TMR(of ephraim) プロトタイプ   作:バクネツ02

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♯A05

 TMR(of ephraim)♯A05【Tiamo Mysteriously Retires voluntarily】 

 

 

私、ティアモはエイリークを連れて『エムパ(エムブレムパーティー)運営事務所』

に向かう途中、彼女に紋章町と同人誌の歴史を説き、

次に現在の同人誌界の現状を紹介することにしました。

今回の話のはじまりです(ちなみに季節は冬です)。

 

 

                 ★

 

 

 ~現在の紋章町の同人誌即売会事情~

現在紋章町ではアカネイアを中心に地方で小さな即売会が行われている。

ただ、年に三回希望の宴~UTAGE~である

エムブレムパーティーがエレブ地方の竜殿で開催されている。

その建物、竜殿は奇抜な外見を保ち、

内部は大きく4つのエリアに分かれている。

簡単に言えば東京ビッ○サイトであり、

各エリアは東西南北の方位で“…館”と呼ばれている。

また、各館によってジャンルが別れ、

そのトップサークルの栄誉を込め“同人の神”と呼んでいる。

配置場所も一等地もさることながらサークルカットは

なんと1P使用している待遇を受けている。

4つエリアがあることから同人の神の総称を『四神』と呼ぶこともある。

 

四神は元々東の青龍(碧)、南の朱雀(緋)、西の白虎(白)、北の玄武(黒)とされ、

四神の中心的存在の黄竜は中央に位置している。

紋章町においては青竜のユンヌ、朱雀のミラ、白虎のアスタルテ、玄武のドーマ…

同人誌が大好きな四神とかけわせ、

この竜殿に眠っている偉大な神竜王ナーガに敬意を払い黄竜とした。

四神は4年に一度に選ばれる。この制度が導入され、現在は13代目である。

 

・現時点の四神及び各館の特徴

北館……少年誌系、バトル、ファンタジーなど

神:漆黒 《漆黒ハウス》←サークル名

王道のファンタジー系を得意としている。

特に騎士と乙女の物語は必見である。

またダイヤの原石の新人を発掘しているとの噂も。

 

西館……青年誌系、劇画、ハードボイルド、オリジナル系

神:ハーディン 《草原の狼》

現、エムパ運営の最高責任者で安定な収入を得ながら

同人作家としても名を馳せている。

既婚者だが、夜は漫画を描いているので初夜まだらしい。

 

南館……少女誌系、恋愛系、ノベル系 など

神:ティアモ 《ダサい手槍》

エムパで1,2を争うほど画力の持ち主且つ

至上最年少で同人の神まで登りつめた少女。

しかもシビリアン。彼女の偉業はたくさんのモブキャラに夢を与えた。

代表作は魔女っ子ミカリンシリーズであり、

昨年は多大な興行収入を得たとされている。

 

東館……薔薇とか百合とかメイドとか……ようはいろいろ

神:ヒルダ《Freege Empire》

古参の貴腐人。新人の面倒を見る姉子肌な存在でもあり、

そのジャンルなら知らない者はいないほどの有名人。

彼女の野望はFE=Freege Empire(腐リージ帝国)とすること。

 

・エムパ参加するにあたりに必要なもの

まず最低限の水と食料。そしてお金、

そして、最も重要な物……『エムパカタログ』である。

エムパカタログとは武器の属性[-]錬成可能の書のこと。

ちなみに聖魔の光石では有名な火山バグにより敵ユニットが操作することができ、

モンスターの武器仮にゾンビの『くさった爪[-]』を輸送隊預ける。

それを所持すると、たとえ非武装のシスターあっても攻撃が可能である。

つまりエムパカタログはシビリアンでも扱え、一般市民の神器とも言える。 

なのでここは一般市民でも殺ることができる

非常に危険な場所と言っても過言ではない。

 

・会場の禁則事項。

盗まない、捕えない、殺さない。

レスキュー、転移の粉やワープ、リワープ等よる不法侵入、

物質輸送が出来ないように魔封じの者がスッタフとして駐在している。

よって魔法および杖は使用不可。

それでも、不正を行う輩は命の保証はない。

 

・働いているスタッフ

アカネイアの方々。

ハーディン、ニーナ、リンダ、ミディア、アストリア、ホルス、

トムス、ミシェラン、トーマス、ジョルジュ、ゴードンとか…ボアは戦力外。

新刊のチェックはオレルアンズが担っている。

北担当…ザガロ、西…ウルフ、南…ロシェ、東…ビラク

 

