水晶甲殻獣 クリスタルザウルス
登場
宇宙は無限に広がる未知の領域。
月、火星、水星、木星、土星、金星。
幾つかの天体は勿論、ブラックホールの様な超常的な重力や引力を引き起こす天体も存在する。
そして太陽系第三惑星……通称地球から遥か彼方……何万光年先にある外宇宙。
その天体…クリステラと呼ばれる惑星。
クリステラは地表が水晶の結晶体で覆われた惑星であり、その星で暮らす人々はクリスタル星系人と呼ばれる者達。
身体の一部には結晶が埋め込まれていて、これがなければクリスタル星系人達は生きる事が出来ない種族なのだ。
だが、その平和は崩れ去った。
草木は炎に包まれ、結晶で出来た大地は幾つもの亀裂が走っており、人々は理不尽な暴力の前に命が風前の灯火となっていた。
空には中世の城を思わせる円盤が浮かび上がり、地上は50m級の巨大な怪獣達が蹂躙していく。
「……これが、我々の、繁栄の果て、か……」
母星の大地を、草木を、命を屠っていく怪獣や宇宙生物の蹂躙劇に初老の男が息を切らし、血塗れの身体に鞭を打って歩く。
傷だらけの為に覚束ない足取りでふらふらと動き、一体の像に向けて歩く。
「巨神様……どうかお願いします、この宇宙に導きの光を……」
「巨神様……この宇宙を救って下さい……」
初老の男だけでなくこの星の人間全てが、切実に祈りを捧げていく。
50m級のその“巨神“なる存在の像は、何処か神秘的な雰囲気を醸し出していた。
自らの最期を悟った彼等に出来る事はない。だがせめて、この宇宙の平和を祈るだけでも出来る筈だ。
そんなクリスタル星系人全員の祈りが届いたのか、巨神の像に光が集まっていく。
集まった光は光球となり、光球はそのまま空高くへと飛んでいった。
「巨神様……どうかこの宇宙に救いの光を」
その言葉を最期に、彼等は幾つもの光に飲み込まれた。
そして同時に天体は風船が割れた様に爆ぜ、クリステラはこの宇宙から消滅していった。
この太陽系にある天体の一つ、地球は怪獣による災害と敵性宇宙人の侵略行為に見舞われていた。
私立水銀大学院……日本の東京の某市にあるこの大学にはあるサークルが存在する。
その名は怪獣・異星人研究会。
怪獣災害や宇宙人による被害の調査・分析・防災・人々の避難を心掛ける事を目的としている。
他にも怪獣や宇宙生物の生態系も調べていて、唯の大学の研究サークルにしては逸脱している存在である。
大学の敷地内にある自転車用の駐車場、一台の自転車が其処へ停まり、跨っていた一人の青年が校内へと駆ける。
「おはようございます!」
「おう、おはよう」
「おはよー」
廊下を歩きながら道行く学生達に挨拶して行き、やがて目的地の入口へと辿り着く。
「おはようございます!」
教室の扉に入り、青年は直ぐ近くのロッカーへと向かう。
「おはよー! クウヤ!」
明るいショートボブの女性は
「おーす、時間ギリギリだな」
逆立った黒髪の青年は
「おい! ツッコミは余計だ!」
「誰に言ってるのよ? ……あ、クウヤ君おはよう」
アップスタイルの髪をした白衣の美女は
「全員揃ったわね」
ポニーテールの三十代前半の女性が言う。彼女はこのサークルの発起人である
「おはようございます、教授!」
クウヤはこの大学に入ってまだ三ヶ月、同期であるサラと共にこのサークル活動に興味を抱き、入会した。
「おはよう。……来て早々悪いけど、此処最近起こっている現象に関する調査の依頼が入っているわ、地球防衛隊からね」
「此処最近と言うと……街の外れにある鉱山ですね?」
この数日前から街の郊外にある鉱山、その鉱山から最近未知のエネルギー反応が感知された。
地球防衛隊の宇宙科学班が駆り出されているが、あまり良い結果が出ず。
「それじゃ、怪獣・異星人研究会。本日は地球防衛隊・宇宙科学班に随伴して鉱山のエネルギー調査を行います。私・ヨウスケ・サラ・クウヤは鉱山内部へ、カナエは外で待機。いいわね?」
