変異特異点MMXV:新霊長聖別世紀ネオンジェネシス   作:DUN.ネコノカンリニン

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第八節:緊急招集―――鳴らない、電話

 トウジとの喧嘩が終わって数日、シンジの心境は未だ穏やかではなかった。

 一人になりたくて、何もかもつらくて、ただ射撃訓練に勤しむ日々。

 

「目標をセンターに入れてスイッチ。目標をセンターに入れてスイッチ。目標をセンターに入れてスイッチ……」

 

 それを管制室から見守っていたミサトが心配そうにつぶやく。

 

「シンちゃん、相当参ってるわね」

「なんでも、クラスメイトと喧嘩したそうよ」

 

 データを見ながらリツコが言う。手元にはマグカップに注がれた黒々とした液体があった。それをクイッと一口飲むと、観測に戻る。

 

「ま、学生なんてそんなもんよ」

「本当にね」

「やっぱりシンちゃんに足りないのは相手と関わろうとする心かしら」

「……それも難しいのよ。ヤマアラシのジレンマって知ってる?」

「ヤマアラシ……あのトゲトゲしたやつ?」

「そう。それであってるわ。ヤマアラシは熱を得るために相手に近づくの。けれど自分のハリが相手を傷つけてしまう。そしてヤマアラシは相手と触れ合うのを諦めてしまう。相手に触れたいのに触れられない。それがヤマアラシのジレンマよ」

 

 フゥん……とミサトは感嘆の声を出す。

 そしてふと、何かを思いついたかのように言う。

 

「良いこと思いついちゃった! リツコ、今日飲みに行かない?」

「……いいけど、少ししか飲めないわよ。忙しいから」

「いいのよ。チョッチ時間をくれるだけでいいから」

 

 

 

―――夜、ネルフ本部内のバーにて。ミサトとリツコは窓際のテーブルを挟んで各々グラスを傾けていた。

 少しグラスの中を減らしたリツコはミサトに問いかける。

 

「……で? 今日飲みに誘った理由は何かしら?」

「あ、それ聞いちゃう〜? ま、いいけど」

 

 ミサトは手に持っていたグラスをテーブルに置き、話を始める。

 

「レイのIDカードの更新時期ってそろそろよね?」

「ええ。もう更新したIDは発行済みよ。まだ渡してないけど」

「そ、それなら良かった」

「……一体全体、何考えてるの?」

「ふふん、それは―――レイとシンちゃんを仲良くさせようってやつよ」

 

 

 トウジとの一件のあと、シンジはクラス内でうまく馴染めず孤立していた。そんな寂しさを紛らわすために、シンジは屋上に寝そべってS-DATで音楽を聴く。外界から、自分の心を切り放つために。

 27番をループさせていたら、突然ギィィ……と屋上の扉が開く音が聞こえた。恐らく藤丸だろうと推測したシンジはS-DATから伸びていたイヤホンを耳から引き抜き、上体を起こして振り返る。

 

「どうしたの、リツカ……」

 

 そこに立っていたのは、包帯にまみれた薄水色の少女。赤い瞳を緩慢とした視線でこちらに向け、見ていなければ気づかぬうちに消え去ってしまいそうな、雪を連想させる色白のクラスメイト。―――もう一人のエヴァンゲリオンのパイロットである、綾波レイだった。

 

「……なにかな、綾波?」

 

 そう問われたレイは機械的に、ただ伝令を伝える神の代弁者(エンジェル)のように、何の感情の揺らぎもなく答えた。

 

「緊急招集。先、行くから」

 

 薄桃色の唇から紡いだその言葉は、淡々とシンジに投げつけるものだった。会話のキャッチボールすらする余裕なく、レイは嵐のように去っていった。

 

「……」

 

 その様子に、少しシンジの理解が追い付かず、固まってしまったのは見てのとおりである。

 そうしてシンジは、言われるがままにネルフから派遣された車に乗り込み、ジオフロントにあるネルフ本部に行く。

 複雑な迷路のような廊下を、SPに案内されながら進む。

 ネルフ本部の管制室に着いたとき、シンジはミサトに駆け寄った。

 

「ミサトさん! 緊急招集ってことはもしかして……」

「ええ、使徒よ。とびっきり気持ち悪いのがね」

 

 ホログラフィックモニターを見ると、そこにはイカのような、カブトガニのような奇妙な姿をした使徒が映っていた。

 

「あれが今回殲滅すべき相手、『第五の使徒』。カルデアにも協力を要請してあるから、リツカと二人でちゃっちゃと倒しちゃいなさい」

「はい」

 

 シンジはプラグスーツに着替え、エントリープラグへと向かっていく。心のうちに、クラスメイトから渡されたモヤモヤを、ただひっそりと秘めたまま。

 

