彼は“お父様”に恋をした   作:─────

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「……」

 

カチカチと時計の音だけが響く部屋の中、アルレッキーノは一人思案に耽っていた。

それは、彼女の()()()の一人であるセルジオについて。

彼は昔から任務以外の私生活を蔑ろにしているような節があった、アルレッキーノもそれを知っていたが、個人の自由の範疇だろうと考えないようにしていた。

ところが、最近の彼は任務を与えればその目を嬉しそうに輝かせ、逆に休めと伝えるとこの世の絶望の全てを味わったかのような顔をする。

しかし、だからといって彼に休むことなく任務を与え続けるなどして良い訳がない。

悩んだ末にアルレッキーノが出した結論は、他の子供を呼ぶことだった。

 

「お父様、失礼します」

 

礼儀正しく入って来たのはリネ。

セルジオと話している場面を何度か見たことのある彼なら何かしらのヒントを得られないかと考えたのだ。

 

「………………というわけだ。何か手はないか?」

「えっと、その……」

「何かあるなら聞かせておくれ。どのような案でも可能性があるなら無碍にはしない」

「お父様が、何かしらに誘えば良いと思います。……セルジオは一分一秒でも長くお父様の役に立ちたいと願ってますから、お父様からのお誘いならきっとどんなものでも喜びます」

 

そう言われて、アルレッキーノはようやく彼の行動原理に合点がいった。

“貴女に救われたこの命を、貴女のためだけに使う”、この言葉は決して任務においてのみというわけでなく、彼女が許す限りどのような場面においてもそうだったのだ。

故に、彼への休養の宣告は“今ここにお前が役に立つ機会は無く、用はないので黙っていろ”というような暴言と同義だったのだ。

 

「……そうか。ありがとう、リネ。私は彼に少し謝らなければならないな」

 

───────────────

 

「セルジオ」

「……お父様」

 

アルレッキーノがその名を呼ぶと、彼はすぐさまこちらを振り返って頭を下げた。

 

「そう固くならないで欲しい。今回は任務ではなく私的な用事だ」

 

頭を上げた彼にアルレッキーノは告げる。

 

「まずは君に謝ろう、その覚悟を甘く見ていた」

「いえ、謝る必要はありません。全てあなたの心のままに」

「……ありがとう。ところでなんだが、ちょっとしたお茶会でもしたい気分なんだが…付き合ってくれるかい?」

「はい、それを貴女が望むなら」

 

リネの言った通りだった。

彼の言葉は普段通りの冷静さを失っていないが、アルレッキーノに頼まれた直後からその表情は喜びを隠しきれない明るいものとなり、その瞳は彼女を見据えて、生々と輝いている。

これは正解だったのかもしれない、などと思っていると、気がつかないうちに近づいて来た彼がアルレッキーノの机に何かをことりと置く。

見るとそれは、温かい紅茶が淹れられたコップだった。

 

「簡素ですが茶菓子もここに。……他の茶菓子や参加者が必要であれば集めますが」

「いや、いい」

 

茶菓子の用意もあったらしい彼は上着の内側からまるで手品のように丁寧に包まれたマカロンやクッキーをいくつも取り出す。

 

「この短時間で温かい紅茶まで用意するなんて、感心する手際だね。それはいつも持ち歩いてるのかい?」

「はい。毎朝淹れ直しています」

 

彼の手に握られていたのは奇妙な造形の施されたティーポット。

アルレッキーノは一目でそれが炎元素を利用して中身を再加熱するものだと理解した。

アルレッキーノは彼に自身と対面の席に座るように促し、彼が座ると話を始める。

セルジオの背後の扉が少し開いたその隙間からリネとリネット、フレミネの三人がこちらを覗く様子が見えるが彼を心配してのことだろうとそれを見逃すことにした。

 

「……前にも言ったが、君は好きに生きていいんだよ」

「貴女のために全てを捧げることこそ、俺の望みです」

 

その瞳に宿った確かな熱は、その言葉がお世辞や恐れから来るものではないと愚直に語っていた。

彼女はその瞳に説得は無駄だと悟ると、別の話題を始めることにした。

 

「最近、他の皆とはどうだい?」

「皆、心根の優しい人たちで、俺には勿体無いほど素晴らしい家族です」

「遊びがないね」

「……このような言葉しか知らずに育った故、お許しください」

「責めているわけじゃない。それは君の個性だ、別に気にすることはない。……けれど、もう少し気を抜いて話した方が、家族を含めて色々な人と距離を詰めやすい」

「……心に留めておきます」

 

彼は心の内を頑なに明らかにしない。

そんな彼にアルレッキーノは多少無理矢理にでも彼の心の内を暴くことした。

 

「……君は、他の子供たちとは違った目で私を見ているね」

「……っ!」

「疑いたいんじゃない、けれどその目がなんなのか……実に気になる。私に話してくれないか?」

「………………」

 

ここに来て初めて、セルジオは父の言葉に沈黙を返した。

言葉を促すように見つめる父を少しの怯えが混ざった目で見ている、その様子はまるで壁炉の家にやって来たばかりの子供のようだ。

 

「……何を言っても罵らないと、約束をしていただけますか?」

「スパイなんかじゃない限りはね」

「…俺がこの場所に居続けることを許すと」

「先ほどと同じ条件が前提だが、もちろんだ」

 

二度も確認をしてもなお、彼はまだ少し躊躇った様子を見せる。

そして体感時間にして五分ほど、実際の時間にして一分半ほどが経ったころ、セルジオはようやく口を開いた。

 

「……好きです」

「……ん?」

「あなたのことが、人間として、異性として好ましいと思います」

 

今度口を閉ざすのは、アルレッキーノの方だった。

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