クリスティーナ・ウィンチェスター
アメリカ、カンザス州ローレンス。
15歳の金髪碧眼の整った顔立ちの少女、クリスティーナ・ウィンチェスターは足元まで届く髪をポニーテールの様に纏め上げて古書を手に書物の言葉を紡ぎ続けていた。
そこは電気すら点かない廃屋の中……クリスティーナはそこで1人の中年男性と対峙していた。
その男は個性こそ使用していなかったものの……両眼全てが真っ黒に染まっており眼前の少女に対し苛立ったような口調で汚らしく言葉を吐き捨てる。
「ハッ‼︎ クリスティーナ・ウィンチェスターか……喜べ‼︎ お前が死んで地獄に来たら俺が真っ先にお前を拷問してやる‼︎ 生まれて来なければ良かったと思う程にな‼︎ お前の家族は‼︎ 今も変わらずにずっと地獄の業火で焼かれてるぞ‼︎ 泣き叫ぶ表情は見ていてとてもいい気持ちになれたよ‼︎」
その男は鉄の鎖で雁字搦めに椅子に縛り付けられて……床にはペンキにより謎の模様が描かれている。
その模様は……ペンタグラムに幾何学的な模様の組み合わせであり……ただのペンキで描かれているだけのそれは本来ならば何の意味もない、大人1人を拘束など出来るわけもない。
しかし、今この状況下は違う、男性に憑依しているのは悪魔だ。
ソロモンの輪という、とある天使が考案した悪魔封じの中に入れており……その中にいる限りどんな悪魔だろうと力を行使することはできない。
クリスティーナは自身の家族を嘲笑っている男の事を無視して……ジャンバーのポケットからスキットルを取り出して中に入っている聖水をビシャビシャと乱雑にかける。
すると男は火傷を負い……凄まじい叫び声を上げて苦しみ出す。
悪魔に対抗する装備の1つ……神により清められた水、聖水である。
聖水とは十字架を浸し浄められた水。悪魔祓いの際、悪魔を苦しめる物として使用される。
クリスはペットボトルやスキットルに入れ常に持ち歩いている。
悪魔に憑依された者が触れると強烈な火傷を負うので憑依されているかを見分けるためにも使用される。
悪魔に憑依された男の顔に聖水をぶっ掛けながら酷く冷たい声音で呟く。
「残念、私は天国行きの片道切符を仲の良い天使からもらってる……無駄話はここまでにしよう……送り返してやるよ、地獄にな」
そう呟いてクリスティーナはゆっくりと呪文を紡ぎ出す。
「Exorcizamus te, omnis immundus spiritus……omnis satanica potestas, omnis incursio,infernalis adversarii, omnis legio,omnis congregatio et secta diabolica」
それはラテン語であり……悪魔祓いの文言である。
それを聞いた男の顔はこの世の者では無いような苦悶の表情を浮かべて叫び出す。
しかし、悪魔祓いは続行される。
「Ergo,draco,maledicte,et,omnis,legio,diabolica,adjuramus te」
悪魔祓いの一節を唱え終わると男は金切り声に近い叫び声を上げる、そして……男の口から黒い煙が勢い良く噴出し地獄へと戻って行った。
悪魔に憑依されていた男の肉体はどうなったかいうと……悪魔が抜け去った瞬間に大量に吐血し……絶命した。
悪魔は憑依先の人間の事など一切考えない、銃弾に撃たれようともナイフで刺されようとも悪魔は死なない。
悪魔を殺すには金物屋で売っているナイフではなく……今、クリスがジャンバーの内ポケットに入れている悪魔を殺せるナイフでないといけない。
ポケットからスマホを取り出して遺体を知り合いの警察官に任せるクリス。
廃屋から出ると愛車であるBMW R 1300 GS Adventureに跨ると、とある場所にバイクを走らせた。
20分ほど最高速度で走らせて夜もどっぷり沈んだ午前3.00に到着したのはとある墓地。
墓前に花を手向けてクリスは語る。
その墓には……クリスティーナの家族が眠っている。
ジョン・ウィンチェスター。
メアリー・ウィンチェスター。
ディーン・ウィンチェスター。
サム・ウィンチェスター。
と刻まれている。
「やぁ……来たよ父さん、母さん……愛しい弟達……また救えなかったよ、凄腕のハンターだ何だって言われてもさ……結局はただの人間さ、ちっぽけで無力な人間さ……此処には暫く来れなくなるからさ、寄ったんだ……ちょっと日本のハンターに呼ばれてね、遠い異国の地に行ってくるよ……悪魔はあんな事言ってたけどさ、皆天国にいるんだろ?」
