孤高の鬼、羽島伝記   作:狐ノ陽炎

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世間知らず その1

 

妖怪の山へ入って軽く2時間くらい経ったかしら。普段あまり入り込まないし、そんな大層な用事もないからね。だからこうやって歩いていくのはとても新鮮で楽しい。でもこれからはとても大事な用事。楽しんでいくのはもちろんだけど、色々気をつけなきゃいけない事もあるの。

 

ほら、例えばねぇ…

 

「貴様、何者だ」

 

丁度いいわ。彼らにも教えてあげなきゃ。

羽島ちゃんが何を思って彼らを毛嫌いしているか、どうして受け入れないのかを。一つ一つ、丁寧にね。

 

「何者だと聞いている」

 

私の目の前には3~4人の鴉天狗。見えてはいないけれど、気配だけなら周りに10人居るか居ないかってところかしらね。

 

そう、ここは妖怪の山の奥深くに存在する一つの文明。とは言ってもその規模は人間とは天と地の差があるけれど、"力の強さ"は上だと思っている連中。

 

『天狗の里』

 

羽島ちゃんの大きな悩みの種の一つが、ここに在る。

 

「おい貴様!さっさと答えろ!!」

 

呑気にあーだこーだ考えている間に、いつの間にか距離を詰められていたみたい。さっき私に問いかけた天狗とは別の天狗が、もっと私の近くに寄りそう言い放った。このまま黙って見てるのも面白いけれど、やっぱり私はもっと楽しみたい。

 

こういうのって、余計な事って言うのかしら?

それをするのが私。

だって…ねぇ…?

楽しみだもの…。

 

 

「あらあら、世間知らずがたっくさーん居る場所って、ここだったかしら?」

 

 

周りに居る見えない天狗達にも聞こえるように言った。

当然かしら、彼らは黙り込み、その内に在った感情を抑える事なんて出来ない。私は誰がどうとか言ってないのに、まるで自分達が世間知らずであると答えているかのように、大きく煩く、そして怒り狂ってきた。

 

「き、貴様!!今何と言ったァ!!」

 

とは言っても天狗も叡智な生き物。声に出してきたのはさっき間に入って来た見るからに頭の悪そうな鴉天狗のみ。でも私にはよーくわかる。たった一人を除いて、他の天狗達は今にも私を襲い、嬲り殺してやろうという気配、雰囲気が漂っている。

 

「ただで死ねると、思うなよ!!!」

 

私の無意味な微笑みでさらに苛ついたのか、どんどん声量が大きくなっていく。それは周りの気配も当然大きくなる。もう隠れる必要なんて無いんじゃないかしら。

 

「よせ、勝手な行動はするな」

 

そう、たった一人。

私の挑発的な言葉にも、無意味な微笑みでも一切乗ってこなかったつまらない天狗。この男か女かもわからない見てくれをしたこの鴉天狗が、まあ恐らく大天狗ってところかしら。

 

「…あまり私の部下をからかわないでくれ」

「でも私だって、誰とは言わなかったわよ?」

 

今私の居るこの位置が、天狗の里にとってどの方角か分からないけれど…。大天狗とは、天狗社会における管理職のような役割を持っている。言い方から察するに、ここら一帯を警邏している者達の長、と言ったところね。

 

「この状況下では我ら天狗以外当てはまらないだろう。まさか、自分自身の事を言ったわけではあるまい」

「もちろん、自分が一番可愛いもの」

 

もっとも、私みたいな夜雀、たくさん居るわけがないが。大天狗は一度大きく溜息を吐き、もう一度私に問いかけた。

 

「ふぅ…それで、貴様は何者だ」

 

いい加減微笑んでも意味がなさそうね。

 

鴉山日和(からすやまひより)の友人、こう言えばいいかしら?」

 

鴉山日和

 

この名前を出した瞬間、やっと大天狗の眉を動かす事が出来た。

 

ふふふっ。

貴方もやっぱり面白いじゃない?

 

私の表情に気付いたのか、すぐにもとのつまらない顔に戻ってしまう。

 

「…天魔様のご友人だと?」

 

大天狗は一瞬だったけれど、周りはもっと面白い反応を見せている。さっきの阿呆天狗なんかハナから私の言う事を信じちゃいない。そんなんじゃいつまで経っても上に上がる事なんて出来ないわよ??

