ども扱いするレース内容、圧倒的強さで全てを蹂躙する様からフランスで「月の暴君」と呼ばれているカイザーは、ペースメーカーであるラビットを出しても無意味と言われるほどに完成されていた。なぜ無意味なのかは後に触れる。

 

始まる凱旋門賞。もはや恒例となったハレヒノカイザーのロケットスタートでレースは始まる。いいや、それだけじゃない。なんとハレヒノカイザーはそのまま後続を突き放しにかかった←!?

ハロンごとのタイムが11秒台、遅くとも12秒台前半という、ロンシャンでは考えられない超高速巡行を披露するカイザー。ついていくと破滅だが、ついていかないとそのまま逃げ切られることを知っている欧州勢は即座に追いかける。また、今回は好スタートで前目につけていたディープインパクトも3番手で追いかけていた。

ファンは心配していた。ただでさえスタミナに不安が残るハレヒノカイザー、最後まで持つわけがないと誰もが思っていたのである。

そんなファンが目のあたりにしたのは……一切落ちることなく走り続けているハレヒノカイザーの姿。フォルスストレートを越えても、最後の直線を迎えても変わらない。圧倒的なスピードで駆け抜けていた。

残り300。ハレヒノカイザーが加速する。レイルリンクとディープインパクトが負けじと追いかける。その差を縮めようと加速する。

そんな2頭をあざ笑うかのように、ハレヒノカイザーは残り200でさらに加速した……信じられないと思うだろう?本当のことなんだ、これが。

なんと300地点はギアを入れなおしただけであり、残り200の加速こそが真のスパート。差を詰めたレイルリンクとディープインパクトを突き放し、誰よりも速く凱旋門賞のゴール板を駆け抜けた。

圧倒的速さ、圧倒的強さ。今までは枷をつけて走っていただけだ、と言わんばかりの勝利。2着のディープインパクトに4馬身差、さらには勝利タイム2分21秒88という、アンタッチャブルレコードで駆け抜けたのだ。芝2400mのレコード自体は後に更新されるが、ロンシャンで記録されたこの時計はいまだに更新する兆しも見えないスーパーレコードである。セクレタリアトのベルモントステークスと並ぶレコードと称する人も多い。

 

エルコンドルパサーの2着から7年、ついに日本の悲願が叶った時。誰も彼もが騒ぎ立てていた……その直後、絶望のどん底へと叩き落される。

 

入線後、どこか様子のおかしいハレヒノカイザー。いつものように飛び跳ねることをせず、ただその場に立ち尽くしていた。

感極まっていた岡邉もすぐさま下馬。その場から動こうとしない、倒れようともしないハレヒノカイザー。ディープインパクトや関係者が寄り添う中、彼は救急に運ばれた。

 

結果、ハレヒノカイザーは……右前脚の複雑骨折と診断される。もはや競走馬として復活するのは無理、今後もどうなるか怪しいとの診断が下される。勝利の代償は、あまりにも重かった。

だが、担当医曰くこれで済んだだけでも奇跡だった模様。本来ならば死んでいてもおかしくなかった、とコメントを残している。

 

お祭りムードが一転、暗いムードが漂う。誰もが前を向くことができず、下を向いて絶望していた。

 

気づけば、ハレヒノカイザーの存在はあまりにも大きくなっていた。レースを楽しく走る姿は否応なしに惹きつけられ、彼に魅了される。

期待を背負って出走した。願いを託されて走ってきた。そんな彼は……期待と願いに潰された。

 

日本の太陽は、フランスの地で沈んだのである。

 


 

 

 

何度沈んでも

 


 

復帰は絶望的とされていたハレヒノカイザー。帰ってきたのは凱旋門賞から2か月後の12月15日のことだった。

 

その間も様々なことがあった。帯同馬として連れて行ったくせに管理もできていないと糾弾されるディープ陣営、海外遠征を決断した富士澤厩舎に対する批判、欲に駆られたオーナーに対する批判、騎乗していた岡邉の引退など、とてもここには書き込めないようなことさえもあった。

自分たちの責任を棚に上げ、他人を責め立てる。とても見ていられない状況が続く競馬界。

 

好転する兆しはあるのか、先の見えない不安にどう立ち向かえばいいのか?その道を示したのは……ライバルであるディープインパクト。そして、ハレヒノカイザーである。

 