……そう呟くも答える者は居ない、此処にはクリス以外誰1人として居ないのだから。
クリスが眼を閉じて永遠の眠りについた家族の安寧を祈っていると気配がして其方へと振り向くと、トレンチコートを羽織った顔見知りが声を掛けてきた。
「クリス……」
「やぁ……キャス、
溜め息を吐きながら若干苛立った様な口調でそう語るクリス。
カスティエル、クリスからはキャスという愛称で呼ばれたトレンチコートを羽織った男性は天使であるが故に人間らしさを微塵も感じない。
カスティエルは天使である為に地上では憑代として敬虔な信者であるジミー・ノヴァックと言う人間に憑依して活動している。
今では家族同然のそんな相手に対してクリスは用件を問いかける。
「で……こんな時間に私に何の用事? そろそろモーテルで寝ようかと思ったんだけど……」
そう語るとキャスから語られる。
「ボビーからの言伝を伝えにきた……ヴァンパイアの5〜6人のグループがこの近くの山小屋に……被害者もヴァンパイアになって既に血を吸ってしまっている……」
それを聞きクリスは表情を変える……その表情は、ハンターとして狩りを行う者の顔であった。
愛車に近寄り手持ちの装備を確認してグイッ〜と伸びをして眠気を飛ばして語る。
「そっ、じゃあ『狩り』の時間だね……当然手伝ってくれるよね? キャス……」
愛車に乗っけている3つの150Lという大容量リュックサックの内……1つのリュックサックの中からマチェットと死人の血が入った注射器を取り出して準備を行うクリス。
此処で言う『狩り』とは鹿や熊、猪を狩る様なものでは無い。
クリスの言う『狩り』とは悪霊やヴァンパイア、悪魔にシェイプシフター、魔女や人狼、ジンを退治する事である。
そして、『ハンター』とは各地で人に害なすヴァンパイアや悪魔、シェイプシフターや悪霊達と言った超常現象を人知れず解決している者たちの事で、彼らは自らの仕事を「狩り」と呼んでいる。彼らは1〜3人の少数で行動するが、豊富な知識と高い戦闘能力を駆使し邪悪な存在と対決し続けている。
また、一部のハンターは放浪せずにBARや喫茶店を経営して他のハンターたちの拠点となってサポートする者もいる。
基本的に『狩り』を行うハンター達は例外なく誰かしら大切な人を失っている。
そして、基本的に『狩り』は無報酬である為にクリスは雀荘での賭け麻雀やダーツBARでの賭けダーツやプールBARでハスラー*1を行って生計を立てている。
世間ではヒーローや
クリス自身にも個性は有るからだ。
『クリスト*2と唱える事で聖域*3を作る』それがクリスの個性だ。
悪魔やヴァンパイア、幽霊からして見ればクリス自身が最強の悪魔封じであり、聖水であり……錬鉄であり、死人の血である……つまり、凡ゆる化け物どもの弱点を突く事が出来る。
クリスが最強のハンターと呼ばれる所以が此処に有る、そして……クリス自身の戦闘能力も非常に高い……人間にしては、だが。
そして……個性の影響により、クリスのいる場所は常に清められている。
また、個性の副次的な効力によりクリスの半径250m内に存在する呪い袋や呪いの効果、魔女が掛けている呪いをクリスの意思1つで任意の対象を完全に無効化する事が可能である。
そして、クリスティーナ自身も古代の呪いや呪文、黒魔術が全盛だった頃の呪いや儀式、特別な呪文や儀式に精通している。
……それ故にクリスティーナの家族は皆殺しにされたのだが……今でも夢に見るあの悪夢、クリスの家族が皆殺しにされたあの晩の事は一生忘れられない、復讐する相手は分かっている……必ずこの手で追い詰めて絶対殺す……黄色い眼の悪魔とAFO。
それらを考えているとキャスから肩をポンと叩かれて意識を其方へと戻す。
「済まない、少し考え事をしていた……いこうか、キャス……狩りをしよう」
「これで最後か? キャス」
山小屋に突入したクリスは手に持ったマチェットで襲いかかって来たヴァンパイアの首を斬り落とし返す刀で襲いかかって来た別のヴァンパイアに死人の血を注射して気絶させてから首を切り落とす。
そして首が切り落とされたヴァンパイアの死体を襲いかかって来た別のヴァンパイアの方へと蹴り飛ばす、息を荒く吐きながら仕留め終えると相棒の方をチラリと横眼で見るクリス。
キャスは天使の力でヴァンパイアを殺し終えておりその力はやはり微塵も衰えていない。
