これは語られるはずのない物語   作:篠崎勇気

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お久しぶりです。
そして前書きでは初めまして、勇気です。
最近忙しかったせいで投稿がおくれました。
投稿頻度は遅いですが、この作品が完成するまでは続けます。
それと今回より前書きに出没しますが、無視していただいて大丈夫です。

いや、ただの言い訳の為に書いたわけじゃないから
いや本当に



悲劇の幕引き、そして喜劇の幕開け

———沈む。

 

池に落ちた利終はただただ沈むことしかできない。

片手がない利終は泳ぐことができず、ただ沈んでいく。最も、両手があったところで泳げないのだが。

ぼんやりと利終は自身の死を確信し、走馬灯のように脳内を様々な景色が蘇る。

利終は現実ではあまり友人がいなかった。当然と言えば当然だ。利終は普通からかけ離れた感性を持ち、それに気づくことなく生きてきた。

人は異物を排除する生き物だ。故に、その異物にならないよう必死にとりつくろわなければならない。

その事実に利終は高校に入るまで・・・いや、高校に入ってからしばらくするまで気づくことなく生きてきた。

その結果、利終は孤立した。孤立して、周囲に誰もいなくなってから初めて自分が異物であることを知った。

普通の人であれば、その時点で普通になろうとするものだろう。しかし、利終は違った。

いつか自分を受け入れてくれる人が現れる。だからその日まで一人でも頑張ろう。そう思って、異物のまま居続けた。

そしてアイツが来た。明るくて、前向きで、人を導く才能に満ち溢れたアイツが。ただ一人の友人。初めて自分を受け入れてくれた友達。いや、友人というより、アイツは悪友のほうが近いだろう。

不思議と顔も思い出せない悪友を思い浮かべながら利終は笑う。

ここに来る前の思い出を。ここに来てからの思い出を。一つ、また一つと思い出しては泡のように消えていく思い出を。

そうして利終は意識を失う————ことはなかった。

そこで利終はようやく異変に気付く。

溺れている。そのことは確かなのに一切の苦しみを感じないことに。

呼吸ができているわけではない。確かに呼吸はできない、してもいないのに苦しみだけがない。頭の中を何故という言葉が埋め尽くし———

 

利終はそれを見た。

 

同時に理解する。この場所がどういう場所なのか、そして今の自分がどういう状況なのか。

利終は右手を使って、なくした左手に巻かれているミオの服で作った包帯を外す。

包帯が取れると同時に、傷口に池の水が触れ、すさまじい激痛が起こるが利終はそれを無視して、左手を意識しながら、イメージをする。

 

———鉄の塊を超高温の炎で溶かし、ビンの中に詰める。

 

利終がイメージすると同時に、周囲から光る粒子が発生し、利終のなくなったはずの左手を形成していく。

利終のイメージが完成すると、利終の光る左腕にイメージ通りのビンが現れる。

そのビンを利終は左手でしっかり握りしめ、ビンを割る。

超高温に熱された鉄が周囲の水に触れたその瞬間、爆発が起きる。

もちろん超至近距離でその爆発を受けた利終はすさまじい痛みと衝撃に襲われるが、その衝撃で受けた傷は一瞬でふさがっていく。

しかし、傷はふさがっても衝撃は残ったままであり、利終はその衝撃を利用して、一気に水面に向かって急浮上する。

一瞬で水面まで浮上した利終は、そのまま爆風を利用して池を飛び出し、地面に着地する。

「いや~、予想外も予想外。まさかこんな奇跡が起こるとはな~」

上ずる声を抑えることができず興奮状態のまま利終は、能力を使って生成した弓に矢をつがえる。

狙いはもちろん、今ミオにとどめを刺そうとしていたオーガだ。

利終が放った矢は残念ながら躱されてしまったが、ミオを安心させるため、震える心を無視して笑う。

 

「さて、悲劇の幕はここで終いだ。ここからは———喜劇の幕を開くとしよう!」

 

こうして完全復活した利終は勝利宣言をするのだった。

 