3月を過ぎた頃。オーナーである春陽から驚きの声明が飛び出る。

 

「年内に後一回だけハレヒノカイザーを出走させる」

 

そこまで欲に駆られたか、これ以上頑張らせるのは止めろと痛烈な批判を浴びせられる中、関係者の証言が飛び出る。

元々は引退が決まっていたハレヒノカイザー。しかし、ハレヒノカイザーが引退することを拒んだのである。

まだ自分はやれる、こんな状況で引退なんかしたくない。そう言わんばかりに検疫厩舎を脱走し、自分は走れるとアピールする。

必死の訴え。自分を走らせろと、レースに出させろと主張する。気持ちは少しも切れていない、闘志は途絶えていない。

その気持ちに、春陽たちは折れた。これについて富士澤は「自分たちのエゴを押し付けてきた。だからたった一度のわがままぐらい叶えてやれと諭された」と回顧している。

 

批判の声は変わらず出ていたが、当時は少しでも変な記事を出そうもんならJRAから提訴される時代。変な記事は書けなかった。まぁマスゴミの自業自得なので気にしなくてよしっ!

 

復帰に向けて調教が進められるハレヒノカイザー、なのだが。ここで大きな問題が発生する。それが騎乗する騎手の問題だ。

これまでずっと乗り続けてきた岡邉は騎手を引退、一度もカイザーに会いに来ていない。だから代わりの騎手を探す必要があるのだが……言い方は悪いがこの頃のハレヒノカイザーに騎乗するにはあまりにもリスクが大きすぎた。

史上初の凱旋門賞馬というネームバリュー、名騎手岡邉の後任、ケガでもしようもんなら評判が地に堕ちること間違いなしetc.etc……と、地雷原でタップダンスを披露しろと言っているようなもんだった。

そんな状況で乗ってくれたのが我らがレジェンドジョッキー岳隆。あらゆる条件をクリアし、もしもの場合はハレヒノカイザーの安全を優先する彼ならば任せられる!と7月頃に騎乗が決まった。ちなみに一度は断ろうとしていたらしいが、メイショウのオーナーである松下に背中を押されて騎乗を決めたらしい。なんて聖人なのだ……。

 

地道なリハビリをするハレヒノカイザー。ラストランに決めた舞台は、奇しくも父と同じ舞台となる有馬記念だった。

 


 

 

 

奇跡は起こせる、何度だって

 


 

この年の有馬記念はかなりの有力馬が集まっていた。

 

牝馬二冠にエリザベス女王杯でフサイチパンドラやスイープトウショウを下したダイワスカーレット、64年ぶりの牝馬によるダービー制覇を成し遂げた女傑ウオッカ、天皇賞春秋連覇のメイショウサムソンが出走を表明。

さらにはダイワスカーレットの半兄ダイワメジャーにコスモバルク、メルボルンカップを制したデルタブルースも出走。ハレヒノカイザー含め、実にG1馬が7頭も出走するという、豪華な顔ぶれとなっていた。

しかもフルゲート。ここで枠番も重要となってくるのだが……ハレヒノカイザーは8枠の16番。歴史上どの馬も一度も勝利したことがない枠番を引いた。ふざけんじゃねぇぞ神様。

 

嘆いても仕方ない。全力でやるしかないと岳は覚悟を決める。迎えた有馬記念本番。中山競馬場には17万に迫ろうかという大観衆が押し寄せていた。

ハレヒノカイザーは、5番人気。中448日のレースに加え、超不利な大外枠。応援馬券が大半を占めており、勝利を期待するファンはあまりにも少ない。

無事に走り切ってくれればそれでいい。それがファンの願いだった。

 

そんな有馬記念は、悲鳴とともに始まる。またもやハレヒノカイザーがロケットスタートを披露したのだ。

凱旋門賞の記憶が甦る競馬ファン。悲鳴が上がり、どうか止まってくれと叫ぶファンもいた。ただ、そのまま逃げることはせずに最内をキープし続ける。好位追走、ルドルフ戦法を取っていた。

進むレース、どんどん順位を落としていくハレヒノカイザー。もう無理だ、走り切ってくれればそれでいい。勝利を期待することを忘れる。

最後の直線。ファンの目に映ったのは。

 

最内をぶち抜いてハレヒノカイザーだぁ!!カイザーきた!カイザーきた!太陽の皇帝が昇ってきた!