スタッフとは運営の他、不正摘発、列の誘導が主な仕事とされるが、

暴動の鎮圧化が一番の仕事となっている。

理由としては上記を参考、シビリアンが武装をしているため。

また新刊チェックというのは一言で言えば発行する同人誌の検問。

引っ掛かると発売禁止、通称“発禁”の処分を受ける。

主に性的描写、グロテスク描写における部分で修正を施しているかどうかである。

修正処理が甘いと新刊チェックで引っ掛かる場合がある。

ただ…東館でチェックに巡回しているのがビラクなので

BL本はほぼ無修正で通ると有名。

それ故、ビラクは腐女子の間で神呼ばわりされている。

 

 

                 ★

 

 

こんなものね、話に一区切りがついた時には

『エムパ(エムブレムパーティー)運営事務所』まで到着しました。

おそらくここではアカネイアの方々が内勤をしているはず。最高責任者であり

私と同じ同人の神であるハーディンさんに直接交渉してみましょう!

 

 ※エムパ運営事務所※

受付嬢のリンダさんに単刀直入にハーディンさんとの面会の旨を伝え、応接室に。

しばらくするとハーディンさんがオレルアンズを連れてやってきました。

私は無理も承知で参加の交渉を開始します。

理由を話すと、ソファーの後ろに立っている紫髪のウルフさんは

 

「何を馬鹿げたことを、即売会を私物化するつもりか」

 

と辛辣な言葉を発しました。いやこれが普通の反応でしょう。

私がしていることは自分の地位を利用し、やりたい放題しているのですから。

 

「ハーディン様、いかがなされますか?

 私見でありますが、集客効果は期待できると考えられます」

 

と、ウルフさんの2Pカラーのザガロさんはフォローを入れてくれました。

同人の神の私が参加することで私の支持者達がアカネイアまでやってくる。

これは活性化であり、人がくればお金を落とす量が増え、地域に潤いを与える。

不正行為でありますが、それを差し引いても利益が

得られることを見越しての発言でしょう。

まあ、私的に味方をしてくれて有り難いことですね。

ザガロさんの意図を理解したウルフさんは、ハーデインさんに決断を求めると、

 

「そうだな、リスクはあるがこのアカネイアを同人の聖地と呼ばれ続けるために

 尽力しなければならないと自負している。

 朱雀よ極力場所を手配してみるが、ジャンル通りには置けないだろうな。

 それでもいいか?」

 

といい、なんだか交渉成立な予感が!

 

「ウルフ、ザガロ、ビラク、ロシェ。余裕のあるスペースはあるか?」

「いえ、私の所は余裕ありません」

「私も同様です」

「僕の所も…すみません、ティアモさん。

 僕の担当のジャンルなのに…ビラク、君の所はどうなの?」

「BLスペースに多少のスペースが…

 丁度壁際で機材置き場であるのでそこを開拓すれば…」

 

えっ腐女子のスペースですか!?マジですか?私の今回の漫画は純愛モノですよ!

とはいえ、背に腹は変えられませんからね。仕方なくそこでいいと承諾するのでした。

 

「ティアモ君、君もこの際腐女子にならないか?

 君の繊細かつ大胆な画力なら申し分ない。

 修正なしで発行する特権をつけてあげるからね。どうだいやらないか?」

 

…クロム様の裸を描け…と?ちょっといいかも…

って違ーう!私は仮にも四神の一人なのでジャンルを無暗に変えられないんです。

いや、その前に今回で同人誌から足を洗うんだから!

 

 

                 ★

 

 

その後、ハーディンさんがスペースの件をなんとかしてくれるようになりました。

話のわかる人で助かりました。これにて初期目標が達成されたと言うわけです。

次のミッションに移るとしますか…

エムパ運営事務所(コミケの開催している会社)でなんとかスペースを確保した私達。

次に向かった先は…

 

「次はどこに行かれるのですか?」

 

とエイリークは問いに、私は印刷所に行くと返しました。

印刷…原本を複製する画期的な技術、

人類が生み出した(ホントは竜族ですが)文明。

その文明を機械化するに至るまで進化させ、

文明の利器と『コピー機』を用いた商いが印刷所。

業務内容は本の製本をはじめ、新聞、広告、パンプレットの印刷を請負っている。

そして作成された印刷物を配ることで、

広範囲に同一の情報を浸透させることに一役買っている。

…と心の中で印刷所の補足をしていると目的の場所に到着しました。

 

