同世代のUMAさん   作:カニ漁船

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次なる邂逅。


新しい出会いがありました

 うぇ~い私です。今日も元気に調教頑張りますよ~。

 さてさて、2月も中頃を過ぎた現在、私の次走が決まったわけですよ。私の次走はと言いますと。

 

「次は弥生賞だ。皐月賞のステップレースとして使うぞ」

 

 弥生賞というレースらしいです。これも重賞なんだとか。確か、新潟2歳ステークスよりは格が上だとかそんな話を聞いたことがあります。

 そんな弥生賞に向けて現在も頑張っている私ですが、ご存じの通りケガ明け。どちらかと言えば調整目的らしいです。後はなんだっけ、距離不安がどうたらこうたらって言ってましたね。

 

「カイザーの血統を考えると、中距離でもちょっと不安が残りますよね富士澤さん」

「あぁ。父のトウカイテイオーも長い距離は厳しいところがあったし、母父がダイタクヘリオス。母系もマイル血統だからな。中距離がいけるかどうか、この弥生賞で確かめる」

 

 ほーん2000mですか。確か新潟2歳ステークスが1600mだったから……さらに400m伸びるのか。

 

(私にとって未知の距離。これは楽しみだね)

 

 距離が伸びるってことはあれですね。走り続ける時間が長くなるということ! 走る快感を、さらに味わえるということだ!

 う~ん考えただけで今から楽しみになってきました。早く来ないですかね弥生賞。気合いが入りますよ。

 

「岡邉さんはなんて言ってるんですか?ハレヒノカイザーの距離について」

「岡邉はいける、と言っている。というのも、カイザーが利口だからだ」

 

 ちなみにこの場に岡邉さんはいない。すぐ来るとは思うけど、今は席を外しているタイミングだ。それにしても私がいなくても岡邉さんは私をべた褒めらしい……最高だね。

 

「ペース配分を覚えさせれば、マイル血統でも問題なくこなせる。なんなら長距離でも、なんていうくらいだ」

「確かに聞き分けいいっていろんな人から聞きますねカイザー。俺が調教で騎乗する時も、素直に言うことを聞きますし」

「そうだ。この賢さがカイザー最大の武器でもある。弥生賞でステップアップして、皐月賞をいただく。無論、その後のクラシックもな」

 

 大層な野望を抱いているようですね。クラシックで思い出しましたが、クラシック音楽ならよく聴いてますよフフフ。聴いていると良さが分かるようになってきましたよ。良いですよねクラシック音楽。どことなく教養が高そうな気がします。

 冗談はさておき、クラシックレースというのは一生に一度しか出走ができないレースのことらしい。なんでも、ものすごく格が高いレースなのだとか。壬生さん達が会話をしているのを小耳に挟んで情報を得ました。どれくらい格が高いんでしょうね。新潟2歳ステークス何個分だろうか?

 そして私はそんなレースに出走することができる、かもしれない段階まで来ているそうです。ということは私、大層なご身分かもしれません。

 

(まぁ当然でしょう。私の名前はカイザーですからねカイザー。格は高いですよ)

 

 ま、この格というのはレースの格。勝てば勝つだけ、より上の格に出走できる確率は高くなるんだとか。いろいろとあるんですねお馬さんのレース。細かいルールがあってびっくりですよ。

 

「弥生賞を勝って優先出走権を、ですね。3着まではもらえますから」

 

 ほほう、優先出走権とな。多分読んで字のごとくでしょう。

 そんな話をしていると、岡邉さんが帰ってきた。よ~し、調教が始まりますよ。

 

「すまない2人とも。すぐに準備をする」

「いや構わない。カイザーが身体をほぐすいい時間がとれた」

「今回の併走相手は確か、アドマイヤジャパンでしたよね?」

 

 アドマイヤジャパン、だと……! な、なんてスケールの大きい名前!

 

(ジャパンは確か、日本。なんてこった、日本を背負った子と一緒に走ることになるとは)

 

 私よりもスケールが……いや、どっこいどっこいかもしれませんね。なんてったって私は皇帝ですよ皇帝。国のトップみたいなもんです。つまり実質同格みたいなもの。ただの名前と言ったらそれまでなんですが。

 それにしてもアドマイヤジャパン。聞き覚えがないということは多分、栗東の子なんでしょう。プイちゃんと一緒のトレセンから来た子。これは楽しみですね。

 

(走ったことがない子と走る、楽しみ!)

 

 ふふん、今から会うのが楽しみですよ。

 

 

 それからしばらく。相手のアドマイヤジャパン君が来ましたよ。

 

(私とは違う。どっちかというと、明るい茶色みたいな毛色だ)

 

 今日はジャパン君と走るのか。楽しみ楽しみ!