カイザーきた、カイザーが来た!あの日沈んだ太陽がまた昇る!ハレヒノカイザーが昇る!最内をついてハレヒノカイザーがダイワスカーレットに並びかける!ダイワスカーレット必死に粘る粘る!

2007年有馬記念の実況から抜粋

 

最内を上がる、我らの太陽の姿である。ハレヒノカイザーは、最内から一気に先頭に躍り出ようとしていた。

誰もが驚いた。嘘だと疑った。そんなことはありえないと口にした。

しかし、ハレヒノカイザーは上がってきたのだ。変わらない走り、そう、かつての走り……口を割って、笑顔で走るその姿で、彼は中山競馬場を駆け抜けていた。

 

残り200m。ダイワスカーレットを捕まえる。

残り100m。先頭を躱して、単独トップに躍り出た。

いけ、いけ。誰がというわけでもなく、自然とそう口にする。そして彼は。

 

あなたからのただいまに

 

彼は孤独だった

悪意と戦い続け

エゴに振り回されて

それでもなお走り続けた

 

先へ先へずっと先へ

あらぬ疑いをかけられてもただ駆ける

追いつく者がいなくともただ駆ける

 

誰もが傷だらけの身体を慮った

痛々しい姿に目を背けた

苦難の道の連続

それでも笑顔で帰ってくる君に

我々がかけるべき言葉は決まっている

 

わたしたちはおかえりを

 

名馬の肖像・ハレヒノカイザー

 

第52回有馬記念を、見事に勝利した。不可能と思われた勝利を、誰もが信じ切ることのできなかった勝利を、彼は手繰り寄せたのである。

レースを勝ったハレヒノカイザーは笑っていた。我々ファンに笑顔を届けたのである。

あれだけ悪意をぶつけられたのに、心無い罵声を浴びせられたこともあったのに。

彼は、少しも人間を嫌っていなかったのである。

 

これでトウカイテイオーが保持していた長期休養明けのGⅠ勝利を更新。さらには現在においても唯一の記録となる、16番枠での勝利を収めた。さらにはシンボリルドルフから続く3代有馬記念制覇。ヤバすぎィ

 

ハレヒノカイザーはこれで引退。総合戦績13戦10勝2着3回。ディープインパクト同様、現役完全連対を成し遂げた。

 


 

 

 

引退後

 


 

引退後は舎代で種牡馬に。種牡馬事情なんかは後述するが、とんでもない人気を博している。

また後継種牡馬にも恵まれており、特に2018年度の三冠馬・ソルサンクトゥムには期待がかけられている。

 

また海外にも後継がおり、一時は絶滅の危機に瀕していたバイアリーターク系を復活させるほどの活躍。

今は種付け頭数は減っているものの、まだダイワメジャーと一緒に頑張っている。そろそろ休ませてやれ。人の業が過ぎるぞ。

 


 

 

 

特徴・評価

 


 

圧倒的なスピードを武器にして戦う快速馬。そのスピードは次元が違うと称されるほど。

当時の基準でも速い上に、2025年現在基準でも並ぶ者がいないと言われている。なにより、現役時代に対決した騎手が口を揃えて「あれほど速い馬は見たことがない」とコメントするほどの快速馬。

レーススタイルは好位追走のいわゆるルドルフ戦法。逃げ馬を見る形でレースを展開し、最後にポンと抜け出す競馬を得意としていた……が。

 

これはあくまで仮の姿。本来のスタイルは競馬の理想ともいえる、相手に何もさせない逃げである。

極論、道中最速の上がりを記録して最後も最速を刻めば勝てるでしょ?という誰がそんなことやれんだと言わんばかりの暴論を可能にしたのが、このハレヒノカイザーである。事実、カイザーはこのスタイルで凱旋門賞を制している。

似たようなスタイルにサイレンススズカがいる。彼もまた、相手に何もさせない逃げを可能にした快速馬であり、岳自身も「ハレヒノカイザーとサイレンススズカは似ている」とコメント。走るの大好きだし似た者同士なのかもしれない。

……まぁ、ラストランで騎乗した岳が最強のスタイルはルドルフ戦法と言ったので我々がなにを論じても無駄である。なんなら岡邉こと大僧正もそう言ってるし。

 

また、ハレヒノカイザーはスタートが抜群に上手かった。モズメイメイのロケットスタートが記憶に新しい人も多いだろうが、ハレヒノカイザーは毎回あのスタートを決めてくる。は?

