重返青春記録1999   作:ヤグルマギク

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ー Chase Down ー
 気高き猟犬は全力を尽くし、高貴なる猟犬は獲物に戸惑う。


お待たせしました。ここ好きや評価、感想などいただければ幸いです。
また最後のアンケートにもお答えいただけますと幸いです。
選択肢が一部変わっております。


1stー08 追撃者

 暗闇の中を白い影がいくつも走り抜け、地下道内に銃声が響く。

 サオリ達は既に何度も会敵し、その度に突破してきた。接敵するのは少人数だが、哨戒兵に会っているというよりは、狭い戦場で何度も待ち伏せをしているという方が正しいだろう。

 戦力の逐次投入は愚策と言われる事もあるが、補給も覚束ず、撤退も出来ない敵を相手にするなら、漸減作戦として有用だ。

 

 キリがない。と口からこぼれ出す弱音は、疲れ知らずの銃声と疲れた浅い息が散らす。

 

「リーダーッ!」

 

 サオリの顔の横を対物ライフル弾が通り過ぎていく。その弾はまっすぐ進んでアリウスの兵卒を弾き飛ばした。

 すまない。と短く感謝を述べ、先へ進むアリウススクワッドの二人。先生とミス・ヴェルティは後方にいて、安全が確保できたら進むように言っている。先生は言わずもがなだが、自らをタイムキーパーと自称した少女、ミス・ヴェルティもまた、被弾を恐れる嫌いがあり、それ故に後方から指揮をしてくれと頼んでいた。

 

 サオリは前進するという合図を通信機に吹き込む。了承のみの短い返事が返ってきたところで、彼女の耳は新手の足音を聞いた。

 

 

 


 

 

 

 銃撃戦の音を頼りに聖園ミカは地下道を走っていた。時折の接敵は、銃と拳で黙らせてきた。その目標は一つ、アリウススクワッドとの会敵であった。

 

 ───そうして、しばらくの後、聖園ミカは目当ての相手と出会えることが出来た。

 

 

 


 

 

 

 サオリとアリウスの雑兵の戦いは、両者の間に突如土煙が割って入ってきた事により終了した。

 アリウススクワッドの二人は土煙の中からする銃声と悲鳴を聞いた。それは異常であり、何らかの新しい敵が来たことを認識する。

 

 そして、戦闘の音が途絶え、コツンコツンと足音が響く。その音は軽い。細身の女性───いや、少女のものだ。ゆっくりと、優雅な足取りで足音は近づいてきた。

 

「・・・・・・ッ!」

 

 何故ここでという言葉は、形を成せずに息が短く漏れ出るのみだ。

 

 土煙の中から、貴族然とした足取りで出てきた少女。それはサオリのよく知る人物であった。

 まるで幼子の見る甘い夢を溶かし、染め上げたような桃色の長髪。戦闘や移動でくすんではいるが、高貴さを保つ白の制服は彼女の価値と立場を証明する。

 

 Trinityの名の如く、その頂点に君臨する三頭政治Triumviratusが一角、聖園ミカその人であった。

 

 彼女は冷ややかな目をして土煙から出てきた。髪や服についた埃を払い、そして漸くサオリに目を向ける。その視線は貴族の目線だった。冷たく、堅く、艶麗であるが、人がその視線を認めれば目を逸らすであろう打ち据える視線だ。

 サオリは、背に冷ややかな汗が一筋伝うのを感じた。

 しかし、真に恐怖を感じるのはこの後のことである。

 

 見据えた相手が、サオリだったと気づくや否や、聖園ミカは表情を差し替えた。

 

 キャー! と、遊園地に来た無邪気な子供のように、目を大なり小なりと目一杯閉じ、普段よりワントーン跳ね上がった声で喋り始めた。

 

「ふふっ、やっぱりここに来ると思ってたよ。大当たり!」

 

 それは、有名人を出待ちして、本当に出てきたところを見つけたときのような喜びように殆ど近しいだろう。しかし、サオリはその顔が作り物であることを知っている。路傍の下人を見る貴族の目こそ彼女の本心であることを知っていた。だからこそ挿げ替えた感情の温度差にゾワリと背筋が震えた。

 

「悪役登場☆ってところかな!」

 

 ニコニコと笑う顔、キラキラとしたハイトーン。だが、それは威圧でしかない。

 サオリは、バラストに注水し船舶の安定をとるが如く、この恐怖を打ち消すため、腹の底から低い声を出して、敵対者の名を呼んだ。

 

「・・・・・・まだ覚えててくれたんだね?」

 

 トーンの下がった声。顔は笑顔のままだが、その言葉は本心から出る言葉であると察せられる。

 

