これは語られるはずのない物語   作:篠崎勇気

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狂気の青年

「これもう意味わかんねえな」

 

姫華楓達と合流して三日が経ち、目の前の光景に唖然とする利終。

こよりの『こよペディア』(マジで能力名だった)で作成した設計図と、姫華楓達、人外たちの力、利終の能力や和希の能力をフルに活用した結果、三日でそこそこの拠点が完成した。

平屋であるが、居間や客室、大部屋に炊事場、二十人分の個室まで完備された、もはや屋敷と言っていいレベルのものが完成した。

現実でも一年近くかけて作られるものだが、三日で完成したのにはいくつか理由がある。

一つ目は身体能力の差だ。人間と獣人にはとてつもない差があり、重いものを運ぶという点に関しては、はるかに効率よく回すことが出来る。

そして、身体能力と言えばこいつだ。

 

「ん?突然どうした?」

 

そう言いながら、手に持ってた丸太を、正確に放る姫華楓。こいつの身体能力は、はっきり言って異常だ。

獣人のミオ達は約240~270程度のSTRを持つのに対し、こいつは驚異の356。その他にもAGI以外の全ステータスが飛びぬけて高い。

HPも1300もあり、あのオーガよりも多い体力を兼ね備えている。

これは後程知ったことだが、基本的に幻想種と呼ばれる種族は、総じて一つのステータスが飛びぬけていることが多い。姫華楓の場合、半分が天使、半分が悪魔ということもあり、悪魔の高いSTRとMP、天使の高いHPとVITを合わせ持っている。

ちなみに利終のSTRは11・・・。泣けてくるね。

しかし、姫華楓の異常さはそこではない。姫華楓の異常さ、それは———。

 

「おーい!姫華楓くーん!これを上に運んでよー!」

「了解」

 

姫華楓は一言呟くと、20mほどの距離を一瞬で駆け抜け、加工した丸太を持ち上げ、空を飛ぶ。凄まじいスピードで空を行ったり来たりして、物を運搬する姫華楓。

姫華楓の最大の異常さは、高すぎる身体能力を、自由に扱えるという点だ。ミオやフブキといった獣人種は、その高すぎるステータス故、振り回されている点が多い。

例を挙げると、ミオやフブキは戦闘最中、フェイントを交えた攻防などを行えない。それは高速戦闘に思考速度が追い付かないからだ。獣人種のステータスを持っていても、中身が普通の人間である以上、その真価を発揮することは不可能である。

分かりやすく言うのであれば、車に乗った人間が、目の前に急に表れたものに対し、反応できずに衝突するのと同じだ。人間の思考速度は人間の速度でのみ、真価を発揮する。

故に、ミオやフブキは高すぎるステータスに振り回されていると言っていい。

しかし、姫華楓は違う。いや、厳密に言うのであれば、姫華楓も、高すぎるステータスを完璧に操作できるわけではない。しかし、驚異的なまでの反応速度が、高すぎるステータスをコントロール可能にしている。

敵の行動を予測し、先を潰す利終とは違い、見てから避けるということを可能にする。

まさしく、戦闘の天才。時代が時代なら、世界に名をとどろかせただろう。実際、半分有名人らしいが。

 

「利終君?どおしたの?ぼおっとして」

 

そう言いながら利終の顔を覗き込むミオ。

その距離の近さに、利終の思考は一瞬停止する。しかし、すぐに再起動を果たし、ミオに返答する。

 

「いや、ちょいと姫華楓のこと考えてただけさ。特に意味はないぞ」

「え゛?」

 

利終の返答に、濁点交じりの声を上げるミオ。

利終はそのミオの表情を見て、おかしなこと言ったかな?と思ったが、その答えを通りかかったこよりが答える。

 

「姫華楓君のことを考えてたとか・・・。もしかして利終君!そっちの気があったり⁉」

「んなわけねえだろ、頭ピンクコヨーテ。普通に異常だよなって考えてただけだわ」

 

失礼なことを言うこよりに、鋭いナイフを返す利終。心外だ、と利終が思っていると、その言葉を聞いたミオがホッとしているのが目に入り、ジト目でミオを見る。

 

「まさかとは思うが、そこの頭ピンクコヨーテと同じ思考をしてるんじゃないだろうな」

「え⁉い、いや~⁉そ、そんなことは、ないヨ⁉」

 

いや、その態度が答えだろ。

そんなことを思いつつ、会話を盗み聞きしている和希であった。

 

 

 

その日の夜、和希は湖の前で一人佇む。

周囲に人がいないことを確認した和希は、自身の能力を使って、一軒分の水を空に浮かばせる。

和希の能力『重力操作』は、文字通り重力を自在に操れる。ただし、生物にかけられる最大の重力は3倍程度。60㎏の人間の重さを180㎏にできる程度だ。

このように聞くと、かなり強いように聞こえるが、この世界では弱すぎると言っていい。

そもそも、身体能力で言えば、人間の数十倍を誇る生物が相手なのだ。人間でも耐えられる程度の能力では、この先、役に事はない。

それを理解していた和希は、少しでも能力を伸ばせないかと、こうして日夜、特訓に励む。これは、利終達が合流する前から続けていたことだ。特訓しているときの姿を見られたくないという、ちっぽけなプライド故に、こうして深夜に行っているのだが、今夜はいつもと違った。

 

「・・・そこで見てられると、気が散るんだが。できれば見なかったことにして、寝てもらえないかな?」

「ごめん、それは無理」

 