逃げ馬は慌てるだろう。ハナを取りたいのに、気づいたら他の馬が前を走っているのだから。

負けじと競りかけてくる。そうなったら、ハレヒノカイザーは内で控える形をとる。無理に逃げようとしないのだ。

逃げ馬を掛からせハイペースを展開。自滅するのを待って、最後にポンと抜き去る。これがラストランで見せた、ハレヒノカイザーの走りの完成形である。

つまるところ、ルドルフ戦法をさらに発展させた予測可能回避不可能の詰み状態を序盤で作り出すことができるのだ。えげつないにもほどがあるぞ。

 

しかもハレヒノカイザーはとんでもなく賢い。古馬以降のレースは、基本的に自分でレースを組み立てていたと岡邉が証言している。

自分でペースを作り、乱れることなく高速巡行を披露する。さらには一度たりともスタートをミスらなかった。

来ないならば自分がペースを握って高速巡行。来るならばさっさと控えてスタミナ温存。最後には最速の上がりで駆け抜ける。

うん、これなんて無理ゲー?そらラビットなんか用意しても無意味って言うわ。だって蓋もできないしペースも握られるんだもん。

 

気性に関しては気性難が多いテイオー産駒にしては珍しく、大人しくて従順。素直で利口な馬であり、褒められると飛び跳ねて喜ぶ可愛いやつだったと多くの人が証言している。

 

そんな本馬の弱点は身体の虚弱さにある。テイオーの脚の脆さは、ハレヒノカイザーにも遺伝していた。

フランスで治療を担当していたアレクサンドル・フレッチャー医師曰く、「本気の出力に耐えきれる頑丈さがない」らしい。今までケガらしいケガをしなかったのは、本気で走っていなかったからとのこと。

……本気で走らずにダービー勝ったの?しかもディープ相手に?どうなってんだよ。

 

また、ハレヒノカイザーの大きな悪癖として、当歳馬の頃からあった脱走癖が挙げられる。ちなみにこれ、舎代でも変わらずあった模様。

ま~脱走するわ脱走するわ。気づいたら他の放牧地にいることなんてざらであり、職員が気づくと即座に逃げて自分の放牧地に戻る。なんて質が悪いやつだ。

ただ、こんな悪癖が許せるぐらいには活躍したので、スタッフも大目に見ていたそうだ。だとしても検疫厩舎の脱走騒ぎはどうかと思うぞ。

 

 


 

 

 

みんなを照らす太陽

 


 

ハレヒノカイザーの異名でもある「太陽の皇帝」。その名の通りに、彼は競馬界を照らし続けていた。

それだけではない。基本的にどの馬とも仲が良かったのである。どんな気性難でも彼には心を開くともっぱらの評判。

 

その中でも特に仲が良かったのはディープインパクトとゼンノロブロイだ。ディープインパクトは親友の間柄であり、放牧地では常に彼と併走していたとスタッフはコメント。引退してもめちゃくちゃ元気だったらしい。

ゼンノロブロイとは現役時代で同厩舎の先輩と後輩。ゼンノロブロイは良くハレヒノカイザーの面倒を見ており、そんなロブロイにカイザーは懐いていたそうだ。

さらにはシンボリクリスエスにキズナ、キングカメハメハと交友関係は多岐に渡る。フットワーク軽いなコイツ。

 

ただ、どうもヴァーミリアンを筆頭とした一部の馬からは怖がられていたらしい。何をされたんだよカイザーに。

 

そしてコイツの範囲は牡馬だけにとどまらない。牝馬にも適応される。

ハレヒノカイザーは牝馬にモテモテだったそう。これに関してスタッフ曰く「足が速くてコミュ力抜群で優しいイケメンなんか誰でも惚れるでしょ」とのこと……実際その通り。

カイザーはめちゃくちゃイケメンホース。父親に負けず劣らずのグッドルッキングホースである。

そんなハレヒノカイザーの正妻ともいわれているのがラインクラフト。現役時代からとても仲が良く、夏休みの放牧地にわざわざハレヒノカイザーがいる牧場を選択するほどの熱愛っぷり。

しかも、一度カイザーの隣をキープしたら梃子でも動かないらしく、苦労したとのエピソードがラインクラフトの担当だった武村の口から明かされた。可愛い。

そんなラインクラフト。なんと4度も種付けされている上にハレヒノカイザー以外は拒むので実質ハレヒノカイザーとの産駒しかいない。どんだけ好きやねん。嫌いじゃないわ!

