変異特異点MMXV:新霊長聖別世紀ネオンジェネシス   作:DUN.ネコノカンリニン

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投稿遅れてごめんなさい。腹切って詫びます。

評価と感想をください(どの面)! モチベがめちゃめちゃ上がって暴走します。


第十節:静かなる反逆

 ―――少年は、暗い暗い、道を歩いていた。街灯だけが地を照らす、人類の生活とは少し離れた場所へ。

 友を守れたのは良かったが、そのせいで別の重荷を背負った。命令違反という指揮系統を無視した行為を。彼はその重荷を背負ってどこへ行くでもなくただ歩く。その姿はさながら十字架を背負った救世主のごとく。

 駅に着き、ネルフから支給されたIDに付属されている職員用交通系ICを使い、どこへいくまでもなく、ただ判然として電車に乗り込む。

 心地よい、けどそれすら気味悪く感じる揺れを感じながら消えていく人影を見つめていた。

 

『次は長尾峠、長尾峠です。お出口は右側です』

 

 別に、何を考えたわけでもない。ただなんとなく歩きたい気分だった。

 改札を抜け、イヤホンを耳に入れ、S-DATの電源をつける。少し古臭い、陽気な音楽がかかる。それをループ再生させ、駅から出て歩き始める。

 耳に優しくない、うるさすぎる雑踏。

 網膜を焼く、眩しすぎるネオンライト。

 世界の全てにうんざりして、俯いて歩く。

 ふと、前を見たら見慣れたサイドテールがあった。

 

「リツカ……?」

 

 近づいていく。夏の自販機に群がる蛾のように、ただ一つの光を目印に吸い寄せられるように。

 

「リツカ!」

 

 肩に手を置く。

 サイドテールが振り返る。

 

「は? アンタ誰?」

「あ……ごめん、なさい」

 

 見知らぬ人。

 ……少年は絶望の感情に塗れて―――ただ路地裏を彷徨う。いくばくか道に近い室外機を背に、ダンボールにくるまって夜を明かした。

 

 

 澄み渡るような青空も、彼女の心の不安は焼くことができない。シンジはまだ家に帰ってきていない。『第五の使徒』戦以降、行方不明だ。携帯電話も部屋に置かれたままで、連絡がつかない。

 

「碇、碇シンジ……転校早々欠席か」

 

 担任がシンジの名前を呼ぶ。それに反応して、藤丸は窓の外の景色から目を離し、担任をチラリと見る。だがすぐにトウジとケンスケがバツの悪そうな顔をして互いに目配せしているのに気がついた。

 そんなトウジとケンスケは藤丸を見て何か話し合っている。

 

「……まぁいい。今日はテストを返却しよう」

 

「えー?!」という悲鳴が教室各所から聞こえてくる。しかし藤丸は、そんな音すら気にするそぶりもなく、ただ窓の外を眺めていた。

 ―――その様子を、赤い瞳がじっと見つめていた。

 昼休み。

 藤丸はトウジとケンスケに呼び出されていた。

 

「すまん転校生! ワシは、デッカい勘違いをしとった! それで、藤丸とか碇を追い詰めてたんちゃうんか思て……!」

「ぼ、僕も悪かったんだ。こいつにネルフの情報を流したりして、変に勘違いさせたのがいけなかったんだ。だから、こいつだけに怒らないでほしい」

 

 トウジとケンスケは深く頭を下げる。

 藤丸はそれを見て言った。

 

「全然、気にしてないよ」

「ほ、ホンマか?」

「うん。そう言うことは多分、私よりもシンジに言ってあげて。シンジ少し自暴自棄になってるし、メンタルのケアも必要だ」

 

 

 夜。

 暗ぐらとした酔いつぶれてしまいそうなほど濃密な闇が、あたりに充満する時。それは、第三新東京市であろうと関係ない。

 シンジは寝床としていた繁華街の路地裏を離れ、街灯のみが暗黒の中の道しるべとなる知らない道に入った。

 逢魔が時になる少し前、シンジは小高い丘の上から第三新東京市を見下ろした。無機質な、角ばった高層ビルのみが立ち並ぶ、箱根という山間部に築かれた戦略都市。

 

 ―――自分が、守った場所。

    自分が、傷つけた場所。

 

 そんな感傷に浸りながら、彼は夕日に照らされる第三新東京市を見下ろした。後ろを振り返ってみると、そこにはもはや太陽の居場所はない。青々とした……否、青く、黒く変色した宇宙が、昼間の空を食らいつくして夜空としていた。

