彼は“お父様”に恋をした 作:─────
時間はリネとリネットに関する裁判が終了した直後に遡る。
「そういえば、お前たちのお兄さんの話は聞いてないよな?それに今回の裁判にも来てないみたいだし……」
「兄さんは来てた。ただ、姿を見せなかっただけ」
パイモンの言葉にリネットが返答する。
そして、彼の出自について知り得る限りをリネは語った。
彼が幼い頃からあらゆる汚れ仕事を生業にして来たこと、その本性はモラ至上主義の冷血漢であるとお父様と本人は言うが、そうではないと信じていること、そして……
「兄さんは僕たちに色々な技を時間をかけて教えてくれた。それに何度も助けてくれた、だから彼は僕たちにとっての兄なんだ。だけど……」
リネは少々言い淀むような仕草をして、それから意を決したように顔を上げて口を開く
「兄さんは初対面の人を食事に誘うような人じゃない。……きっとお父様から何かを命じられてる。初めから殺しに来ることはないと思うけど、気をつけて。……僕たちにしてくれたようにすれば、きっと兄さんからの信頼も得られるはずだよ」
そして、その少し後に彼に助けられ、そこからさらに数日後……
──────────
「待っていたよ旅人。さぁ、約束通り食事をしよう。そして、ついでに君の旅の話を聞かせてくれ」
蛍はセルジオから招待され、食事の席に座っていた。
(……本当に危ないかも)
セルジオは蛍を店の奥の席へと案内し、言葉巧みに壁側の席へと座らせた。
蛍は今、完全に逃げ場を塞がれているのだ。
「……警戒しているな?」
「──!」
「まぁ、そう焦るな。そこからだと店の入り口が見えるだろう?俺も増援は呼べない。お互いにそう有利ではないんだ」
「……なんのつもり?」
「少しでもお前と話をしたい。そして、少しでもお互いを理解できたら嬉しい。……お前とファデュイに軋轢があるのは知っているからな、他でできない話をするためにも席は奥にする必要があった」
理解してくれるか?と問う彼に、蛍は少しの間考えて渋々頷いた。
「よし。まずはもう一度、俺の家族が迷惑をかけたことを詫びると同時に、お前の助力に感謝する」
「本当に大変だったんだぞ!」
「だろうな。……俺が出られたならよかったが、俺は表に姿を出しづらいんだ。……過去に色々とやらかしたからな」
「……色々?」
「お前たちに身近な話で言えば、ナヴィアとクロリンデはどちらも俺が一度命を狙った相手だ」
「…………へ?」
突然の告白に、パイモンがぽかんとした表情を浮かべる。
脳が完全にフリーズしたパイモンとは反対に蛍はその眉を顰め、いつでも動き出せるような体勢へと移行する。
「……昔の話だ。ナヴィアは彼女の父が俺に雇い主より多くのモラを払って止めさせたし、クロリンデはあと少しというところで中断することになった……クロリンデは唯一正面から戦って殺せなかった相手だ」
「……ナヴィアの話は、もしも彼女が父のことを知りたがっていたら教えてやってくれ」
彼の言葉に、今度は悩むことなく蛍は頷き、そしてそろそろ本題を話すよう促した。
「では単刀直入に、壁炉の家と手を組まないか?」
「それは、〝お父様〟からの指示?」
「その通りだ。お前が協力してくれるなら、出来る限り良い待遇を約束する。お前の行なっている調査にも協力しよう」
「あなたの〝お父様〟に会ってから決めるよ」
「そうか、ならばそう伝えておく。……壁炉の家の人間として話すべきことはこれだけだ。ここからは俺個人として話をさせてもらおう」
彼個人として、という言葉に未だ彼の人柄を把握しきれていない二人は息を呑む。
そして、少し間を開けて彼が口を開いた。
「……これまでの旅の話を聞かせてくれ」
「……?」
「首を傾げることか?数々の大冒険をこなした大人物本人との会話だ、聞かなきゃ損というものだろう?」
躊躇いつつも旅の話を始める蛍とパイモン。
それをセルジオはこれまでで一番楽しそうに聞いていた。
話はモンドから璃月、稲妻を経てスメールへと進んだ。
彼はその一部始終を、笑ったり眉を顰めたり、小さく拍手をしたりしながら聞いていた。
「──それで、オイラたちはナヒーダ助けて機械の神を倒したんだ!」
「……やはり、いつ聞いても冒険譚というものは心が踊るな。それが本人たちの口から聞くものとなると尚更だ。」
彼はそう言うと、おもむろにレストランの時計を見つめる。
「──っと、もうこんな時間か。悪いな、俺はそろそろ行かなくては、港に用事があるのでな」
彼は椅子から立ち上がると、蛍の方を振り向いて
「今夜はどれだけ食っても俺に請求が来るようにしてある。好きなだけ食ってから帰るといい。夜道には気をつけろよ」
そう言って店を出て行った。
「なぁ旅人!あのセルジオって奴、オイラたちの話を楽しそうに聞いてたし、悪い奴じゃないのかもな!」
「……ご飯につられただけでしょ」
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夜、港にて
「……お待ちしていました、お父様」
「君か、ブーフ・ド・エテの館で待っていて良いと言っただろう」
船を降りたアルレッキーノを迎える一つの人影。
半ば予想していたその存在にアルレッキーノは軽くため息を吐く。
「俺なりの貴女への尊敬と敬意の示し方であると考えていただければ幸いです」
「……それで、旅人の下調べは終わったかい」
「はい、滞り無く。おそらく協力関係を結ぶことが出来るでしょう。──もし障害となるとしても、貴女の手を煩わせることはないと断言できます」
セルジオは、ひどく冷たい眼でそう言った。