そこはアリティア地区の商店街の一角にある

従業人数からして零細企業に分類される印刷所。

すみませーんと引き戸を開けて中に入ります。すると…

 

「いらっしゃいませ~!あっティアモさんですね、いつもありがとうございま~す」

 

出迎えてくれたのは淡紅色の髪をした少女、エストでした。

「すぐにアベルさんに取り次ぎますので、しばらくお待ち頂いてもいいですか」

馴れた様子で応対する彼女ですが…彼女まだ12です。

彼女は学校帰りにここでお手伝いをしているそうです。

数分後、店の奥から男性がやって来ました。

この殿方はアベルさん。どこぞのCMのように歯を光らせて、爽やかで好青年です。

以前エストが見せてくれたアベルさんの卒業アルバムを写真は出っ歯でした。

しかし必死の矯正のおかげで今のようになったというわけです。影の努力家ですね…

そんな性格が功を助け、今こうして印刷所の若き主をやっているわけです。

 

「いつも通り印刷の依頼でいいのかな?」

 

はい、そうですと答え、アベルさんから依頼書を渡され、

必要項目を手際よく書き込む。彼に戻すと、

 

「ちょっと、向こうの部屋で腰かけててくれないかな?」

 

と言ってアベルさんは部屋の奥の方に姿を消して行きました。

応接室のソファーに座り、

アベルさんが来るまで待っているとエイリークが聞いてきます。

 

「いつもここを利用されているのですか?」

そう、オフセット印刷にしてからずっとね。

かれこれもう三年の付き合いになるかしら…

 

「そうですか。ところで今回は何部刷るのですか?」

 

の問いに私は一万部と答えると、彼女は驚いた顔を見せました。

丁度良い所に見積額の計算を終えたアベルさんが

やって来て見積書を見せてくれました。

それをエイリークに渡すと彼女は見積額を閲覧しメガテン、しばしの間放心状態に。

例えるなら、(リーフが収集したデータを閲覧して)

末妹のセリカにさえ胸囲-胸囲下の数値が小さいのを知ってしまったような…

しばらくして我に戻ってもう一度見積額と向き合い、

 

「この数字は…いち、じゅう、ひゃく…すう、すう百万!?」

 

と棒読みで額を確かめ始めました。まだ動揺していますね…

私は見慣れている数字、これでも抑え気味なんだけど…

そんなに驚くのかしら、中学生には天文学的な数字だったかな?

彼女が見終わった後、再度私も見積書の額を確認し、あっさり了承の意を伝え、

用意してきた鉄の金庫から原稿を取り出しテーブルの上に置きました。

 

「え!?いいんですか…これで!?それに」

 

私の即決即断と金銭感覚の違いに再び度肝を抜かせされたエイリーク、

すると絶妙なタイミングでお茶を持って来たエストがやってきました。

彼女はいろいろ仕事を覚えているようですね。

 

「あれーもう終わったんですか?」

 

彼女は人数分のお茶を配り終えるとアベルさんの隣座り、

テーブルの上に置いた私の原稿の原本に手を伸ばします。

 

「エスト、大事な原稿だ。万が一のことがあってみろ…」

「あ…ごめんなさい…」

 

仕事を覚えているようですが、

こういう公私の区別がつかない所はまだまだ子供ですね。

彼女との仲だから別に構わないとアベルさんに言うと、

エストは嬉しそうに私の描いた漫画を閲覧します。

 

「私、いつもティアモさんの漫画楽しみにしているんです。

 今回の漫画はどんなのかな…」

 

と原本を見つめるその姿は、

私の描いた漫画を隅々まで読むように真剣になっていました。

エストが漫画を読んでいる間、

エイリークがアベルさんに印刷所というのはどういうものなのか質問していました。

一通りの説明が終わったぐらいで、エストも漫画を読み終えたようでした。

 

「今回は…恋愛モノですか。

 いいですね…そうだ今度私とアベルさんをモチーフにした話を描いて下さい!」

 

と、目を輝かせて頼んできました。

これには私もアベルさんもどうしたものかと苦笑している所、エイリークが…

 

「ですが、この漫画がティアモさんの最期の同人誌になるんです…」

「そうなのかい?」

「うそー!本当ですかー!なんでもったいないですよ!」

 

