轟冷の件を片付けて数日後。
体育祭も終了した翌日、休みの2日間を利用してクリスはバイクを走らせてとある県の森林への立ち寄っていた。
当然……休暇や休養、保養などではなく『狩り』である。
バイクを所定の位置へと停めてヘルメットを脱いで5分、待ち合わせの相手も到着したので語る。
「プッシーキャッツ……さん? でしたっけ、山岳救助や森林警備を専門とするプロヒーローさんですね、私はルビー・クラウンと申します……状況の擦り合わせをしましょう、起こったことは理解しています、最新情報や変化はありますか?」
そう問いかけるクリス。
ここの森林でキャンプをしていた4〜5人のキャンパー4組が相次いで失踪するという事件を受けてプッシーキャッツが招集され、新聞を見たクリスは自身のハンターとしての直感から行動、調べると23年周期で見られる事件で当時も未解決になっている。
警視庁特別捜査官の立場を使い今回の事件に首を突っ込んだ、クリスの直感が正しければ……今回の相手は文字通り人間ではない。
「新聞のニュース程度よ……深夜にキャンパーが失踪、叫び声が家族の通話に入ってたから私達も捜査に来た……ていうか、ルビーさん? 貴女こそそんな格好で大丈夫なの?」
クリスの格好はジーパンに軍隊仕様のブーツ、革ジャンである。
そしてショットガンを背負っている。
「えぇ、一応私もアメリカ本国の地元ではパークレンジャーでしたので……さて、暗くなる前に行きましょうか」
そして、森林の中を歩く事9時間。
プッシーキャッツの1人、マンダレイが脚を進めようとした瞬間、クリスがマンダレイの肩を引っ掴んで後ろへと引き倒す。
突然の事に驚いた表情でクリスを睨むマンダレイだがクリスがそこらに落ちていたマンダレイの腕程の太さの木の枝を持ってマンダレイが歩こうとしていた地面を探るとバチンッと金属音が響いてトラバサミの鋸歯により木の枝が粉々に粉砕される。
違法に仕掛けられた大型獣用トラバサミでありあのまま歩いていたらマンダレイの脚は控えめに言って……まぁ歩けない状態になっていた事は間違いないだろう。
「危なかったですねぇ……さてと、地図によればここら辺がそうですね」
キャンプ地が広がっており其処には引っくり返されたキャンプ用品と赤黒い何かがそこかしこに散らばっていた。
5人が各自で探索を行なっている最中、森の奥から助けを求める叫び声が聞こえてきており全員が一旦荷物を置いてそちらへと急行する。
しかし、声のする方へと急行しても誰も居らず、10秒程して荷物を置いていた場所に戻ると……5人の荷物は影も形も無い。
唯一残ったのはクリスが背負っているショットガンのみ。
地面に残った抉れた土を見て……今回の相手を理解する。
「……此処には居ないはずなんだが? 生息域を広げるなんて絶対にないと思ってたんだが……魔物達の行動はどんどんおかしくなってるな」
ともあれ装備一式をロストした状況で夜を越すのは如何に5月の季節と言えどもキツイものがある。
一旦装備を整えて再度の捜索を提案するも断固とした眼で4人から拒否される。
「……今回の相手はあなた方にはどうしようもない敵です……プロに任せておいて下さい」
そう告げるも戻る気など更々無い4人。
故に焚き火を囲んで寒さを凌ぎつつ地面にアナサジ族の魔除けを描いて侵入を防ぐと今回の相手について語る。
「今回の相手を説明します……ウェンディゴと呼ばれる化け物です、本来の生息域はミネソタやミシガン、カナダなどの寒冷地帯にしか居ない……筈なんですがね、こんな温暖で湿潤な日本にウェンディゴなんて聴いたことがない、其処に描いてある魔除けはアナサジ族に伝わる魔除けでウェンディゴの侵入を防いでくれます」
焚き火に薪をくべながらラグドールが質問をしてくる。
「はいはーい、仮にそのウェンディゴ? が居るとして……そんな存在、どう生まれてきたの?」
ショットガンをケースから取り出して弾薬の確認をしつつ語る。
「ウェンディゴという存在は元々、人間です……遭難だったり極寒の冬山だったり……場所は様々ですが、紆余曲折あったあと遭難なりなんなりし……凄絶なる葛藤、そして地獄のように耐え難い飢えや絶望の果てにキャンプの仲間を喰って、生き延びる……そうしてそんな事を繰り返していく内に……完全に化け物になってしまうんです、肉体は変異し、魂は穢れ、永久の空腹、永遠に満たされない飢餓感、超人的な素早い身のこなしに、人では有り得ないパワー……23年周期で人を襲う化け物にね……ウェンディゴを殺すのに打撃や銃は無意味です……役に立ちません」
マンダレイはそれを聞いて頭痛がする頭を抑えて語る。
「それで仮にそんなのが居るとして……プロヒーローである私達が足手纏いとでも? こっちはプロよ?」
パチパチと火が弾ける音を聞きながらクリスはゆっくりと言葉を返す。
「ふっ……ヒーローなんぞ、こと『狩り』に関してはハンターの足下にも及ばない……それに、求められる知識がまるで違うし、仕事内容もまるで異なる……まぁこれを言っても詮無いことです……」