 

 

 

 

「利終君!」

 

いきなり池から飛び出してきたと思ったら、完全状態になって戻ってきた利終に、ミオは喜びの声を上げる。

何故、どうやって、そんな疑問をすべて頭から追い出し、ミオは告げるべき言葉を伝える。

 

「よかった!無事で!」

 

そのミオの声に利終は精一杯の笑みを返し、オーガに向きなおる。

オーガは完全に復活した利終が最優先に倒すべき相手だと認識しているようで、ミオの方には目もくれず、利終だけを見続けている。

利終もオーガに意識を集中させ、その瞬間、オーガは突進を繰り出す。

そのことを予測していた利終は、その攻撃を余裕で回避———できずに思いっきり食らう。オーガの巨体から放たれた突進をまともに食らった利終は、壁に叩き付けられる。

 

「ッ!」

 

利終は背中に襲い掛かる痛みに悶える。

当然と言えば当然の結果だ。確かに、利終は完全復活したが、別に強くなったわけではない。そんな月見て変身する種族みたいな設定などないのだから、こうなるのは必然だ。

そして、痛みで動けない利終に向かって、オーガは再び突進を繰り出す。

向かってくるオーガを視界に収めた利終は、能力を使って床に何かをばらまく。

オーガはその何かに足を取られ、派手に転ぶ。

 

・・・おい待て。お前未成年だろ。なんで作り方知ってんねん。

利終が床に撒いたものは、まあ・・・その・・・簡単に言うのならロー(自主規制)である。

利終が撒いた(自主規制)ションに足を取られ、オーガは身動きが取れない。どんだけ粘性高い奴作ってんだよ。

利終は動けないオーガめがけて矢を放つ。

動けないオーガは身体を丸めて、矢をはじく。どうやら利終の放った矢すら、はじく皮膚を持つらしい。

その様子を見た利終は再び矢をつがえるとオーガめがけて放つ。オーガは再び身体を丸め、利終の矢をはじく。

三度目・・・。利終が放った矢ははじかれる。

そうして繰り返して七回目。利終の放った矢がオーガの肩に突き刺さる。

 

「ッ!ウゴラァ⁉」

 

今まではじいてた矢が自身に刺さりオーガは困惑する。

利終は無意味に矢を放っていたのではなく、オーガの動きを予測し、正確に一点だけに当て続けていたのだ。何度も同じところに当て続けることで、オーガの皮膚の耐久性を奪い、7回目でようやく貫くことに成功したのだ。

利終は混乱しているオーガに構わず、再び矢を放つ。

利終が矢を放った瞬間、オーガは地面を思いっきり殴り、地面を陥没させることで矢を避ける。

地面が大きく揺れ、天井から砂が落ちてくる。あの攻撃を何度もされたら、利終達は崩壊する洞窟に巻き込まれ、命を落とすだろう

その前に決着をつけたいとこだが、利終に洞窟に被害を出さず、あのオーガを一瞬で仕留める手札はない。

 

「いや・・・これなら問題はないか」

 

利終は一つの案を思いつき、それを実践しようとする。しかし、オーガがそんな利終を黙って見ているわけがなかった。

オーガは足元に転がる小さな小石を拾うと、利終に向かって投げつける。

オーガの強力な腕力によって放たれた小石は弾速に等しい速度で利終に迫り、利終に命中する。

利終自身何が起こったのかを理解できておらず、体中に走る痛みによって投石を食らったことをようやく理解する。

反射的に体をそらしたおかげで、人体の急所である首や頭には当たらなかったが、代わりに右腕がズタズタになってしまう。ものすごい激痛が走るが、利終はそれを無視し、オーガに叫ぶ。

 

「俺は、たった今、左腕治って復活したばっかりなんだが⁉左腕が治ったら今度は右手か⁉この世界では、片手で生きろと申すか⁉」

 