『はい!』
全員は一斉に返事し、準備に取り掛かる。
現地の鉱山に赴くと戦車や装甲車が何台か並んでいて、同時に女性陣の姿を確認したのだろう、隊員の男が青筋を立てて此方へ迫って来た。
「お待たせしました」
「ケッ、オカルト好きの学生共か」
悪態を吐いてくるのは
「本来なら追い返す所なんだが、上が決めた以上は仕方あるまい。精々我々の邪魔はするなよ」
「ええ、分かりました」
ユウナは凛とした対応で接し、ヒロトは苛ついた様に去って行った。
採掘場の光景は美麗ではなく、一寸先すら見通せない暗さだった。
「このような任務内容になり申し訳御座いません。他に適任者がいなく、どうしても学生である皆さんに頼るしか……」
隊員の一人が研究会の面々に対して、謝罪を述べる。
「いいのよ、気にしないで。もしこの鉱山で感知されたエネルギーが、私達人類に牙を向くものだとしたらそれを放っておくわけにもいかない、ただそれだけよ」
「え、ええ。そうですね」
「…………」
謝る隊員に対して軽く対応し、後に静かに視線を地面へと向けるユウナ。
「教授?」
「いえ、何でもないわ。……行きましょう」
鉱山内部を進んで行くと、やがて巨大な空間に出た。
まるで水晶の様に透き通った広大な空間であり、一瞬異世界に迷い込んだ様な錯覚に堕ちてしまう。
水晶の様な空間には突起や凹みが幾つかあり、誰しもがその美しい光景に見惚れる。
「うっわー。綺麗だねえ」
「凄えエネルギー量だ、此処が発信源らしいな」
観測機も異常な数値を出しており、ヨウスケは此処がそうだと確信を得る。
「クウヤ、念の為撮影を。カナエに送っておいて」
「はい」
今後のレポートの発表に必要性を感じ、クウヤはスマホで周囲の景色を撮影していく。
ユウナの方はと言うと内心興奮を覚えている。
地球上には恐らく存在しないエネルギー源、それは何処から来ているのかを知りたいと言う欲求に駆られる。
防衛隊員達は学生達の迅速な対応に思わず拍手喝采し、ヒロトは面白く無さそうにチッと忌々しく舌打ち。
「ん?」
クウヤは撮影中、向こうに何かが写ったのを見つける。
スマホを仕舞い、その方向へと駆ける。
結晶で覆われているが、それは籠手を思わせる
籠手らしき
気付けばクウヤの手はそれに伸ばしていた。
すると光が灯され、結晶はみるみると氷解していく。
籠手は独りでに浮かび、意思を持つかの様にクウヤの左腕に装着された。
「は!?」
自分の意思と関係なく付けられた籠手。綺麗ではあるが得体の知れない不気味さを覚えて、直様外そうとするも中々外れない。
「な、何で外れないんだよ…?」
意味が分からないまま手放して折れるクウヤ、念の為にヨウスケに調べて貰おうと密かに考える。
ゴゴゴゴゴゴゴゴッ……!!
「……!?」
「え? え?」
「何だ? この揺れは…!?」
突然地面が揺れ始め、周囲の人々は戸惑いと驚きを隠せない。
「何だこの地震は!」
「隊長! か、観測機が先程より異常な数値を出しています! 更に熱源反応が感知しています!」
「はぁ!?」
「このままでは採掘場が落盤します! 指示を!」
青褪めた表情の隊員達の顔色、そして画期的過ぎる震度にヒロトは指示を出す。
「総員、退避! 学者共、我々から離れずに避難しろ!!」
『はい!』
「は、はい!」
一同は遮蔽物の雨が降り注ぐ中、鉱山内を走り抜ける。
死の恐怖に心を駆り立てられて走り、そして光が射し込む方向へと駆け抜けていく。
「隊長!」
「教授! 皆、無事ね!?」
外で待機していたカナエと防衛隊員達が出て来たクウヤ達に気付き、安堵の声を上げる。
だが、彼等が洞窟から抜け出すと同時に鉱山が倒壊。
「な……何か出て来る!」
サラの言葉は的中した。
倒壊した鉱山から
背中や両手の甲、尻尾や頭部に水晶の様な突起物が生えている。
姿形は恐竜の様な出立ちで、数ヶ所に甲殻を思わせる鎧。
