これは語られるはずのない物語   作:篠崎勇気

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序章1『狂気の青年』
出会い


 

{???}

 

 人に信用されるのはどうしたらいいか?

 その問いに正確な答えを返せるものはいないだろう

 何故なら、信用されるという定義があいまいだからだ

 しかし、一つだけ必要なものがある

 それは「時間」だ

 多くの人間が信じる企業、多くの人間が信じる知識、多くの人間が信じる隣にいる誰か

 それらの信用は、明確に時間をかけて作り上げたものであろう

 初対面の人の言うことをすべて信じる人間などいない

  まあ、もしかしたら一定数そういう人間はいるのかもしれないが、ごく少数であろう

 そう言う一部の例外を除いて、信用に必要なのは「時間」だといえるだろう

 つまり「時間」をかければ一定の信頼は生まれてくるものだ

 

—なら

—「時間」をかけても生みの親からも信用されない私は

—どうすれば信用されるのだろうか—

 

 

チャプター1

『出会い』

 

ざわざわと、木々のすきまを風が通る音が聞こえる。自然の中で生まれる音色といっていい心地の良い音。それは現代社会ではめったに聞くことはない音でもある。

「ん・・・」

 そんな音を聞きながら、その少年は目を覚ます。

 少年は体を軽くほぐしながらあたりを見渡し始めた。

「目が覚めると見知らぬ森の中にいたと・・・いやなぜ?」

 見覚えのない景色、見覚えのない服装、なにより。

「昨日は普通にバイトして、普通に家帰って、普通に寝たよな?なぜ森の中で目を覚ましたんだ?」

少年は森の中に入って寝ていたのではない。

気が付いたら森の中で寝ていたのだ。

疑問に思いながらも、とある問題に気付き、それどころではないと判断した。

「森の中ってことは、食料とか水とか考えなきゃいけないし、なにより虫がいる!」

少年は大の虫嫌いである。

「移動しねえと・・・。でも、むやみに歩いても遭難するだけだよなぁ」

ちなみに少年は方向音痴である。

というか、見知らぬ森の中にいる時点で遭難しているといえるのでは?

「とりあえず、何持っているか確認しねえと・・・いや待て。知らねえ服着てんな。というか、身長もなんか低くね?」

少年の服装は、灰色のTシャツの上から青いジャケットを羽織り、下は黒色のジーパンという、ちょっとダサい服装であり、身長は155㎝もないように思える。

「縮みすぎでは?俺の身長って180ぐらいあったんだが?俺の身長何処よ?」

少し混乱しているように見えるが、一度頭を横に振り頭の中を整理し始める。

少年は自分の姿を確認しようと、反射するものがないかあたりを探し始める。すると、先ほどまでは気づかなかったが、かなり大きい箱が一つある。

「いや怪しくね?」

少年は箱を開けず、怪しんでいる様子。しかし、一通り何かを考えると近くの木から枝を一本折り、箱のすきまに枝を差し込み、警戒しながらゆっくりと箱を開けた。

—何も起きない。

少年は箱に近づき、中身を確認する。

箱の中には一枚の地図と、『弓』と『矢』が入っていた。

『矢』は先端が鉄で作られた普通の矢と思える物が20本あるが、『弓』に関してはよくわからない。触ってみたところ、全体的に何かの皮で覆われているように感じ、とても軽い。

「弓は軽すぎなくらいだな。持っていてもあんまり重量を感じねえ。なのに結構丈夫そうだ。弓はガラス繊維で作るグラスファイバー弓と、炭素繊維で作るカーボンファイバー、竹で作る竹弓の三種類があるけど、こいつはどれにも該当しねえ。どんな素材で出来ているのかすら見当がつかねえ。だがとりあえず・・・」

少年は弓を持ち、一本の木を見据えると、その木から30mほど離れ、弓に矢をつがえた。

目をつぶり、精神を統一し、ゆっくり息を吐く。その一連の動作を慣れたようにこなし、ゆっくりと目を開ける。目標を見据え、精神を落ち着かせ、ただその時を待つ。

 

空気を割く音が響いた。

 