 

『今日はよろしくね!』

『ん? よろしく~』

 

 しっかりとごあいさつ。あいさつは大事。ジャパン君、今日は一緒に楽しみましょうね!

 

『ねぇねぇジャパン君、走るのは好き?』

『変なこと聞くね、お前。勿論好きだよ』

『分かる! 走ってる時の感覚堪らないよね!』

『気持ちは分かるよ。背中の重しは邪魔だけど』

 

 おぉう、この子騎手さんを重し扱いしておる。そんなものなのかな? ちらほらと同じような子はいるし。

 併走前に話して意気投合。こうしてまたお友達が増えましたよ。

 

『俺が住んでるところさ、同じ世代に凄い子がいてさ~。その子と走ったことあるけど、本当にやばかったねアレは』

『凄い子?……プイちゃんか!』

『プイちゃん? そのプイちゃんかどうかは知らないけど、ディープインパクトっつって、とにかく速いんだよ。ヤバかったなぁアイツ』

 

 あ、他の子から見てもプイちゃんってヤバいんだ。こっちに来てたりしないのかな? プイちゃんと会わないけど。

 

『でもさ、こっちにそのディープと同じくらい速いやつがいるらしくてさ。どんなものなのかね~。走ってみたいよ』

『あ、それ私だね。プイちゃんと同じくらい速い子』

『……え? もしかして、お前が例のカイザー君?』

 

 イエス、ザッツライト。わたしこそがハレヒノカイザーである!

 ジャパン君の反応は、驚いてる驚いてる。人間だったら間違いなく大口を開けて固まってるね。素晴らしい反応だ。

 

『私、本物。本物のカイザー君改めハレヒノカイザーです』

『なんていうか、世界は狭いなぁ』

 

 分かるわ。意外なところで会ったりするよね、目的の子と。

 

『それにしてもプイちゃんのこと知ってるのか~。プイちゃんって凄い馬だよね。UMAって感じ!』

『いや、それに匹敵するカイザー君も大概化物だと思うよ。実際のところは知らないけど。てかUMAって何?』

 

 黄昏ているジャパン君を横目に、準備が整ったみたいだ。よっしゃ、併走じゃ併走じゃ。

 私が外を走り、ジャパン君が内を走る。ただ、今回の私は本気を出さないように岡邉さんからセーブをかけられているのだ。

 

(プイちゃんと走ったあの時と同じことにならないように、って言ってたね)

 

 う~ん、あの時は本当に最高の感覚だったんだよなぁ。でも、今回はまだ練習。本番に影響が出ないように、力を出さないようにするのは大事。

 それにあれだ。これはまだ全力の20%だぜ、とかするの面白そうだし! 力隠してる系競走馬です、どうも。

 肝心のジャパン君の実力なのだが。こちらも中々の実力者。少なくとも、美浦トレセンにいる同世代の子と比べても速い方だ。

 

『本気を出してくれちゃってもいいんだよ? カイザー君。ディープインパクトに匹敵するらしいじゃん』

 

 おっと、その挑発には乗らないぜいジャパン君。こちとらケガをするわけにはいかないんでね。

 

『ま、いいや。このまま抜かせてもらうよ!』

 

 コーナーを曲がり終わったタイミング、ここでジャパン君が加速する。踏み込みの質が、明らかに変わった。スパートをかけたんだろう。うん、速いね。中々の加速だ、グッド。

 はてさて、こちらの指示はいつから出るのだろうか? 岡邉さんは3馬身離されてもまだ見たまま、鞭は入らない。

 

(鞭が入ったタイミングが、スパートをかける時。じっくりと待ちますよ私は)

「まだだぞ、カイザー。離されないようにだけするんだ」

 

 あいあいさー。ジャパン君から離されないようにね。しっかりと守りますよ。

 でも、()()()()()()()()()()()()()()

 踏み込む力をちょっとだけ強くする。本気じゃないよ、ただジャパン君に追いつくために──ほんのちょっと加速するだけッ!

 力を込める。地面を抉る感覚が、四本の脚を通して伝わってくる。うん、この感覚……悪くない。

 

『──え?』

『やっほー』

 

 空気の抵抗が変わる。より強く、阻むように吹いてくる風。そんなことはお構いなしにスピードを上げて、私はすぐさまジャパン君に追いつく。

 

『っ、引き離す!』

『一緒に走ろうよ!』

 

 おーい、待てやーいジャパン君! 一緒に走ろう! 一緒に走って風になろう「全力を出すなカイザー!」ぐえっ!?

 

(え、え? 全力じゃないよ! まだまだいけるよ!)