「会えて嬉しい・・・・・・って顔じゃなさそうだけど、どうしたの?」

 

 答えの分かり切った質問だ。サオリの答えを待つこともなく、それを枕詞にして、威嚇と嘲弄を行う。

 

「そんな、魔女でも見たみたいな顔しちゃって」

 

 ツゥとつり上がった笑みに、瞳の洞の奥では狂気の灯火がゆらゆらと揺らめいていた。

 

「・・・・・・檻の中にいると聞いたが」

 

 そうサオリが言うとミカは、出てきちゃった☆と軽く答えた。

 

「早く、あなた達に会いたくってさ」

 

 何故と問う事が出来ないまま、その次の言葉を待つサオリ。ミカは再びその顔を笑顔に戻して言葉を続けた。

 

「だってほら・・・・・・私たち、まだお話しなきゃいけない事があるんじゃないかなって」

 

 その口ぶりは否と言わせない。無論心当たりが無いわけではない。例えば、エデン条約調印式を襲撃したことは最たるものだと言える。しかし、それはわざわざ収監されていた場所から脱走して、アリウス兵が待ち受ける地下道へ突入してまですることだろうか。そこまで怒りがあるのであれば、もっと早い段階で行動に移したはずだ。

 

『───どうしましょう?』

 

 小さな身振りと目線を用いて意思疎通が図られる。

 逃走、戦闘・・・・・・もしくは説得? いくつかの考えがよぎるが、どれも成功するかは微妙に思える。

 

『・・・・・・先生は?』

 

 説得ならば先生がいれば───という考えがよぎる。

 ヒヨリの返答は、もうすぐ到着するだろうというものだった。

 

「私もこれまで、それなりにあなた達と一緒に行動してたからさ。ここに来るってすぐ分かったよ」

 

 サオリとヒヨリのやりとりを知ってか知らずか、ミカはつらつらとここへ来れた理由を話す。

 

『・・・・・・通路が閉じるまでは?』

 

『残り約40分・・・・・・まっ、まさか戦うつもりですかぁ!? 今、あの女と交戦するのは無謀だと思いますぅ』

 

 一旦治療と補給が出来たとはいえ、アリウスから逃げ続けた疲れは残っている。突入後の戦闘による体力の消耗も馬鹿にならない。先生の指揮が無いとしてもある程度は戦えるが、聖園ミカと渡り合って勝利できるほどでは無い。

 

『分かっている。ヤツ・・・・・・聖園ミカはティーパーティの中でも群を抜いた武闘派だ。それに、アリウス兵も来るだろう』

 

「・・・・・・へぇ、本当に先生が一緒にいるんだ」

 

 サオリ達は思わず目を見開いた。アリウスの暗号について聖園ミカに教えた覚えはない。もし知らないところでアリウス兵の誰かが教えていたとしても、簡単なものしか教えるようなことは無いはずだ。

 

 あはは☆ すごい驚きようだね。と聖園ミカは笑う。まるで悪戯に成功した子供のように。

 

「───愚鈍な女だと侮ってたのかな? そうだよね。でも、あなた達の暗号くらいは分かるんだからね? それに集合場所とか、拠点とかもまだ覚えてるよ」

 

 戦闘の選択肢の優先度が、サオリの脳内で順位を落としていく。まだ分析が足らなかった、という反省と後悔が疲れという形で蓄積していくのが分かる。

 

「あはは。多分、バカだと思われてたみたいだね・・・・・・利用しやすかったかな? まぁそれは否定しないよ」

 

『後退しましょう、リーダー!』

 

 せめて先生が追いつくまでは、と伝えるヒヨリに対し、サオリは首を横に振る。

 

「ねぇねぇ、私の話聞いてる? 無視? 無視ってひどくない? これでも一緒にクーデターを起こした仲なのにさぁ!」

 

 一向に受け取ってもらえないキャッチボールに飽きてきたのか、ミカはやれやれといった表情に顔を替える。

 

「それって・・・・・・仲間外れじゃないの?」

 

 そして、すぐさま、あの魔女のような顔に切り替えて、戦闘を開始した。

 

「ひっ!こ、こっちに来ました!?」

 

「正面から受けるな!」

 

 

 


 

 

 

「急ごう、ミス・シャーレ」

 

 何かがおかしい。先に入って中の状況を教えてくれるという手はずのスクワッドと一向に連絡がつかない。

 小規模戦闘は起きているだろうが、だとしても先ほどまでは進めの連絡が来ていた。それがパタリと止んだと言うことは、小規模で収まらない事態に発展している可能性がある。

 

”・・・・・・まさか、もう?”