私の引退にアベルさんもエストも驚きを隠せません。

その後、引退の話題からこれまでの昔話に華を咲かせました。

元々アベルさんとはこの印刷所を立ち上げた当初からのつき合いでした。

時には、〆切り間際、印刷所の空き部屋に籠らせてもらったり…

印刷可能期日のデッドラインを過ぎて依頼してきた時や、

原稿が一枚ないと連絡を受け届ける間輪転機を止めてもらったことも…

それでもアベルさんは徹夜でなんとか仕上げてくれた。

それから一年くらい前、エストがここで手伝いを始めたり…

今思えばいろいろあったわ…ほとんど私が迷惑かけているだけね。

 

「でも何で急に同人やめちゃうんですか?」

 

と感慨に浸っていると、エストが先程の話、同人引退の話を振って来ます。

 

「そうです。兄上がマンガを描くことを止めることに

 異議を唱えた気持ちも多少にわかります。もったいないですよ…」

 

エイリークも寂しげに言ってくる。

ホントは止めると決めたのは前回の冬コミだったんだけどね…

現状(同人の神の称号得ている)を捨てる行為は他人、

いえ普通の人からすれば正気の沙汰ではないと思うでしょう。

でも私はもっと価値があるもの…ただ自分の進む道、

宝物の恋をすることを見つけたから。

人間の手は二つしかない。

望む物を手に入れようとすると代わりに何か捨てなければならない。

子供でも解かる等価交換よ。

だから私はマンガを描くことを止めることにした…

と止めた理由を言おうかどうか躊躇していると、

 

「何か事情があるのかい、良かったら相談に乗るけど…?」

 

アベルさんが心配して声をかけ、これに対しエストは

 

「ちょっと、アベルさん。誰にでも優しくするのは駄目よ!

 ティアモさんが本気になっちゃうでしょ!」

 

…とぶうぶうと文句を言う。

本気…って確かにアベルさんは格好いい殿方だと思うけど、

私にはクロム様という心に決めた男性がいるのでその心配はないわ、エスト。

私はみんなに漫画を止めるのは恋をする時間が欲しいから…と答えると

 

「そうですよね!私もアベルさんのことが好きだから、

 少しでも一緒にいられるようにこうやって印刷所でお手伝いしているんですから」

 

エストは無邪気に答え、アベルさんはまたもや苦笑します。

 

「でも、ティアモさん。アベルさんったら酷いんですよ、

 私がこんなに尽くしているのに…お礼のキスもしてくれないんです!」

「それはだな…」

 

エストは同意を、アベルさんは私に助けを求めてきます。 

 

「…それでね、私の好意を受け取るだけ受け取って、最後には捨てられるのよ」

「そんなつもりはない」

「なら私と結婚してくれる?」

「…大きくなったな。いやその前に、私にはパオラがいるから無理だ」

 

へぇ~アベルさんの恋人ってパオラって言うんだ…

それにしても “結婚して→大きくなったらな”というサイクル、

どこかで聞き覚えがあるわ…

そうだ、孤児院でエフラムが小さな女の子と一緒にいた時よ!

だとすればアベルさんはエフラムと同類でロリコン?普通恋人がいるのに

親類でもなく年端もいかない女の子に仕事の手伝いをさせないわよね…

少なからずアベルさんはエストに気がある可能性がある…

いえ恋人は世間体を気にしてのカモフラージュとキープで、

本命がエストということも!

つまり…二股!?いや、恋愛詐欺師!はあ~幻滅。

先までは爽やかな青年実業家と思っていたのに、

プレイボーイ面したただのロリコンだったなんて…

 

「私は二股もしてないし!ロリコンではない!」

 

私の頭の中を察したのか、アベルさんはロリコンではないことを弁明します。

あれ?ロリコンの「ロ」の字も言っていないのに何でわかったでしょうか?

 

その時、店の外から新たな来訪者が印刷所を訪れます。

お客さんかなと思いましたが…

 

「ここにロリコンがいるって通報があったけどもしかしてアベル?」

 

その正体は女性警官でした。

 

「パ…パオラ、なんでここにいるんだ?」

「おねーちゃん、どうして!」

「うーんと、パトロールで近くを通ったんだけど…

 なんだか聞き捨てならない発言が聞こえたから」

 

店の外に漏れる程の音量の会話をしていないはずだったのですが…

どうして聞こえたのでしょう?

この人も革新をしているのでしょうか?

