孤高の鬼、羽島伝記   作:狐ノ陽炎

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これはまだ、過去の物語。
幻想郷の地上、その妖怪の山に、まだ鬼が居た頃の話。まだ何事にも囚われず、追われてもいない。だけれどどこか不安が感じるような、感じないような。まだ平和であり続ける、この時間が続いてほしい。そう願っていた。




孤高の鬼、羽島

「おぉい!!なんだテメェーこのやろう!!」

「あぁ!?やんのかコラァ!!」

 

大人数が集まる宴会場で、いつも通り見慣れた喧嘩が誰かから始まる。宴会の煩さでかき消されそうになるが、それを誰も止めようとはしない。ほとんどが酒の入った身体達だからか、その後の展開を期待するような声ばかり聞こえているようにも感じる。もうすぐ取っ組み合いまで発展しそうになる、その時。喧嘩に関係ない声さえもかき消してしまうその気配の強さと姿の強さ。鬼達の誰もがリーダーである事を疑わない人物が、二人の目の前に現れこう言った。

 

「ここは今楽しさと愉快さで溢れた席だ。そんな中喧嘩するというのは私にとってはとても気に入らない」

 

それを発する本人さえも、愉快そうな顔だ。

 

「さて、君達の喧嘩の理由は何かな?この羽島が聞いてやろう!」

 

朱色の髪に、頭には二本の角。人間が普段着ているような、髪色に沿った朱色に近い和服を身に纏い、左手首にのみ身に着けた鉄製の腕輪と鎖。とても可愛らしい姿をしている彼女だが、その気配は誰よりも強い。

 

彼女の名前は羽島。この物語の主人公である。

 

 

 

 

「だからコイツがいきなり俺の足を踏んで」

「いやお前の肘が俺に当たったん____」

 

私の名前は羽島。

地上の鬼のリーダーをやってる…らしい。らしいってのはリーダーの自覚は無いしやりたいとも言った事無いし勝手にそうされてるからだね。で、一応リーダーらしいからこうやって喧嘩が起きたら止めたりしてるんだけど、私が止めときながら話なんて聞いてない。いや、最初の頃はしっかり聞いてたよ?けどさ、鬼達の喧嘩を止めて3・4回も話聞いてるとある事に気付いてしまったんだ。

 

コイツ等の喧嘩の原因、ほぼワンパターンじゃね?って…。

 

大体が酒が入って周り見えなくなって迷惑をかける。やられた側もやった側も発端が何か分かってないから取っ組み合いまで発展する。周りも周りで酒入って見えてないから分かってない。

むしろその喧嘩を応援する者が多数になる。私は酒あんま飲まないし、喧嘩自体が好きじゃない。別に飲めないわけじゃないよ?焼酎一杯で赤くなってダウンしたから心配され過ぎて飲まなくなっただけだからね?

…誰に話してんだ私はさっきから。

 

でー…さっきからうだうだ話す二人を少し高い位置で胡坐かいて頬杖ついて聞いてるんだけど。正直なーんにも聞いてなかった。二人は一通り話し終わったのか、それとも誰かが私の意見を聞くように促したのか、揃って私の顔を見てきた。むーん、どうするかねぇこの場合。いろいろ解決策あるし上手く躱す事も出来るんだけどさ。

 

「とりあえずさ、お前らの言い分はわかったよ」

 

何も聞いてないけど

 

「お互い一発ずつ殴ったら?」

 

「……」

「…はい?」

 

結局私の結論はこれになる…いや、なってしまう。まあ酒入ってるし?話聞いてなかったし?お互い取っ組み合ってたし?これが一番じゃねって思う。後から私に愚痴言われるのも嫌だし…。ただこれね?当事者二人の視線はともかく、周りからの視線が痛い。まあ特にある一人からはとても痛い…。でも私は気のせいだと思ってるよ。注目されてるだけだって、皆酔ってるからそんな訳ないって思ってる。

 

「じゃあ…お前、俺の事殴れよ先に」

「いや…お前でいいよ」

 

 

「「……」」

 

それでこうなった時は基本的に2パターン化する。一つは本当にどちらも殴っちゃうパターン。酒入ってる場合は勢いに任せてこうなる場合が多い。でも今回はもう一つの方だね。互いの言い分を話して終わって私の意見を聞いた時点で、酔いが覚めてる場合。だいたい冷静になって殴らない事が多い。

 

「わ…悪かったな当たったりして」

「いいや、俺の方が悪いな」

 

こうしとけば別に話なんか聞かなくても解決する。あー楽々。

 

「うぉーい!そんなんじゃつまんねーぞ!!」

 

宴会の席の方でそんな声が聞こえてきた。

 

「一発ぐらいは殴り合えー!!」

 

私と同じく二本の角を持ち、手に持った瓢箪を高く天にかざした彼女はそう言った。

 

そういえば言い忘れた事が一つあったね。

 