全力のツッコミを無視し、近くにあるソフトボールくらいの石を手に取るオーガ。

大きさからして、当たれば即死だろう。それを理解している利終は、能力を使い、鉄の壁を作り上げる。

壁を作り終えると同時に、オーガが投石を行う。

凄まじいスピードで放たれた石は利終が作った壁を真ん中からへし折り、耐久値を一瞬で奪う。耐久値がなくなった壁は光の粒子になって消え、それを見た利終は驚愕しながら叫ぶ。

 

「うっそだろおい!体力の2割近く使った壁が一撃なんだが⁉」

 

利終の能力は、利終が消費したHPの量によって、質量が決まる。

今回、利終は鉄の壁を作るためにHPを20消費して、200㎏の鉄の壁を作った。

縦2m、横幅1m、厚さ12㎝の壁だが、一撃で壁は凹み、もう一発放たれれば確実に貫通していたであろう。

 

「確か戦車の装甲の厚さって7ミリとかだったよな・・・。いやまあ、装甲と鉄じゃあ耐久性も全然違うから比べるのもあれだけど、厚さが倍近くあってこれってことは、あの攻撃って対戦車ライフル並みの威力があるってことじゃねえの?」

 

対戦車ライフルとは、その名の通り戦車を破壊するためのライフルだ。そのあまりもの破壊力とその反動から、三脚などの補助道具なしでは、まともに撃つことさえできない武器だ。

ソフトボールくらいの大きさの石を投げただけでその威力。当たれば即死どころかバラバラになってもおかしくはない。

オーガは足元に転がってる石を持ち上げると、投球の準備に入る。

オーガの様子を見ていた利終が再び、壁を生成———する前に、ミオの炎がオーガに命中する。

ミオの炎によってオーガの足元にあった石は砕け散り、投石物がなくなる。

 

「サンキューミオ!助かった!」

 

利終はそういいながら池に向かって走りながら、オーガに向かって何かを投げる。

オーガは利終の投擲物を警戒し、体を丸め防御態勢に入る。利終の投げた何かは、オーガに当たると真ん中から二つに割れるが、中には何も入っていなかった。

 

「安心しな。ただの中身無(おとり)だ」

 

利終が投げたのは、オーガに何かあると思わせ、時間をかけるためのおとりだ。

その正体はガチャガチャのカプセルだ。作り方は簡単で、半分のカプセル同士をくっつけるだけである。

オーガは何もないことを理解すると、割れた二つのカプセルを持ち、利終に投擲しようとするが、投げる直前、カプセルの耐久値がなくなり光の粒子となって消えていく。

それらすべてを計算していた利終は池にたどり着くと、腰に掛けていた竹の水筒で池の水をすくい、その水を飲み込む。

すると、光の粒子が利終の周囲に集まり、今まで負っていた傷がすべて癒え、右腕も完全に回復する。

一瞬で全回復した利終にミオは驚くが、オーガはさして驚きもせず、攻撃態勢に移る。

オーガは咆哮を上げると、凄まじい勢いで突進を行う。

利終は回避不可能と判断し、再びカプセルを作って投擲する。

オーガはそのカプセルを見て、無視するべきと判断し、カプセルを粉々に砕く。

しかし、その判断は今度も過ちであった。

 

 

「グオォォオオ⁉」

 

カプセルが粉々に砕けると、中に入っていた何かがオーガの顔に張り付き、オーガは悶絶する。

利終が中に入れたのは牛乳を染み込ませ、数日放置した雑巾だ。結構えぐいことするなこいつ。

あまりもの匂いにオーガは悶絶し、ついでに鼻の良いミオも悶絶する。

味方すらも巻き込んだ臭いの悲劇を利用して、利終はもう一度カプセルを投擲する。

オーガは迫ってくるカプセルを見て、判断に迷う。先ほどのカプセルの中身は強烈なにおいを発生させる物であったが、その前は空であった。つまり、利終の考えはこれの中身があると思わせること。

そう判断したオーガは右手でカプセルをつかむとそのまま、粉々に砕く。次の瞬間、オーガは手に違和感を感じる。

 

「あ~あ。せっかく掴んだんだから、そのまま投げ返せばよかったのに」

 

