お久しぶりの私です。現在私は舎代でスローライフを送っていますよ。
いやはや、昔ロブロイさんが言ってましたね。
『引退したらカワイ子ちゃんとののんびりスローライフが待っている!』
みたいなこと。あれも懐かしいですね~。私は走れれば何でもよかったので、特に気にしてはいませんでしたが。
……んで、実際どうだったのかというと。
『やだー! 助けてカイザーさーん! もう嫌だよー!』
『我慢してくださいよコンちゃん。誰もが通ってきた道です』
『やだー!』
カワイ子ちゃんはいましたね、はい。それは間違っていません。でも、断じてスローライフは待ってねぇ! ってとこですか。あ、ちなみにコンちゃんというのはコントレイル君のことですね。受話器みたいな白いとこがトレードマークの子です。ちなみにプイちゃんの息子でもあります。
コンちゃんが嫌がっていること。それはまぁ、アレですアレ。
『コンちゃん確か、200頭でしたっけ? それだけ期待されてるってことですよ』
『確かに人間さんは好きだけどさぁ、期待に応えたいけどさぁ! それでも辛いものは辛いよー!』
『分からないでもない』
種付けでございますね。私達種牡馬とは切っても切り離せない、アレ。次世代に繋げるための行為です。
これがまー多いこと多いこと。特にコンちゃんは期待が大きいためか、頭数も増えるわけで。200頭ぐらい? って言ってましたかね。人間さんの会話だと。200頭、200頭ですか。
『まぁまぁ、安心してくださいよコンちゃん』
『どこに安心を見出せっていうの!? ぼくはもうヤダ』
『私はほぼ毎年300頭は種付けしていたので。コンちゃんはまだマシです』
『ヒエッ』
ぶっちゃけて言いましょう。私にかかる期待はコンちゃんはおろか、プイちゃんすら比じゃないほどでした。コンちゃん達は飽和気味の血? でしたが、私は超絶希少血統ってこともあり、その分だけ次代に繋げようと多くの子に種付けしたわけですね。
別に悪いとは言いませんよ。好きでもなければ嫌いでもない種付け、お仕事と割り切ってできたので……前世が前世だけに葛藤が凄かったですけど、何百頭も種付けしてたらそんなもん薄れますよ。
そんな私、初年度から200頭を超えていました。250とか言ってましたかね? 詳しい数は覚えていません。300とかいったらどうでもよくなりますよ、はは。
コンちゃんにアドバイスをするとしたら。
『ま~健康には気を付けてください。普段からたくさん食べて、たくさん運動して。それが長生きの秘訣です』
『……カイザーさんやキタさんみたいに?』
『そうです! キタちゃんを見習いましょうコンちゃん!』
キタちゃん、というのはキタサンブラック君のことですね。2018年ぐらいだったかに舎代に来た子で、私と一緒にたくさん走ってくれる子です。向こうはトレーニング目的らしいですけど、私と一緒に走ってくれるので彼はいい子。私が今決めました。
それにしても、入った頃に比べると入れ替わりが凄いこと凄いこと。いろんな子と関われてウルトラハッピーですよ。
『後、キズナさんが壁をどんどんするからうるさいです……』
『分かりました。それに関しては私の方から言って聞かせましょう』
まだやってたんですか壁ドン。迷惑だから止めなさいって前に言ったばかりでしょうが。
そうそう。こっちのお家は、現役の時と特に変わりはないですね。一つ一つスペースが割り当てられていて、そこにみんな住んでいる感じです。
私? ふっふっふ、私はですね。
『あ~あ、ぼくもカイザーさんみたいに個室が良いなぁ』
『ふふん、ここは私の楽園ですからね。あ、向こうがお家なので好きに休んでいっていいですよ。ふかふかの寝藁もあるので』
『やったー!』
なんと私、個室を与えられています! これが特別待遇ってやつですよ。羨ましかろ?
