重返青春記録1999   作:ヤグルマギク

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-This is Kivotos on a Rainy Day-

雨の音───いや、ストームだ……



人類史の積み重ね並の厚さが無くて最初は断念したんですけど、こういう流れならワンチャンいけそうだなって思って書き始めました。
一応終わりまでの流れは考えてあるので、ご安心下さい。

Reverse:1999とブルアカのプレイヤーが増えますように……


序章 This is Rainy Day
01 これが雨降るキヴォトスだ。


 空は雨雲が覆っていた。いつもの透き通るような晴天は姿を隠し、気が重たくなるような色合いになっている。そう思っていると鼻先に雫が当たる。あぁ、もう降り出してきたみたいだ。

 ポツポツと降り出した雨が頬を、髪を、肩を濡らす。

 

「・・・・・・時間切れだ」

 

 目の前の少女は、腕に取り付けた真空管に浮かび上がる数字を見下ろして言った。少女の声色は感情を抑えたものであり、シルクハットの鍔に隠れた表情も窺い知れない。

 雨足は強まり、水を吸ったシャツが肌に張り付く。

 

”どうにも、できないの?”

 

 声を張り上げる。そうしなければ声が伝わらないからだ。

 

「ストームはもう来たんだ、どうしようも・・・・・・無い」

 

 諦観と悔しさの入り交じった声で少女は答える。これから訪れる厄災を憂い、悲しむ彼女は、これまで何度も答えた答えを今回も口にしたのである。だが、何度も繰り返してきたこの雨の中の会話を今回もまた続けるのだ。

 

 

「でも、貴女なら何かを変えられるかも知れない。だから、私を信じてくれる?」

 

 

 少女は顔を上げて相手を見据えながら手を差し出した。薄萌葱の瞳には確かな決意と覚悟の力が宿るが、一方で不安が一差しの陰を滲ませている。それは彼女の歳には不相応の色合いであり、その華奢な背中に並々ならぬ十字架を載せていることを窺わせた。そんな子供にしてあげれることなど、今は一つしか思いつかなかった。

 

 

”分かった、信じるよ”

 

 

 もう声を張り上げる必要はない。雨は弱くなり、空は更に黒さを深めていく。だが、先生と生徒たちから呼ばれる大人の女性の顔にだけは輝く笑顔で晴れていた。

 

 

「ありがとう、先生───」

 

 

 

Neiru milde en tiun bonan nokron
『 Neiru milde en tiun bonan nokron 』
Neiru milde en tiun bonan nokron

 

 

 差し出された手を掴んだ少女は、感謝の言葉に続けて、聞き取れない呪文を唱えた。そのまま空いた片手でスーツケースを開き、掴んだ腕を引っ張って先生をその中に押し込んだ。

 

 

「・・・・・・どこまで戻るか、私にも予想はできないけど」

 

 

 如何に先生が体格のあまり大きくない女性とは言え、大人がスーツケースに入るはずがない。だというのに、少し窮屈ではあるが、先生の身体はスーツケースの中に納まり、そのまま深く飲み込まれる。

 

 

「───貴女がこれまで築き上げてきた、Archive(思い出)を見届けてあげて!」

 

 

 少女の声に、先生は振り返ってスーツケースの外を見渡した。

 

 


 

 

 

 時間が止まったかのように雨粒は中空に留まっていた。いや、本当に時間が止まっているのだろう。雨が止むのを待っていた二人の生徒が庇の外へ手を差し出したまま動かないのが遠くに見えた。だが、それも一瞬のことで、蝶の羽ばたきの様な小さな変化が全てを動かし始める。

 

 ピチャ。

 

 水滴の音がした。だがそれは留まっていた雨が地面に落下した音ではない。今まで地面に広がっていた水たまりから一滴の雨粒が浮かび上がった音であった。

 

”なに、これ・・・・・・”

 

