重返青春記録1999   作:ヤグルマギク

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-Take Me Out-

自由が我らと共にありますように!



ここで、独自解釈と独自設定を発動します!!!!!!


06 私を連れ出して

 ミス・シャーレは目を開けた。スーツケースから覗いた外の景色は・・・・・・彼女の見知ったものだった。そう、見知った景色。先ほどまでのストームの惨禍を欠片も感じさせないような平和な景色。看板広告には色が溢れ、空も曇り空とはいえ、隙間々々に青空がきちんと見えた。

 だが、確かに何か違う。じんわりとした湿気が彼女の周りを満たし始めたからだ。

 

「景色が・・・・・・変わっていない?」

 

 ヴェルティも困惑している。自分の居た世界とは別の場所だと分かってはいるが、その変貌ぶりの無さは、ストームの時空館移動が失敗に終わったのではと彼女に錯覚させるほどであった。

 

”───いいや、変わってる。確かに私たちは過去に戻ったみたい”

 

 あたりを見渡していたミス・シャーレは看板広告の表示する商品を見てそう言った。というのも、そこに映っていたのは数ヶ月前に見た新商品の広告だったからだ。新発売と銘打ったものの、そこまで売り上げが伸びず早々に忘れられた悲しき商品が示準化石の役割を果たす。

 

”あれを見たのは───そう、エデン条約の後、サオリたちを助ける前・・・・・・”

「エデン条約って、あの新聞記事の?」

 

 そう訊ねるヴェルティに先生は頷いた。もう数ヶ月も前の話。だが、そんな短期間しか移動しないことは初めてのことだった。

 

「とりあえず、説明してあげるから。安全な場所でね」

 

 ヴェルティは先生をスーツケースから引き出すことはせず、逆に奥へと押し込む。そんなことはあり得ないはずなのに彼女の体はスーツケースの中へ入り込んでいき、最終的にパタンとスーツケースは閉まった。

 

 

 


 

 

 

「ようこそ、ミス・シャーレ」

 

 暗闇の中で手を引かれて歩いた先生は、ヴェルティの言葉でようやく目を開けることが出来た。

 そこは一言で言うならば、お洒落な部屋という場所だ。日の光溢れる広間にジュークボックスの小気味よい音楽───そう、昔述べたことのある内容だ──そして、先ほどまで数人居たような気配がある部屋だった。

 

「うん、多分警戒というか・・・・・・気を使ってるのかな」

 

 先生が訊ねるより先に、苦笑したヴェルティが答えた。やはりこのスーツケースには自分以外も居るらしい。だが、今はそれよりももっと聞きたいことが山ほどあった。

 

「まずは、謝罪からさせて欲しい。ミス・シャーレ、あのストームは私の世界の現象。貴女の世界をめちゃくちゃにしてしまった・・・・・・」

 

 深々と頭を下げるヴェルティ。だが、先生も彼女のせいではないことは何となくではあるが理解している。それに彼女は自分をストームから救ってくれた恩人でもある。責める気にはなれない。

 

”大丈夫、君のせいじゃないから・・・・・・”

 

 ヴェルティを促し、説明を求める。すると彼女は壁に掛けられた幾葉かの写真を手に取った。

 

「これが、何か・・・・・・分かる?」

 

 一枚目の写真。そこにはみすぼらしい格好の少年が輝くような笑顔で、古い型の掃除機を持っている写真だった。ヴェルティの質問にはYESと返答する。だが、彼の持っているような掃除機は昔の姿として知っているだけで、実物を手に取ったことはないほどの古いものだった。

 

「これは───1960年代、イギリスはウェストエンド、そこの家電を売る個人商店の店先で撮影したんだ。宣伝になると彼は思ったんだろうね。快く撮らせてくれたよ」

 

 二枚目の写真。それには一人の女性が原稿用紙に使い込まれた万年筆を走らせているところが映っていた。窓の外は暗く、店の光が横の道を明るく照らしているのが分かる。テーブルの上には食べかけのファーストフード───薄紙の包装や小さな滴がストローの先で光っている──がトレーの上にまだ残っていた。

 

「・・・・・・彼女はシングルマザーのマリオン・スミス。週末のお昼の献立に悩みながらも、執筆の手を止めることはなかった。彼女の小説は面白くてね。南極大陸の白い大地を何頭もの犬に牽かれたソリで疾走する描写が特に素晴らしかったな・・・・・・彼女とは夜中二時のファーストフード店で出会ったんだ───この世界の南極も広大な雪の大地なのかな」

 

 ヴェルティの質問に先生は頷く。キヴォトスにも極地に分類される場所があると言うとヴェルティは少し嬉しそうにしていた。

 

「彼女はジュリー。私を家に招待してくれたんだ」

 