 

 ミス・シャーレの顔は不安が浮かんでいる。それに、もうという発言も気になる。彼女は自身の体験を再体験している最中だ。覚えのある出来事があるのかもしれない。

 

「なにか、覚えが?」

 

”あるよ、多分予測が正しければ───だけど”

 

 とにかく急ごう、また一人生徒が待っているはず。そう言葉を続けたミス・シャーレに、その生徒とは誰か尋ねる。

 

”私の可愛いお姫様・・・・・・少し困ったちゃんなところがあるけどね” 

 

 再び聞こえ始めた銃声に、ミス・シャーレと私の足は速くなった。

 

 

 


 

 

 

「ねぇ? ねぇねぇサオリ? 本当にこれで終わりなの?」

 

 聖園ミカの珊瑚のような細腕は、その見た目とは異なって消して緩まない力でもってヒヨリを締め上げた。

 

「うわーん! このままゴリラみたいな腕に絞められて殺されてしまいますぅ!!!」

 

「ふふっ、いい度胸してるじゃんね☆」

 

 ヒヨリの荷物が邪魔になって上手く締め上げられていないらしく、まだ余裕があるように見える。しかし、人質が取られてしまったことには変わりなく、選択肢は狭まるばかりである。

 

「お飾りの人形だって今のあなたよりは上手く戦えるんじゃない?」

 

 この程度じゃないだろう? お前達は───挑発であり、純粋な疑問。

 

「あれ、そういえば”一人”いないね? マスク姿の無口なあの子は?」

 

 逃げようと藻掻くヒヨリをいなしながら、ミカは言葉を続ける。それに対する答えをサオリは銃弾しか持ち合わせていなかった。だが、それも数は少なく、今撃ちきった。

 サオリの顔は苦々しく歪む。焦がされるような気持ちが逸って意味も無く引き金を2、3度引いた。

 

「あーあ・・・・・・もう弾切れなの?」

 

 もっと撃て、私がこんなに無防備に立っているのに。そう笑いながら、聖園ミカは槌永ヒヨリをさらに締め上げる。流石に今度は余裕が無く、ヒヨリの喉からは掠れた息しか出ない。

 

「ヒヨリッ!」

 

「やっぱり───あなた達も仲間は大切なんだ? てっきり、任務のために一緒にいるだけだと思ってたけど・・・・・・でもまぁ、どんな人にだって大事な存在っているよね。うんうん、私にもいたから分かるよ」

 

 ───あなた達が殺そうとした、セイアちゃんの事なんだけどさ。とミカは言う。

 彼女は腕に込められた力を緩める気は無い。その大理石のように美しくなめらかな腕は、固く冷たく、動くことが無い。けれど、それに反して表情はコロコロと変わる。悲しそうな顔、困ったような顔、つまらなそうな顔、口元が笑っているものに偏ってはいるが、いくらでも出てくる変わりようは、まるで道化のようだ。

 

「知ってる? セイアちゃんってさ、人を怒らせる天才なんだよ。何回グーパンが出そうになったか分かんないくらい!」

 

 しかし、仮面の下から出るものは、それを隠しきることが出来ない。声の震えはそれを明らかに示していた。

 

「でも・・・・・・普段は嫌なヤツって思っているのに、いざケガしたら心配なの。大丈夫かなって不安になっちゃうの。セイアちゃんが死んだって聞いたときは、すごく辛かった・・・・・・変だよね。あんなに話すだけでイライラするのに、ちっとも嬉しくなかったの」

 

 嫌いだった。そんな思い出が溢れる。しかし、同時に心配の気持ちが溢れる。

 

「そりゃあセイアちゃんのことは嫌いだったよ? でも、私にとっては大切な人だったの」

 

───だから、死んで欲しいわけじゃなかった。人殺しになるつもりもなかった。

 

 しかし、もう全ては無駄になってしまった。何もかもやけっぱちの中、聖園ミカは一つ気づいたのだ。

 

 未だに全てを失っていない者がいる。

 

「私は・・・・・・ちょっと痛い目に、みたいなこと言ったよね? いつヘイローを壊せなんて言ったのかなッ!」

 

 絞めていた腕を解き放ち、ヒヨリは地面に倒れる。それをミカは上から踏みつけた。

 

むぎゅっ───ッ!!

