ダンジョン攻略者学校の仮面教師   作:highvall

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「お兄ちゃん……お兄ちゃんっ!」



 呼びかけに応じて、泥のように沈んでいた意識が浮上する。

 顔にはさらりと髪の毛のような感触が頬を流れる。俺は重たかった瞼を持ち上げると、そこには天使がいた。



「おはよう彩音。今日も可愛いね」



 俺は手を伸ばし、妹の頭を撫でるとサッと避けられた。



「やめてよね。もう子供じゃないんだし」



 俺は気怠い体に活力を入れ上体を起こす。



「最愛の妹を愛でるのは全兄の義務だと思わないか?」



 妹は、腰に手を当てもう手遅れですと言うべきか諦めたような表情で溜息を吐く。

 そんな表情もまた愛らしいのだが。



「お兄ちゃんのことが心配だよ。ちゃんと自分で起きてほしいのに」

「無理だな。妹に起こしてもらうなんて役得諦めるわけがないだろ?」



 俺はキメ顔でそう言った。



「そんなこと言っても、私。春から東京の攻略者学校に入寮するし自分で起きてよね」

「は?」



 なん……だと……。

 この世の終わりか? これが終末世界なのだろうか?



「う、嘘だよな……?」



 喉から震えた声が漏れる。俺は藁にも縋る思いで、震える手を伸ばす。

 そんな俺の様子とは裏腹に、妹は机の上に放置されていた紙の中から一枚の紙を取り出し、震える俺の手に渡される。

 そこにはデカデカと攻略者学校の案内についてと書かれていた。



「俺も一緒に暮らせるんだよな……? 妹無しの生活なんて」

「お兄ちゃんついてこないでよね。偶に連絡はするし、寮だから無理だよ」



 希望は涙と共に儚く散った。

 絶望に浸る俺を余所に、最愛の妹は扉の方に向かう。妹は扉に手をかけ、ドアを開く。妹は思い出したかのように、こちらを振り返る。



「お兄ちゃん。これを機にしっかりしてよね」



 そう言って、妹は部屋を後にする。



 一人取り残された俺はあることを思い出し、動揺しながらも枕元に置いてあったスマホに手を伸ばす。

 登録されたアドレスは2件のみ。そのうちの片方は妹だが、今回は別の方にかける。

 通話ボタンを押し独特なメロディーが流れる。



『はい。もしもし、こちら朝比奈――』

「妹が攻略者学校に行くの知っていたのか⁉」



 通話相手の話をぶった切る。

 電話の相手――朝比奈纏が深く溜息を吐いているのが電話越しにも聞き取れた。



『あなたから電話なんて珍しいと思いましたが、そういうことですか。もちろん知っていますよ。逆に知らなかったんですか?』



 俺は、つい先ほど焦って声を大きくしてしまったが、まだ家に妹がいるかもしれない。手で口元を覆うようにして小声で喋る。



「なんとか止める方法はないのか?」

『この前成立した法律で新たな覚醒者は攻略者学校に行くのは義務ですので、いくら政府秘蔵の特級攻略者の黒鉄さんの頼みとは言え無理ですね』



 そ、そんな……。

 妹があんな危ないダンジョンに……? お兄ちゃん心配だよ?



『ですが、良い案がありますよ』

「本当か⁉」



 俺は藁に縋る思いで、聞き返した。



『えぇ。妹さんと一緒にいる方法が』



 俺はゴクリと喉を鳴らす。



『攻略者学校の教師になればいいと思いませんか?』


第一話

「なぁ。朝比奈さんこれはなんなんだ?」

 

 

 

 俺は目の前に置かれているモノを指さす。

 

 

 

「おや? これにご興味が? 中々お目が高い。これは我が国の最先端技術を取り入れたフルフェイス型の仮面で――」

 

「いや、コレのことを知りたいんじゃなくて、なぜここにあるのかってことを聞きたいんだ」

 

 

 