 部屋の中で少し恥ずかしそうに頬をうっすら染めた少女の写真。壁にはスポーツ選手らしき人物のポスターが張り巡らされ、写真の少女ジュリーがその選手の相当なファンだと言うことが伺い知れる。

 

「リバウド───は知らないようだね。彼は有名な選手でね。FIFA最優秀選手賞に選ばれたんだ。当時はそれもあって国民的アイドルにまでなったんだよ」

 

 自分が詳しくないだけなのか、それとも彼女の世界にしかないものなのか、どちらにせよ自分はそのリバウドという選手のこともだが、FIFAというものも知らない。そのことを伝えると彼女は少し考え込むように目を閉じた。

 

「私たちの世界、私たちの時代は逆行したんだ。1999年末のミレニアムカウントダウンから、80年代の超新星爆発───私の世界では様々なことが起こった。ミス・シャーレ、貴女の世界も同様に様々なことが起こってきたはず・・・・・・何が基点になるかは私には分からないけど、私は貴女に協力するよ」

 

 開かれた目には、責任と義務感を感じる。きっと彼女はあの積み上げてきたものを押し流す風雨に対して負い目を感じているのだ。だが、ヴェルティを知らない先生にとって、彼女の雨に対する責任は背負えない責任である。しかし、この世界でのことならば、その責任を分かち合っていけるかもしれない。

 

”ありがとう。ヴェルティ・・・・・・それともタイムキーパーの方がいいかな?”

「どちらでも、好きな方で呼んで」

 

 ヴェルティは手を差し出す。ミス・シャーレはその手を握った。

 

 

 


 

 

 

”もう少し、ストームに関して聞いてもいい?”

 

 ヴェルティはコクリと頷いた。

 

”もし、戻る時間がごく短い間───例えば、1999年から1990年に戻ったら、ほとんど生きてる人の世代は交代していないよね。君は、ストームを乗り越えられなかった人は消え去ると言ったけど、逆に言えば乗り越えた人が過去の自分に会うことはないの?”

 

「・・・・・・今のところ、そう言ったことはないね。これは友人が言っていたんだけど、『親殺しパラドックス(Le Voyageur imprudent)』は存在しないんだ」

 

 親殺しのパラドックス。この矛盾を形容する言い方はこれだけではないが、ここではそう呼ぼう。あるSF作家が軽はずみな旅行者の話を書いた。その旅行者は時間を遡り、血の繋がった祖父を祖母と出会う前に殺してしまった。その場合、旅行者は生まれなかったことになり、祖父の殺害は失敗する。だがそうすると、軽はずみな旅行者は生まれ、祖父を殺めることが出来てしまう。そのパラドックスが、ストームにおいては発生しない。

 

”えっと、つまり───どういうこと?”

 

 親殺しのパラドックスが発生しないならば、訪れる結果は二通りある。それは、祖先を殺めたことで自分も消えるか、祖先を殺めても自分は消えないかのどちらか。ヴェルティはそれについて後者であると答えた。

 だが、疑問はそれだけではない。理解も一度では飲み込みきれないだろう。だから簡潔に整理しよう。

 

・ストームは時間の移動を引き起こす。

・ストームで過去の自分に出会った者はいない。

・ストームが親殺しのパラドックスを引き起こすことはない。

・ストームを乗り越えられなければ消える。

 

”・・・・・・ねぇ、過去に戻ったとき、その時代の人は普通に居たんだよね?”

 

 ミス・シャーレは簡潔な四行のまとめを見て訊ねた。ヴェルティは彼女の問いに首を縦に動かす。しかし、過去に戻ったとき、その時代の人物は普通に居るというのならば、このキヴォトスではどうなっているのだろうか。

 

「・・・・・・少なくとも、私たちのいた市街地、あの場所に居たとしたら、きっと───」

 

 ストームの嵐の中に消えた人物を見た者もいない。少なくともヴェルティは、先ほど話した友人たちに再び出会えたことはない。だが同時に、同じ様な時代に戻ってきたとき、そこでは何気なく生活する人々が居た。もし、ストームに全て押し流されるなら同じ時代の人々は多く消えているはずなのに・・・・・・

 

”それじゃあ、確かめなきゃね”

 

 ミス・シャーレは噛みしめるように言った。

 

 

 


 

 

 

 ネズミ色の壁に、白色の縁をした巨大なモニター、その下にはボタンやレバーが規則正しく並ぶ操作盤がある。その操作盤の前に取り付けられた椅子に行儀悪く座る一人の研究者がいた。

 

「おい、なんでこんなことを二度もしなくちゃならないんだ」

 

 白色の髪の毛だが、インナーカラーは茶色。肩より下に垂れ下がった毛先だけ黒っぽい。目つきは鋭く、眉も険しい。その表情はいつものことで、神経質さと感情の起伏が激しいところを伺わせる。

 