 今まで見たことのない光景。それはまるで悪しき習わしのように、水たまりから水滴が起ち、それが天に昇っていく。気づけば留まっていた時が動き出している。だがそれは正しい動きではなく、あの始まりの一滴と同じように、空に向かって、雲から地上までの見えない道を下ってきたときのように、逆しまに駆け上るのだ。間違いなく奇跡と呼べる現象。しかし、その天に還る様を神の御業と認識したがるような者は未だこの大地には居ない。誰がどう見ても奇怪なる特異。崩れ始めるのは現実か、それとも価値観か、どちらにせよ日常は崩れ去ったのである。

 その時、先生の携帯端末が震える。液晶に光が宿り、その振動の理由が生徒からの連絡であることを桃色の通知表示で示す。

 

『先生、無事? 今、おじさんたちそっちに向かってるから』

 それは学校と後輩の思いを背負い、未来を向き始めた少女からの心配の声だった。

 

『先生、ご存じとは思いますが、特異現象です。エイミを使いに出しましたから、その場でお待ちください』

 それは今目の前で起きているような不可思議な現象を調査する病弱な美少女からの協力要請だった。

 

『こちらRabbit1 助力は必要でしょうか』

 それは正義とは何かを知り、正義を信じて活動する特殊部隊の隊長からの提案だった。

 

『先生、ご無事でしたら連絡をください』

 それはこのキヴォトスを統括する生徒会の最も高い位置に座る代行者からの連絡だった。

 

 だが、それに返信する暇もなく、次の段階が始まる。

 遠景でしかなかったビルの先端が上に伸びる。引き延ばされたそれは良く伸びるガムのようだ。しかし引き延ばしにも限界はあるらしく、伸びたビルは途中から引き千切れた。意味が分からない光景はさらに続く、先ほど見えた雨宿りの少女たちの姿がグズグズと溶け出した。それはまるで溶け始めたソフトクリームのようだが、それを当の本人たちは何事も感じていないかのように話している。その悍ましさに先生は顔を歪めた。

 嗚呼、まさに悪しき習わし。逆しまの雨は社会とその習わしを洗い流すかのように天へ、天へ還って行った。

 

 

 


 

 

 

 青空の下、市松模様のスーツケースを片手に持つ少女が立っていた。彼女はシルクハットの鍔を押し上げて見覚えのない世界を見上げる。

 高いビルが建ち並び、遠くにはモノレールが走り、街頭テレビには新発売の清涼飲料水がデカデカと映っている。シルクハットの少女からすればこれだけで十分珍しい光景だが、一番目を引くのは道行く一般人の姿だった。人の姿をしているのは自分と同年代くらいの学生だけで、その他の市民はロボットや動物で、その光景に違和感を覚えているのはどうやら自分だけらしいことが見て取れた。

 

「ここは・・・・・・?」

 

 不思議そうにつぶやいた少女は、周りの通行人が自分をチラチラと見ていることに気づいた。それもそうだろう。シルクハットの少女は学生服ではない。

 白のシャツに葡萄色のウェストコート───アメリカではベストと呼ばれるアレである。──下はダブルボタンの装飾が付いた黒色のハイウェストパンツ。首元はジャボカラーになっており、そこに紫色の大きな宝石が飾り付けられている。そしてそれらの服の上から、ラペルが大きく折り返ったデザインの青みがかった黒のコートを羽織っていた。

 こんな格好ならば、きっと誰でも目を向けるだろう。古風なファッションであることもそうだが、何よりそれを少女が着ているのが目立つのだ。

 

「とりあえず、別の場所に行った方が良さそうだね」

 

 シルクハットの下から周囲を覗いた萌浅黄の瞳が冷静に状況を確認した。

 彼女はそそくさとその場を離れ、人気のない方へ向かったのだった。

 そして、それを数人の人影が追った。

 

 

 


 

 

 

 人の目が通らない路地に足を踏み入れた。スーツケースとは反対の手で通信機を懐から取り出した彼女は、足下にスーツケースを置き、通信機の操作に注力した。しかし、その結果は芳しくなかったようで、通信機はエラーを示すようなビープ音を鳴らし、彼女はため息を吐いた。その瞳には不安が見えるが、それ以上に憂鬱さが溜まっている。

 

「繋がらない・・・・・・ということは、何か大変なことになっている?」

 