 

「ヒヨリ!!」

 

 先ほどは体と体の間に入り込むことで、首締めを緩和してくれていた荷物が今度は牙を剥く。重さがそのまま逃げるのを邪魔するのだ。

 

「まぁ、私も一人で勝手に暴れて台無しにしたくせに、いまさら被害者ヅラするの?って感じだけどさ・・・・・・」

 

 ミカは愛用のマシンガンをヒヨリに向かって構える。

 

「でも───私の・・・・・・大切なもの・・・・・・ぜーんぶ、なくなっちゃったんだよ?」

 

 学園での立場、友人、宝物、先生との約束。それを喩えて言うなら、帰る場所だ。それを全て無くした。無論、自業自得と言えばそれまでの話だ。それは聖園ミカも認めないわけでは無い。しかし、それでも他人を羨み、同じ場所へ堕ちることを求めるのは、人として不自然だろうか?

 明日になれば全て元通りになる。目が覚めれば何も変わっていなくて、ただの悪い夢だったと胸をなで下ろす。それを求めていたのに、手に入らなかった。

 

 そんなものは童話の中だけの話であり、彼女の運命は定まっている。

 

 で、あればだ。自分がこんなに不幸であるならば、彼女も同様に報われないで欲しい。

 

「私が失った分だけ、あなた達も失ってよ。そうじゃないと───不公平だよね?」

 

 ヒヨリに向かった銃口はさながら、断頭台の刃のようであり、その刃を振り下ろすロープは、結び目を解き放つよりも簡単に引けてしまう。

 

 その引き金を指が押し込む直前のことだった。

 

 

 


 

 

 

”ちょっと待った!!”

 

 地下道を走り抜け、危機一髪と言ったタイミングで飛び込めたようだ。

 ミカは驚いた表情を見せる。だがそれはこちらも同じ事。今の時間は、過去のそれとは違う。まだ余裕があるはずなのに、なぜミカがここにいるのだろうか。

 

「せ、せ、先生・・・・・・!?」

 

 ミカの足の力が緩んだのか、ヒヨリがその足下から転がるように逃げる。

 

”ミカ・・・・・・一体ここで何をしているの?”

 

 私が尋ねると、ミカは混乱でしどろもどろになりながら、説明しようと言葉を探す。しかし、そこから言葉は繋がらず、沈黙が私達とミカの間に横たわった。

 

「・・・・・・セイアちゃんが、言ったの。先生がアリウスにって───だから私、てっきり先生が連れ攫われたのかと・・・・・・」

 

 セイアが既に? 本来であればそのイベントも少し後にあったイベントのはずだ。時間が早まっているのだろうか。世界が帳尻を合わせているような作為すら感じる。

 

「ねぇ、どうして・・・・・・?」

 

 ミカの目は捨てられていた子猫のようで、潤んだ瞳には悲しみが満ち満ちて潤んでおり、その奥で仄かな怒りが、水面に映る月のように揺らめいていた。

 

「ね、ねぇ・・・・・・先生!? どうして、そっち側にいるの?!」

 

 連れ去られたと思い、救出のために全てをかなぐり捨ててやってきたのに、これではまるで道化じゃないか。そう訴えかける声の悲痛さは、過去に聞いたものよりも激しい。

 けれど、どうして? の螺旋階段は登れど登れど、たどり着くことはないだろう。

 この状況を打ち切るのは、やはり記憶通り爆発だった。

 アリウス兵の増援がやってきた。

 

 


 

 

 

「こっちだ! 聖園ミカもいるぞ! 撃て!!」

 

 銃撃音が再び響き渡る。ヒヨリはとっさに先生を抱きしめ、ヴェルティとサオリは障害物に隠れる。

 一番に目に入ったと思われるミカが集中攻撃を食らい、また土煙の中へ隠れてしまう。

 

”ミカ・・・・・・!”

 

「先生ぇ! それより早く入りましょう!」

 

 銃弾から庇うために強く抱きしめたヒヨリは、その身に銃弾を受けながら助言を行う。ここまでで歴史の修正力を感じた先生はその提案を素直に受け入れた。

 

”ミカ! 後で説明するから! 待ってて!”

 

 ミカはトリニティには戻らない。このまま追跡してくる。そのことを先生は知っている。それ故に戻れとは言わなかった。

 発砲とリロードの間にある僅かな静けさの中で会話は続く。

 

「無事か、先生!」

 

 サオリの確認に各々が肯定を示す。

 

 そして、走れッ! という合図で、活路に駆け出した。

 




 レポートやら何やらで大変遅くなってしまいました。
 さて、この度タイトルを変更を考えておりまして、以下のものが候補となります。
 理由はReバースのブルアカパックが検索に混ざり検索性が下がっているためです。

選択肢最後の重返青春記録1999を重返未来檔案1999に変更します。

タイトル変更案 ※集計は3/1まで

  • 青春世界に雨が来る
  • 神秘学家はキヴォトスで傘をさす
  • 青い記録は逆行される
  • 重返青春記録1999
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