少年が放った矢は30mほど離れた木にまっすぐ突き刺さり、それを見た少年は弓を下ろし、矢を射った木に向かい歩き出した。

「まあ、これくらいの距離は外さねえよな。弓道やっててよかった。」

木から矢を抜き、矢の状態を確認する。

どうやら思ったより頑丈そうだ。

「再利用しても問題なさそうだな。しかし、矢だけあっても矢筒がねえから運びづらいんだが。弓と矢をセットにするなら矢筒も用意しやがれ。とは言っても誰が用意したのかわからん以上贅沢は言えねえか。それに・・・」

箱に入ってた地図。中央には森が広がっており、その周りには様々な地形がある。そして、地図が正しければここは—。

「孤島。なんでこんな所にいるんだ?」

気になることが多すぎるが、それらは後回しにし、まず移動しようと決める。視界が悪いうえ、木が多いこの地形では自分の持っている弓はあまり使い物にならない。近くに生えている木から垂れている蔓のようなものをつかむと、思いっきり引っ張り、蔓を引きちぎる。その蔓を使い、持ちやすいように矢をまとめ、一本だけ手にもってほかの矢は肩にかけるように持つ。地図はポケットにしまい、歩き出す。

「とりあえずまっすぐ歩けばどこかには出られるっぽいから、森を抜けることを第一に、迷わないよう矢の先端を使って目印だけつけといてっと。道中、食えそうなものあったら取ってみるか」

少年は森を出ることを目標に、とりあえず歩き出した。

 

 

 

歩き出してから約二時間。

食べ物を見つけるどころか、森を抜ける気配すらない。なにより、目を覚ましてから水を飲んでないから、かなりのどが渇いてきた。

「思ったより広いな。そもそも、この地図ってどれくらいの縮尺なんだ?」

地図をよく見てみると、端のほうにそれらしきものが見えた。そこから計算するに。

「縦の長さは約60㎞、横の長さは約100㎞程度ってとこかな?・・・アホだろ」

ちなみに東京から栃木の宇都宮市までの距離が100㎞と言われている。つまりこの島は県一つ分くらいの大きさがあるわけになる。かなり大きいことがわかるだろう。つまり、このまま進み続けてもいつ出られるかわかないということでもある。いや、間違いなく出られないと思えてくる。

「森を抜けようとする前に、水や食料を確保するのが先だな。じゃないと森を抜ける前に死ぬかもしれん。って痛・・・ん?」

食料や水を確保する方針に変えようとしたとき、強い風が吹く。その風を受け、目に何か入ったらしく、少し痛みを感じる。それと同時に違和感。

「砂?風に砂が混じってんな。森の中なら土が混じるもんだろ?なのに砂ってことは・・・もしかして」

駆け足になりながら、風が吹いてきた方向に進む。すると徐々に視界が晴れはじめる。

「森を抜けたってことは、森の端っこのほうにいたのか俺。運がいいな。んで、ここはどこだ。ってマジか」

目の間にあるのはかなり高い山と呼ばれる地形。おそらく地図の左下、つまりこの孤島の南西にあると書かれている。

「山脈地帯・・・。しょっぱなから来るには厳しいところだな。方角がわからない以上仕方ないことだが、できれば湖って書いてあるとこがよかったなぁ。」

山脈地帯となると水や食料はあまり期待できそうにない。森に戻って探索したほうが木の実や果物が見つかりそうだ。しかし、少年は山を登ることに決めた。理由はいたって単純。森より山のほうが虫が少なそうだと思ったからだ。見たところ、山に植物は生えておらず、虫はいそうにない。水や食料も見つかりそうにないが。

「とりあえず上りながら考えるか。最悪本当にやばいと感じたら森に戻ろう。人間って飲まず食わずでも3日は生きられるらしいし。ってあれ?」

かすかに音が聞こえる。それは水面に物が落ちた音のようにも聞こえ、急いでその方向を目指す。音が聞こえた方向に進み続けると小さな洞窟を見つける。洞窟に入るとその奥には池があった。

「ついてるな。一番気にしなきゃいけない水がこんなにすぐ見つかるとは。まあ最も飲めなきゃ意味ないが。って嘘だろ?」

水面に映った顔は普段の自分の顔ではない。灰色の髪に、緑色の瞳というあまりに日本人離れした容姿。それは自分の顔でこそないが少年にはよく知っている姿でもある。

「俺がやってる配信サイトでの姿・・・?」

少年はバーチャル配信アプリを入れており、その配信アプリでは、見る側も自分のバーチャルアバターを設定しなければならない。少年の姿は、そのアプリで自分が作った姿にそっくりであった。