 

「ダ・ヴィンチちゃん、新所長!」

「おお、来たか藤丸」

「よく来てくれたね、立香ちゃん。それじゃあ、今回の作戦について説明しよう」

 

 ジオフロントの一角。エヴァの空の格納庫に、その巨人は眠っていた。白と黒の配色の巨大ゴーレム、エヴァ・カドモン。ダ・ヴィンチはそれを見上げながら言う。

 

「今回の作戦は、三週間前に体験したものと同じ使徒殲滅だ。だけど、今回は新しいエヴァ・カドモンに乗ってもらう」

「……どうして? ティアマトじゃないの?」

「それについては、三週間前の使徒戦―――『第四の使徒』戦の後にネルフとは別で研究した結果、使徒には霊器、もしくはそれに近しい何かを有していることが判明した。それに伴って、クラスが割り当てられているのかもしれないという仮説も立て、見事的中さ!

 今回の使徒のクラスは『ルーラー』。エヴァ・カドモン壱号機に憑依しているティアマトとはクラス相性が悪い。かといって、エヴァ・カドモンに憑依させる適性のあるサーヴァントは多くない。だから現在適性のある有利クラスのサーヴァントを憑依させた新たな機体―――エヴァ・カドモン実用型弐号機・源頼光を建造した」

「もしかしてエヴァ・カドモンの適正があるサーヴァントって……母の性質を持つ英雄だったり?」

 

 ダ・ヴィンチは「うーん……」と肯定か否定かあいまいな返事をする。

 

「そうとも言い切れないんだ。確かに適性を持つと考えられているサーヴァントには母の性質を持つ英雄が多い。けど適正候補には男性もいるし、母に成りえるはずがない英雄も選ばれている。だからまだ結論は出ない、ってとこかな」

「えーコホン! おしゃべりはそこまでだ藤丸、技術顧問。我々の作戦は一刻を争う。遅れてもすでにエヴァ初号機が出撃しているとは言え、初号機が破られたらあとはセントラルドグマ?まで一直線に進んでくる。そうなれば人類が終わるのだろう? ならば、それを止めなければならん。

 つまり……早く搭乗準備しなさいよ! 死ぬよ? 多分ドカーンって行くよ?」

「あ、了解!」

 

 藤丸はゴルドルフに促され、カルデア・プラグの方へ行こうとする。すると、それをダ・ヴィンチが呼び止める。

 

「あ、少し待って!」

「どうしたの、ダ・ヴィンチちゃん?」

「これに着替えて乗って」

 

 そう言ってダ・ヴィンチは藤丸に一着の礼装を渡す。広げてみると、以前支給された礼装・カルデア戦闘服に似ているが、エヴァ・カドモンと同じ黒と白のカラーリングの、新しい礼装だった。胸のあたりに「Chaldea:01」と印字されている。

 

「これは?」

「この礼装はカルデア・プラグスーツ。エヴァ・カドモンとのシンクロ率を高める効果がある。いつも通りマスタースキルはあって、『同調強化(シンクロアップ)』、『深度降下(アナライズ)』、そして最終手段の『狂化暴走(ディスコネクション)』。うまく使って使徒を殲滅してくれたまえ♪」

「はい!」

 

 藤丸はパーテーションで区切られた更衣室でプラグスーツに着替える。手首のボタンを押し、中に含まれていた空気を抜いてフィットさせる。

 

「搭乗準備、できました。いつでもいけます!」

「おっけ~! それじゃあ、カルデア・プラグへ入ってくれ」

 

 藤丸は席に着く。

 

『カルデア・プラグ、挿入!』

『了解。カルデア・プラグ挿入完了。魔術回路、令呪接続。カルデア・プラグ注水開始』

『注水完了したね? よし、シンクロスタート!』

『確認、シンクロ率83.2%台で安定!』『よし、ではゴルドルフ君、発進の音頭を』

『え、私がやるの? えーでは、弐号機、発進!』

 

 エヴァ・カドモンが発進台に送られ、一瞬電流が見えるほど大きな電力が発進台に送られると、高速でエヴァ・カドモンを地上に放つ。

 そして、エヴァ・カドモンが地上に姿を現す。

 

「令呪を以て命ずる……エヴァ・カドモン弐号機、起動せよ!」

 

 エヴァ・カドモンの瞳に光が灯る。そして、口の拘束具が解かれる。

「グルオォオォォォ!」と力強い咆哮を上げて、エヴァ・カドモンが完全に起動する。

 

「行くよ、頼光!」

『ええ、行きましょうマスター。最先端の鬼退治ですね?』

 

 ―――ここに、平安最強の鬼狩りが2015年の箱根に蘇る。

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