オーガを弄ぶ利終が、カプセルの中に入れていたのは、超強力な瞬間接着剤だ。

オーガは右手を開くことができなくなり、右手による投擲ができなくなる。

利終は先ほどからオーガが右手を使って石を投石していたことから、オーガが右利きではないかと推測していた。

その右手による投石ができなくなった今、オーガは遠距離攻撃手段を失ったと見て良い。

利終がカプセルによる攻撃を続けていたのは、オーガによる遠距離攻撃手段を奪うことだった。

 

しかし、その判断は誤っていた。いや、正確には間違いはない。オーガは右利きであるし、左では投石攻撃をしても命中率は非常に低くなる。

間違っていたのは、接着剤ごときで右手による投石が防げるという判断をしていたことだ。

オーガが目を見開くと、右手は膨れ上がり、接着剤によってくっ付いていた右の手のひらを力づくでこじ開ける。

実は接着剤で手のひらがくっついても、成人男性の平均程度の握力があれば手を開くことは可能なのだ。最も、掌の皮膚が傷つくためほかの薬品などに頼ったほうが安全ではあるが。

それを知らなかった利終は少し驚くも、オーガの力だとこじ開けられても仕方ないと判断し、水筒を池に落とす。

池の水が水筒の中に入っていくのを確認した利終は、ある程度水が入ったところで水筒を回収しようとする。

しかし、激臭による硬直から立ち上がったオーガは、肥大化した右手を振りぬくことで、衝撃波を発生させ、水筒を拾おうとしてた利終を吹き飛ばす。

利終は再び池の中心に吹き飛ばされると、沈んでいく。

オーガは利終が沈んだことを確認し、肥大化を解く。

直後、池が再び爆発し、利終が姿を現す。

 

「おいコラ!俺は泳げないんだよ!なのに何度も池に落とすな!」

 

実は爆圧の衝撃で浮上する作戦は、泳げないからだったりする。

利終の心からの叫びはオーガが聞き入れることはない。敵対しているのだから当然だ。更に言うと利終のほうがよっぽど外道なことをしている分、どの面案件といえるだろう。

オーガと利終のにらみ合いが始まり、衝突するその瞬間———

 

 

焔がオーガを包み込み、オーガは苦悶の声を上げる。

 

「フブキ!おかゆ!」

 

焔の出所を見たミオが喜びの声とともに、その名を呼ぶ。

入り口にはおかゆに肩を貸した状態で、オーガに焔を放ったフブキがいた。

その姿を見たオーガは仲間の敗北を知り、怨嗟の声とともに、二人にツッコんでいく。

 

「おいおい。お前の相手は俺だろ!」

 

利終は自身の能力を使って弓を生成し、火矢をつがえる。

矢の先端に着火剤を塗り、火をつけることで火矢を生成したのだ。

利終の放った火矢は、オーガの目の前に着弾し、オーガの意識を利終に向け直すことに成功する。

オーガは咆哮を上げながら利終に突進する。その様子を見ていた利終はぽつりとつぶやきながら、とっておきの準備をする。

 

「全く・・・。攻撃方法が単純すぎるんだよ。お前は」

 

利終にオーガが衝突する寸前、オーガの足元が爆発する。

利終は突進してくるオーガの軌道上に、ビンを転がしていた。

オーガはそのビンをふみ、ビンを粉々に砕き、中に入っていたエタノールが、周囲の火の粉に触れ爆発したのだ。利終が先ほど火矢を使ったのは、火の粉を周囲にまき散らすためでもあった。

爆発によって体勢を崩したオーガは、そのまま転倒し、大きな隙をさらす。

その隙の間に、利終はオーガに手をかざし、鉄の塊を生成し、身動きを封じる。最も、オーガの筋力をもってすれば、動けないほどではないのだが。

それを察していた利終は、オーガが動き出す前に行動を起こす。

先ほど、火矢を撃つ前に拾っておいた水筒を飲みながら、オーガの頭上に鉄を生成する。

しかもただの鉄ではない。先端が鋭くとがった恐ろしい形状の鉄だ。

鉄の重りを全身に着せられたオーガは、利終の用意を終わらせてはいけないと本能で悟り、利終に手を伸ばし、掴もうとする。

 