 

 まさか、無意識のうちに全力を出していたとでもいうのか!? それはそれでカッコいいからアリではないだろうか? いや、岡邉さんからしたらナシなんだろうな。止めてきたわけだし。う~ん仕方ない、もう少し抑えるとしよう。

 その後は言うまでもなく。ジャパン君が先着して、手綱を途中で引かれた私は2着。しかし岡邉さんの言いつけを破ってしまったか。これは反省だね。

 でも、楽しい! やっぱ走るの最高! ジャパン君もそう思うでしょう?

 

『楽しかったねジャパン君!』

『あ、あぁ、うん……一回減速したのにすぐさま追いついてきたの本当に何なんだこいつ

 

 おや、ジャパン君はあまり楽しそうではない? まさか私、何かやらかした?

 

『大丈夫? ジャパン君。楽しくなかった?』

『いやいや、楽しかったよ。なんだか君、面白いね』

 

 ほほう、おもしれー馬認定してくれますか。そうです私が面白い馬です。

 

『次のレース、一緒かどうかは分からないけど、一緒のレースで走る時はよろしくね!』

『うん……ディープインパクトもだけどカイザー君もだろ。アイツの同族だよ同じUMAだよ。意味は知らないけど

 

 いえ~い、これで友達が増えた増えた。美浦トレセンの子は大体友達、栗東の子もどんどん増やしていかないと。

 

「いやはや……これがディープインパクトに匹敵すると噂のハレヒノカイザーですか。確かに凄いですね」

 

 お、向こうの騎手さん分かってるねぇ。どうぞ、ハレヒノカイザーを、ハレヒノカイザーをよろしくお願いします。てかよく見たら槙山さんではないか。岡邉さんと仲良しの。

 

「そうだろう、ノリ。こいつは凄い、私が現役を続行するのも、ほとんどこの子のためだ」

「岡邉さんがそこまで惚れ込むのもまた凄い。次のレースでは負けませんよ?」

「ふっ、お前のアドマイヤジャパンも岳のディープインパクトもまとめてちぎるさ」

 

 え、次のレースプイちゃん出るの!? うおおおぉぉぉ、さらにやる気が出てきたぁぁぁ!

 よっしゃ走るぞ「止まれカイザー!」はい! すいません!

 

「……たまにやる気を出しすぎるのが玉に瑕だがね」

「まぁまぁ。可愛くていいじゃないですか」

「そうだな。普段賢くて我慢させてる分、これくらいの愛嬌はあってしかるべきだろう」

 

 次の弥生賞が楽しみになってきた。頑張るぞー!

 

 

 

 

 

 

 ハレヒノカイザー。テイオーの産駒であり、ルドルフの孫にあたる牡馬。私が才能を惚れ込んだ競走馬でもある。

 ルドルフ以来かもしれない。これほどまでに熱が入ったのは。

 

(テイオーから受け継いだバネと、ルドルフの賢さを併せ持つ馬。大成すれば、恐ろしいことになるだろう)

 

 実際、アドマイヤジャパンとの併走も目を見張る結果だった。ただ、どうしても頑張りすぎてしまう馬だな。今回、全力を出そうとしていたのだから。それでも、4馬身は先にいたアドマイヤジャパンにあっという間に追いついたのは素晴らしい加速と言わざるを得ない。

 今回止めたのは大事に至らないための判断、間違っていたとは思わない。だが……ディープインパクトとの併走が、ハレヒノカイザーをさらに上へと押し上げた。

 

(果たしてどこまで行けるのか……もしかしたら、海外も)

 

 欠点があるとすれば、この子はレースというものを知らない。レースをただのかけっこと捉えている節がある。あまりにも賢すぎるが故の、闘争心の欠如。馬というよりも、人間の方が近いような気がする。

 

(もし、それが矯正できた時。ハレヒノカイザーはディープインパクトすら超えた競走馬になる。私には確信がある)

 

 ディープインパクト。デビュー前でありながら、重賞馬のハレヒノカイザーと同等のスピードを発揮した馬。レースでの弱点は多々あるが、それを補って余りある才能。

 突出した才能を持つ2頭が、同じ時代に現れる。それの、なんと残酷なことか。

 

(現時点では、おそらくディープの方が上。だが、どうにかする)

 

 次走の弥生賞では、アドマイヤジャパンもディープインパクトも出走する。目下の敵は、ディープインパクトただ一頭。

 

「目的は調整、だな」

 

 ハレヒノカイザーはケガ明け。無茶はさせないようにだ。賢いから、カイザーは分かっているだろうが。

 未来のことを想像して、年甲斐もなく笑みがこぼれる。私も、もう少しだけ現役を続けよう。




UMAは2頭いたッ!
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