変異特異点MMXV:新霊長聖別世紀ネオンジェネシス 作:DUN.ネコノカンリニン
『―――ゼロセイル、敢行する』
瞬間、異界への扉が開かれる。
虚数の海。未だ人類が科学を持ってして解明できない異次元の空間。
彼ら―――カルデアは、その時の海を潜航し、新たなるあり得ざる歴史―――南米異聞帯へ潜入しようとしていた。
しかし。
縁とは、不可解なものである。
ただ、虚数の海を漂っているだけでも、ある意味縁は紡がれる。
しかし、それは望むべきものであるとは限らない。
実際、紡がれた縁は新たなる災厄である。
太古の昔。
まだ神秘が地上に溢れていた神代―――それ以上に前の、月ができた頃。
地上を支配していた霊長。しかしてその位置を人類に奪われた霊長。その一体と、カルデアは縁を結んでしまったのである。
虚数の海。―――量子力学者ディラックが提唱した、全てがマイナスで満たされた「ディラックの海」。これと虚数の海というのは、同じ意味であった。
その時、南米へとつながる回廊は閉じられる。
「……一体何が」
クルーの一人が、そう言った。
当然である。虚数空間の羅針盤―――ペーパームーンは起動した。システムは全てオールグリーン。問題はないはずだ。
しかし、彼らは気づいていなかっただけであった。
これ―――ストーム・ボーダーは、魔術側のものだと。
魔術による召喚や喚起は、縁が非常に重要となる。
だからこそだろう。
彼らは―――西暦2015年、箱根に築かれた新首都―――第三新東京市へ上陸してしまったのは。
「―――ダメだ、繋がらない」
少年、碇シンジは苦悩していた。
十一年ほど会っていない父親に呼び出され、叔父夫婦と一緒に住んでいた長野県にある第二新東京市からはるばるやってきて迎えを待っていたのに、緊急警報が鳴り響き電話も繋がらなくなってしまったのである。
十五年前に起きた大災害―――セカンドインパクトによって地軸はねじ曲がり、日本のかつてあった美しき四季は失われ、そこには夏という実りへ向けた式しか用意されていなかった。そんな真夏の中放置されっぱなしであったのだ。くらり、と視界が揺らぐのも無理はない。
しかし、そんな中彼は幻視した。
一人、暑さの中汗一つかかずにこちらを見ている色白の女の姿を。
赤い瞳が、熱に蕩ける脳を突き刺す。
やっとの思いで意識を取り戻したときには、その女はいなかった。
ふと空を見上げると、
静かで良い日だ。
そう思っていたのも束の間である。
突如、爆発音が鳴り響く。
「うわぁ!」
バララララ……
ヘリコプターのプロペラが回転する。
そのヘリコプターは、まず日本ではあまり見られることのない軍事用ヘリであった。
「F-22ラプター!? どうしてこんなところに!」
シンジにとっての災厄はこれだけではない。
突如、何かが爆散したような音が聞こえる。しかし、これは先程までの軍事用の武装の音ではない。もっと原始的な―――そう、例えるなら。
生物が持つ、防衛機構。
その生物は、突如顕現した。
人形のように人型で、不気味な仮面を身に着けた巨大生命体。
時々攻撃が当たるとなると、くすぐったそうに目を細める。
そんな生命体に―――碇シンジの体は恐怖で埋め尽くされていた。
動けない。怖い。
それだけが、頭を支配していた。
「何だ、あれ……」
巨大生命体が、動く。
その衝撃波は凄まじく、遠くにいたシンジすらも吹き飛ばす。
「あッツ! 痛い!」
不運なことに、シンジは飛ばされた瓦礫に背中を強打する。
しかし、そこで止まったことは不幸中の幸いだったのかもしれない。
もしその手前で止まっていたならば―――
「うわぁ! 今度は何!」
突如として地面から這い上がってきた船に吹き飛ばされていたところだったのだから。
『異常事態発生! 総員、衝撃に備えよ!』
「一体何が起きてるの!?」
キャプテン・ネモのアナウンスに少女、藤丸立香は焦燥の表情を浮かべる。
