これは語られるはずのない物語   作:篠崎勇気

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悲劇の幕開け、そして———

廃墟地帯を抜け、水海地帯に戻ってきた利終達は、自分たちの拠点に戻った。

 拠点に戻ってきた五人は、それぞれの成果を話し合う。

「とりあえず、俺とミオのペアから話そう。・・・と言ってもあの蠍が原因でほとんど持ってこれなかったけどな。無事なのは腰に着けてるサバイバルナイフくらいか」

そう言いながら利終は、自身とミオの腰に着けているサバイバルナイフを指さす。

他にもいろいろ整理していたが身に着けている物はこれしかなかったため、二人の成果物は二つのサバイバルナイフだけだ。

「次は白上達の番ですね。一番の成果は何といっても、この本です!」

フブキはそう言うと、持っていた本をテーブルの上に置く。

利終とミオの二人は完全初見のため、フブキたちの説明を待つ。

「この本はスバルが見つけた本でね、なんと!ポーションのつくり方が載っているんだよ!」

スバルが胸を張りながら答え、おかゆは窯を持ちながら言う。

「なるほど~。確かに本に載ってあった魔法窯とそっくりだね~」

「おかゆ!?」

いつの間にか窯を持っていたおかゆに驚くスバル。

利終とミオの二人は、おかゆがいつの間にか移動していたことより、先ほどの『魔法窯』という発言に引っかかりを覚える。

そんな二人にフブキが本の中に書いてあったことを説明する。

フブキの説明を聞いた二人は納得を示すと同時に一つの考えに至る。

「ねえ、利終君。清潔な水ってまさかさ」

「ミオも思った?実は俺も」

二人はお互いに考えていることが同じであることを確認する。

そんな二人を見ておかゆが説明を求める。

「ねえ~。二人だけで分かりあってないで説明してよ~」

おかゆの発言にフブキとスバルの二人は頷く。

利終とミオの二人は互いに見つめ合った後、うなずきあい、ミオが口を開く。

「多分だけど、うち達は『清潔な水』の湧く場所を知ってるかもってこと」

「「「え!どこ!?」」」

ミオの発言に驚いた三人は口をそろえて場所を問う。

その三人に利終が説明をする。

「いやフブキには説明したことあると思うけど、俺が最初に見つけた洞窟の中にある池のことだよ。洞窟に沸くって書いてあるなら、あそこほど的確な場所はないだろうしな。それに、あそこがそういう場所だったのなら、『魔法窯』がある小屋が近くにあったのも、ゴブリンたちがあそこに水を求めに来ていたのも納得がいくしな」

おそらくあの小屋はポーションを制作する人が住んでる場所だったのだろう。数時間以内に材料となる水があるというのがその根拠になる。数分圏内だと水を求めたモンスターたちに遭遇するだろうし、そう言う意味では最適な場所に小屋を建てたといえる。

しかし、それならばあの小屋の住人はどこへ行ったのだろう。そんな風に考えた利終だが、今は重要なことではないと、頭から振り払う。

「とにかく、これで次の目標は決まったな。まず、森を抜け、俺たちがいた小屋を拠点に生活基盤を整える」

ポーションの作成がすぐできるあそこを拠点にして、全員を万全な態勢に整える。

利終達のHPを全快した後、利終の能力を使ってポーションを入れる容器を量産すればしばらくは安泰といえるだろう。利終の能力が使いたい放題になれば、当初の目的であった布団などの問題は解決する。ある程度生活基盤を整えることができれば、その後の行動も余裕ができるだろう。そうすれば元の世界に帰る方法も見つかるかもしれない。

利終の説明を聞いた四人は頷き、利終達の今後の行動は決まった。

 

 

 

次の日、早朝に出発した一行は、来た時と同じように丸一日を使って森を抜ける。

その後、利終とミオの案内で、一行は洞窟に訪れた。

「ここだな。今の時間だと、洞窟の奥まで見えるだろうけど、日が落ち始めてきたら明かりが必要になるから気をつけろよ」

利終はそういいつつ、洞窟に入っていく。

一行はその後に従い、洞窟の池に到着する。

ミオは持っていた窯に水を救うため、池に近づき・・・その音に気づいた。

「ッ!!入口!何か来る!」

ミオの声を合図に一斉に振り返る一同。洞窟の入り口にいたのは三匹の———。

「オーガか。確かモンスター図鑑には、至る所で生活できる環境への適応能力の高さ、そして、ウルフの群れを単騎で退けることができる戦闘能力の高さがあるって書いてあったな。さらに、魔法を扱うこともできるとか」