 

当のハレヒノカイザーはというと……よく分からん。いや、確かにみんなといるのが好きなようだが、別に一頭でも特に変わらないのである。

ディープインパクトとゼンノロブロイの訃報を聞いても、次の日には走り回っていた本馬。スタッフをして「何を考えているのか理解ができない」と言われるほど。

きっと彼にも思うところはあるのだろう。ただ、それを表に出さないだけ……なのかもしれない。

 

 


 

 

 

主戦騎手岡邉幸生

 


 

デビューから凱旋門賞まで主戦を務めていた岡邉幸生。彼はかねてよりもう一度ルドルフのような馬に巡り合いたいと言っていた。その願いが、騎手晩年にようやく叶ったのである。

ルドルフのような賢さに凄まじいスピードを誇るハレヒノカイザー。デビュー前から惚れ込んでおり、時が経つにつれてどんどん入れ込むようになっていった。

記者にはハレヒノカイザーについて絶賛するコメントを残し続け、周りの騎手にもハレヒノカイザーを自慢していた。シンボリルドルフと同じくらい、大切な馬だったのである。

 

だからこそ、凱旋門賞の事故が岡邉にとってどれほどの絶望だったかは想像に難くない。一日中借りたアパートの部屋で泣き続け、帰国する時も沈んだ表情をしていた。

その後すぐに騎手を引退することを発表。引退式もいらないと突っぱね、競馬界から身を引いた。

 

そんな絶望の底に沈んだ彼を引き上げたのは、誰でもない彼が惚れ込んだ太陽である。

 

カイザーのラストランとなった有馬記念。岡邉は富士澤たちから絶対に見に来るように言われ続け、中山競馬場に足を運ぶ。

そこで見せられたのは、かつて自分が教えたスタイルで勝利するハレヒノカイザーの姿だったのだ。

自分の手で未来を壊してしまった馬が、岡邉は何も間違っていないとばかりの激走で勝利したのである。

 

入線後は感極まって泣き崩れていたらしい。そりゃこんなことされたら誰だって泣くわ。

さらには、ハレヒノカイザーとダイワメジャーの引退式と同時に岡邉の引退式も敢行。もう一度ハレヒノカイザーに騎乗することが叶った。この時の写真は名馬の肖像にも使われている。

 

自分が惚れ込んだ馬が、奇跡の復活を遂げた。さらには競馬界から身を引こうとしていた岡邉を、評論家として競馬界に復帰させたのである。

その要因は間違いなくハレヒノカイザーだ。彼が、岡邉を復活させた。そう言っても過言ではない。

 

……ここまでならいい話で終わったんだけどなぁ。

 

その後、岡邉はある本を出版する。そう……かの公式怪文書として有名な「ルドルフの背」の続刊、「太陽の君」を出版したのだ。えぇ……。

いや、いくら脳を焼かれることがあったとはいえ、まさか続刊が出るなんて思わないだろう。さらにはルドルフの背にもあった妙に生々しい表現も健在。ファンを戦慄させた。

 

なお、この本をハレヒノカイザーに見せたところ喜んでいたらしい。スタッフ曰く、「意味は理解してないけど褒められてるのは分かるから喜んでるだけ」らしい。そらそう。

 


 

 

 

種牡馬として

 


 

結論から言うがハレヒノカイザーの種牡馬価値はかなり高い。なんならディープインパクト以上に高かった。

まぁ

・絶滅危惧種のヘロド直系で

・主戦場にしていたのがマイル~中距離で

・スピードを武器にした快速馬

なんて、どこをとっても需要しかない種牡馬だ。国内外問わずに人気が出るのもまた、当然と言えるだろう。

 