以前にもイレギュラーというものは起こったが、今回は違う。
目的地へ行くための羅針盤は正しく機能した。しかし、それよりも強い縁が羅針盤を捻じ曲げてしまったのである。
「落ち着きましょう、先輩! ここは深呼吸で……」
『う〜ん……そんな暇ないよ? あと四十秒後には地上へ浮上しちゃう』
マシュ―――マシュ・キリエライトが落ち着かせようとし、ダ・ヴィンチちゃん―――レオナルド・ダ・ヴィンチが警告を出す。
藤丸が取り乱すのも無理はない。
そもそも藤丸立香という人間は、怨念や怨恨―――悪性情報を取り込みすぎている。悪性情報というのは、それだけで精神を不安定にさせる。それだけではない。ブリテン異聞帯にてバーヴァン・シーが使った「失意の庭」の影響で、悪性情報が増幅してしまっているのである。
今までにない、イレギュラー中のイレギュラー。
それとの化学反応で、このように取り乱しているのである。
「ストーム・ボーダー、浮上まで三……」
クルーがカウントダウンを始める。
「二……」
藤丸、マシュが地面にかがむ。
「一―――」
瞬間、大きな衝撃が襲う。
当然である。浮上したのは柔らかい土などではなく、都心の街路―――それも、特殊装甲を無理やり突き破ってくる形となったのだから。
「ふぅ……ストーム・ボーダー、浮上しました」
『周りの景色は?』
ダ・ヴィンチちゃんが尋ねる。
その問いに、マシュはディスプレイに表示される景色を見渡して答える。
「はい―――浮上場所はどこかの都心。景色を見る限り、高度に発展した近未来科学都市のようです」
『うんうんよろしい。けど、もう少し情報がほしいかな』
「えーっと……―――あ! 皆さん、アレを!」
マシュが、ディスプレイを指差す。
「なんだ、アレ―――」
そして皆が呆気にとられている中、たまたま通りかかったサーヴァント、両儀式も、アレを見て別の意味で驚嘆の意を抱く。
「アイツ―――死の線が視えない……!」
「え……、ウソでしょ!」
新所長―――ゴルドルフ・ムジークが式の言葉を聞いて否定したくなる気持ちもわからんでもない。実際、両儀式は根源接続者だ。どのような生命体であれ、死の線を視るのは容易い。しかし―――それを、あの生命体は否定した。
まさに生命の権化。
「せ、先輩!」
「なに? マシュ」
「―――ストーム・ボーダーのすぐそこに、人が」
『何! ……本当だ、人だ。しかも彼―――身体的特徴がアジア人と一致している。これは……』
「そんなことより! 今はあの人の救出が先でしょ」
唐突な危機により、藤丸の思考は一周回ってクリアになっていた。
『そうだね。藤丸くんの案が良い。状況的にも、個人的にもね。―――さあ、ハッチを開けよう! そこの少年、ほら乗った乗った!』
〝え、あ、はい!〟
少年が、ストーム・ボーダーへ乗り込む。
それこそ―――数奇な、
「え、あ、はい!」
碇シンジは、突然聞こえた少女の声に導かれ、現れた特殊兵器へ乗り込む。
(こんなことしてる場合じゃないのに……。この葛城って人が待っているかもしれないのに)
しかし、そう思考するも足は特殊兵器を進む。
そうしてぼうっとしながら歩いていると、またしても少女の声が響いた。
『ほらほら、速く! そこの角を曲がって左の扉を開けて』
シンジは、言われたとおりにその扉を開けた。
するとそこには―――
「わぁ……」
筆舌に尽くしがたい光景が広がっていた。
強引に表現するのであれば―――そう、SF映画の宇宙船の司令室、とでも言えば良いのだろうか。
そんな光景に見惚れていると、先程の少女の声が聞こえた。
『そんなにまじまじと見るほど物はないと思うけどなぁ。ま、いっか。とりあえず―――ようこそ、少年』
光の粒子が、形をなしていく。
そこに現れたるは一人の可憐な少女。
そして、彼女はこう告げる。
「我々―――ノウム・カルデアの拠点、ストーム・ボーダーへ。歓迎するぜ?」