利終の説明に一同は気を引き締める。

オーガは全地帯で見つかるモンスターであり、獣人と互角に戦えるモンスターでもある。

ゴブリンやウルフ、ゾンビと違いオーガは一対一で戦っても勝てるか未知数な相手だ。フブキとおかゆが一体ずつ相手をしたとしても、残り一体が問題になる。

戦闘能力が落ちているミオと、戦闘面では役に立たないスバルと利終の三人ではオーガ一匹を相手にするには荷が重すぎる。しかし、逃げようにも入口にオーガがいるため逃げることもできない。

故にここでの判断は一つ。

「フブキ!猫又!二人でそれぞれ一匹ずつ倒してくれ!俺とミオとスバルの三人でもう一匹を抑える!倒し終わったら加勢を頼む!」

二人に即効で倒してもらった後、加勢してもらい最後の一匹を倒すしかない。

そう判断した利終に、四人は素早く従う。

フブキとおかゆはそれぞれ、左右の敵を蹴り飛ばし、洞窟の外へたたき出す。利終は足元に落ちていた石を真ん中のオーガに投擲し、注意を自身へ向ける。

オーガは咆哮を上げながら利終に向かって突進する。利終は突進してきたオーガを横に跳びながら回避する。

オーガは突進を避けられた後、その勢いを殺さず、体を回転させながら利終に向かってその手に持った斧を振り回す。

その行動を予測していた利終は、あらかじめ後ろに下がることでオーガの攻撃範囲から逃げることに成功する。本来の利終の身体能力では間に合わなかったかもしれないが、スバルの能力で身体能力を向上させていたことで、ぎりぎり間に合わせることに成功する。

オーガの攻撃が空振りに終わった後、利終はオーガから距離をとる。

オーガは距離を取った利終を見て、距離を詰めようと前に出るが、横から放たれたミオの炎の直撃を受けよろめく。

「今の直撃を受けて、よろめくだけかよ・・・。こりゃ長くなりそうだな。」

利終はそういいつつ、オーガのステータスを除く。

HPは1012もあり、今まで見てきた中でもトップに入るのは間違いない。・・・黄道のスコーピオンは文字通りの意味合いで桁が違ったが。

今の攻撃で減ったHPは54。つまり後、20回これを繰り返せば倒せる計算だ。最も、オーガもそれを黙ってくらうほど無能でもないが。

オーガはミオのほうを向くと、ミオに向かって突進をする。利終よりもミオのほうが危険だと判断したらしい。

ミオは自身に向かって突進してくるオーガに炎を撃って迎撃しようとするが、その焔をくらいながらも突進の勢いはたまらない。

一切ひるまず突進をするオーガにミオは驚くが、利終と同じように横に跳ぶことでそれを回避する。オーガはそんなミオの行動を予測していたらしく、横に跳んだミオめがけて、突進を行う前に拾っていた石を投げつける。

「ッ!!」

突進の勢いを殺さぬまま投げつけられた石はミオの腹部に直撃し、ミオを吹き飛ばす。そのままミオは壁に叩き付けられ、オーガは追撃をするために再び突進をしようとする。

「させるか!」

利終は持っていたサバイバルナイフを右手で握りしめ、オーガとの距離を詰める。

利終の行動に気づいたオーガは、持っていた斧を握りしめ、利終を迎え撃つ。

距離が縮まり、オーガの攻撃が利終を襲うが、利終は当たる直前で急ブレーキをすることで、斧の攻撃をかわす。

利終の鼻先をオーガの斧がかすめるが、斧を振りぬいたその姿勢は隙だらけであった。利終は隙だらけなオーガの目を狙ってナイフを振りぬく。容赦のない一撃は、目を閉じたオーガの皮膚によってはじかれた。

それを予想していた利終は、はじかれた衝撃に逆らわず、そのまま距離を離す。距離を離した直後、先ほどまでいた場所に斧が振るわれ、あと一歩遅かったらやられていたことを確信させる。

攻撃を予測し避ける利終と、攻撃が聞かないオーガとの戦闘が始まった。

 

 

 

オーガを蹴り飛ばしたフブキは、そのままオーガの後を追い、洞窟の外へと飛び出す。オーガは空中で一回転すると、そのまま足から着地し、追ってきたフブキに向かって斧を振り下ろす。