「バーチャルアバターってことはここは現実じゃないのか?夢にしてはあまりにリアルすぎる。周りを見てもここは現実としか思えなくて。なら異世界転生ってやつか?にしては死んだ記憶もないし、本格的にわかんねえな」

仮説は立てられるが、正直どれもあり得ないとしか思えない仮説で、今は考えるべきではないと判断する。まずやらなきゃいけないのは水が飲めるかの確認だろう。

池に手を入れ温度を確かめる。

とても冷たい。幸いこの山は、火山ではないようだと判断する。

掌で水をすくい目に見える不純物がないか確かめる。透き通っているきれいな水だ。正直このまま一気に飲みたい欲を我慢しつつ、掌の水を捨てしばらく待つ。15分ほど待ち、掌に何も影響がないことを確かめると、水を少量口に含みすぐに吐き出す。更に15分待ち舌に何にも影響がないことを確かめる。

世界標準可食テストと呼ばれる、食べ物を毒か無毒か判断するテスト方法だ。別名パッチテストとも呼ばれる。今回は食べ物ではなく水であるため、何処まで判断できるかはわからないが、やらないよりはましだろうという考えからやってみただけである。ペットボトルの一つでもあれば、水を濾過するなり、蒸留水を作るなりできたが、手持ちに水を汲めそうなものがない以上、その方法はとれない。

恐らく毒はないと判断し(寄生虫など別の可能性は十分あるが)、池の水を掌にすくう。

この先、水を安全に確保できると確信ができない以上、少しでも水は飲んどく必要がある。それに、少量なら体調を壊すくらいで済むだろう。明日になっても体調が悪化しないのであれば、この池の水は飲めると判断すればいい。そんな考えから少しだけ水を飲もうとした。

 

結論から言うとその判断は間違いであった。

 

少年は掌の水を一口飲むと一気に飲み干してしまう。そして、顔を池に突っ込み池の水を一気に飲む。最初こそ警戒していたが、一口飲んだとたん、いかに身体が水を欲していたのかを知り、本能のままに水を飲む。もし池に寄生虫とかその他の危険があった場合、間違いなくアウトだ。しかし、少年はそんなことを気にすることもできず水を大量に飲む。やがて顔を水からだし、やっちまったという顔をする。まあ当然である。

「本能にはあらがえなかった・・・!仕方がない。普通に飲める水であることを祈ろう。とりあえず山を登ってみるか。もし動物とかいたらこの弓で仕留めて食えばいいし」

少年は洞窟から出ると山を登り始めた。

 

 

 

上り始めて1時間ほどたった時、遠くに小屋らしきものを見つけた。小屋は思ったより大きそうで、少人数であれば人が住めそうなほどの大きさだ。全体がよく見えるほどの距離くらいまで近づいてから、小屋をよく観察する。入り口は一か所、玄関だろう。窓は見える範囲では2つ。高さがそれほどないことから二階はないと思える。人の姿は見えない。山の中にある小屋が無人であるとは考えづらく、人がいると思っていたが留守なのか、それとも山を登るための休憩所のような場所なのか、どちらかはわからないが、とりあえず玄関と思わしき場所に近づき、扉を開ける。

「すみませーん。どなたかいらっしゃいませんでしょうかー。」

念のため声をかけつつ、中を見てみる。

 

人はいなかった。

 

しかし、中央にはテーブルがあり、その奥には台所が見え、出入り口の近くにはいくつもの物が入りそうな大きな箱があった。そして机の上にはコップが一つ。

どうやら留守にしているだけで人が住んでいるようだ。その証拠に出入り口に一本の髪の毛が落ちている。

「さすがに人が住んでそうな小屋に入る気にはなれねえな。仕方ない。もう少し山を登ってみるか。もしかしたら、この小屋の住民とも会えるかもしれないしな。」

そう思い小屋を後にする。

「黒色の髪ってことは日本人なんかな?同郷なら会って話がしてえな」

そんな風に思いながら。

 

 

 

山を再びのぼりはじめ、しばらくたつ。水はまだ大丈夫そうだが、本格的に腹がすいてくる。そろそろ、食べれるものの一つくらい見つからねえかなっと思っていたその時、人らしきものが遠くに見えた。ここからだと、黒色の髪をしているくらいしかわからず、かなり髪が長いことから女の子であるかなくらいしか予想が立てられない。その少女?はうつぶせに倒れていて、気を失っているように見える。

