「……悪魔か」
そう語るクリス。
漆黒に染まった両眼を確認し……何よりも直接見れた顔じゃない。
悪魔の顔は下劣で、とても見れない。
「あぁ、我の名前は悪魔……大勢いる、だっけ? それとも我が名はレギオン。 我々は、大勢であるがゆえに……だっけ?」
インゲニウムに憑依した悪魔は聖書の一節をニタニタと下卑た笑みを浮かべながら嘲り紡ぐ。
クリスはドア越しにジッとインゲニウムを睨みつけ呟く。
「今なら地獄に送り返すだけで済ませてやるよ……」
そう語るクリスは指を鳴らして塩の塊である岩塩の境界線を弾き飛ばして境界線を破壊する。
その瞬間、ドアが勢いよく開け放たれてクリスの事を強力なサイコキネシスで吹き飛ばしつつ悪魔が入室して来た。
クリスは壁に激突して呻き声を上げつつインゲニウムを見る。
「ようやく死ぬ覚悟が決まったか……全く……ッ……このクソアマが‼︎」
天井に描いた悪魔封じにものの見事に入った悪魔は一頻り悪態を吐くが絶対に出れないし動けない。
クリスは痛む身体を無理やり動かしながら悪魔に対して憐れむ様な声音で呟く。
「君は私が見てきた悪魔の中でも1番の無能だよ、悪魔封じの警戒すらせずに入り込むとは……」
文字通りこの世の者とは思えない様な形相で睨みつけてくるがクリスは無視して悪魔祓いをするための準備をしつつ会話を続ける。
「なぁ、なんで私を狙った? そもそも何で此処数年で悪魔がポンポン湧いてくるんだ? 蛆虫みたいにさ」
1880年代〜5年前まで悪魔に憑依される人物はそう多くない、精々が1年を通して1〜2人。
しかし、5年前を境に爆発的に増えた。
200人はいる。
「はっ……言うと思うか? 知能のない猿如きが……ガァァァ⁉︎」
くだらない事をベラベラと喋る悪魔の口にクリスから聖水が流し込まれて強烈な火傷を負う。
「本当にくだらない事しか喋らない口だな、まっ……悪魔が蛆虫の様に湧いてくるのは分かった、とっとと地獄に戻りやがれ、無駄話は此処までだ、さて始めよう」
そう告げて……ゆっくりと紡ぎ出す。
悪魔祓いの文言を。
「Exorcizamus te, omnis immundus spiritus」
唱え始めると悪魔は凄まじい呻き声と金切り声の様な叫びを上げていくがクリスの悪魔祓いは止まらない。
「omnis satanica potestas」
悪魔祓いが進む毎に半径5km内の電灯や照明がチカチカと点滅しテレビが付いたり消えたり……その他にも様々なポルターガイスト現象が起きる。
「グァァァァ⁉︎ 待て‼︎ 待て待て‼︎ 計画があるんだ‼︎」
「……なんだ? 計画? ……興味深いがそんな戯言を聴く暇はないし嘘しか言わないのが君たち悪魔だ、バイバイ……2度と出てくるな」
「待て、事実を言う‼︎ 言うよ‼︎」
地獄に送り返すと地獄の門が開かない限りは向こう数100年は出てこれない。
それが嫌なのでベラベラと喋るのだろう。
「デビルズゲートを封じる為にワイオミングにあるデカい悪魔封じ……それと似た様なのがこの国にもある‼︎ 出雲大社って所だ‼︎ それを突破する作戦があるんだ‼︎ 嘘じゃない‼︎」
必死になってそう叫ぶのを確認してから……クリスはゆっくりと悪魔祓いを再開する。
「omnis incursio infernalis adversarii, omnis legio,omnis congregatio et secta diabolica」
「正直に言った‼︎ 嘘じゃない‼︎」
そう告げられるも……クリスの表情は変わらない。
冷徹で、氷の様な声音で悪魔へと告げる。
「私とお前の間で約束なんかしていないだろう? それに……正直に言ったところで結局お前を地獄に送り返すさ、お前に憑依されているインゲニウムを救わなきゃいけない……さて悪魔祓いを続けよう」
悪魔からはゴミを見る様な眼で睨みつけられるが興味ない。
再開しようとした所……悪魔から心を揺さぶる言葉が出てくる。
「なぁ、クリス……お前の家族……私を見逃してくれれば生き返らせてやる……赤い眼みたいに10年なんて言わない……無料だ」
その言葉を聞いて……一瞬揺さぶられるが心を落ち着かせて語る。
「悪魔とは絶対に、何があろうとも取引しない、これは私が心に決めた絶対のルールだ……さて、その汚いツラも見納めだ……消え失せろ」
悪魔と取引してメリットなど1つもない。
結局得をするのは悪魔なのだから。
悪魔祓いの最後の文言を呟く。
「Ergo draco maledicte et omnis legio diabolica adjuramus te」
その瞬間……インゲニウムの口から勢い良く黒い煙が飛び出て……地獄へと送り返される。
2〜3秒して……インゲニウムが目醒める。
「ゴホッ……あ、ありがとう……3ヶ月……3ヶ月もの間、身体を乗っ取られていた……」
血を吐きながらそう語るインゲニウムに対してクリスは温かい毛布を掛けて水を飲ませて落ち着かせると癒しと睡眠の魔術を掛ける。
「sanans maledictionem……obdormiam」
インゲニウムのコスチュームの中からインゲニウムが取得している免許証から住所を特定するとため息を吐きながら移動する。
クリス自身のバイクは2人乗り出来るようにカスタマイズされている。
自身の後ろにインゲニウムを座らせて落下しないようにハーネスを装着させる、ガッチリと。
愛車を走らせて向かうのはインゲニウムの自宅。
インゲニウムのヒーロー事務所の住所も見たのだが自宅の方が近い。
バイクを走らせて45分後。
到着した為に飯田家に到着した為に呼び鈴を鳴らすと母親だろうか……女性がドアホンに出て来て呟く。
「どちら様でしょうか? 今は誰ともお話しできる状態じゃなくて……」
「Sorry it's late at night, nice to meet you.I'm Christina Winchester.This is Iida-san's home, isn't it? I'm here to drop off your son. wow‼︎」
そう告げると数秒の後、勢い良くドアが開かれ母親と父親……それに弟と思われる人物が出てきてクリスのバイクに乗せられている兄を見て涙を流す。
「天晴‼︎ 天晴‼︎ あぁぁ……良かった‼︎ 行方不明になって3ヶ月も……良かった‼︎ 生きて帰って来てくれて‼︎」