飯田家長男を送り届けるとクリスは挨拶もそこそこに愛車に跨り帰宅する。
そうして翌日。
雄英入学試験の日となる。
いつもの様に愛車であるBMWを駆動させて雄英近くの大型バイク駐輪場に駐車すると試験会場へと歩いて行く。
受験票やその他必要物は持っている。
筆記試験は先程終わり……自己採点では可もなく不可もなくと言った所。
問題は……実技試験。
サポートアイテムの持ち込みが可能であったのでポーチに数種類の薬草や毒草の粉末、そして宝石を粉末にした物を入れてある。
「さて……やりますか」
スタートの宣告が為された瞬間にクリスは駆け出すがいかんせん……クリスの個性は全く戦闘には向いていない。
特にこういった相手が人間でも化け物相手でもない機械相手の乱戦には。
故に……あきらめて目標を切り替える。
即ち、仮想
その後……1〜2分して仮想
現在クリスが稼いだ撃破ポイントは僅か9ポイント。
これ以上は時間の無駄と即断して周囲を見回すと道路を挟んでクリスの真正面には壁を背もたれにしてキツそうに呼吸をしている1人の受験者。
他の受験者達もその人の状況は眼に入っているがライバルが減っているとしか見えていないのか誰1人として助けようとしない。
……クリスは『Call-A-CAB-N-Go-Hot』に則り周囲の警戒後、少なくとも今、この時、現時点では安全である事が確認された後に腕と脚を骨折した受験者へと近づいて状態を問いかける。
「大丈夫ですか?」
そう問いかけると眼前の受験者からは大丈夫と返されるがどう見ても肋骨は4本骨折し両方の大腿骨もポッキリと折れている。
問いかけに返答があったのを確認してクリスは自身の腰に装着しているポーチから対応する薬草と毒草の粉末を適正量取り出すと魔術を掛ける。
怪我を癒やし治す魔術を。
「sanatio vulnerum」
粉末を吹きかけながらそう呪文を紡ぐと受験者の傷は瞬く間に治癒していく。
まるで骨折などなかったかの様に。
完全に治った受験者は今、自身に起きた現象を理解出来ずクエスチョンマークを浮かべているが立ち去ろうとしたクリスにお礼を告げていた。
そして……試験の終了ギリギリまで救護者を探して回っていたクリス。
20人目の怪我を治癒した瞬間に試験終了のアナウンスが鳴り響く。
クリスは結果だけ見れば不合格確実な結果だがしょうがないと割り切る……機械相手には一切役に立たない個性故に仕方があるまいて。
そしてもう一つ……自身の個性はある程度の範囲を指定出来るがその範囲を決して0には出来ない。
周囲に人が居れば否応無しに巻き込んでしまう事となる。
仮に雄英を合格できなくても……違う手段を用いてAFOと黄色い眼を殺す手段を探せば良い。
そう自分を理解させて試験会場から帰るクリスであった。
「実技試験総合成績出ました」
試験終了から3時間後。
集計が終わり試験結果が教師陣が集まる視聴覚室のモニターに投影された。
合否を決断していく教師陣。
そして問題の生徒の番となった。
無精髭を生やしボサボサの髪の男性教師は手元の受験者資料を見ながら語る。
「クリスティーナ・ウィンチェスター……アメリカのカンザス州ローレンス生まれ……5歳の個性発現直後に家族が皆殺しにされボビー・シンガーの元に身を寄せる、その後アメリカ各地を転々としているな……この年で大型バイク免許……まぁ良いだろう、個性は……『クリスト』?」
個性の詳細を記載してある資料に目を通す。
其処にはこう書いてあった……。
自身を起点に一定範囲内の凡ゆる個性をそのタイプ問わず『無効化し無力化し発動を封じる』と。
要は自分以外の凡ゆる個性を封じると。
成程と、資料を見た男性教師は思った。
自分と似た様な個性持ちが居るのは珍しいと。
利点や差別化点も色々ある。
故に理解できない。
映像では甲斐甲斐しく治療行為を行っている件のアメリカからの留学生。
ポーチからは薬草の粉末を吹きかけて何かを唱えている。
すると、まるで魔法みたいに怪我が治っていくのが確認できた。
のちにリカバリーガールがチェックしても綺麗に治っており後遺症も無い。
個性ではない何かだろうが映像を何度見直しても不可解であった。
……その後の合否判定はだいぶ荒れた。
直接的な戦闘ポイントは9ポイント。
救助ポイントは33ポイント。
救助ポイントがやけに低い理由はあまりにもこっちの意図を読み取りすぎていたと理解されたが故に。
そして、傍目から見てアレが治療とは見えなかったが故に。
筆記試験は完璧に合格判定である、全科目98点以上でとても素晴らしい。
しかしながら実技ポイント合計42ポイントは危ういラインだ。
不合格を唱える教員と合格を唱える教員とで見事に割れている。
無言を貫いていたその男性教師は口を開く。
「この個性で……個性使って仮想
そう語ると議論は更に荒れる。
即ち合格させるべきという派閥と不合格にさせるべきという派閥。
どちらも言っている事自体は正しい、
決定権を有する根津と呼ばれた校長が口を挟む。
「どちらの言い分もとてもわかるのさ……しかし、相澤君の言う通りだよ、彼女はやれるべき事をあの場で最大限に発揮していた……合格にしよう……治療に関しては入学してから僕の方からそれとなく聴いておくよ」
その一言でクリスの合格判定が降った。
1週間後。
クリスの自宅に雄英からの封筒が届き封蝋が砕けてない事を確認してから中身を開ける。
入っていたのは投影機器。
掌サイズの円盤型の機械を起動させると映像が自動で展開されボサボサ髪の男性がややめんどくさそうな表情で端的に告げてくる。
『合格……雄英が君のヒーローアカデミア』だと。
その言葉のみで後は必要書類等の説明、ぶっきらぼうながらおめでとうとの言葉で映像は終わる。