明確な目的がある時と、そうでない時では景色が変わって見える。何度かふとそう思う時がある。理由を言葉にして話すのは難しいけど、多分目的に対して勝手に脳が連想させるんだと思う。
今回の目的は魚だ。
出来れば焼き魚にしたいから、小さめの魚二匹欲しいところだ。暑さ厳しい今この時間から釣ろうと思えば、途中でバテて諦めるのがオチかな。河童達ならここ数日分の食料として何匹か釣って凍らせて保管しているだろう。一言断り入れれば貰える…かな?今度何か買ってあげるか…うん、そうしよう。
そう、こうやって色々考えているうちに、妖怪の山を流れる川に出くわす。うん、やっぱり水辺ってのは涼しいな。このまま上流に向かって歩けば河童達が居る場所に出るはず。涼しくなってちょっと元気出てきたな。
しばらく川沿いをさっきよりも速いペースで歩く事数十分。大きな滝が目の前に現れ、その近くには河童達も数人居た。私の知り合いはー…ああ、居るな。
「にとりー」
名前を呼んだ相手は私に気付きー…なんかめっちゃ慌ててるんだけどー。そんな慌てる必要無いんだけどな。
「羽島さん!どうしました?」
彼女は河城にとり。
妖怪の山きってのエンジニア集団である河童達を一人でまとめ上げる、私と似たような奴だ。そのにとりが、なんかいつもと違ってめっちゃニコニコしながら寄ってきた。なんだろ、何かいい事でもあったのかな?
「ごめんね急に、釣った魚とかってあったりする?」
「えーっと…どんなのがいいですか?」
「あー、焼き魚にしたいから小さめの魚でお願い」
「了解!」
右手で敬礼して走ってどこかへ向かっていく。なんだろう、何か違和感を感じる。気になって周りを見渡し、他の河童達の様子を見た。ある一人は目が合った途端顔を逸らし、ある一人は顔を見せない。ある一人はにとりと同じくどこか急いて行動している。やはり…これはにとりだけではなく、河童達全員が同じ感じだ。多分、私が…私に対してだ。いや、私だけではないか…。一応確信が持てていないから、私なりのやり方で聞き出してみよう。
「羽島さん!持ってきました!」
にとりは半分作ったような笑顔で焼き魚に使えそうな魚、種類は分からないが持ってきた。
さて、聞いてみようか。
私は魚を受け取る前に、一歩前に出て右手でにとりの帽子を取る。取った直前、にとりの身体がびくっと反応した。構わず左手で、にとりの頭の上に優しく手を置いた。もう一度、にとりの身体は反応したが、また私は一切構わずに、
「どうしたにとり?何か元気ないぞ…?」
視線を合わせるようにちょっと膝を曲げ、にとりの頭を優しく撫でた。こういう事にまったく慣れてないのか、にとりは、
「ひゅい!!?」
と可愛らしい声を上げていたが、当の私は心配が勝ってしまいその事に一切触れなかった。
頭を撫でている間、表情がどんどん暗くなってゆく。あー…なんとなく理由が分かっちゃったよ…。
「私の"同志"が何かしたのか?」
「……」
にとりは何も言わず小さく…震えながら頷いた。
一切気付いていなかった。数秒後に気付いたが、にとりだけじゃない。私は思わずとてつもなく大きな殺気を放っていた…いや、大きな程度じゃ済まされないか。下手したらにとりの腰が抜けて立てなくなるところだった。ここはぐっと自分の感情を抑え込み、もう一度にとりを見る。震えていた…さっきよりも明確に分かるくらいに…。
"同志"とは、私と同じ地上に残った鬼の事。華扇や萃香とかも同志だ。この同志達の抱える問題がある。それは…いやその前に、今幻想郷に居る鬼達がどういう状況にあるか説明しなければならない。
今この幻想郷には、私と同じ地上の【妖怪の山に残る鬼達】と、地底【旧地獄に移り住んだ鬼達】が存在する。
元々鬼達は、その全員がこの妖怪の山に住んでいた。自由に、その圧倒的な力でこの妖怪の山を支配していた。それと私を含んだ一部の鬼達で、人間の里を監視及び安全を保障していた。しかしある時、その均衡が崩れ始めた。まず他の妖怪達、主に天狗だが、私達に対抗できる力を持ち始めたのだ。これだけなら私が対応出来ていた。まだあくまで対抗できる程度の力でしかなかった。
しかしこのすぐ後、まったく関係ない…とは言えないかもしれない事が起きた。里の人間たちから一部の鬼が退治され始めたのだ。これによって鬼の力が弱まり、今この妖怪の山を支配する事が難しくなってきている。その鬼が退治された理由だが、私が考える理由は一つある。それは、全ての鬼が人間に迷惑をかけていなかった事である。鬼は宴会と酒が好きだ。故に宴会自体は人里で行う事もあったし、酒を買いに人里へ降りる事もある…。
もう想像できるよな?
酔っぱらって人間に迷惑をかける鬼達が後を絶たなかったのだ。私はそもそも飲まなかったから迷惑はかけなかったが、それ以外の全員は必ず一回は迷惑をかけていると思う。そんな状態にいの一番に危機感を感じ、地底へ移り住むよう先導したのが"元人間の日白残無"だ。あいつはまだ私達が妖怪の山から離れるわけにはいかない状況だったにもかかわらず、幻想郷に住む鬼の大半を連れて地底へ行ってしまったのだ。これが…"元人間"のこの決断が、地上に残った鬼達の立場をさらに悪くしてしまった。何故なら地上に残った鬼は言わば、
私は…その震えるにとりの身体を優しくゆっくり抱きしめた。
「ごめん、にとり…」
こうなった時、私はにとり達に謝る事しかできない。まったく、自分の無力さを痛感するよ。
「は…羽島さん…!」
「本当にごめん…」
だから私はリーダーなんかに向いてないんだ。
「羽島さんが…謝る事じゃない…!!」
そうだ、今考えれば普段距離感の近いにとりがずっと敬語だった。その時点で気づくべきだったのに、私は…!!
「誰に…いや、何をされた…?」
「……」
しばらくの無言の後、話してくれた。
要するに私と馴れ馴れしくしているのが気に入らなかったらしく、脅してきたとの事だった。誰かまではわからなかったし、酷く酒臭かったらしい。
……。
「羽島さん!お願いだから謝らないで…!」
「……」
私はにとりのその言葉に何も返す事が出来ず、ただどこかも分からない所を眺める事しかできなかった。