その恐ろしい形相からして友好的な印象などなく、人々に恐怖と絶望を植え付ける50m級の巨大生物。
それは正しく…。
「か……怪獣だぁぁ〜〜っ!!」
一人の鉱山工員が叫ぶと同時に、工員達は一斉にその怪獣から悲鳴を上げて逃げ惑う。
地球各地に出現する怪獣の攻撃によって晒される怪獣災害、その原因が現れたとあっては蜘蛛の様に逃げる事しか出来ない。
「グギャアアアアアアッ!!」
怪獣……『水晶甲殻獣 クリスタルザウルス』は二本足で動き出す、その巨体に圧倒されがちなヒロトは隊員達に指示を送る。
「こ、攻撃準備!」
『了解!』
戦車隊が指示に従ってキャタピラを走らせ、並び立つ。
砲身をクリスタルザウルスに定め、ヒロトは戦車隊に指示を飛ばす。
「撃てえ!」
砲身が火を吹き、クリスタルザウルスに向けて集中砲火を浴びせる。
その巨体に向けて次々と攻撃は直撃していき、クリスタルザウルスの身体は白煙に包まれる。
「やった! これならいける……!」
「ううん……確かに直撃しているけど、全然痛がっている様には見えない」
クウヤは喜ぶも、サラは目を鋭くさせて目の前の戦闘を観察する。
「おいお前等! 此処は危険だ! 逃げろ!!」
ヒロトは留まり続けるクウヤ達に避難を促す、すると白煙の向こうから唸り声が響く。
それを聞いてまさか、と振り返ると……白煙が晴れた先ではクリスタルザウルスが佇んでいる……それも無傷で。
「っ! 攻撃を続けろ!」
戦車の砲身から発射される光弾は次々とクリスタルザウルスの身体に命中。だがその身体の皮膚には傷一つも付いておらず、やがて頭部の水晶の突起物に光が集まっていく。
そして次の瞬間、突起物から稲妻を思わせる閃光が放たれる。
閃光は一台の戦車に命中し、それはあっという間に爆発する。
『う、うわああああ!!?』
閃光は次々に戦車を焼き払う、まだ無事であった隊員達は戦車から脱出し、戦車隊は火の海となって燃え盛っていく。
「皆、防衛隊や工員の皆さんに避難を呼び掛け次第、私達も急いで離れましょう!」
『は、はい!』
ユウナの声にクウヤ達は一斉に返事し、工員や戦車に搭乗した隊員達に避難誘導を行う。
「グギャアアアアアッ!!」
クリスタルザウルスは片足を上げると地面を強く踏む、その衝撃による振動は地震と変わりないもので、亀裂が走る。
振動に翻弄される中、亀裂がクウヤの足下まで走る。
「なっ!? うわああああああ!!」
『クウヤ(君)!!』
足下の地面が崩落、クウヤはそのまま地の底へと落ちていく。
「クウヤ、クウヤ!」
「おい待てサラ、行くな!」
「だって、クウヤが!」
サラは落とし穴の方へ向かおうとするも、ヨウスケが慌てて引き止める。
「気持ちは分かるが、今は避難が優先だ! 死ぬ気か!?」
「ヨウスケ君の言う通りよ、サラちゃん。冷たい様だけれど、今は生きる事が大事よ!」
本音を言うと助けに行きたい。だが怪獣が近くにいる以上、助けようにも極めて困難な状況だ。
サラに二つの選択が迫られる中、重い足音が聞こえてくる……クリスタルザウルスだ。
『!!?』
戦車隊を蹴散らした巨大怪獣が目前と迫り、自分達を踏み潰そうと足を上げる。
「ま、拙い!」
「あーんもう! どうせならイケメンの恋人を作っておけば良かったぁ!」
「……!」
「クウヤ……!」
最早これまでか、と自分達の最期を悟って目を瞑る。
徐々に巨大な足が下ろされ、サラ達の目前に迫っていく。
「うわああああー!!」
崩落した地面が崩れ、クウヤは奈落の底へと落ちていく。
このまま地面に到達すれば自分は確実に死ぬ、例え助かったとしても光の届かない場所で餓死する運命しかないだろう。
(こんな中途半端な死なんて嫌だ! 死にたくない!!)
大学に入ったばかりで怪獣・異星人研究会なんて意味不明なサークル参加している、意外にも楽しいと言う感情が芽生えている。
(まだ死にたくない…! サラやヨウスケ先輩、カナエさんにユウナ教授……皆と同じ時間を過ごす為にも…!)
