彼は“お父様”に恋をした   作:─────

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「……以上で今回の報告を終わります。()()()

「ご苦労だった、セルジオ。相変わらず君は優秀だ」

「ありがたきお言葉です」

 

お父様と呼ばれた女は、報告を終えた男が頭を下げるとその頭に手を置いて優しく撫でた。

男は頭を下げたまま、気恥ずかしそうに目線を床の上で漂わせる。

彼が彼女に出会ったのは、彼女が召使の称号を得てから一年も経たない頃のことだった。

 

────────────

当時の彼は家を持たない孤児で、また金さえ払えばどのようなことでも実現してみせる有名な裏稼業の人間でもあった。

殺しの腕を商品にした、偽りの証言が欲しかった者へ言葉を商品にした。

モラになるならなんでも売った。

そうして今、彼は彼に残った最後の売っていなかったもの──カラダを売ろうとしていた。

 

「じゃあここで待っててね。私は体をキレイにしてくるから」

 

猫撫で声でそう言った女が部屋を出て、そろそろ一時間以上経つ。

女は腐っても富豪と呼ばれる立場だ。

彼が訪れた時には複数のメイドが出迎え、彼女自身も〝客人を待たせないことも、私のような立場の者の嗜みなのよ〟と自慢げな様子で話していた。

 

そんな女が一時間以上を湯浴みに費やすだろうか?

彼は静かに部屋の戸を開け、廊下の様子を伺った。

すると、部屋に入る前には灯りあふれていた廊下は明かりが消え、月明かりだけが照らす薄暗闇に変わっていた。

そんな中を、いかにも高そうなドレスを着た女がこちらへ走ってくる様子を月明かりが照らし出した。

等間隔の窓から差し込む光で時折照らされるその顔は焦燥と恐怖に満ちている。

 

「──っ!追加でモラを渡してやるわ!お前!あの女を殺──」

 

言葉は途中で途切れた。

倒れ伏した女の背後から覗いたのは、雪のような白銀と夜の闇のような黒。

隙間から覗く鮮やかな紅は彼に睨まれているような視線すら錯覚させた。

その凛々しい顔立ちに、その瞳に、彼は一眼で恋に落ちた。

 

「……これからは、私がお前を導こう。厳しく冷たい父として」

 

女は、どこまでも冷淡な声でそう言い放った。

そうして何者でもなかった一人の孤児は壁炉の家(ハウス・オブ・ハース)の異端となった。

皆が家族でありアルレッキーノ(召使)を父と慕う壁炉の家の中で、彼は全く違う目で彼女を見ていた。

その瞳はただ、美しいモノに恋をしていた。

 

壁炉の家に着いてすぐ、アルレッキーノは彼に自らの身分を告げた。

そして、彼が壁炉の家に残る意思があるとわかると

 

「君の名前は?」

「……名前?」

「あぁ、他の子供達にも君を紹介しないといけないだろう?」

 

アルレッキーノの言葉に、彼はしばらく悩むような素振りを見せた。

 

「──セルジオ、セルジオです」

「……揶揄っているのか?」

 

彼が名乗ったのは〝召使〟を意味する名だった。

アルレッキーノは目を細めて彼を見据える。

 

「貴女に救われたこの命を、貴女のためだけに使うという俺なりの決意です。……それに、俺の過去は、捨てたいものばかりですから」

「……そうか。それでは、君は今日から私たちの家族だ。よろしく、セルジオ」

 

こうして壁炉の家にまた一人、子供が加わった。

 

────────────

 

「……ジオ、セルジオ?…やはり最近、君は無理をしているように見える」

「っ!?いえ、そのようなことは──」

「よって、三日間完全な休養日を与える。好きに過ごすと良い」

「……承知しました。ありがとうございます」

 

出会った頃の回想を終えた途端に休養を言い渡されたセルジオは、項垂れて廊下を歩く。

すると、そこにリネが通りかかる。

 

「──あれ?セルジオ、項垂れてるなんて珍しいね。“お父様の下で働けるだけで嬉しい”って、いつも元気いっぱいなのに」

「……ちょうど今、休暇を言い渡されたところだ」

「あぁ……、ご愁傷様」

「それじゃあ、俺は一度寝てくる」

 

そう言ってセルジオは、疲れたようにベッドに倒れ込む。

壁炉の家のなんでもない一日だった。

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