ほんとこの町の人達は常識離れした能力を持っていますね…

それはさて置き、二人の反応からしてこの婦人警官警察はエストの姉であり、

先程アベルさんの口から出た女性の名前のようです。

ここで私は人間関係を整理しました。

 

“アベルさんとパオラさんは恋仲であり、

 アベルさんは恋人の家族なので優しくしていると、

 エストは思春期特有の年上に憧れる衝動に駆られるのと

 自分に興味があると勘違したことにより、アベルさんにアッタクしている。

 エストは姉の恋人をNTRしようとしている…

 まあ年齢によるただの独占欲からくるものね

 端から見れば恋のライバルです。”

 

…と本来であればこう捉えられるのですが、

今の私は“アベルさんはロリコンで恋する女の敵”という結論に至りました。

よってアベルさんをフォローせず、ただ傍観することに…

するとアベルさんとエストが一緒にいるのを見たパオラさんは、おっとりとしている

雰囲気が一変し阿修羅いえ不動明王とも言い難い存在となっていました。

 

「…アルムとセリカが一緒にいると怒り出すシグルド兄上のようです」

 

…とボソッとエイリークは日常茶飯事のよう軽く流しに感想を漏らします。

彼女は凄いですね…私は今にでもこの場所から撤退したいくらいです。

…と思っていると姉妹が一人の男をめぐって修羅場を作ります。

 

「エスト、あなた天馬免許の訓練はどうしたの?

 来年には試験を受けられる歳になるんだから!」

「アベルさん(の馬)でやってるっていつも言ってるじゃない」

 

え…!?今なんと言ったのですか。アベルさんで練習しているんですか!

き、きっと馬ですよね、アベルさんの!そうでなければ鬼畜ですね。

そう言えば、エフラムも孤児院でお馬さんごっこをやっていたような…

小さな女の子を乗せて走っていたから遊びの一環よね。

でもアベルさんはそれ以上の危険な匂いがするのは何故かしら…

もしかしてエフラム以上ですか、あなたは?

 

「…どういうこと、エスト?それにアベル?」

「それはだな…」

「だから大きくて逞しいアベルさん(の馬) で練習してるって言っているじゃない」

 

エストの誤解を招く発言に仏…

いやもう明王化したパオラさんの怒りは頂点に達しました。

彼女の顔はこの世のものと思えぬほどの形相であり、私は今でも忘れられません。

それからパオラさんは二人を正座させて、凄い剣幕で説教を始めました。

数刻後に終わり、アベルさんは解放されると思いきや、警察署に連れて行かれました。

そうね、ロリコンで二股する女の敵は一生ブタ箱の中にいればいいのよ。

ですが警察に連行される姿を見て私はふとクロム様のことを思い出しました。

クロム様になら連れて行かれて、

尋問としてあんなことや、こんなことされてもいいかな。

いえ、是非そうなりたい!…といつもの衝動を抑えきれずに妄想を。

ああ…また欲望が身体の端から滲み出してきました。

 

「あの大丈夫ですか?涎が出てますけど…」

 

エイリークに声かけられ妄想に耽た私は我に返りました。

人前で妄想に耽るのはまずいわね…

用も済み帰ろうとした時、印刷代金を払っていない事を思い出しました。

アベルさんが連れて行かれ、どうしたものかと呆けていると新たな人影が、

 

「すまないな…お金の清算がまだだったようだな。残りは私が引き継ごう」

 

と声をかけてくれたのは顎髭が印象的なダンディな殿方…この人はフレイさん。

三十路を越えている風貌ですが成長率は新人よりも良いとのことです。

この人は印刷所の実質的な責任者で苦労人です。

 

「アベルはあれが無ければいい商売人なんだがな…」

 

と先の騒動を一部始終見ていたようです。

あれが…という時点で結構頻繁に起こしていることですね。

アベルさんがロリコンで優柔不断で八方美人で出っ歯じゃなかったら、

どれだけフレイさんの負担が減るんでしょうね。

と思いながら鉄の金庫の中からお札に束を取り出し、机の上に並べます。

(※ちなみに紋章町の金銭事情は想像しやすいように

 現在の日本と同じものとしています。)

フレイさんは馴れた手つきで数え始め、途中でお札を手にしながら話かけてきました。

 

「先程の会話が聞こえてきたんだが…本当に漫画を描くのを止めるのかい?」

 

“そうです”とフレイさんには率直に言えなかった。

私も漫画を描いて売っている。

簡単ではあるがマネーサイクリング、つまり商いをしている。

故に1万部も受注してくれる大口の客が消えるとこの経営も大きく傾くことになる

…と予測できたから。

私が同人を止めるのは私自身の問題だけど、

その煽りを受ける人には申し訳ないと罪を感じる。

 

「もしかして、ウチの事情を気にかけてくれたのか?