さっき言った2パターンは通常の人間や妖怪が喧嘩した場合。鬼達に至っては、その常識が通用しない。何故なら鬼達は愉快だから、こうなったらもう止められないね。

 

 

私が止めた意味があったのやら、理由も何もない取っ組み合いが始まる。さてさて、私の仕事は終わった。終わりかけの話を広げて二次災害を出した私の後輩を誰かが責めればいい。

胡坐をかいた姿勢を解き、立ち上がってその場を後にする。あんまり騒がしすぎるのも好きじゃないからね。

 

「ふぃー…」

 

こういう時は静かに裏の風に当たって涼むのが一番だ。眼を閉じて建物か何かの壁にもたれかかる、この時が一番落ち着くよ。そんな落ち着いた場に、誰かの足音が聞こえた。眼を開け、それが聞こえた方向を見ると、さっき誰よりも痛い視線を浴びせてきたその一人が、そこに居た。

 

「なんだい?あれ以降は私のせいじゃないだろ?」

 

そいつが話す前に、責められると思った私は敢えて弁明を先にしておく。痛すぎる視線こそ、そう思った要因だけど。

 

「あれは萃香のせいでしょ?私が言いたいのはその前」

 

あー、あれだ。またこの展開になっちゃう。

 

「どーせ話なんて聞いてなかったんでしょ。知らないわよ?いい加減リーダーとしての信頼を失っても」

「だからリーダーを請け負った自覚なんか無いって…」

 

そもそも酔ってたら信頼もクソも無いだろうにさ。私の幼馴染で、誰よりも世話焼きのコイツの名前は、茨木華扇。他に見かけないピンク髪なせいで、嫌でも目立つし目に入るコイツの視線だけはいつも逸らす事が出来ない。いつまで経っても上から私の事を叱りつけてくる…お母さんかっつーの。数少ない私の幼少期からの友達だからか、特段それを嫌とは感じてないが。

 

「でも、それを否定しないのは貴方じゃない?」

「……」

 

そう言われるとその通りだから困る。実際、リーダーというのは居心地がいい。誰かに気を遣う必要も無いし、適当に過ごしていても特に文句も言われない。私自身、鬼という種族はどう在るべきか、この妖怪の山において、どのように居るべきかを考えているからだろう。そんな考えを持つ…もしくは思想を持った鬼は他に全くと言っていいほどいない。だから地上の鬼達は皆、私をリーダーだと思うのだろう。

 

「まあ、別にいいんじゃない?私も貴方と同じだし」

 

華扇は私と同じく人間の事が大好きで人間愛好家だ。それに実際私達は人間の里を監視し、安全を保障している。だからこそ、まだ私達はこの妖怪の山から離れるわけにはいかない。まだ私が居るから、鬼達は地上に留まる事が出来ているから…。

 

「でも最近、あまりいい噂を聞かない」

「あら、例えば誰から?」

 

華扇にはまだ話していなかった。丁度いい、今なら他に誰も居ないし、誰も聞いてない。私達鬼が何時までこの妖怪の山に居られるかも分からない…。

 

「天狗…と言えば分かるか?」

「また??」

 

また…ね。

私達の事情を知り、尚且つ私達の勢力に匹敵する力を持った種族。それが天狗だ。天狗の長である天魔より、私達鬼に代わり妖怪の山を支配する事、人間の監視及び安全を保障する話を何度も持ち掛けてきている。だが私が、私自身が、天狗には私達の後釜を任せられない。理由は色々あって個人的な事も多い。何回か話したけど、納得してもらってない。

 

「またで済む話だったらいいんだけどね。あんまりしつこいものだから困ったものだよ」

「なんで羽島は納得できないの?天狗(むこう)だって私達を十分考慮した上で持ちかけてるんでしょう?」

「駄目なもんは駄目なんだよ。私はまだ信頼も信用も出来ないよ」

 

一番大きな理由、これは毎回毎回話してるんだけど、抽象的だからか納得していただけていない。まあ…私が同じ事言われても納得しないから分かるんだけどさ…。

 

「そう…。まあ、"孤高の鬼"さんがそう言うんだったら、私は従うけどね」

 

『孤高の鬼』

何時からか私につけられていた二つ名だ。そんな崇高な存在になった覚えも無いし、自覚もない。"地上の鬼のリーダー"って言われるのと同じようなもんだ。

 

「んじゃ、後は頼んだよ。霊夢のとこ行ってくるから」

「霊夢…?ああ、博麗の巫女の事ね」

 

華扇の言葉に、一切反応せずその場を去る。妖怪の山に居ても、宴会の事やら天狗の事やらで気にしだしたら身体が痒くなってしょうがない。ここは一旦気持ちをリセットする為にも場所を変える必要があると私は判断した。

博麗神社に行こう。




初めまして、狐ノ陽炎(元陽炎型狐様)です。
普段別サイトでも二次創作なり一次創作なりしている者です。

投稿頻度は低いですが何卒よろしくお願いします。
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