フブキは振るわれた斧に対し、焔を撃つことで対処するが、勢い余り、オーガに直接体当たりをかますことになる。フブキの体当たりを受けたオーガは、その場で踏ん張り、フブキの尻尾をつかむ。

「ちょちょ!そこはダメ~!」

フブキの悲鳴を聞かず、オーガは物のようにフブキを振り回すと地面に叩き付ける。振り回した勢いと、オーガの腕力でたたきつけられたフブキは凄まじい衝撃を受けるが、その痛みに耐えながら焔をオーガの顔に撃ち、尻尾を放させることに成功する。

尻尾が離されたことを確認したフブキは、体を回転させながら距離をとる。

「痛いじゃないですか!尻尾はそんな風に乱暴に扱っちゃいけないんですよ⁉」

少々涙目になりながらフブキはオーガに向かってそういう。もちろんオーガはフブキの言葉に耳を貸すことなく、フブキに向かって斧を振るう。

フブキはオーガの攻撃をかわしながら、隙を見ては顔に焔を放つ。オーガも最初はフブキの焔を避けれず食らっていたが途中からフブキの攻撃を避けつつ、斧を振るう様になる。

フブキは段々複雑になっていく攻撃に防戦一方になりつつも焔を放つが、至近距離でも躱されることから、埒が明かないと判断し距離をとる。

一方、オーガは距離を取られたら何もできなくなるため、距離をとるフブキを追い、距離を離さないようにする。

段々距離をとることすら難しくなってきたフブキを、オーガの斧が遂にとらえる。

斧の切れ味が良くなかったため、切られるということはなかったが、フブキを襲った衝撃はすさまじく、フブキは数10m吹き飛ばされる。

フブキは痛みに耐えながら立ち上がり、オーガを見つめる。

フブキにとって今までの敵は全て、一瞬で蹴りがつくものだった。すなわち互角の敵と戦うという経験が圧倒的に欠けていたのだ。

それに比べ、あのオーガは戦闘を重ねてきた実力者だ。その経験の差が、二人の戦闘に差を出し始めた。攻撃を緩めないオーガと、反撃することもできないフブキ。両者の戦いは必然的に一つのほうへと収束される。

段々動きの切れがなくなり、オーガの攻撃がフブキの体をかすめることが多くなる。そのたびにフブキは体に走る痛みを耐え、直撃を免れようとする。

フブキとオーガの戦いはオーガが圧倒的優勢で続いていく。

 

 

 

おかゆはオーガを蹴り飛ばした後、オーガに向けて鎌鼬を放つ。オーガはその攻撃を察知し、体を回転させることで避ける。

おかゆは油断せずオーガに追撃の鎌鼬を放つが、オーガは躱さず、体を丸めながら突進する。おかゆの鎌鼬は、オーガの皮膚の表面を切り刻むが、その傷は全て浅い。

オーガは突進の勢いを殺さずおかゆに突進する。おかゆはその攻撃を避けられず、両腕をクロスさせ、防御態勢のまま後ろに吹っ飛ばされる。

勢いを殺せず、おかゆは洞窟の壁に激突する。

痛む背中を抑えながらおかゆが立ち上がると、そこにはオーガが斧を振り上げながら待ち構えていた。

とっさに横に跳びオーガの攻撃を避けるおかゆ。オーガの一撃は地面を陥没させ、あたり一帯にひびを入れる。避けていなければ確実にやられていた一撃に戦慄すると同時に、おかゆはオーガと距離を離す。

「いったいな~もう。女の子は優しくしなきゃダメって教わらなかった~?」

もちろんオーガはおかゆの言葉に耳を貸すことなく攻撃を続ける。おかゆは距離を離しながら鎌鼬を放ち、徐々にオーガの体力を削っていく。

おかゆとオーガの戦いは一歩も譲らない互角の勝負であった。

 

 

 

フブキは勝つため思案する。

オーガの攻撃は一撃こそ重いもの、スピードはそこまで早くない。しかし、距離を即座に離せるほどの余裕はない。

フブキはこのままでは直撃をくらって敗北するだろう。

そう考え、どうにか場を乱す一手を求める。

一瞬、一瞬でいい、この攻撃を止められさえすれば、と考えたフブキはある一手を思いつく。

フブキは地面に向けて焔を放ち、その勢いを利用して空中へ逃げる。

オーガはフブキの焔をくらわぬよう距離を取る。

 