 確かに君程のお得意さんを失うことは痛手となる。

 だがその程度で路頭に迷うような柔なものではない。

 それに君がここを利用しているという口コミから多くの

 新規の利用者を獲得できている。

 その客層がまた若き頃の君のように育ち、

 新規を呼び寄せてくれれば、立ち直おせる。だから心配は無用だ」

 

私が気負いしているのを感じ取ったのか、フレイさんは私をフォローし、

それでも顔を色が悪い私に言葉をかけてくれました。

 

「君は今卒業という一つの節目を迎えようとしている。

 ただ卒業を何のための人生だったかと後悔し、悲嘆に暮れたりもする者もいれば、

 また、人間や世の中の何たるかを学びそれを次の人生で活かしそうとする者いる。

 私が君に覚えておいて欲しいことは前者にはなるなということだ…」

 

これは私にだけでなくフレイさん自身にも言い聞かせているようだった。

フレイさんも紆余曲折があってその前に何があったのか分からないが、

今の言葉を言い聞かせながらここで働いているのだろう。

話すことも無くなりフレイさんは黙々とお札を数える中、

私は先の言葉を思い返す。

 

私が同人を描いていたことはこれからの私の人生に何に活かせるのだろうか?

いえ、いくら同人で名声を得ても、

意中の人の心を射止めることはできないとわかった。

愛は受け取るものではなく、手に入れるものと考えるようになった。

だから私は変わろうとした。

そう同人を卒業することは私自身に革命を起こすこと…

 

その後、印刷代金を支払った後、

同時に会場までの輸送の手配をして、これで商談終了。

印刷所を後にする頃には、もうすっかり辺りは暗くなり、

微かですが雪が降っていました。

でも準備が整ったことで後は当日を待つだけです。

エイリークに待ち合わせの時間と場所は、

後日伝えると言ってその日は別れることにしました。

 

 

                 ★

 

 

コミケ当日、今日の戦場はアカネイア地区のパレスにある建物内です。

家を出て待ち合わせ場所に向かうと、

約束の時間より余裕を持って来たつもりでしたが、既にエイリークは待っていました。

まあ早いことに越したことはありませんね。

サークル入場を済まし、カタログを片手に自分のスペースに向かいます。

着いた先は本当に会場の端っこで、しかも周りのサークルは全部薔薇一色です。

ちょっと失敗しちゃったかも…

もしかしたら今日は在庫抱えて、完売という有終の美を飾れないかもね。

とにかく本を搬入します。これが大変、何せ1万部もあるのですから。

普段体を鍛えていない私にとって丁度いい…いえかなりの重労働です。

帰ったら確実に筋肉通ね…

本を運び終わり、販売の準備をすることに。その時、

 

「いくらで売るのですか?」

 

とエイリークの問いに対し、1000Gと答ました。

これはお釣りを出さないためです

(くどいようですが紋章町の金銭事情は現在の日本と同等としています) 。

お釣りが出ると逐次時間を消費し、塵も積もればなんとやら、

その結果大きなタイムロスが生じます。

ましてや本を1万冊売ろうとするとどれだけの時間がかかるか測り知れません。

という理由で値段設定をしています。

 

「1000Gですか…少し高過ぎはしませんか?」

 

そうね、出版社に契約している漫画家と違って同人はいわば自費出版、自営業。

少しでも利益が出るように多少ふっかける。

ただ同人誌即売会は作家と読者の真剣勝負であり、生産者と消費者の関係と同じこと。

商店街で主婦が見定めして買うように、

同人誌の内容が設定された値段の価値があれば読者は買う。

設定金額を高くすれば、買入者はおのずと減少する。

だからと言って低くすれば利益は下がる。

よって塩梅は難しい…というのが一般的な考え方ね。

しかし、私はそんなこと考えていない。

売ることまで考えて1000Gに設定している。

無論、クオリティも同等、いえそれ以上の物を作っていることを自負している。

そうやって極みを目指し、同人の神まで辿りついたことに誇りをもっている。

でもこんなこと今更どうでもいいことだけどね。

 