 俺が指摘すると、朝比奈さんはつまらなさそうな顔をして溜息を一つ。

 

 

 

「はぁ……黒鉄さんが被るからに決まってるじゃないですか」

 

 

 

 朝比奈さんは腕を組み、どこか見下すような目線で説明を始める。

 

 

 

「第一。妹さんの前で素顔で出ていくつもりですか?」

 

「うっ……それはちょっと」

 

 

 

 最愛の妹にはついてこないでよねと言われているし、俺が攻略者であることは政府の秘密だ。もちろん妹にも秘密にしている。心配かけたくないしね。

 

 ということで正体がバレるのは非常にまずい。

 

 

 

「今更なんだが、用務員とかじゃダメなのか……?」

 

「あー……。それに関してなんですが、上からは絶対に教師にしろと」

 

「なんで⁉」

 

 

 

 教師なんて目立つだろうし、秘密にしたいのに矛盾してそうだが。

 

 

 

「攻略者学校の義務化に伴って教師の数が足りないんです。それも実戦経験豊富な教師が」

 

「あー……」

 

 

 

 ってか国が準備もできていないのに見切り発車したせいじゃねーか!

 

 

 

「上の者が、ごめんね☆この国の為にも正体を隠して彼らを鍛えてあげて。とのことです」

 

 

 

 俺の無茶ぶりから始まったこの話だけど、一発ぶん殴りたくなってきたな?

 

 

 

「でも実技とかはともかく、知識とかは無理だぞ?」

 

 

 

 俺は何とか、別の方法にできないかと粘るが、朝比奈さんはどこから眼鏡を取り出しスチャリとかける。

 

 

 

「ご安心を。知識は副担任である私が受け持ちます。これからよろしくお願いしますね黒鉄先生」

 

 

 

 どうやら逃げ道はないらしいです。

 

 

 

 

 

 結局俺は諦めて、仮面を被って廊下を歩く。

 

 幸いなことに生徒たちはみな教室に集合しているようで、人通りのない静かな廊下を歩く。

 

 仮面というから閉塞感あるのかと思ったけど、呼吸もしやすいし視界も開けている。なんなら視界の端には心拍数とか各種データが表示されている。結構便利だなコレ。

 

 見た目が不審者になるという欠点を除いては。

 

 

 

「私はもう生徒たちと顔合わせているので、黒鉄先生……いや、名前がそのままだとマズイですかね? まぁアドリブで行きましょう」

 

「え⁉ ちょっ……」

 

 

 

 いつの間にか、教室についていたようで朝比奈さんはドアを開き入っていく。

 

 俺も、置いて行かれないように後を追う。

 

 教壇に登り改めて教室を見渡す。

 

 みんな怪訝な表情で俺のことを見つめる。そんな視線の中にたった一人を見つける。

 

 

 

 最愛の妹だ。

 

 

 

 制服姿の妹も素晴らしいな……。もし仮面がなかったら表情が崩れていたかもしれない。そう言った面では感謝できる。

 

 

 

「諸事情で遅れていましたが、改めて皆さんに紹介します。先生お願いします」

 

 

 

 どうしよう。妹に見惚れていて何も考えていなかった!

 

 適当にブラックとか名乗るか?

 

 そう思って口を開こうとした瞬間、妹と目が合い俺の頭に一つの考えがよぎる。

 

 

 

 果たして、ブラックと名乗ったところで妹を誤魔化せるだろうか?

 

 逆に最愛の妹が顔を隠して、配信とかしていたら俺は気づけないのだろうか?

 

 否。話し方や声、性格で間違いなく分かる。

 

 ならば、俺のすべきことは別の人格を演じるしかない!

 

 

 

「我輩は暗黒より来たりし龍。名はブラック・トワイライトルシフェル・ドラグニル。ブラック先生と呼ぶが良い」

 

 

 

 な――なにやってんだ俺ぇぇぇぇぇぇぇええええええええええエエエエ‼

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