それこそがフブキの狙いだとも気づかず。

フブキは空中で焔を放ち、オーガめがけて急降下する。高所恐怖症の彼女がこれを行うことにどれだけの葛藤があったのか、知るすべはないが、フブキはその恐怖を押し殺し、オーガにドロップキックをかます。

空中から飛んできたフブキに反応できず、オーガはフブキのドロップキックをまともに食らい、地面にめり込む。

フブキはそんなオーガを見て、まだ死んでいないと判断し、オーガの腹部に突き刺さった自身の左足に熱を込める。

今まで手のひらからしか出してこなかった焔を、左足から出し、オーガを焼き尽くそうとする。しかし、オーガの生存能力はフブキが思っている以上に高かった。

オーガは焔を耐えながら、フブキの左足をつかむと、そのまま遠くに放り投げる。

強い力で放り投げられたフブキは体勢を変えられず、そのまま地面を転がる。

転がり切って、勢いがなくなった後、フブキは全身の痛みに耐えながら起き上がる。それと同時にオーガも全身の火傷に耐えながら起き上がるのが見えた。

オーガは立ち上がると、斧を放り投げ、全身の力を右手に集中させる。すると、右手が肥大化し、その腕から放たれる一撃は死を予感させる。

フブキは腕を肥大化させてこちらに向かってくるオーガを見て、一つの発想に思い至った。右手を前に出すと、その右手に焔の熱をためる。

オーガがフブキの目の前にまで来て、その肥大化した腕を振り上げる。

フブキは熱をため込んだ右手をオーガの腹部めがけて振りぬく。

「『蒼炎熱線』‼」

フブキが放った攻撃はオーガの腹部に命中し、大きな穴をあける。

腹部に大きな穴をあけたオーガは、そのまま後ろに倒れこみ、全身を光の粒子に変えていく。

勝利した確信を得たフブキは安堵のあまり、膝から崩れ落ちそうになるが、気合でそれを耐える。

「まだミオ達が戦ってるもんね・・・!」

痛む全身と飛びそうになる意識に耐えながら、利終達のもとへと向かう。

こうして、フブキとオーガの戦いはフブキの勝利で終わった。

 

 

 

両者一歩も引かない戦いは、長期戦に入ると思われていた。

それが訪れたのは突然のことであり、おかゆは動揺を隠せなかった。

「嘘⁉なんで鎌鼬が出ないの⁉」

鎌鼬に限った話ではないが、フブキの焔やミオの炎も無尽蔵に放てる訳ではない。

MP・・・magic pointと呼ばれるステータスが存在し、MPを消費してフブキたちの能力は使われていた。利終がMPではなくHPを消費していたのは、人間にはMPがないからである。

そのことを失念していたおかゆは、距離を取り続けるために鎌鼬を連発していた。つまり、MPが切れるのも時間の問題であったと言えよう。

おかゆがMP切れを起こしたことを確信したオーガは、おかゆとの距離を一気に詰め、今までの鬱憤を晴らすかの如く、強力な一撃を繰り出す。

その一撃をおかゆはよけようとしたが、突然頭がふらつき、よけきれず直撃を受ける。

吹っ飛ばされ転がるおかゆにオーガは追撃を仕掛ける。

おかゆは痛む全身に耐えながら立ち上がり、オーガの追撃をかわす。

それと同時に出発前、利終が言っていたことを思い出していた。

 

『MPの回復方法?』

フブキの疑問に利終は静かに答える。

『ああ、HPとは違い、MPは自然回復なんだとさ。回復量は30秒で一ポイントらしい』

利終がなんでHPは自然回復しないんだよ、と愚痴をこぼす。それと同時に、おかゆは思った疑問を利終に提案する。

『ならさ~。MP切れになっても、最悪時間さえ稼ぐことができれば、僕たちは能力を使えるってこと~?』

おかゆお言葉に利終はため息交じりに答える。

『いやまあそうだが。なるべくそんな状況に陥らないほうがいいだけどな。けど、そうなった場合はそうするしかないかもな。けど』

利終はそこで言葉を区切ると、一息つきながら答える。

『MPが尽きるほど鎌鼬を撃ち続けても死なないってやつが、もう一発撃てるようになったところで倒せると思うか?俺は無理だと思うね』

『ん~確かに~。なら利終君だったらどうするの~?』

利終の言葉に賛成しつつ、おかゆは利終ならどうするかを尋ねる。

それを聞かれた利終は少し悩むと、こう告げる。

『そうだな~。おとなしく味方に助けを求めるか、それも無理なときは方法を変えるかな』

『方法を変える?どうやって~?』

おかゆの質問に利終は身振り手振り(片手しかない)で答える。

『例えば普通に放ったところで効果がないのなら、内側から直接攻撃しちまえばいい。猫又さんの能力ならミオやフブキと違って相手からは見えないだろ?なら鎌鼬を一か所に集めた目に見えないボールを作って、相手の体内に取り込ませ、内側から切り刻むとかな。』