午前10時、会場が始まると人が津波のように押し寄せる。

普段と違うジャンルに配置されているといえど

私のサークルにも大勢の客が列をなした。

ここからが戦争の始まり。どれだけ迅速に捌くことができるかが勝負の分かれ目。

策は予め打ったがここまで来る、個人のポテンシャルが重要になる。

当然、スミアのようなドジっ子なんて論外。手伝うと言われても願い下げをするわ。

だから何でも卒なくこなす胸の大きさ以外が万能なエイリークに頼むとしたわけ。

私のサークルは私とエイリーク、そして志願兵いえ有志を含めて数人で客を出迎えた。

 

私の見立ての通りエイリークは最初こそ戸惑ったものの、

即座に慣れ凄まじいスピードで客を捌いて行く。

彼女に頼んだのは正解ね…

昼過ぎになる頃にはほぼ完売。

あとは時間一杯には捌けるだろうと見越し、有志達を解散させることに。

エイリークにも休憩でもしてきたらと言った。

彼女が移動して私は、とんでも無いことをしてしまったと気がついた。

素人をこんな一般市民が攻撃して来るところに放り投げてしまったと。

いや、彼女なら大丈夫か…と私も軽く一息つこうとした時、来客が現れる。

 

「新刊を一冊所望する…」

 

誰よ、KYね…と不満も内に秘めながら接客しようと、

伏せていた顔をあげて相手の顔を見ようとした。

その顔は見覚えがある顔、先程売り子をしていたエイリークの半身。

 

そうエフラムだった。

どうやらあなたと私は運命の赤…ってちがう、どうして彼がここにいるのよ!

まあ向こうも同じことを考えているようだった。

でも今は客であるから、お金さえ払ってくれればそれ以上何も言わないようにした。しかし…

 

「止めたと言ったのではないのか、この前のことは嘘だったのか?」

 

私は何も答えなかった。第一答えも仕方がない、彼とは関わる必要が無いのだから。

そこに第三者がやって来る。

 

「えくせれんとっ!!まいぶらざー・あーんど・まいしすたーっ!」

 

この独特な狂言なもの言いは、実はいい人。

この同人誌界におけるコアユーザーでもある。

彼は趣味の同人ショップを経営し、私も委託販売に頼んだ際に面識があった。

しかし、彼がなぜエフラムと知り合いなのか?聞いてみると

 

「吾輩は将来の伴侶まいすいーとはにーのエイリークの兄、つまり義兄弟だ。

 だからまいぶらざーと呼んでいる」

「うるさい、貴様はもう黙れ!」

「くくくく……まいぶらざーとティアモ女史に面識があったとわ。

 これも同志達は運命のタングステンで結ばれていたようだな」

「一応な…後彼女とはそんな関係ではない!」

 

私もそうだと、エフラムに激しく同意する。

だがこの人間は聞く耳持たぬと言わんばかりに自分の世界を相手に強要させる。

 

「ティアモ女史、貴女が同人を引退することが噂となっているが本当か?」

 

今回限りで止めると答えると…

「ぶりりあーんとっ!まいぶらざぁ!いよいよ、約束の日が近づいた。

 偉大なる千年紀っ!我らの黄金時代がなあっ!」

「意味が分からんから、お前はさっさと没してくれないか?」

「なんとっ!そんなこともわからないのか、まいぶらざあ!

 時代はお前を必要としていることだぞ」

「貴様の戯言に付き合っている暇はない」

「戯言か…まったくお前もエイリークに似て素直ではない。

 魂の兄弟なら分かっているはず、

 だからこそ敢てそのような言葉を選んだのであろう!!

 すなわち、我らの宿命もわかっているだろう!

 ときに、まい同志エフラム!お前が幼女と戯れてロリコンとされている失策、

 あるいは己の決断した結果だと思っているがそれは違う。

 そうなることはこの大宇宙が始まる前、

 竜族がアカネイアに現れる前か決まっていのだ。

 お前が幼女好きとなり、今こうして同人誌即売回に来ていることは

 すべて宿命だったのだよ。

 そう、愛を超え憎しみとなり、憎しみをも超越したように」

 

…なんか二人で小芝居て私は蚊帳の外に。しかし面白いので観察することに。

 

「俺はロリコンでなはい、それに俺自身が間違っているとは思っていない! 」

「ならばそれで良し!お前は実に運がいい」

「どういうことだ?」     

「同人神と言われるティアモ女史が、今その地位から離れると言っているのだぞ!