しかも、ただの個室ではありません。私のお家と放牧地は直通で、ゲートもフリーだからいつでも走れる素敵仕様! さらには他の放牧地にも繋がっているという、至れり尽くせりの内容! こ、こんな楽園が許されていいんですか!?
さらには、他の放牧地とつながっている関係上、いろんな子達がこっちに来てくれます。まさにコンちゃんがそうですね。あ、新しい子がこっちに来たってアレは。
『うぅ……気が滅入る。また始まる、このシーズンが』
『おや、イーくん。いらっしゃい』
『あ、カイザーさん。お邪魔してます』
イクイノックス君ことイーくんですね。この子もま~凄い子らしいです。人間さんの会話を聞いただけですけど。あ、ついでにキタちゃんも来ましたね。
んで、なにやら沈んでいますが……種付けでしょうね、絶対に。このシーズンが、って言ってますし。
『諦めろイクイ。俺もすでに諦めている』
『そ、そうは言いますけどキタさん』
『俺らはまだマシだ。目の前にいるカイザーさんの全盛期はもっとすごいぞ? 俺らなんか比較にならん』
比べるものでもないと思いますけどね。辛いもんは辛いので。私は別に辛いとは感じませんでしたが。しいて言うなら葛藤が以下略。
『そういえばカイザーさん、ソルはどこに? ここにいると思ったんですが』
『ん~? ソルちゃんなら端っこの方で寝てるんじゃない? いつもそうだし』
ソルちゃんはソルサンクトゥム。私とクラちゃんの息子ですね。なぜかは知りませんが、私はビビられています。なんでや、何かした記憶はないですよ。
『なんで私はソルちゃんにビビられてるのやら。全くもって分かりませんね』
『まぁ、カイザーさん雰囲気凄いし』
『めちゃくちゃ速いって分かるよね。本当に高齢なの? って思いたくなる』
『毎度トレーニングしてもらってますけど、どう考えてもあなたはおかしいです』
みんなして酷くないですかね?拗ねますよ私、ツーン。
ここにはいませんけど、キズナことキーくんにオルちゃんとかもいますね。舎代にいる子みんな友達。
『今日もトレーニングお願いしますよ。人間に新しい重り着けてもらったんで!』
『それ絶対トレーニングしないようにするための奴じゃ』
『いいねいいね! それじゃあ走ろう!』
『なんでカイザーさんはずっと走れるんだろうか……』
走るの好きだから。それに尽きます。
◇
さ~てさて、今日もたくさん走りましたね~。帰れば餌もありますし、食べたらまた走るのもいい。ちなみにみんなはもう帰りました。私と違って、みんなは放牧の時間が限られていますからね。
でも、今回は音楽を流してリラックスタイム。最近は技術の進歩も凄いもんで、ラジカセじゃなくなりましたよ。クラシック音楽なのは変わりませんけど。
(こんなスローライフを送れるのは悪くないですね)
種牡馬生活も悪いもんじゃないですよ。いろいろとありましたけど。
クラちゃんとの再会とか、他の子に種付けしに来たらクラちゃんに睨みつけられたこととか。睨んでも仕方ないでしょ、お仕事なんですし。
後はそうですね~、海外からの子とかもいましたね。中でも印象的なのはゼニちゃんでしょうか?