利終の発言に一同はドン引きしながら答える。

『いや利終君、その発想はないわ。というかえぐ過ぎない?』

スバルの発言に利終はきょとんとしながら答える。

『え?だって目に見えない一撃必殺技とかよくない?まあ、間違いなくR18認定されそうな技ではあるが』

利終はどうやらこれが何故ダメなのか理解できないらしい。おかゆですら苦笑いになるレベルの鬼畜所業であるのだが、利終は常識をどこかに捨ててきているらしい。

その後、利終は何故ダメなのかを四人に教えられしょんぼりとした表情になった。

そんな表情を見ておかゆは笑いをこらえず噴き出す。

出発前の一時の出来事。暖かで幸せな平和な日常。

こんな時が続けばいいなと誰もが思っていた。

 

おかゆは利終の発想を思い出し、それにかけることにした。オーガの攻撃を避け、MPが回復することを祈る。

おかゆが使う鎌鼬の消費MPは7。回復にかかる時間は210秒。その間、おかゆはひたすら逃げ続けなければならない。いつもなら一瞬で過ぎるその時間が途方もなく長い時間に思えるが、おかゆは一秒一秒心の中で数えながら、オーガの攻撃をかわす。

振り下ろし、薙ぎ払い、大木のようなその腕に当たればひとたまりもないことを確信しつつ、距離を離さず、かわし続ける。

距離を離しすぎれば、一撃必殺の技を決めることができないからだ。

おかゆは一つ一つの動作に目を配り、集中力を研ぎ澄ませる。

しかし、オーガが放つ右手の攻撃にばかり木を取られたおかゆは、左手で放たれた攻撃を予測できず、まともに食らい、後ろに吹き飛ばされる。

意識が朦朧とし、いつ途切れてもおかしくないような視界の中、自身に向かって振り上げられたこぶしを見ながら、おかゆは笑った。

その表情を見たオーガは不思議に思い、こぶしを振り下ろせずにいる。

 

その一時が、致命的なものになるとも気づかずに。

「『膨張風山』」

おかゆがぽつりとそうつぶやくと、オーガがおかゆを吹き飛ばしたその刹那に、口の中に放り込まれ体内に侵入した球状の鎌鼬がその力を発揮し、オーガを内側から破壊する。

皮膚がおかゆの鎌鼬に耐えれるほどの硬度であったため、内臓が飛び散るというグロ映像にはならなかったが、内部を想像するだけで悲惨であることは変わらないだろう。

口から大量の血を吐き出したオーガは、そのままおかゆにかぶさるように前に倒れる。

おかゆは下敷きにならないようとっさに回避したが間に合わず、足をやられてしまう。

「ッいった~!もう!倒れるなら僕の方じゃなくて後ろに倒れてよね!」

そういうおかゆの言葉はオーガの耳に入ることはなく、オーガは光の粒子へと消えていく。

痛む足を抑えながら、おかゆは洞窟に戻ろうとする。

「おかゆん⁉」

そんな状態になったおかゆをフブキが発見する。

フブキはおかゆに肩を貸し、おかゆもフブキの状態に気付く。

「ちょっと~。フブちゃんも僕の心配できるほどじゃないじゃ~ん」

フブキは血まみれの状態であり、頭から出血してもいるようだった。

「おかゆんほどじゃないよ~。それに利終君と比べちゃうとね?」

重症と呼ばれていい状態の二人だが、さらなる重症者として利終がいたため、お互いに納得してしまう。

そして、そんな重傷者が戦っているであろうその場所へと足を運ぶ。

おかゆとオーガの戦いはギリギリではあるが、おかゆの勝利で幕を閉じた。

 

 

 