「って冷静に分析してる場合じゃねえ!おい!大丈夫か!?」

少年は少女?に近づくと大きな声で呼びかけてみる。返事はなくぐってりとしている様子から完全に意識はないと思える。うつぶせになっている少女?を抱き起し、再び呼びかけようとする。

が、声が出なかった。性別は予想通り女の子であったが、その容姿があまりに想像からかけ離れていた。きれいな黒色の髪、整った容姿、身長は今の自分より少し大きいくらいだろう。なにより特徴なのは頭と腰にあるそれだ。

「獣耳に尻尾ってことは人間じゃねえのか?というかめっちゃ見たことあるんだが」

少年にとってその少女の容姿はとても見覚えがあるものだった。

「大神ミオ・・・。ホロライブに所属しているVTuber。詳しいことは知らねえけど、結構有名な配信者だよな。というか、この人もバーチャルアバターなのか」

疑問が山のようにわいてくる。なぜこんなとこに大神ミオがいるのか、なぜこんなとこで気を失っているのか、なぜこの人や自分の体はバーチャルアバターなのか、そもそもここはどこなのか。仮説こそ立てられるが、確証が得られない以上、これ以上考えるのは無駄だと判断し、まず何をするべきかを考える。今やるべきことは。

「この人を安全な場所に移すことだな。」

気を失った人を動かすのはあまりよろしいとは言えないが、救急車は呼べず、見通しが良すぎるこの場所だと、もし野生動物と出くわした場合、何もできずに食われそうだ。それに、山頂が近いのか、酸素も薄く感じるし、風もかなり冷たい。道中で見つけた小屋まで運んだほうが、ここにいるよりはるかにましだろうと考え彼女を持ち上げる。思ったより軽い。

「気を失っている人って意外と重いって聞いたことあるんだけど、全然そんことないな。まあもし落としたりした場合、いろんな人に殺されそうだからそういう意味では、めちゃくちゃ重いけどな。ってこの現場見られただけでアウトか」

現実逃避した後、なるべく無心であろうと意識し、それでいて落とさないよう気を付けながら来た道を戻る。ちなみに運び方は俗に言う「お姫様抱っこ」だ。

 

1時間ほど歩いて小屋に戻ってきた。現実だと腕ぱんぱんになりそうだなとか考えながら扉を足で開ける。

「って、これくらいだったらそこまで辛くねえな。現実だともっと重いもの持ってるし。」

少年は彼女を寝かせる場所を探す。さすがに床に寝かせるのは最終手段にしたい。とは言っても、布団もなければ毛布もない。仕方なく、机の上に彼女を寝かせる。行儀は悪いが床に寝かせるよりかはましだろう。仕方ないと割り切り、大きな箱を開け、中を見る。

中には空のバケツと自身が持っているのと同じ地図が入っていた。小屋の住人に申し訳なく思いながらも、バケツを取り出し、小屋から出る。洞窟の中にある池の水を汲みに行くためだ。看病をするためにも水は必要になるし、自分の体調が崩れていないことからそのまま飲めるかもしれない。彼女の肌は冷たく、唇は渇いていた。おそらく、脱水症状か低体温症で倒れていたと推測できる。毛布などがあればよかったのだがそれもなかった。外で野ざらしにされているよりは小屋の中のほうがましなはず。あとは早めに水を持ってきて飲ませたほうがいい。そう考え急いで洞窟に走る。

 

 

 

水を汲んで小屋まで帰ってきた少年は思った以上に時間がかかってしまったと思っていた。まあ、歩いて1時間かかるうえ、今回は水の入ったバケツも持っているのだ。急いでも時間がかかるのは仕方ないといえよう。彼女は無事だろうかと思いながら、扉を開ける。彼女は目を覚ましておらず、小屋を出たときと変わりないように見える。良かったと思いながら近づくと、かすかに息遣いが荒くなっていることがわかる。

「何もよくねえよ!?体調悪化してるじゃん!とりあえず温めないと!」

医療の知識などないため、とりあえず温めて水を飲まそうとする。上着を脱ぐと毛布代わりに彼女にかける。こんなことなら、寒がらずかけてから、小屋を出たほうがよかったと少し後悔しつつ、温められそうなものはないと小屋の中を探す。先ほどは箱の中しか見ていなかったため、何かないかと慌てて探す。しかし、調理器具くらいしか見つからずどうしたものかと頭を悩ませる。とりあえず、水を沸騰させて飲めるようにしようとバケツを台所にもってきて、窯に水を移す。ここの台所はかなり昔のつくりであり、窯の下で木を燃やして窯を温めるタイプであった。木はすでに中に入っており、近くにあった火打石で、火をつけて水を沸かす。