 その光景に虚無感を抱いたシンジは、歩き始める。

 そうしてたどり着いた道。その奥に、崩れかかったトンネルがあった。

 だが、シンジは気づく。

 ()()()()()()()()()()()()に。

 

「……いいですよ、もう」

 

 シンジはこぶしを握り締めて言う。

 

「ミサトさんのとこに連れてってください」

 

 バンッ! という音が連続して響く。瞬間、まばゆい光に視界が遮られる。

 そしてシンジは拘束され、ネルフ本部に保護された。

 

「歩き回って気はすんだ? シンジ君」

「ええ……もう、僕には自由はないんだって。エヴァに乗るしかないんだって」

「……あなたは、どうしたいの?」

「言われれば乗りますよ、だって、もう自由はないんでしょ。みんなが良いなら、僕はそれで良いです」

「良い加減にしなさい! あなた、自分のやりたいことはないの!? エヴァのパイロットを続けるかどうかはあなた次第よ。嫌ならここを出て行っても構わない。好きにしなさい」

 

 ミサトは拘留場を出ていく。シンジは、その遠ざかっていく背中を、ただ、悲しそうに―――否、諦観した様子で見つめていた。

 そしてしばらくして、拘留場の扉が再び開く。

 そこには、藤丸が心配そうな顔をして立っていた。

 

「リツカ……」

 

 シンジが一言声を発すると、藤丸は表情を明るくして近づいてきた。

 

「シンジ! 良かった、無事だったんだ」

「うん……」

「……もしかして、元気ない?」

 

 藤丸は、シンジの黒い双眸をのぞき込んで言う。シンジの瞳の色。それは奇しくもシンジが見上げていた―――宇宙に生み出された夜空を閉じ込めたような色だった。

 シンジは、藤丸に問われて言う。

 

「ミサトさんに、やりたいことはないのかって聞かれたんだ。けど、僕にはもうその自由もないってことを、あの人が教えたのに。―――エヴァに乗ったから、僕は、ただ人の未来を守るための奴隷になったんだ」

「……ッ」

 

 藤丸は、シンジの答えを聞いてある英霊を思い出した。

 褐色の肌と白髪のコントラストが印象的な、赤い弓兵。アーチャーのサーヴァントでありながら、剣をメインに使うという背中で語る男。

 彼曰く、「守護者」というカテゴリの英霊は、抑止力に遣わされて人類史を守るための都合のいい掃除屋らしい。

 ―――そう、悲しそうに、諦観したように語った弓兵と、今のシンジの表情が重なって見えた。

 だからこそ、藤丸はシンジに言う。

 

「シンジ、多分ミサトさんはね、本当に君のことを心配しているんだよ。保護者として」

「そう、なんだ……」

 

 心配されているという事実。それをシンジに伝えると、シンジは幾分か柔らかい表情になっていた。

 藤丸は、外に待機している黒服の男に呼ばれると、拘留場の扉を開けて外に一歩出る。

 そして、告げる。

 

「シンジ、待ってるから。―――帰ってきたら、一緒にとんかつ食べよ」

 

 プシュー、という音が鳴って、自動ドアが閉められる。

 

「………………」

 

 シンジは言葉を紡がないまま、俯いて座っていた。―――だが、その俯きは先ほどまでの諦観の憂いから来るものではなく、明日から待ち受けるエヴァパイロットとしての本当の日常への覚悟ゆえであった。

 

 

 ―――司令室。

 三方に張られた窓ガラスから光が差す、ジオフロント内、ネルフ本部の一室に、二人の男が立っていた。

 一人は司令・碇ゲンドウ、もう一人は副司令・冬月コウゾウ。

 

「結局、お前の息子は予定通りの行動をとったな」

「ああ。次はもう少しレイに接近させる」

 

 詰将棋の本を片手に、コウゾウはパチリと桂馬を指すが、同時に相手側の陣地に置かれた飛車に目をやり、「む」と睨む。

 手の先には、ゲンドウがいた。

 

「碇、何をしている」

「……少々、計画が変更になった。まずはカルデアを潰す」

「ほう、カルデアを潰すと出たか。確かに、今の奴らは獅子身中の虫となりつつある」

「そうだ。だから、『第六の使徒』には藤丸リツカをぶつける」

 

 ゲンドウは、ただ静かに、淡々と言う。

 

「……十四年前からのシナリオ。そこに現れたイレギュラーももうじき消え、計画に狂いは無くなる。―――運命を仕組まれた子供たち、か。過酷すぎるな」

 

 コウゾウは、すべてを理解したように言った。

 まだこれから、彼らのシナリオは計画通りに進んでいくのだと、確信したまま。

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