重返青春記録1999 作:ヤグルマギク
狭い道を抜けて出るネズミ
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また、前回アンケートを取りましたが、最多投票の選択肢が途中から改案していたため、決戦投票を行うことにしました。期日は3/12までとします。
誠に勝手なことですが、ご投票していただければ幸いです。
銃撃と銃撃の合間を縫うように進み続ける。爆発音が時たま混じり、礫が飛ぶのにヒヤヒヤとしながら、土煙の中を抜けた。
やがて、喧噪は消え、地下道も人工物から、天然の洞窟のような岩肌に変わっていった。それは、カタコンベの中へ入ったことを意味し、一段落がついたと皆は軽く胸をなで下ろした。
「せ、セーフ・・・・・・」
はぁはぁと息を切らせ、頬が上気したヒヨリは深く息を吸い込み、体を落ち着かせる。
「・・・・・・まだ通路が完全に閉じるまで猶予がある。追手が来る前に急ぐぞ」
全員の息がある程度落ち着いたのを確認し、サオリは歩き出す。彼女は、ここから先の道は複雑だから気をつけろとヴェルティと先生に忠告した。
「ヤツら、カタコンベに逃げ込みました! 追いますか?」
混乱の中で、そんな報告が聞こえてきた。それに対して指揮官役の子が追うぞ。と命令を下す。
地下道は通気性があまり良くなく、舞い上がった土煙が完全に消えるまでは時間を要する。それに、みんな揃ってガスマスクを付けているから見えにくくて、さらに・・・・・・というところだ。
一部の兵士を救助役として残し、追撃を行おうという号令の下に移動を開始しようとしたそのときだった。
ガララと、瓦礫が崩れる音がした。
仲間がなんとか抜け出したのか、それともただ単に瓦礫が耐えきれずに崩れ落ちたのか、そう思いそちらを見たとき、再び舞い上がった埃や土の細かな粒の幕から出てきたのは、仲間では無い、高貴そうな人だった。
「聖園ミカ───!?」
誰の声かはわからないけれど、集団の中からそう声が響いた。その声には驚きとともに強い警戒の色が滲む。であるならば、きっと彼女は敵なのだろう。
泥や土塊、煤で汚してなお、天の国から遣わされたような白磁の輝きはくすみきっていない。そんな御遣いのような存在でも、きっと敵なのだろう。
だから、私達は銃を構えた。
彼女は、私達を見て、笑った。警戒すらない笑顔。それを慢心や油断と断じることができない。肌の上をピリピリとした感覚が走り続けていたからだ。
「聖園ミカ・・・・・・君は一時期、私たちの自治区を支援してくれていたな。それを考慮して、今すぐここから消えるなら、手出しはしないでおいてやろう」
警告であり宣告。それに聖園ミカは嘲りを以て返す。
「面白いね! 私が一人だからって勝てると思っているの? ちゃんと脳みそ入ってる? そんなんじゃ、日常生活大変じゃない?」
彼女にとっては、目の前の兵士らが幼子のようにでも見えているらしい。だが、やはりそれを傲慢であるとか断じるには、彼女からあふれ出る威圧感が邪魔をしてきていた。
「『スクワッド』はどこへ行ったの?」
「『スクワッド』はアリウスを裏切って逃げた。彼女たちを処分するのが我々の任務だ。邪魔をするなら、お前も処分する」
この時初めて聖園ミカはその年相応らしさのある目をしたように思える。驚きに瞳孔が細まり、その陶磁器のような肌、頬にサッと朱の差し色が加えられた。しかし、それも一瞬の出来事で、朱色は奥に沈んでいき、それどころか鼻先はより白くなったように感じられた。
彼女は目を瞑り、一呼吸置くと、呆れ半分、悲しみ半分と言った表情を見せた。
「あはは☆そうなんだ・・・・・・面白いね、味方に捨てられちゃったんだ? そっか、狩りに失敗した猟犬は用済み、ってことなんだね・・・・・・サオリ、これがあなたの結末なんだ」
苦笑でも、憐憫でも無く、その声は、彼女の声は、何度聞き返したとしても、自嘲の声だった。諦観と皮肉の味に満ちた声が、静かに地下道の中を響いて遠くに消えていく。
そして、彼女は再び目を開いて呟いた。
───本当に、もう・・・・・・救えないな。
見上げるように、遠くに思いを馳せるように。その瞳には地下道のうっすらとした光しか反射していない。それはまるで教典にある地獄の入り口のように、彼女の瞳は輝きを忘れていた。けれど、彼女の顔は慈母の微笑みを携えていた。
「そこをどけ! 今なら目をつb───」
勇気を振り絞って最後通牒を突きつけた指揮官役の子はその台詞を言い切る前に銃弾の前に倒れた。
「スクワッドは私のものだよ、誰にも渡さない」
ネズミってもんは賢い動物だ。いつの間にか入り込んでは、狭い道を走り回って食い物を盗む。
「それに、かわいらしい」
ハッ、そりゃカートゥーンの見過ぎだ。あいつらの賢さは人のそれと同じずる賢さだ。病気も持っているし、家を汚してボロボロにする・・・・・・。
ありゃ、駆除しなけりゃあならないんだ。毒入りのオーツ麦。毒入りのリンゴ。毒入りのチーズ。贅沢に暮らすようなネズミも、腹ぺこな貧相なネズミも喜んで死にやがる。
「ねずみ取りの達人なの?」
ロアルド・ダールの短編でも読んだのか? だが、ネズミはあそこまで不気味なもんでもないし、リコリス菓子の中にも入っちゃない。
だが、あのネズミ取りの男の言うことは正しい。
ネズミを捕るにはネズミをよく知ることだ。
そして、よく食いつくような餌を用意することだ。
───最後に、ネズミより賢いことだ。
「ほんとに?」
あぁ、本当だ。だが、ここにはそんなネズミ取りはいない。どこにもな。
ロアルド・ダール……確か、児童文学作家でしたよね? いくつかは読んだことがあります。ミス・ホフマンが買ってきてくれて……どれが好き、ですか? そうですね。『小さな天才マチルダ』かもしれません。
……あっ、ミス・マチルダには秘密にしておいてくださいね。
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