しかし、ヴァンパイアやジン、シェイプシフターと言えども外見は普通の人間であり……ハンター以外の人間に見つかれば間違いなく殺人と断定される所業故に……ハンターは絶対に世間にばれてはいけない。
そうして朝まで掛けて狩りを行った2人。
ヴァンパイア6人とヴァンパイアになった被害者3人を殺し遺体を焼き払うキャスとクリス。
ヴァンパイアの死骸を焼き払いながらクリスはキャスに語る。
「……日本に行く事になったよ、向こうのハンターからの救助要請だ、ボビーには3日前に話した……呼んだらたとえ海の向こうでも君は来てくれるかい?」
愛車に跨りヘルメットを装着しながらそう語るクリス。
それに対してトレンチコートを羽織った天使は和やかに笑みを浮かべて告げてくる。
「君の呼びかけなら何を置いても最優先で行くさ……向こうでも元気で」
そう告げるとキャスは瞬間移動して何処かへと飛んでいった。
クリスはモーテルへと戻りシャワーを浴びた後……死んだ様にベッドへと突っ伏して泥の様に眠った。
太陽が天高く登った朝10時。
クリスはモーテルでブリトーを食べた後で愛車を走らせて父親代わりの人の家へと向かっていた。
1時間掛けて到着する。
悪魔避けの印が描かれているその家はクリスが我が家同然に暮らしている家である。
鍵を開けて中に入るとテーブルには空っぽの酒瓶がいくつも……。
そして新たに開けようとした酒瓶をクリスが奪い取り溜息を吐きながら呆れたように語る。
「……飲み過ぎじゃない? 流石に……ビールにウィスキー、スコッチまで……その内肝臓が悲鳴あげて倒れる事になるわよ? ボビー」
愛娘からそう言われたボビーは古い書物を漁り、怪物の伝承を探しながら呟く。
「酒でも飲まなきゃやってられん……何だって日本に……向こうのハンター達も腕が落ちたもんだクソッタレ‼︎ 何を狩るのを手伝って欲しいって⁉︎」
そう叫びながら机の引き出しからスキットルを取り出して酒を喰らうボビー。
それに対してクリスはパスポートやその他色々必要な物をスーツケースに詰めながら告げる。
「ハンターからは呪いの対処が出来ないから助けてくれってさ……そして、ボビーと私の共通した古い友人からは……AFOと黄色い眼が見つかったと……オールマイトが5年前に倒したって言ってたけど、奴は生きてるし黄色い眼も生きてる……私が殺すべき復讐相手さ」
そう語り……ボビーとハグを交わして別れを告げる。
そうしてささやかながらパーティーを開いてボビー、エレン、ジョー、キャスと食事をし語らい合う。
そうして……出立の日。
愛車に跨り……LAの空港へと向かうクリス。
何でも旅費から何から何まで全て向こうにいる依頼人が出してくれたそうだ。
雄英高校ヒーロー科留学生での渡航で席は何とファーストクラス。
ロサンゼルスから東京までの平均飛行時間は11時間46分。
長旅を終えて荷物を受け取るクリス。
家族同然の愛車であるバイクも一足先に依頼人の家へと運ばれており、自身のスーツケースや悪魔を殺せるナイフ、天使の剣にコルトもアメリカから空輸されておりそれらを受け取るクリス。
空港内の待ち合わせ場所で待っていると執事が話しかけて来た。
「失礼、クリスティーナ・ウィンチェスター様ですか?」
それを聞きクリスは無言で頷くと合言葉を語る。
それを確認した執事はクリスを恭しく礼をしてリムジンへと誘導していく。
リムジンに乗り込むクリス。
3時間ほどして到着したのは八百万家と書かれた表札。
そして馬鹿でかい屋敷。
リムジンはでかい屋敷の敷地内にゆっくりと入ると屋敷の主人と妻が出迎えて来た。
クリスはリムジンから降りると一礼をしてカタコトの日本語で語る.
「クリスティーナ・ウィンチェスターです、よろしく」
そう語ると主人とその妻から挨拶をされた後で本題に入る。
何でも1週間前から娘の八百万百の体調が芳しくなく……凡ゆる治療を施しても全てが無意味、医者からは原因不明。
縋る思いで噂を辿りクリスの事を聞き来てもらったのだとか。
……寝室で寝ている娘の状態を確認したが明らかに呪われている。
「クリスティーナさん……お願い……医者は原因不明で打つ手はないって……何でもするから娘を助けて……」
妻が涙を流し、憔悴しきった顔でそう語ってくる。
日に日に衰弱していく娘を見るのは辛いのだろう。
「とりあえず……娘さんの部屋に入らせてもらっても?」
そう語るクリスであった。