初年度の種付け金額はなんと1200万円。ディープインパクトと同額である。なのにあっという間に満口になった。当然かもしれないが。

次年度からさらに種付け料は伸びる。受胎率も悪くなく、なんなら種付けも特段嫌がっている素振りもなかったそれにしては随分虚無い表情してたけど

最終的な種付け金額は5000万を超えていた。それでも即満口になるのだから、どれだけの期待がかけられていたのかが分かる。

 

そんなハレヒノカイザーだが、種牡馬としてはコンスタントに良い感じの馬を出すアベレージヒッターみたいなもんだったたまに場外ホームラン打つけど。毎回ディープインパクトとリーディング争いをする時点で大概化物なのだが。

 

特に期待が込められていたのがラインクラフトとの産駒。1番仔それなりに活躍したものの、重賞は勝ちきれず。2014年に2番仔をラインクラフトが受胎。そして、この2番仔こそが後のソルサンクトゥムである。

ソルサンクトゥムは凄かった。2018年クラシック世代の中心ともいうべき牡馬であり、父が記録した芝2400mのワールドレコードを更新したばかりか、無敗の三冠に生涯負けなしというおっそろしい強さを誇ったのだから。

なんなら2018年は無敗の三冠馬と三冠牝馬が同時に誕生した年であり、そういう意味でも最強世代の一つに数えられている。カイザーの世代?カイザーとディープが強すぎるだけでは……?

このソルサンクトゥム、主戦騎手はレジェンドジョッキー岳隆だったのだが。

Q.ソルサンクトゥム強いですね

A.んーカイザーの方が強かったかな

と、終始言われ続けていた岳畜ぅー!。冗談かもしれないけどそりゃあんまりだぜ。

 

海外需要も高かったハレヒノカイザーは海外にも産駒がいる。というか海外の方が多いかもしれない。そりゃ海外でも絶滅危惧種のラインなんだから欲しがるに決まってるわ。

海外での成績はぼちぼち……というには結構な活躍馬がいる。特に有名なのはイギリス二冠に加えてG1を8勝したヴァンキッシュウォリアーか。いや、コイツもバケモン。

3年目辺りでこんなのを輩出しているのでまぁ需要は右肩上がり。お嫁さんもたくさんのウハウハである。しかもモテるし。

 

2025年現在でも現役。さすがに後継もいるので種付け数は激減している、が。元からかなりの数種付けされていたのでヤバかった。

なんせ初年度から200頭を超えるほど種付けされるわ、毎年300頭近く種付けされるわで引退後も人のエゴに振り回される日々だった模様。

種付けが増えると寿命に影響がー!なんて説もあるが、今も元気に走っている姿を見ているとホンマか?と言いたくなる。たださすがにもう休ませろ舎代。

 

とはいっても、今ではかなり良い暮らしをさせてもらっているようである。

なんせ寝藁は毎日ふかふかのモノを用意してもらい、ラジカセの音楽に新聞を持ち寄って読ませるなど、他の種牡馬なんて比較にならないほどの好待遇を受けている。

とにかく、今年もまだお仕事はありそうだ。

 


 

 

 

ハレヒノカイザーにまつわるエピソード

 


 

・現役時からの趣味はクラシック音楽を聴きながら寝ること。随分とまぁお洒落な趣味である。

 

・新聞を読む馬はたくさんいるが実際に新聞を読んだ馬である。自分が褒められている記事がお気に入りらしい。

 

・苦手な馬が存在しない。誰に対しても仲良くなる。

 

・ほとんどの騎手はハレヒノカイザーの強さをスピードと答える。だが、岳はハレヒノカイザーの強さを「決して折れない精神性」と答えていた。

 

・全妹にブランポラリスがいる。こちらは09世代の牝馬であり、重賞未勝利ながらもファンに愛されていた。

 

・日本調教馬として初となる凱旋門賞を制した馬。現在時点においてもハレヒノカイザーしかいない快挙。

 

・ハレヒノカイザーがロンシャンで記録したレースレコードはいまだに破られていない。というか、シャンティイでファウンドが記録した2:23:61が最も迫ったタイムであり、21秒台はおろか22秒台すら出ていない。まさしくセクレタリアトに並ぶ更新不可能のスーパーレコード。

 

・種牡馬入りする際は多くの国がハレヒノカイザーを狙っていた。その時の最高額は200億すらも超えていたと噂されている。

 

・イギリスの女王陛下も気に入っていた模様。海外でもかなりの人気を博していた。ただしフランス、てめーはダメだ。

 