「させないよ!」

 

利終に手が届く直前、掌より少し大きめの石を持ったミオが、その石をオーガの手に叩き付ける。

オーガの手はひしゃげ、ミオによって潰される。

直後、準備が完了した利終がオーガに声をかける。

 

「あばよ。お前は強かったぜ」

 

そのまま、生成した鉄をオーガの頭めがけて落とす。

先端が鋭くとがっているとはいえ、そこまで大きくないにも関わらず、その鉄はオーガの頭を貫通し、その命を奪う。

絶命したオーガは、そのまま光の粒子となって消え、利終達の戦いは幕を閉じた。

 

 

 

 

 

「にしても・・・ほぼ全員満身創痍とは、オーガ3体相手にこれだと、先が思いやられるなあ」

 

気を失ったスバルを抱えながら利終はそう言う。

オーガが消滅した後、お互いの傷を確認合った4人は、池の水を飲んで治療を行っていた。唯一、気を失ったまま目を覚まさないスバルは、利終が抱え、水筒で水を飲ませていた。

水を飲んだ瞬間、全員の傷は一瞬にして塞がり、全員を完全な状態に戻す。

しかし、体の傷はいえても、疲労までは回復しなかったらしく、全員でその場に座り込む。

 

「いや~。それにしてもミオ達が発見したこの池の正体が、『清潔な水』ではなく『ラージリカバリークリスタル』の液体で出来た池だったなんて、驚きですな~」

 

フブキがそう言って、池の中心部を見る。洞窟奥は明かりがないため何も見えないが、その奥に不思議と何かがあると思える。

 

「俺もびっくりだよ。池に沈んでる途中、でっかい結晶体があってさ。けど、あの大きさだと、もち運びは不可能なんだろうな」

 

暗かったのが原因で利終は全体像を見ることがかなわなかったが、見えた範囲でも、その大きさは絶大だった。人が載っても問題ないほどの大きさの面が複数あり、それが見えないそこまで続いていると考えると、全体で数100mほどの大きさになるのではないだろうか。

世界で最大の生物のシロナガスクジラは全長約50mと聞いたことがあるため、その数倍の大きさを誇る結晶体を持ち運ぶのは不可能である。

持ち運べればどこでもHPを全快できる便利アイテムになったのにと利終が思っていると、ふとあることに気づいたミオが声を上げる。

 

「ねえ、だいぶ暗くない?もしかしてもう夜になったりする?」

 

ミオの言葉に焦る一同。暗くなれば必然、身動きができなくなる。故に、早く利終達がいた小屋に向かおうとしたのだが、気絶したスバルが目を覚まさない限り無理であろう。

ラージリカバリークリスタルの回復効果は絶大で一口飲むだけで、体中の傷をいやす。しかし、その分デメリットも存在する。

 

「動きたいけど、この状態のスバルを運びながらは無理だな・・・。早く回復するためには、この池の近くにいないといけないしな」

 

利終の言葉に、おかゆは自身の記憶を探りつつ、利終に問いかける。

 

「ええっと~確か、結晶体から離れすぎると数分で回復効果がなくなるんだっけ?」

 

おかゆの言葉に頷く利終。このことに気づいたのは、つい先ほどのことだ。

人間が持つ『ステータス看破』は物にも使える。池に向かって行ってみた結果、その詳細を知ることができたのだ。最早鑑定スキルだなと思っていたが、人間相手に使う時とは違う点も見つけることができた。

 

「物を見るときにも詳細を知れたらよかったんだけどね~。けどそこまで言うのは贅沢というもんですか」

「『ラージリカバリークリスタルから染み出した液体。本体からある一定以上離れた瞬間、本体からの魔力の供給ができなくなり、数分で効果を失う。効果を維持するには、保存の効果を持つ道具である『キープポーチ』などが必要である』、か・・・。この『キープポーチ』の詳細が知れたらよかったんだが・・・。まあ、フブキの言う通り、そこまで望むのは贅沢か」