「って火あるじゃん!台所で寝かせるっていうのも申し訳ねえけど、机の上よりこっちのほうが温かいし、しょうがねえか」

机の上で寝ている彼女を抱き上げると急いで火の前に連れてくる。台所の床に寝かせるのも悪いが、緊急事態なので後で謝ろうと思いながら、彼女を寝かせ、自分のジャケットを上半身にかける。

「とりあえずこうやって様子を見るしかないか。水が沸いたら少しでもいいから飲ませないと。無事に目を覚ましてくれればいいんだが」

しばらく待つと水が沸騰する音が聞こえる。窯を火から外し、しばらく冷ます。バケツの水を使い手を洗うと、掌で水をすくい彼女に飲ませる。コップとかがあれば便利なんだがと思いつつも道具がないのでどうしようもない。口移しという手段もあるがそれを行えるほど少年には勇気がなかった。唇に触れ、少しづつ水を口の中に入れる。するとのどがかすかに動き水を飲んだのがわかった。何度か水をすくい飲ますという行為を繰り返し、彼女を寝かせる。薪はまだ残っており、火を弱めぬよう気を付けながら彼女が起きるのを待った。

 

 

 

「ん・・・」

かすかに声が聞こえ、彼女のほうを見る。まだ調子は良さそうと会いえないが、先ほどよりはいいと思える。頬にはかすかに赤みが戻り、息遣いも落ち着いている。少し見惚れていると、彼女が目を覚ました。そのきれいな瞳と目が合う。

「おはようございますー。」

とりあえず挨拶してみるが、気を失ってた相手にその挨拶は正しいのだろうか?どうやら少し混乱しているらしい。

「おはよございます・・・?ふぁああ」

彼女は少し大きな欠伸をすると、きょろきょろとあたりを見渡した。しばらくすると自分の状況を理解したのか、大きく目を見開いた後、持っていた上着で自身の身を隠すようにしながら少年から距離をとる。その瞳には警戒の色が浮かんでおり、少年は弁解を始める。

「いや待って。落ち着いてほしい。僕は決して怪しいものではなく、ごく普通の人間です。いや、今現状を見たら怪しいんだろうけど、ほんと待ってくれ」

少年の弁解?聞いた彼女はより一層警戒を強める。少年は周りから見ても怪しいとしか言いようがない。気のせいか、彼女の耳はまっすぐ立ち、毛が逆立っているように見える。気のせいではないようだ。

「ほんとに待って⁉俺は山を登ってる最中に倒れていた君を見つけて、ここまで運んだだけなんです!決してやましいことがあっては連れ込んだとかではないんです!」

少年は必至である。彼女は警戒しつつも、これまでのことを思い出し、少なくとも嘘は言っていないと判断する。

「あの~。なんで倒れていたのかって聞かせてもらってもいいですか?」

少し警戒の色が薄れたのを感じた少年は彼女に問を掛ける。その問いに対し彼女は答える。

「気が付いたら、山みたいな場所にいて、のどが渇いたから水を探してたんだけど、途中から記憶がないや。多分倒れてたならそこで気を失ったのかもしれない。」

「なるほど。君も気が付いたらこの山にいたんだ。」

その言葉を聞いた彼女は少し警戒薄めながら少年に聞く。

「君もってことは、もしかして・・・」

「ああ。俺も気が付いたらここにいたんだ」

正確には少年が目覚めたのは山ではなく森だが、それを言う必要ないだろうと判断する。

彼女の警戒が薄れたのを感じ、緊張がほぐれ口調が少し崩れる。彼女はまだ少し困惑しているのか、時々頭をひねりながら何かを考えているようだ。しばらく無言の時間が続くと、彼女から声をかけてくる。