「そう言わないでよ、メディスンポケット研究員。これも必要なことなんだ」

 

 イライラしているメディスンポケットを宥めるように、薄墨の髪をした少年が言葉をかける。彼は手元に持った資料を元に話し始める。

 

「さて、以前『親殺しのパラドックス』は起きないと言ったよね。もしかしたら過去の自分に会えるかもしれないけど、それも今のところは無い───覚えてる?」

「当たり前だろ、そんなこと確認するためだけに呼んだのか?」

 

 つまらなそうにメディスンポケットは椅子をくるくると回す。彼は暇ではない。だが、ストーム研究の功労者である彼の言葉が、ここでは必要だった。少し困ったような笑顔を浮かべた司会役のXは、そのまま話を続ける。

 

「ストームは未だ謎が多い。一説には並行世界を持ってきて世界のテクスチャを上書きしているという説。また一説には、世界を再構築しているという説。そこから分かれた様々な説があるけど、今のところは並行世界か再構築かといったところだね」

 

 並行世界を持ってきて世界線を上書きしていく並行世界説。これならば親殺しのパラドックスが起きないという理由付けにもなる。だが一方で時代病の説明ならば再構築説の方がうまく説明できる。世界を再構成するとき、その時代と人間という素材が混ざり合ってしまうと考えれば時代病の説明が付く。

 だが、どちらにせよ決定打に欠けるのだ。ストームの情報が得られるのはストームのただ中がほとんどだ。今は椅子の上で不機嫌にふんぞり返っているメディスンポケット研究員もストームが目前に迫ったとき、ストーム免疫の重要物質である非対称型ヌクレインRを検出した。

 

「例えば、たった数ヶ月しか時間が遡らないとしたらストームによって消滅した人々はどうなるのかな?」

「愚問だな。ストームの気まぐれによって過去から未来に戻ったとしてもストームで消えた奴は戻ってこない。1914のストームから1990に戻ってもラプラスの人員も資材も戻っちゃ無いだろ?」

「そうだね、でもストームに飲み込まれたとしても、大多数の人たちは、またその時代に生きている。そこにある差は何なんだろうね?」

 

 そう、ストームによって似たような時代に戻ったとしても、その時代の人々は時間が巻き戻ったことも、ストームで人が消えたことも分からない。そこに記憶の齟齬は生まれず、それが当たり前の様に過ごしている。ストームで人が消える。でも巻き戻った先の時代で、多くの人々がいる。消えた人と再度設置された人、その差はどこにあるのか。

 

「主人公とエキストラの違いとでも言うのか?」

「・・・・・・確かに、世界を一種の劇場だと仮定するとしたら、そう言えるかもしれないね」

 

 確かなことではない。ただの推測、多少の根拠はありつつも否定できないかといわれるとそうでもない。そんなあやふやな推論だが、一理はある。

 

「面白い着眼点だなぁX。だが、ストームで消えるやつと消えない奴の違いはなんだって言うんだ?」

「うん、僕が思うに、その違いはストームの範囲内かどうかだと思うんだ。ストームの中心地であれば、存在の消滅が起きる。だけど、その中心地から遠ければ、時間の逆行に飲み込まれて、新しい世界には付いてこられないけど同時代に戻れば存在している。違いは距離じゃないかな」

 

 そのように言うXにメディスンポケットは少し考え込む。今彼の脳内にはこれまでの情報と、今提唱した説の照らし合わせが行われているのだろう。そして、それが終わったのか、彼は口を開き、鋭い犬歯を覗かせた。

 

「距離か、まぁ、確かにそう言う考え方もあるかもな。だが、ウィーンの時はどうだ? あれは遠く離れたエーゲ海にも時代病が来てたんだぞ? 距離にしちゃ離れすぎだろ。それより、並行世界に上書きされたとしたらどうなんだ? それならストームに飲み込まれた奴が同時代に戻ったときにも───あぁ、これじゃあストームで消えた奴が説明つかないのか」

 

 そう、ストームについての情報は未だ不可解なところが多い。一方がたてば一方がたたぬそんな状態なのだ。

 

「そういうことなんだ、メディスンポケット研究員。だけど、もう一つ思いついたことがあるんだ」

 

 Xの言葉に、メディスンポケットは鼻を鳴らして続きを促す。

 

「時代病はストームによって時代を再度生成するときに情報が混ざり合ってしまったが故に起こるという説を元にするんだけど、時代病に感染したから、判別不可能なデータと判断されて、バグとして削除されている・・・・・・というのはどうかな?」

「そうだな、それも否定できる材料はあるんだろ?」

 

 メディスンポケットの問いに、Xは曖昧な笑みを浮かべた。




当方は並行世界上書き説より、世界再構築説の方が好みです。
なので、世界再構築説を元にそれっぽくエッセンスを足していきます。
覚悟の準備をしてください。
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