重返青春記録1999 作:ヤグルマギク
駒は果敢に、柔軟に動く。
お久しぶりです、大学のレポートだったりですっかり間が空いてしまいました。
良ければ感想やここすき、評価などいただけると嬉しいです。
そうですか。と、短く赤肌の淑女は報告に答えた。だが、その淡泊な答えと裏腹に、彼女の目は地獄の業火も斯くやとギラギラ燃え上がり、その赤肌は鮮血を浴び直したかのように赤みをさらに鮮やかにする。
だが、彼女らの動きは素早く、また計算外の損害が出ている。
報告に上がった魔女とは何なのか。空を飛ぶ? 馬鹿馬鹿しい話だ。
しかし、実際に被害は出ている。出ているならば、存在しているのだろう。
「一体何だというのです、この変数は───」
マダム・ベアトリーチェの脳裏に一つの八つ当たり先が閃く。
「そう、あの会合から、うまくいかないのです」
嫉妬か、それとも何か彼らの思う計画の邪魔にでもなっているのか、その理由は分からないが、ゲマトリアの者どもがシャーレの先生に協力している。
そうに違いない。
怒りは思考を固定する。
ギリリと噛み締めて音の鳴る歯。
『───カタコンベ入り口突破されましたッ!』
既に怒りで煮えたぎっていたはずの頭が、さらに沸騰する。
「何をしてッ───いえ、早く追撃するのです!」
通信機を握りつぶして鬱憤を晴らしてしまいたいが、その行為は悪手でしかない。
その代わりとして、手近な机の上を手で打ち払い、その上にカタコンベの地図を広げる。
入り口は、一つ。しかし道は複数。
それはまるでチェスの始まりのように。
「───カタコンベ内の入り口周辺予備兵を向かわせなさい」
ポーンをe4へ、それに応対するようにポーンをe5に。
報告への応答は次の一手。
『アリウススクワッド確認!』
定石で言えば、ナイトをf3と言ったところか。
増援、いや本隊か、どちらにせよ抑えに向かわせた予備兵を取られるわけにも行かない。
マダム・ベアトリーチェは舌打ちをしながら、自身のナイトを盤上へ呼び出す。
後詰めとして
「・・・・・・まだ、出す気は無かったのですが」
「・・・・・・ここから地下道を通ってカタコンベの入り口に入る」
サオリがハッチを開けながら言った。
「リーリャたちが入り口で混乱を引き起こしてる。今なら───」
「あぁ。だが、恐らく後詰めが準備されているだろうな」
ヴェルティの言葉をサオリが遮る。
マダムはそこまで単純ではない。むしろ陰湿さと用意周到さは随一だ。すべての兵力を押し出すはずがないだろう。
「そ、それではどうしましょう?」
カタコンベに入り込んでいけば、傍受も難しくなる。不意遭遇の戦闘が発生する確率は高い。いや、必ず起こる。マダムにもカタコンベの現状を事細かに把握する手段は無いとしても、兵数はマダム側が圧倒的であり、その数を使った探索により、情報と地の利は向こうにある。
だが、そうは言っても迂回路は無い。当然他の入り口を探す時間も同様だ。
「───強行突破する」
見つからないのが最善だが、いつだって現実は次善がいいところだ。
「ここからは電撃戦だ。衝撃を以て壁を打ち抜き突破、そのまま進撃するぞ」
この先、マダムが手元に残していた兵力が待ち受けているだろう。それは訓練されたエリートだ。先生はもちろんのこと、協力者のヴェルティと呼ばれるシルクハットの少女もやり合えるようには見えない。
「我々が先頭に立つ。先生は安全が確保されたら、後ろからついてこい。激しい戦いになるが、ここを突破すればアリウス自治区に入れる」
「へへ・・・・・・そ、そうですね。【シャーレ】の先生、指揮をよろしくお願いします・・・・・・」
ヒヨリの言葉にシャーレの先生は、こちらこそよろしくと、淀みなく答えた。
計画は順調にいくはずだった。それが彼女のいつものことだったからだ。多少の想定外があったとしても、それも次第に許容の範囲に収まることが通常であった。
しかし、今回は違った。
『なっ、貴様は───』
そんな通信が入った。ベアトリーチェはその続きを待つ。
『聖園ミカですッ!』
───ビショップをb5。
何故と思わず口が動く。収監されていたはずでは無かったのか。いや、それ以上に何故アリウスに向かっているのだ。
「・・・・・・これも貴女の采配ですか、シャーレの先生」
苦虫を噛み潰した苦みに再び歯が擦れ合い、研がれる。彼女の歯はこうして鋭くなるのだろう。
聖園ミカの入り込んだ場所はアリウス自治区まで程なくと言った場所だ。偶然かそれとも意図があってのことか、どちらにしても、追い返すしかない。
「そちらにある予備兵力を用いて、追い返しなさい」
───ポーンをa6。
了承の言葉が返ってくる。
───ビショップをa4、ポーンは追撃しb5へ。さらに退いてビショップはb3。
報告を聞き終えたベアトリーチェは、少し上機嫌になり、笑いを漏らす。
防衛は成功した。もちろん、脅威としては未だに健在であり、何か邪魔してくる可能性は大いにあるだろう。だが、今すぐにあの駒が何かしてくるようなことはないだろう。
「・・・・・・入り口に増援を送りなさい」
通信機からは短く了承の答えが返ってくる。
───ポーンをd7からd5へ。
「それで、ここからの作戦は?」
「入り口が閉じるまで防衛戦だッ───」
物陰に隠れて銃撃の応酬。だが、向こうは直撃してもそこまで怯まない。こちらは当たれば大怪我だというのに、不公平な物だ。
「
自慢の
「
愛用のスキットルに移し替える前の中身。その中身が詰まった瓶の口にハンカチを押し込んで、火を付けてごちそうしてやる。
銃弾はそこまでだが、さすがに火には恐れがあるらしい、敵は火炎を避けるために後ろへ退く。
「こうなりゃ、あと一人ぐらい連れてくれば良かったぜ」
「ミス・ドルーヴィスとか?」
コーンブルメの軽口にクスリと笑いをこぼす。だが、彼女は最近活躍しすぎだ。もう少し出番を抑えても、文句は出ないだろう。
アルゴスかパヴィア・・・・・・細身を活かしてナイトのヤツを呼んでも良かったかもしれない。
「それ、終わってからでもいいんじゃない!?」
突撃を敢行してきた兵士を蹴り倒しながらメラニアが叫ぶ。
十二時まではまだかかりそうだ。