重返青春記録1999 作:ヤグルマギク
貴女は慰霊の洞窟へ足を踏み入れる。大輪の花火を持って。
ここ好き、感想、評価お待ちしております♡
ミス・サオリ、ミス・ヒヨリ、ミス・シャーレとヴェルティは霧雨の降る夜道を移動していた。
鼻にはツンと雨の匂いが漂うも、それ以上に裏路地の蟠った空気が雨と混ざり合い、煩わしさで身を包む。
その中を、一行は進んでいた。
「時間を気にしていたけど、何か理由があるの?」
ヴェルティは尋ねた。
それに、サオリが答える。
「アリウス自治区に行くには、トリニティ地下のカタコンベを通過しないといけない」
そういう秘匿された場所にアリウス自治区はある、と説明は始まった。
「カタコンベの入り口は、判明しているだけでも約300か所。その中の【本当の入り口】は限られていて、残りはすべて偽物だ。そして、カタコンベの内部は、定周期で変化する」
と、サオリは言葉を続ける。
つまり、正しい道順を辿らねば、永久・・・・・・とは言わないが、当分は彷徨うことになるだろう、ということだ。
「だから私たちは正しい入り口と、そこからアリウス自治区に通じるカタコンベの内部ルートを暗号で伝えている」
「内部が変化する・・・・・・?」
アリウス自治区とトリニティについて、ヴェルティは詳しくない。だが、サオリの口ぶりから、何らかの大規模な神秘術術式が掛けられた特殊な場所───そう、例えば真理の探究者が住まうエーゲ海上の島のような──であると解釈した。
「そうだ。この前通った道が行き止まりになっていたり、あるいは方向を見失ったり・・・・・・そんな感じになる」
どのような仕組みでそうなっているのかは、分からないが・・・・・・という言葉で、サオリは説明を結んだ。
「そして、今はもう正しい入り口はどこか分からないと」
「逃げ出した猟犬に帰り道を教える必要はないからな」
自虐的な言葉とともに、サオリは小さく自嘲の掠れた笑い声を出す。そこには、後悔の香りも混ざっていた。
「で、でも・・・・・・たった1つだけ、まだ使える入り口が残ってます」
と、ヒヨリが代わって説明を続ける。
彼女たちが知っている入り口。それは、まだ彼女たちが離脱する前から知っていたルートを指していた。
しかし、そのルートも今日の日付が変わるまでしか使えない。
だから、彼女たちは急いでいた。
だが、同時に救出作戦でもある。となれば、できるだけ気づかれずにいたいだろう。
「・・・・・・そろそろ、警戒エリアに入る」
それは、説明を終えるという意味と、作戦開始を望む意味を持った言葉だ。
ヴェルティは頷いて通信機を取り出した。
「相棒からGoサインが出たよ」
ヘッドホンの片側に当てていた手を離して、元諜報員のコーンブルメはそう言った。
「OK、アタシらは空から、アンタは地上からだ」
それを聞き届けた現代の魔女リーリャは、コーンブルメに箒へ乗れと促し、もう一人のチームメイトに指示を出す。
「最初の目標は?」
「200m先曲がり角の奥に歩哨がいるよ、ミス・メラニア」
ふわりと浮き上がる最中にコーンブルメは標的を伝える。そして、作戦は開始された。
「おい、アリウススクワッドは本当に来ると思うか?」
「この警戒の中に易々と飛び込んでくる奴なんているもんかよ。戦力差はあっちの方が余程分かってるぜ」
数人の歩哨。その会話が耳に届く。
心配をしている仲間を励まし半分揶揄い半分の調子で仲間は笑う。
「オレが思うに、トチ狂ったか、とんでもない馬鹿だな」
もし、奴らが来るとしたらな、と言葉を結ぼうとした歩哨は、次の瞬間、壁へ叩きつけられた。
誰もが言葉を失う。
だが、彼女らも訓練されたプロの少年兵だ。数瞬後には敵対者の襲撃があったと理解し、戦闘態勢に入る。
銃を向けた先、そこには既に黒い影が迫っている。引き金にかかった指が動くより先に、相手の肘が銃を殴りつけ、打ち払われた。
その勢いよって生まれた隙を相手は逃がさない。
肘を振り抜かずに、捻りの反動で戻した拳が、顎を打ち抜いた。
一人目、二人目と立て続けに倒れたのを見て、最後の一人が無線機に手を伸ばす。
「まだ、早いぜ、それはッ───」
そんな声とともに、上空から、まるで鳶のように鋭く速い一撃が飛び込んでくる。
それは、魔女の箒に載ったリーリャだった。
現代的な魔女の箒は、木製では無い。その見た目はもはや箒では無く戦闘機を思わせるような金属。
重さと速度を掛け合わせれば、それ即ち威力だ。
浮いているとはいえ、重量は大きい。さらにそこへ二人も載っているのだから、推して量るべしというものである
最後の一人も気絶した。
定期報告が無くなれば、敵も何らかの行動を取る。それがどれほど先かは分からないが、30分も先まで待つはずも無い。猶予はせいぜい15分あるかどうかだろう。
であれば、計画のためにも、聞き出すだけ聞き出して時間を稼がなくてはならない。
三人はアリウス兵をサッと縛り上げた。
そうして、そのうちの一人を、たたき起こす。
「いいか、よく聞け。選択肢を二つやる」
まだフラフラと首が据わらぬアリウス兵に、リーリャはズイと近づき、ギリリと握った拳をよぉく見せる。
「一、今すぐ全部話すこと───二、アタシにボコボコにされた後に全部話すこと」
「お前ら誰───」
ある意味当然の疑問だろう。リーリャ率いる小さき分隊は、本来局外の登場人物だ。
だが・・・・・・
「選べ」
彼女は質問の答えしか受け付けない。
空気が変わった。サオリはそう思う。
滞留した空気の中にピンと張った糸のような緊張感が、増していると。
「向こうも始めたかな」
シルクハットの少女が小声で呟いた言葉に、無言でサオリは頷く。
「陽動がアリウス兵を引きつけてはくれるだろうが、警戒は厳しくなるぞ」
クリアリングを適切に、素早く済ませ道を進む。
「入り口は一つ、警戒が強まれば、当然そこは固める」
だから、そこにたどり着くまでは、装備と体力を温存して進む。
カタコンベの中に入れさえすれば、戦場の広さは狭まり、人数不利は緩和される。
と、その時、爆音がサオリたちの元に届いた。
ヒヨリが一瞬跳ね上がり、先生とヴェルティは硬直する。
それは、本格的に戦闘が開始されたことを告げる花火だ。
爆音は続き、その進行方向は、サオリたちの向かうカタコンベの入り口にゆったりと進んでいる。
『───増援アラートに反応した部隊三つ、そっちを通るかも』
耳に届く通信に従って身を潜め、通過したのを確認して進む。
作戦は順調だと言えた。