アメリカから来た子らしくて、ものすごくでかかったです。私よりもでかいからちょっとビビりましたね。
体格も印象的でしたけど、なによりも印象的なのは。
『わたしと一緒にアメリカに行きましょう!』
『はい?』
初対面で告白まがいのことされました。あらやだ情熱的。丁重にお断りましたけど。
それだけでは終わらず。クラちゃんのように私の隣をキープしては動こうともしませんでした。人間さんが頑張って動かそうとしていたのが記憶に新しいですね。
何がそんなに気に入ったの? って聞いてみたんですよ。
『可愛い! カッコいい! それ以上の理由要らない!』
『あ、はい』
『後、凄く速そう! ううん、きっと速い! だからアメリカに行きましょう?』
らしいです。いやはや、可愛くてカッコよくて速いハレヒノカイザーをよろしくお願いします。アメリカ行きは丁重にお断りします。ごめんね。
そんなゼニちゃんとの子もいるわけですが。その子の唯我独尊っぷりは日本にも届いています。なんでも、とんでもない気性難だったとか。
(とてもマイペースな子らしいですね。オブラートに包んだ表現ですけど)
邪魔したら問答無用で殺しにかかってくる子をマイペースと言っていいのか。骨折した人もいるらしいです。ちなみに会ったことはありません。アメリカですからね、その子。
ゼニちゃんとの子で思い出しました。私の子は海外でも活躍しているらしいですよ。ふふん、世界にも名を轟かせるハレヒノカイザーです。
日本もソルちゃん以外のどでかい子が出てきた、なんて言ってましたね。名前はジュスティツィアでしたか。クラシックも海外のレースも取ったそうですよ。
(私の血は、いろんなところに繋がっているようで)
これは嬉しい限り。鼻が高いってもんです。
話は種付け頭数になりますが、最近はかなり少ないです。10から20ぐらい? ですかね。日本にも海外にも後継が生まれたもんで、私はほぼお役御免状態。そのお役御免状態で、ジュスティツィアって子が生まれたわけですが。
後はソルちゃんに頑張ってもらいましょう。きっと頑張ってくれますよ、うん。種付けが近づくと毎日のように死んだ目をしてますけど。
さて、種付けのことを考えていたら眠くなってきましたね。
(今日はもう寝ましょう。なんだか、凄く眠いので)
明日もきっと良い日になる。なんでって? いつも通り、私の勘ですよ。
どんな時でも明るく楽しく、未来に向かって前向きに。みんなが笑顔になるために、明日もまた頑張りましょう。
『おやすみなさ~い……すやぷぅ』
それにしても寝藁がふかふかで最&高。ぐっすり眠れますよ。
◇
とある日、一つのニュースが呟きサイトのタイムラインに流れる。
【ハレヒノカイザーは今日も元気!キタサンブラックと一緒に走り回る姿を激写!】
日本唯一の凱旋門賞馬、ハレヒノカイザーが舎代で走り回っている動画が公開される。つい近日撮れたものらしく、およそ20歳を超えた馬とは思えないほどに元気だった。
昔の種付けの数は、他の馬よりも多かった。毎年300頭近く種付けをしていたというのに、今でもピンピンしている。
これについて舎代の代表である嘉田は、こんな回答を残している。
「絶倫、なんでしょうね。種付けした後でも、何事もなかったように元気に走り回っていますから」
まぁ、一つ言えることは問題にしていない、ということだろう。
今日も元気であることが分かると、人々は自然と笑みを零す。
「今日も元気だな~。本当にいろんなことがあったのに」
「な。カイザーの元気な姿を見ていると、こっちも元気になるよ」
「さ~て、お仕事頑張りますかね~」
元気に走り回る姿に元気をもらい、つい笑ってしまうようなファンが多くいる。どうやら彼は、引退後も人々の希望になっているようだ。
そんな彼の産駒は、つい最近ソルサンクトゥムに比肩する馬が現れた。
その名はジュスティツィア。ジェンティルドンナとの間に生まれた牡馬であり、世代のダービー・菊花賞馬に輝いている。すでに種牡馬を引退しかけている状況だというのに、一線級の牡馬を輩出したのだ。さらにジュスティツィア、有馬記念も制覇しているので、四代ダービー制覇に加えて四代有馬記念制覇+父母との有馬記念制覇という史上類を見ない記録を叩き出している。
ソルサンクトゥムの産駒も順調そのもの。G1ウィナーも輩出しているので、このラインは安泰といってもいいだろう。
これからもどうか長生きしてほしい。人々はそう願った。
今日も元気なハレヒノカイザーです。
凱旋門賞エピソードをそのままウマ娘に落とし込む話ができましたが、あまりにもアレなため封印するべきか。