孤高の鬼、羽島伝記   作:狐ノ陽炎

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信用できる事

思えばこれは鬼達だけの問題ではない。妖怪の山という、幻想郷における一つのパワーバランスの問題だ。そして現状を客観的に見ても、鬼はこの場所から去るべきだろう…。だが…まだ私がここを離れるわけにはいかない…。当然私が離れなければ、"同志達"もここを離れる事はない。まったく…紫が本当に羨ましいよ…。

 

「___さん!羽島さん!!」

「…っ!」

 

にとりの声が聞こえない程考え込んでしまった私は、にとりをぎゅってしたままほったらかしていた。

 

「ご、ごめん!苦しかったか…?」

 

力加減していたとはいえ、考え込んでいた。出来てなかったかもしれない…。

 

「苦しそうなのは…羽島さんの方じゃないの…?」

「……」

 

痛いところを突かれてしまう。全くもってその通りだよ。

分かってるんだよ…でもさ、こんな事で苦しんでる場合じゃないんだ。私が人間を守らなかったら…。

 

バシャァアッ!!

 

「ぶわ!!?」

 

つ、冷た!!?

突然後ろから凄い勢いでバケツに入った量ぐらいの水のような何かをかけられた。

誰だ!?いきなりこんな事する奴は…!!

 

「うふふ、ごきげんよう。羽島ちゃん♪」

 

振り返ると、そこには異形な羽の生えた少女が一人。美しい顔立ちとその佇まいとは裏腹に派手な服を備え、気配の大きさだけなら紫や私にも匹敵する程の実力を持っている。私の幼馴染で親友の一人、ミスティア・ローレライが私にかけたであろう水が入っていたバケツを手に持ったままそう言った。

 

「み、みすちー!?どうしてここに…」

 

彼女も妖怪の山に住んでいる。だけど屋台の経営の関係で人里近辺だったはず、こんな山の奥深くまで来る事は滅多に無いのに。

 

「屋台の出張販売…と言いたいところだけど、本当の用事は羽島ちゃんにあるのよ」

「私…?」

 

という事は今日私がここに来るって分かってたのか?自分自身気分屋だから夕飯に魚を選んだのもたまたまだし、にとりの魚を貰おうって思ったのもたまたまだったのに…。相変わらず読めない奴だ…。

でもみすちーだから、何故か納得しちゃうんだよなー。

 

「どうせ羽島ちゃんの事だからまた色々考えて疲れ切っちゃってると思ったの」

「……」

 

なんでこんな胸デカいんだよコイツ…。

 

「だから気分転換に、ね?って、聞いてる羽島ちゃん?」

「……」

 

私もペチャパイじゃないけどさー、ちょっとコイツデカすぎだよな…。

 

「羽島ちゃ~ん?」

「はっ!いやいや、お前の胸なんか見てないぞ!」

 

やべっ!?全部答え出ちゃった!!

 

「うふふ、あらあら」

 

うわー大人の対応されちゃったよ…。普通に恥ずかしいって。

みすちーは口に手を当ててクスクス笑っている。

 

みすちーは私や紫とは違い、表立って強さを見せびらかしたりはしない。所謂『能ある鷹は爪を隠す』ってことわざがそのまま体を現した奴だ。

 

「羽島ちゃん、単刀直入に聞いていい?」

「なんだよ」

 

恥ずかしくてぶーすか顔をしてたら微笑みながら真面目な質問をされた。みすちーだから聞いてくる要素多すぎてどの質問か分からないのがお約束だ。

 

「今週、天狗は何回訪ねてきた?」

 

「え…?」

 

にとりは知らなかったのか、小さな疑問符と共に私の方を見る。天狗達(あいつら)め、やっぱり秘密裏に色々行動してるんだな。それは後ろめたい事があるからなのか、それとも私だけにしか知ってほしくないのか…。

 

「3回…かな」

「やっぱり、多いよね~」

 