・当時はドーピング疑惑によりフランスで批判されていたが、現在は向こうの競馬統括機関が働きかけたことにより名誉を回復。というか、当時から向こうの競馬ファンに愛されていたようだ。

 

・ハレヒノカイザーのレーティングは凱旋門賞の135。当初は126なのを考えるとかなり上がった。まぁ20年経った今でも迫るタイムが出せてないし、なんならこれ以上でもおかしくないのだが。

 

・意外かもしれないが、日本で年度代表馬になったことはない。まぁ相手になっていたのがディープインパクトな上に、2007年は1勝しかしてないから当然か。それでもJRA特別賞は2度受賞していた。

 

・JRAが作った夢のVSでは東京競馬場芝2000m、天皇賞・秋想定でサイレンススズカとマッチアップしていた。どちらも最強格の逃げ馬(ハレヒノカイザーは逃げ馬じゃないけど)、まさしく夢のVSと言える。

 

・母馬ブランシュテルはハレヒノカイザーを溺愛していたらしい。子離れの時も心配するように鳴き、脱走して会いに行ってた時は優しい顔をしていたのだとか。まぁブランポラリスの時も同じような感じだったので、ブランシュテルが子煩悩なだけかもしれないが。

 

・実はハレヒノカイザーと併せをした馬はやる気をなくすという噂があった。あまりの能力差に走る気をなくした、なんて説が有力視されているが真相は不明である。

 


 

 

 

後年の評価

 


 

ハレヒノカイザーの賢さは時折理解できないことがあるともっぱらの評判。レースの組み立てを自分でやる上に、お仕事になると人間の手を煩わせることなく遂行する。

種付けが好きなのか?と思えばそういうわけでもなく、レースが好きか?と言われてもよく分からない。

総じて何を考えて行動しているのかよく分からない馬である、というのがスタッフの言葉。ただ、人の笑顔が特に好きだったのは分かっている。

このことについて岡邉は「ハレヒノカイザーの考えが我々に理解できるはずもない」とドヤ顔していた。ドヤ顔して言うことじゃねぇぞ。

 

騎手からの評価も総じて高く、日本史上最強馬に推す声も多い。また、海外でも「理想のサラブレッド」と多くの調教師が称賛している。

国内外問わずに評価が高いハレヒノカイザー。このことを聞いたらきっと喜ぶだろう。多分。

 

これまで重賞に縁がなかった春陽オーナーに初めての重賞をプレゼントしたばかりか、ダービーの栄誉に加えて凱旋門賞までプレゼントした孝行息子。晩年にカイザーに出会えたのは、まさしく春陽にとって運命ともいえるだろう。

そんな春陽幸光は2014年に亡くなっているが、息子である春陽誠一が相続。この春陽誠一も2015年産のソルサンクトゥムを引き当てるなどすんごい豪運の持ち主である。

 


 

 

 

代表産駒

 


 

2010年度産:ヴァンキッシュウォリアー(英国クラシック二冠他GⅠ6勝)。マイル~中距離で特に活躍した。また、岳に凱旋門賞ジョッキーの栄誉をプレゼントしている。

 

2015年度産:ソルサンクトゥム(牡馬クラシック三冠他GⅠ5勝)。シンボリルドルフの平地芝GⅠ記録7勝を塗り替える8勝をマーク。海外でも活躍し、岳を鞍上にキングジョージや英チャンピオンステークスの勝利をプレゼントした。

 


 

 

 

血統表

 


 

トウカイテイオー

シンボリルドルフ

パーソロン

Milesian
Paleo
スイートルナ

スピードシンボリ
ダンスタイム
トウカイナチュラル

ナイスダンサー

Northern Dancer
Nice Princess
トウカイミドリ

ファバージ
トウカイクイン
ブランシュテル

ダイタクヘリオス

ビゼンニシキ

ダンディルート
ベニバナビゼン
ネヴアーイチバン

ネヴァービート
ミスナンバイチバン
ブランウラノス

タイテエム

セントクレスピン
テーシルダ
プリテイキャスト

カバーラップ二世
タイプキャスト

 


(4代血統表:なし)

 


 

 

 

その他

 


 

 

随時更新予定です。




30分後にもう一本投稿します。そちらも良ければどうぞ。
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