 

「貴様、名を何という」

 

やっぱり私はいつでも面白い方向にしか動けないの。そんな質問を簡単に答えるほど、良い性格なんてしてないわ。

 

「あら、貴方達の長はなぁ~んでも知ってるんでしょ?不必要な問答なんかせずに直接聞いてみたらどうかしら?」

 

もっとも、私がやっている行為こそ不必要な事だけど。でも、これもまた羽島ちゃんの真似事かしら、ね?

 

冷静な大天狗はともかく、他の奴らはそうはいかない。私のように内に秘めた力を見せない大天狗の前だからか、さっきのように声を荒げる者は居なかった。だけど、気に入らないのは事実。私は面白いから一向に構わないけれど、普通の人なら慌てて逃げ出したくなるような重く、殺気立った空気が流れ始めた。いや、正確には"増した"が正しいかな。

 

「ふむ…」

「大天狗様!騙されてはいけません!!」

 

別に貴方達を物理的に攻撃するつもりは無いのだけれど。何かを感じたのか、白狼天狗二人が大天狗と私の間に入ってきた。一人は盾を構え、もう一人は私に刃を向けてきた。

 

大天狗は私や白狼天狗を全く気にする事無く、静かに答えを出した。私に刃を向けた白狼天狗の肩に手を置いて

 

「天魔様に聞いてきてくれるか?」

 

あら、大天狗はここに残って私の相手をする事にしたみたい。賢いわね。

 

「え…」

 

肩に手を置かれた白狼天狗は大天狗の方へ振り返った。ここから詳しい表情は見えないけれど、多分困惑した表情をしている。私に向けた殺気が無くなったくらいだから。

 

「大丈夫だ、ここには私が残る。天魔様に聞いてくるんだ」

 

冷静。

 

よく、冷静に見えるだけとか、気付かれないようにそう振る舞ってるだけとか、そういう奴を多く見る。けれど、この大天狗は本当に冷静。本当の表情なのかどうかもわからない。

 

これはこれで…とても面白いわね…?

 

白狼天狗は困惑しながらも大天狗の指示に従い、里の中へ走って行った。さすがの私も里の大きさがどんなものか覚えてないけれど、ここからだったらそんなに掛からないはず。

 

黙って待ってるのも暇だし、不敵な笑みを浮かべて大天狗の方を見る。

大天狗は私をずっと見ていた。表情も、気配も、何一つ変わらない。

 

結局変えれたのは天魔の名前を出した一瞬の一度きり。

 

そういえばだけれど、この大天狗は結構中世的な顔立ちと声をしている。性別がどっちだかまるで分からない。私は女の子だと思ったけれど…どっちかしらね?とてもとても小さな疑問を抱いていると、向こうから私に向けて別の疑問が投げかけられた。

 

「お前は今、何を考えている?」

 

私と同じ…?

いや?不思議と楽しそうな笑みを浮かべて。

 

「初めは天魔様に関係する事だと思っていた。いや、実際そうだったかもしれぬが…。だが貴様は今、全く違う事を表情を変えずに考えているな」

 

これは驚いたわ。いつの間にこんな優秀な人材を揃えていたのかしらね。まあ、こんな事で表情や気配を変える私ではないけれど、敢えて変えてみても面白かったかしらね。

 

「どうせ答えてはくれぬだろうが、敢えて聞こう…。貴様は、何者だ?」

「さあ…?私からすれば、見た通りだけれど?」

 

本当ならその言葉、そっくり貴方に返してあげたいわ。自分自身の実力をよく理解してるいい子だもの。

 

私の中では30秒ほどの時間が過ぎた。大天狗は私を見つめ、私も興味深く見つめ返す。無言だったけれど、どこか心地いい。そんな時間だったわ…。

そして、さっき大天狗が送り出した白狼天狗が戻ってきた。私には聞こえない程度の小声で、白狼天狗と大天狗は話す。

 

「ふむ…。そうか」

 

どうやら答えは出たみたい。

 

「ついてこい。案内しよう」

 

ここでも大天狗は冷静なまま、表情を一切変えない。周りの天狗達とは大違いね。果たしてそれが予想していたからなのか、それとも天魔の言う事だから疑う余地も無いからなのか。この子は変えないから、どっちだか分からないわ。

 

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