 

フブキのつぶやきに、利終は賛同する。

人に使った時の『ステータス看破』は、表示されている物の詳細まで見ることができた。しかし、物体に使った時は、その詳細を見ることはできなかったのだ。

現時点でもかなり便利なスキルではあるが、欲を言うとその先まで欲しいものだ。

 

「うう~ん」

 

そんな話をしていると、寒かったのかスバルが少し身じろぎをする。

その様子を見た利終は毛布を生成するとスバルにかける。

 

「え!利終君、毛布のつくり方知ってるの⁉」

「簡易的なものだぞ?綿を編んで作成した奴だし。毛布というよりは服とかのつくり方に似てるんじゃないか?」

 

ミオの言葉に利終はそう返すが、ここに毛布の正確な作り方を知る者がいなかったため、答えを出せる者はいなかった。

利終は疑問を持ちつつも、全員分の毛布を作成し、ついでにキャンプセットも生成し、野宿の準備をする。

 

「いや待って!毛布はありがたいけどそのキャンプセットは何⁉なんでそんなもののつくり方知ってるの⁉」

 

キャンプセットの内容は、木炭、フライパン、ハンモック、椅子、ガスコンロ、机、照明の7つだ。

 

「えっ、キャンプセットは男のたしなみだろ・・・って、ここ俺しか男いなかったわ」

 

完全なる偏見が利終の口から飛び出す。男だからキャンプセット知ってるは理由になってないぞ?

準備をしていく利終に対し、少し引いてる女性陣。木炭とかハンモックとかは100歩譲ってまだいいとして、ガスコンロと照明はどう作ったお前。

机の上にガスコンロを設置し、その上にフライパンを置く。そのまま、ガスコンロのつまみを回すと、何かが抜ける音が響くが、火はつかなかった。

 

「ミオかフブキのどっちでもいいから火くんね?さすがに着火機能までは付けらんなかったからさ」

 

利終がそう言うと、ミオが炎を出し、ガスコンロに火をつける。

火が付いたことを確認した利終は、フライパンに油身を入れ、油を全体に回す。

油がフライパン全体にいきわたったことを確認した利終は大きな肉を入れると、表面を焼きだす。

っておいまてや。

 

「「「その肉どこから出てきた⁉」」」

「えっ。さっきのオーガの肉だけど」

 

三人のツッコミに対し真顔で返す利終。

利終は先ほどオーガを倒したとき、肉が取れるのかをひっそりと試していた。結論から言うと、ナイフで本体から切り離した肉は光の粒子になって消えることはなかった。

どうやら切り離した部位はアイテムとして場に残るようだ。

そうして肉を手に入れた利終は、味がどうなのかが気になったため、シンプルに塩だけで焼いてみたのだ。

全体的に火が通ったのを確認した利終は、鉄串を肉に刺し、中心まで火が通っているのかを確かめる。

火が通っていると判断した利終は、ナイフで五等分に切り分け、皿に盛って全員に渡す。

スバルの分は蓋をして机の上に置いておく。

それぞれ渡された皿を持って椅子に座る。全員が座ったことを確認した利終は、能力を使ってナイフとフォークを生成すると全員に渡す。

 

「・・・こう見ると利終君の能力ってものすごく便利だよね。扱いずらそうだけど」

「俺もそう思うわ。回復し放題の場所だと、こんなに乱用しても一切問題ないしな」

 

水筒を飲みながら利終は言う。実際何もないところから物を作り出せるのは非常に便利だろう。

 

「「「「いただきます」」」」

 