 つまりだ、そのポストが空いたことにより、

 お前がその地位に付けと言うことなのだ!」

 

ヒーニアス、彼の発想は私の想像を遥かに超えています。

私が同人を辞することを利用するなんて…

まあ、仮にエフラムが漫画を描くことになっても

私にはもうどうでもいいからいいけど…

 

「お前はティアモ女史と同志として道を共にしていたのであれば

 お前がその後を継ぐのが道理ではないのか?

 違うな!彼女はお前に漫画描かせるために敢えて引退を決したのだ!

 そうだ、彼女も一種のツンデレなのだよ。素直に一緒に漫画を描きましょうと

 言えないからこのような大芝居をうったのだよ」

「そう…なのか。ティアモ?

 あんたが漫画を描くのを止めるといったのはそのためだったのか?」

 

それは違うと私は答える。

 

「ヒーニアス、貴様なぁ…いい加減なこと言うな!」

「クくく…バレしまったら仕方がない。改めて聞くぞまいぶらざぁエフラム、

 お前…マンガを描いてみないかっ!」

 

…なんか超展開になってきたんですけどー

 

「マンガを描けだと!?」

「まいぶらざぁエフラム、『ペンは剣よりも強し』という言葉を知っているか?

 剣に強いもの………すなわち『槍』だ。

 しかもお前は大陸一の傭兵になるという野望を持っていたほどの男。資質は十分だ」

「槍とペンは同じであり、持ち替えろというのか?」

「そういうことだ。加えて『王の器』と『覇王』のスキルも持っている。

 これは大きなアドバンテージだ。これだけ条件が揃っているのだぞ!

 よってお前はマンガを描くべきだ!違うな、描け!描くんだ!

 そしてお前はマンガに生き、マンガで死ねっ!それが、お前の宿命だ! 運命だ!!」

「………」

「あまりに過酷な運命のいたずらに声もでないか、まいぶらざぁ」

「ヒーニアス、一つ訊く。お前は漫画が世界を変えられるいうのか?」

「そうだ、まいぶらざぁ!世界を動かすのは、欲望だ、野望だ、魂の叫びなのだ!

 過去の者達は武力で世界を動かそうとしていた。

 しかし、恐怖政治では人はついて来ん。

 群衆の心理を掴むことができるのはマンガだ! マンガには夢がある、野望がある。

 その頂点をとれば富も名誉も!世界を動かす力もな!

 お前が望む世界を創りたいのであれば、漫画を描いて漫画を売れ!

 得た利益で世界を買い取ればいい。

 そしてお前色に染め上げれば良いだけのこと!」

 

そんな訳無いでしょ、いい歳した大人…ではなかったまだ彼ら厨房だったわね。

世界征服なんていかにも中二病ね…

するとエイリークが戻って来た。彼女を見るなり各々が反応する…

 

「まいすいーとはにー。どうしてここに」

「エイリーク、お前が何故ここにいる」

「別に…なんでもないです」

 

とエイリークはヒーニアスと兄に対しそっけない態度をとる。

ヒーニアスはウザいからわかるけど、

エフラムにあの態度はもしかして喧嘩中だとか…原因は私?

 

「まいすいーとはにー、我らがここでこうして出逢うとは…

 運命の赤い糸で結ばれていたようだな。

 そうだ、私は君の圧倒的な性能に心奪われた…

 この気持ち、まさしくあ…」

 

次の言葉を言おうとした瞬間、

エフラムとエイリークは双聖器を取り出しヒーニアスを突き刺した。

息もピッタリで完全に同調してました…まさに双子がなせる芸当ね。

ヒーニアスを始末した後、残った三人は気まずい雰囲気に包まれ、

その沈黙を破ったのはエフラムでした。

 

「やっぱり俺は解せん。エイリーク、帰るぞ」

「いいえ、帰りません。私は今日一日中、ティアモさんのお手伝いをするのですから」

「フン…勝手にしろ…」

 

と言って帰っていきました。普段なら意地でも連れて帰ろうとするはず…

やっぱり、兄妹喧嘩なのかな?エイリークに聞いてみると…

 

「やはり、わかってしまいますか…」

 

当然、あのエフラムの反応見たらそう思うでしょ…

それからこの後は閉会まで特に目立った出来事はなかったです。

売れ残りそうな本は全部ヒーニアスが買って行きました。

エイリークが売り子で手渡した本にそんな付加価値があるんでしょうね。

撤収を終え、夕暮れの帰り道に別れを告げるのでした。

 

 

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