此処で死んでたまるか。
そんなクウヤの切実な願いを聞いたのか、籠手が眩い光を放った。
「な、何だ!?」
眩い光がクウヤの周囲を球体に包容し、まるで時が止まった様に先程までの浮遊感が感じない。
「な、何だ……声が聞こえる? クリスタルガントレット……名前、クリスタル……?」
モールス信号の如く、断片的に光がクウヤに言葉を伝えてくる。
「遠い宇宙、故郷、守護神、滅んだ。君、選んだ、一緒に戦う……」
すると眼前に何かのキーが現れ、クウヤはそれを手にする。
キーには何やら絵柄があり、何かの巨人を模した絵柄が描かれている。
「これを使って変身しろって事か? だったら、今は目の前の脅威を叩く為にも…!!」
クウヤは決断する。皆を守る為に。
《Ultra Crystal Key!》
クリスタル状のキーを手にし、籠手……クリスタルガントレットにある穴に嵌め込み、キーを回す。
《Connect! Relive! Ultraman Crystal!》
電子音声に従い、ガントレットを纏う右手を天高く掲げた。
「輝け!水晶の光!!」
左手の指でガントレットをタップ、ガントレットを起点にクウヤの身体が光に包まれる。
《Realise! Ultraman Crystal Original!!》
《デュアアァ!》
クリスタルが亀裂が入ると砕け、その中から銀色の巨人が左手を突き出して飛び出した。
サラ達に巨大な足が迫る瞬間、落とし穴から光の柱が顕現した。
『!!?』
その光にサラ達は驚き、同じく驚いたクリスタルザウルスはバランスを崩してその場で転ける。
一体何が起きたのか、暫く一同がその光を凝視していると……光は段々と人の形へと変容し、発光が収まる。
50メートルはある巨体。銀色の身体に赤いラインが入り、胸の中心にはクリスタル状の水晶玉。
青い宝石の様に輝く胸に両肩にプロテクターが施され、何処か神秘的な雰囲気を感じさせる。
「な、何だ…!?」
「巨人…?」
「綺麗……」
ヨウスケとユウナは困惑し、カナエはその姿に見惚れる。
「あの姿は…!」
サラはその巨人を見て驚き、ヒロト含めた防衛隊や工員達は唖然として口を開ける始末。
誰もが突然現れた正体不明の巨人の姿に目を奪われ、圧倒的な存在感に見惚れる。
巨人は自身の手足、周りの人間や風景を見て若干不思議そうな対応をしていた。
その一方でクリスタルザウルスは起き上がると苛立つ様に唸り声を上げ、そのまま巨人に向けて突進。
《ッ! デュア!》
咄嗟に巨人はその突進を回避し、透かさず右手で拳を作り……その背中を殴り付ける。
再び転倒したクリスタルザウルスは起き上がろうとし、上体をゆっくり起こす。
起き上がったクリスタルザウルスは腰を大きく振り、巨大な尻尾が巨人に向けて振り上げる。
《デュア!?》
不意打ちを受けた巨人はその場で転倒。お返しとばかりに仰向けに倒れる巨人にクリスタルザウルスはマウントを取り、巨人の胸を足で何度も踏み付ける。
《デュア!》
だが巨人も唯やられる訳にはいかない。苦し紛れに右手を突き出すと指先から三日月状の光弾が発射、クリスタルザウルスは真面に食らい悲鳴に似た唸り声を上げる。
そして怯んでいる内に転がりながら離れ、巨人は立ち上がる。クリスタルザウルスの鳩尾に拳を食い込ませ、立て続けにパンチのラッシュを叩き込む。
更に顔に跳び膝蹴りを放つ。クリスタルザウルスは負けじと巨人の腕に噛み付き、突起物から放つ閃光を電流の様に流し込む。
《デュアアアアアア!!》
悲鳴の様な絶叫を上げる巨人。巨人の胸の水晶が忽ち赤く点滅し始め、巨人はチョップで頭に叩き込み、痛みでクリスタルザウルスは口を離してしまい、その間に巨人はクリスタルザウルスから距離を取る。
その隙を逃さず、巨人は両手に膨大なエネルギーを集束させていき、L字に腕をクロスさせるとそこから光線が放出された。
「グギャアアアアアアッ!!」
避ける暇もなくその光線を浴びていき、全身から火を吹いてクリスタルザウルスの身体は決壊していった。
『やったああああああ!!』
怪獣の脅威が去り、巨人が勝利した事に研究会や防衛隊、工員達から歓喜の声が上がる。
「誰だか知らないが、ありがとう!」
「お陰で助かったわー!」
代表してヨウスケとカナエが感謝の言葉を送る。
人々の笑い合う姿を見て安心したのか巨人は《シュワッチ!》と言う声と共に飛び立ち、空の彼方へと消えていった。
「おーい!」
「え? あ、クウヤ!」
巨人が飛び立ったのを見送った後、その入れ違いでクウヤがサラ達に駆け寄ってきた。
「無事だったのか!?」
「はい……あの巨人に助けられて」
「良かったわ、本当に」
何とか取り繕って誤魔化すクウヤ。サラ達が笑い合う中、ユウナは巨人が飛び去った青空を見上げて微笑んでいた。
「あの巨人……何だったのかしらね?」
突如として現れた巨大怪獣、そして自分達を守ってくれた光の巨人。
学者としては興味深い事象を目の当たりにして、ユウナは静かな探究心が芽生えるのだった。
そして彼等は知らない、とある勢力が着々と地球に迫っている事を──
To be continued