「多分だけど、うちを助けてくれたってことだよね?ありがとうね」

彼女は少年に向き合うと、頭を下げる。

「そんなたいしたことはやってないけど。とりあえず体調は大丈夫?一時期、息も荒くなってたし。」

少年は礼を言われるようなことはやってないという表情で彼女の体調を気遣う。

「うん・・・。少し、体が重い気もするけど、大丈夫だよ?それよりこの上着って君のだよね?ありがとうね」

彼女は自分にかかっていたジャケットを少年に返す。

「どういたしまして。体調も大丈夫そうでよかったよ。けど、無理はしないでね。」

少年はそれを受け取り、彼女に質問をする。

「それで君はこれこれからどうするの?」

その質問を聞き彼女は少し考え答える。

「とりあえず、水を探そうかな。結構喉からからだし。」

その言葉を聞いた少年は窯のほうを指さしながら答える。

「そこの窯に入ってるので良ければ飲んでよ。沸騰させてるから問題なく飲めるよ」

その言葉を聞いた彼女は目を光らせ。

「ほんと⁉そしたらありがたくもらおうかな~」

彼女は立ち上がると、窯のほうへ向かう。それを見た少年はこれからのことを考える。

まず、彼女からの印象は悪くないと思える。なら右も左もわからないのなら彼女と行動を共にすべきだろう。一人でいるのはかなり危険ではないかと思えるからだ。まだ見ていないが、野生動物と遭遇した場合も考えなくてはいけない。とりあえず彼女が戻ってきたら提案しようと思っていると、後ろから足音が聞こえる。どうやら戻ってきたらしい。

「生き返る~。ほんとにありがとうね。」

「いや気にしないでもろて。それより、これからなんだけどさ」

少年は立ち上がりながら彼女のほうを向く。

「とりあえず、一緒に行動しない?ここがどこだかわからない以上、一人でいるのは危ないと思うしさ」

それを聞いた彼女は少し考えると。

「そうだね。助けてもらったお礼も言えてないし、その案には賛成かな。」

と、少年の提案に賛成してくれる。それを聞いた少年は、ほっとしつつ彼女に答える。

「ならこれからしばらくよろしくな。」

なるべく笑顔を心がけつつ、握手するように手を出す。それを見た彼女は、握手を返しつつ、少年に答える。

「うん。よろしくね。うちは・・・。」

「大神ミオさんだろ?有名人だから知ってるよ。本当の名前は言わないほうがお互いの為にもなるでしょ。」

少年は彼女の言葉にかぶせるように答える。今の姿はバーチャルアバターなのだからそっちのほうがいいだろうと考えたからの言葉だった。だが、彼女には少し違ったようにも受け取られたらしく、少し悲しげな表情を浮かべながら、少年にうなずいた。

「うん・・・。そうだね。ならうちのことはミオって呼んで。」

「よし。なら大神さんと・・・」

「ミオ」

少年の言葉に、今度は彼女が言葉をかぶせる。

「ミオって読んで。大神さんだと距離感じるし。」

その言葉を聞いた少年は戸惑いつつ。

「いや、有名人相手に呼び捨ては恐れ多いっす。ご勘弁ください」

とへたれた言葉を返した。それに対して彼女は少し考えながら答える。

「なら、せめてミオさんとかにしてよ。大神さんだとせっかく縮まったと思う距離が離されてるように感じるよ?」

少年はこんな感じの人なんだと思いつつも妥協案を考え提案する。

「なら間をとって大神って呼ぶわ。下の名前で呼ぶのはもっと距離を縮めてからにしよう。」

その言葉を聞いた彼女—ミオは仕方ないという表情を浮かべ。

「ならそれでいいよ。これからよろしくね。ってええっと君の名前は?」

ミオは少年に尋ねる。それを聞いた少年はミオに向き合い答える。

「俺の名前は利終(りお)葛音(つづらね) 利終(りお)。弓道部に入っている、どこにでもいる普通の高校生さ。」

少年—利終はミオの目を見ながら、そう答える。現実の世界でも直接会うことはないだろうと思っていた有名人に己の名前を名乗りながら、利終はこれらのことについて考えるのだった———。

 

 

 

{???}

 

他人から信用されるには時間をかける

当たり前のことである

しかし、時間をかけても信用を得ることが出来ない場合、実績を重ねる必要がある

さらに、その実績に嘘が混じってはならない。嘘で重ねられた実績は簡単に崩れる偽りの信用だからだ

だが、そのどちらもかけても、重ねても、私は信用されることはない

だからこれは問いかけだ

誰もが偽物の世界。本物などない世界

見た目も、性格も、言動も

そんな世界で、誰かが見た幻想を演じるしかない者たちは

どうやって、信用を得るのだろうという

 

 

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