「がんばれー!利終君―!」

精一杯のバフを送りつつスバルは利終を応援する。利終の攻撃はことごとくはじかれ、ダメージを与えることができず、オーガの攻撃も利終にあたることはなかった。

これは利終の行動予測能力が高いからこそできる所業であり、普通であればとっくに死んでいてもおかしくはないだろう。

オーガの振り下ろしをバックステップで交わした利終は、視界に入る情報を見てオーガと距離を大きく離した。

オーガは距離を離した利終を見て、その場からすぐさま横に跳ぶ。

するとオーガがさっきまでいたところをミオの炎が通り過ぎた。

先ほどの二の舞にはならないと言わんばかりのオーガの表情を見ながら利終は考える。

ミオはオーガに飛び掛かり、近接戦闘を挑む。

オーガが攻撃を振るう直前。

「横によけろ!」

利終の言葉を信じ、ミオは横に避けてオーガの攻撃を回避する。

その後、ミオはオーガの目に向けて腰のナイフを振るう。ミオが放った攻撃はオーガの目を切り裂き、オーガの視界を片方潰すことに成功する。

「下がれ!」

利終の言葉が飛び、その通りに動くミオ。直後先ほどまでミオがいた場所をオーガの斧が通過する。視界を奪われたオーガは痛みに悶えながら、めちゃくちゃに暴れまわる。

オーガの巨体から放たれる暴れは、周囲一帯をめちゃくちゃに破壊する。岩は割れ、地面は陥没し、声は利終達の耳を攻撃する。

利終達は耳をふさぎながらオーガの癇癪が収まるのを待つが、その油断が命取りとなった。

オーガは癇癪を続けながら利終を見ていた。今この場で最も危険な相手をミオではなく利終と定めたのだ。癇癪を起しているふりをしていたオーガは利終の隙を見計らって、斧を放り投げる。

そのことに気づかなかった利終はとっさにナイフを構え防ぐも、勢いのまま後ろに吹っ飛ばされる。その後方には大きめの岩があった。

岩に叩き付けられれば死。よけられたとしても着地を失敗すれば死。利終が岩に叩き付けられる直前、ミオが放った炎が岩を砕く。叩きつけられことがなくなったことを理解した利終は着地を失敗しないよう集中する。

 

しかし、利終が着地するはずの地面はなかった。

利終は池に落ち、そのまま沈んでいく。

「「利終君!」」

ミオとスバルの二人は急いで利終の救出に向かうがオーガがそれを許さない。ミオはとっさに後ろに跳びオーガの攻撃を回避するが、それと同時に利終を助けに行くことができなくなってしまう。

「ッ!スバル!利終君をお願い!」

「分かった!」

スバルは急いで利終を助けるために池に飛び込もうとする。

それを遮るようにオーガは石を投擲する。

「うわ!」

突然目の前が破裂し、スバルはその衝撃でよろめく。オーガが投げた石はスバルの目の前に着弾し、それにスバルは怯んだのだ。

ミオは自身ではなく助けに行こうとしたスバルを妨害したのを見て、オーガが利終を助けさせないようにしているのだと理解した。

「ッ!邪魔しないで!」

ミオはオーガに攻撃を仕掛けるが、オーガはそのミオをこぶしで迎え撃ち、逆にミオを殴り飛ばす。

「ミオちゃん!」

地面を転がるミオにスバルは駆け寄りそうになるが、その無防備な状態のスバルをオーガのこぶしが襲う。

オーガに殴られたスバルはそのまま壁に叩き付けられ、意識を失ってしまう。

「スバル!」

壁に叩き付けられたスバルを見て、ミオはとっさに声を上げる。そのミオに対し、オーガは拾い直した斧を振り下ろした。ミオは横に跳び、とっさに回避する。

状況は絶望的だ、とミオは考える。スバルは意識をなくし、利終は生死不明。いや、HPが1しかなかったことを考えると、利終はもう死んでしまっても———。

「いや!そんなはずない!」

ミオは自身の考えを全力で否定する。利終は生きている、そう思わなければならないほどミオの心は追い詰められていた。

ここにきて精神的不安定さが出てきてしまったミオ。そんな状態のミオでは、もはやオーガに勝ち目はなく、オーガがミオにとどめを刺そうとした———その瞬間。

 

池の中から爆発が起こり、ミオとオーガの一人と一匹は同時にそちらを向く。

「いや~、予想外も予想外。まさかこんな奇跡が起こるとはな~」

声を上ずらせながら、池の中から飛び出してきた男は言う。全身ずぶぬれになりながら男は自身の右手に矢を持ち、左手を使って弓を構える。

放たれた矢をオーガは横に避けることで回避する。

男はミオを安心させるように笑い、ミオもその笑みに安堵する。

「さて、悲劇の幕はここで終いだ。ここからは———喜劇の幕を開くとしよう!」

そう言ってその男———葛音利終は高らかに勝利を宣言した。

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