四人は椅子に座り、手を合わせながら口をそろえて言う。

しかし、誰も口に運ぶことはしない。当然と言えば当然だ。さっきまで戦ってたモンスターの肉だなんて食べたくはないだろう。俺も食いたいとは思わない。

お互いに誰が最初に食べるかの押し付け合いが、視線だけで繰り広げられる。

しばらく誰もがそうしていたが、腹をくくった利終が大きく口を開けて肉にかぶりつく。

三人が固唾をのんで見守る中、しばらく口を動かしていた利終が、肉を飲み込み、満面の笑みで言う。

 

「うん、うまいな。ちょいと固い気もするが、味としてはなかなかのもんだ」

 

その言葉を聞いたフブキとおかゆは安心し、大きく口を開けてかぶりついた。

 

「「うん、まずい!」」

 

二人は口をそろえてそう言うと、嘘をついたな、という目で利終を見る。

利終は一人だけ口をつけなかったミオを見て不思議そうにしている。

 

「え、ミオさんや。なんで嘘だとわかったん?」

「だって、利終君って時々意地悪するじゃん。それにあんな満面な笑みを浮かべてたら、何か企んでるなってことくらいはわかるよ」

 

どうやら利終の想像以上に、ミオは利終のことを理解していたらしい。

利終が一本取られたな、という顔をしていると、フブキが恨めしそうな表情をしながら、ミオに言う。

 

「分かってたなら白上達にも教えてくれてよかったんじゃな~い?一人だけ安全圏にいるなんてずるいよ~ミオ~」

 

フブキの言葉に笑顔を返すだけのミオ。さすが畜神と呼ばれるだけはある。

二人がじゃれあってるのを横目に、おかゆは利終の耳元に近づき、利終にだけ聞こえる声量でささやく。

 

「よかったね~。まさしく以心伝心ってやつだ~」

「うっせ」

 

利終はおかゆの言いたいことを理解し、少し赤くなった顔を隠すように、水筒の水を飲む。

おかゆはそんな様子の利終を見て、にやにやし、フブキとミオはじゃれあいをしている。

その時だった。

 

「う~ん、なんかいい匂い~」

 

スバルが目を覚まし、寝ぼけながらそういう。

スバルが起きたことを知った四人はすぐさまスバルのもとに駆け寄り、傷の具合を確認する。

 

「スバル、大丈夫?だいぶ強く頭を打ってたみたいだけど」

 

ミオが心配そうに聞くが、スバルは立ち上がり、軽く体をはねさせながら言う。

 

「大丈夫だよ~。ほら!こんな風に跳ねても問題ないみたいだし」

 

スバルの言葉に四人は安堵する。その様子をみたスバルはそれに、と言葉を続ける。

 

「利終君と比べるとね~。皆も無事でよかったよ~。利終君も池に落ちたのによく無事だったね~って、腕が生えてる⁉」

 

スバルが利終を見た瞬間、目玉が飛び出るんじゃないかというくらい、びっくりした表情を浮かべる。

それを見た利終は、スバルに起きるまでの経緯を説明する。

スバルはしばらく放心状態だったが、利終が最後まで説明し終わると、頭の整理を終え、安心したように言う。

 

「そうなんだ~。いや~、そんな奇跡みたいなことが起きるんだね~。って、それはそれとして、この匂いは何?」

 

スバルはさっきから気になっていた匂いの発生源を見る。そこには利終がさっき焼いたばかりの肉を載せた皿が四つあった。

 

「ああ!!スバルが気絶してる間にお肉食べようとしてたな~!ずるいぞ!」

 

スバルは全員を攻めるような目で見る。フブキとおかゆの二人はばつが悪そうな目でそっぽを向き、利終とミオは満面の笑みを浮かべながらスバルに言う。

 

「安心しなスバル。スバルの分もちゃんと作ってある。ほら、寝起きにはきついだろうが、たくさん食べな」

「ごめんね~スバル~。けど、すっごい美味しいからさ、食べてみてよ~」

 

二人の表情を見たフブキとおかゆはスバルの未来を予想し、静かに手を合わせる。

そして、その予想は現実となった。

 

「ほんと~!ありがとう~!それじゃあ、いっただっきま~す!」

 

 

三秒後、スバルの悲鳴が響いた。

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