 本来ならばこのようなことは起きないはずだ。だが現実問題、起きないはずのことが引き起こっている。

 

「よう、お洒落さん。怪我したくなかったら、有り金と荷物をこっちによこせ」

 

 そして、問題というのは運悪く重なるものだ。シルクハットの少女は両手をあげて無抵抗を示す。

 

「振り向いても?」

「ダメに決まってるだろ」

 

 そのまま荷物から離れろと指示される。その声は若く、女性のものだ。子供が強盗を働くなんてと少し昔を思い出す。

 

「───そのトランクに、価値のあるものはないよ」

 

 流石に渡すわけには行かない。シルクハットの少女は、怪我を覚悟して後ろを振り返る。鞄に手を伸ばそうとしてしゃがんでいた黒髪のサイドテールは驚いたように目を見開く。マスクに隠された口元は直接見ることができないながらも惚けたように小さく開いているのが察せられた。

 しかし、振り返ったシルクハットの少女が一番驚いたのは、黒髪の少女が持っていた武器だった。それは黒々とした銃。詳しくはわからないが現代銃であることぐらいはわかった。

 

「お前、なに勝手に」

 

 なにが怪我だ。そんなもので撃たれたら怪我どころじゃない。そんな文句がまず脳内を走り抜けるが、そんなものを口に出すより先に銃撃を阻止しなければならない。そう思って動き出そうとした瞬間。新しい声が路地に響く。

 

「ヴァルキューレ警察学校だッ! 全員手を挙げろ!」

 

 ドスの効いた声で、その場にいる黒髪サイドテールの少女とシルクハットの少女は動けなくなる。だが、動かなくてもシルクハットの少女からは、新たな登場人物の姿が見えた。

 警察の制服を着た少女。きれいなブロンドの長髪の天辺には一対の犬科の耳。目つきは鋭く、薄く開かれた口からは尖った歯が見える。その手には拳銃を握っており、警告に従わなければ容赦なく撃つという意志が窺える。

 

「───クソッ!」

 

 数瞬迷った後に物取りは盗るものも盗らずに逃げ出す。目指すは塞がれていない反対側。だが、その考えは随分甘いものだと言わざるを得ない。反対側の出口はすぐに二つの人影で塞がれた。白髪と黒髪の二人。そのうち白髪の方が組み付き、即座に制圧してしまった。

 

 

 


 

 

 

「助かったよ、ありがとう」

 

 捕り物の後、逃げ出す機会はあったものの、シルクハットの少女はその場に留まった。そして年上の女性と話す先ほどのケモノ耳の少女に話しかけた。

 

「いえ、本官は職務を全うしただけですので」

 

 シルクハットの少女が差し出した手を握ってケモノ耳の少女は答えた。

 

”貴女、変わった服を着てるね。学校の制服───じゃないよね。カンナ知ってる?”

 

 そう横から口を挟んだのは、ケモノ耳の少女───カンナと今呼ばれた──と話していた女性だった。清潔な白シャツに着慣れたパンツスーツ。長い黒髪を高く括り、その腕には板状の装置を持っている。そしてはち切れんばかりに主張する女性的な膨らみの上に首下げ式の名札が乗っかっていた。

 

「先生、失礼ですよ」

”え? あっ、ごめん! 別に悪く言いたいわけじゃないから! ただ、ちょっと見ない格好だなって思って”

 

 カンナに窘められ、先生と呼ばれた女性は慌てて弁明を行う。その慌てぶりは大人ではなく子供のような仕草で、活発と親しみやすい印象を感じさせた。

 

”私は■■■■。生徒からは先生って呼ばれてるよ”

「私はヴェルティ。少し聞きたいことがあるんだけど・・・・・・」

 

 

 


 

 

 

 雨が来る。この奇跡の大地にも雨が来る。

 けれど諦めないで、この空はいつだって最後には青空になるんだから。

 それは、この素晴らしい夜に身を任せない人だけが迎えられる朝日。

 

 ただ、一つだけ約束して 

 

 Don't forget Me(私が居たことを忘れないで)

 

 




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