3回とも天狗のトップである天魔が直接私の所に来ている。理由は全てこの妖怪の山のリーダーについて、だ。何故か私がリーダーになっている点は置いといて、天狗にその権利を譲るわけにはいかない。多分リーダーって言ってるのは、今私がこの妖怪の山、ひいてはこの幻想郷で私がしている事、これら全てを引き継いで天狗達で鬼の代わりに妖怪の山を支配しようとしているんだ。まあ、私としては鬼達がこの先妖怪の山を支配するのは流石に無理だ。将来的に天狗達にその立場を譲るのは構わない。だが今の天狗の状態、状況を鑑みる限り無理だって判断をしている。それを何回も何回も言ってるのに立て続けに私の所へやってくる。

しつこいもんだよ…。

 

「羽島ちゃんはさ、天狗が信用出来ないから代わりに支配させるのを断ってるんでしょ?」

「ああ、そうだよ」

「じゃあ逆にさ、どこか信用できる所はある?」

 

逆に…そう来たか。

しかし悪いところばかり探してる分、良いところを見つけるというのは難しい。

 

「あー…信用できるっていうか、私達からしたら凄いなって事があってさ」

 

 

 

「天狗が自ら築いている社会に関しては尊敬に値するね。鬼達は仲間意識はあっても基本それだけで明確な上下関係は存在しない。仮に今にこの山を任せても、実質的な支配者が天魔ってなるだけで、この妖怪の山を管理するのは天狗社会全体でやるんじゃないかな。そこは…凄いと思うよ」

「でも信用できないんでしょ?」

 

そりゃあ…そうですけど…。

と言わんばかりにみすちーから目を逸らしておいた。理由は言わなくても伝わるだろうから敢えて言わない。

 

「にとりちゃんはどう思う?」

 

振られると思ってなかったのか、うぇ!?って小さく聞こえた気がした驚き顔をした。そしてしばらく熟考した後、捻り出てきたのが

 

「うーん…。天狗が私達河童と同じように高度な技術を持ってるのは否定しないよ。でも羽島さんと同じ理由で信用は出来ないかな」

 

あれ?にとりに信用できない理由話した事ないけどなー。

 

「特に鴉は厳しいね…。"白"や"黒"だったら多少信用できるんだけどね」

 

にとりとはもう大分付き合いも長い。言わなくても伝わるのは助かるなーやっぱり。

 

「それと仲間意識が高い反面、部外者には当たり強いのも嫌な所かな」

 

信用できる事を見つける話だったのに、いつの間にか信用できない事を言い始めてしまう。まぁ…気持ちは分かるけどさ、私もそうだしね。

 

「ふむふむ、難しい問題よね」

 

うーん…と一度考えるような唸りを上げた。でもみすちーは初めから考えがあったのか、にとりのように考える時間もなかった。

 

「どちらにしろ不満が多いのは事実だし、これから忙しくなる羽島ちゃんにこれ以上迷惑かけさせたくないもの」

 

でもそれってみすちーに迷惑が掛かるって事じゃ…。って事を考えて言う暇なく、次のように続けた。

 

「私が釘を刺してくるわ」

「…ほんとにいいのか?」

 

一応妖怪の山に住んでるとはいえほぼ関係ないみすちーに迷惑はかけたくない。鬼達と天狗達の問題だから当事者だけで解決させたいからだ。

 

「羽島ちゃん融通が利かないから、どうせ当事者だけで解決させたいんでしょ?」

「………」

 

ほらやっぱりな、全部見透かされてやがる。

 

「でもいいの!丁度積もる話もあるしね…」

 

そういう彼女の瞳には、底知れない不気味さを感じた。思わず冷や汗をかいたよ…。

 

「じゃあ、後はよろしくね。羽島ちゃん」

 

 

 

しばらく何も話さずぼーっと突っ立ってた。

今思ったが、私はみすちーに一体何をよろしく頼まれたんだろうか。

これからの事?

それとも今現在の事?

どれの事か、さっぱりわかんないな。

でもまあ…融通が利かないのは事実だしな…。

少し上を向いて、空を見た。

今日も今日とて綺麗な空だ。

私は飛ばないからな、空なんて一緒だし滅多に見ない。

 

「よっしゃ!私は博麗神社に戻るよ」

「待たなくていいの?」

「いつか飲みに行った時に聞くさ」

 

少しリラックス出来た。

ありがとな、みすちー。

 

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