和希の言葉に、そう返す少女。和希はため息をつきそうになるが、目の前の少女を気遣い、ため息を飲み込む。

少女をじっと見つめ、和希は次の言葉を待つ。

 

「・・・なんで隠れて頑張るの?そうやって頑張ってる姿を見せれば、皆、和希を信頼すると思うんだけど」

「・・・男は人に努力してる姿は見せないもんさ。それに、今後のことを考えるなら、俺は信頼されていないほうが、都合がいい」

 

そう言って、和希は自嘲気味に笑う。

その様子を見た少女は、和希を心配そうに気遣おうとするが、和希はそれを拒む。

これは和希の戦いだ。和希が始めたことだ。ゆえに、その気遣いを受けることはできない。周囲を巻き込んだのは、他ならぬ和希なのだから。

 

「予定通り、明日、彼らと合流する。これで、この世界に来た人間は一か所に集う。そうすれば、ようやく始めることが出来る」

 

そう言って、その表情に影を落とす和希。少女は彼の独白を黙って聞き届ける。

 

「例えアイツらから、世界から嫌われようとも、俺は俺たちの理想をかなえて見せる———」

 

そう言って、月を見上げる和希。

月の光を、金と青の2色が静かに反射する———。

 

 

 

「ねえ?ちょっといい?」

ちょうど寝ようとしていた利終の部屋を、遠慮気味にノックした人物はそう言って、利終の返事を待つ。

少し考えた利終は、扉を開くと、突然の来訪者を迎え入れる。

 

「いいけど・・・。こんな夜遅くにどおした、ミオ?」

 

ミオは少し悩んでいる様子であり、利終はそれを察したが、何も言わなかった。

ミオは室内に入ると、利終の部屋を少し見渡す。

利終の部屋は、机と椅子、ランプがひとつづつあり、床に布団を敷いているだけというシンプルな構造であった。この机と椅子、ランプ、布団はそれぞれ一つづつ所持しているが、それ以外の小物は、自身で作るしかない。というか、部屋や机といったものがある時点で大分おかしいが。

生活基準が一気に上がったなよな、と利終が思っていると、ミオは床に座り、利終に話し始める。

 

「・・・ねえ、利終君?利終君は皆のこと、どこまで信頼してる?」

 

その言葉は、あまりにミオらしくないと思える言葉だった。基本、人見知りはしても、人を疑うということをしないミオから、人を疑う言葉が出たのだ。利終はそのことに、驚きもせず答える。

 

「どこまで、か。そうだな・・・。今のところ、基本全員信用していると言っていいな」

 

これまでのことを考えながら、利終はそう答える。

元々、ホロメンの人間は、信用してもいいと利終は考えている。それは、少し知識があるからということではなく、元の世界の知り合いがいる以上、ここで裏切り行為などを行えば、現実に戻った時、不利になることを全員が理解していると考えているからだ。デメリットしかない状態で、裏切る理由が特にない。ゆえに、ホロメンは信用していいと考えている。

姫華楓は裏切る理由がないからだ。特にあの身体能力をフルで活用された場合、利終どころか、姫華楓以外の全メンバーが手を取り合ったとしても、姫華楓には勝てない。つまり、姫華楓は手を取り合わずとも、一人で生きていける力を有している。

それに、もう一つ別に信頼できる点があるしな、と利終は考えている。

そこまで考えたところで、ミオが口を開き、核心を突く言葉を言う。

 

「・・・それは、獅子原君も?」

「・・・ああ」

 

利終は、ミオの常葉に頷きを返す。

それを見たミオは、少しショックを受けた様子であり、利終はその理由をなんとなく理解していた。

 

「やっぱり信用できないか?和希のこと」

 

利終の言葉に、数泊置いて頷くミオ。

 

「・・・ま、だろうなとは思ってたさ。最初に合流したとき、あの時、ミオ一人だけ納得がいってない表情をしてたからな。・・・理由は単独行動が多い点か?」

 

利終の言葉に、驚くミオ。利終が言ってることは全て当たっており、ミオが和希を信用できない最大の点だからだ。そして、それと同時に違和感を覚える。

 

「・・・うん。現に今もどこにいるかわからない。さっき部屋の前を通った時、確認してきたんだ。部屋はもぬけの殻で、屋敷のどこにもいないの。・・・ねえ、なんで利終君は獅子原君を信用してるの?私が獅子原君を信用してない理由を知ってるのに、なんで?」

 

葛音利終という男は用心深い男だ。疑り深い性格であるともいえる。そんな利終が、怪しい点をいくつも残している和希を、信用している、と断言した。そのことに激しい違和感を覚えたミオは、利終にそう問いただす。

ミオが聞きたいことを完全に理解した利終は、少し恥ずかしそうに、頬をかきながら答える。

 

「・・・あー、あんまりはずいから言いたくないんだが、まあ、いいか。頼むから誰にも言うなよ?あと、笑うのもなしな」

 

そのあまりにも利終らしくない態度に、ミオは少し驚くも、首を縦に振る。

ミオが頷いたことを確認して利終は、一息ついて答える。

 

「・・・友達だからだよ。アイツが。この世界で一番と言っていいほどのな」

 

あまりにもシンプルな一言。今まで利終は、他者を信用するとき、必ず理由をつけてきた。理由をつけず、ただ信じるということをしたのは、ミオ一人だけ。そんな利終が、友達だから信じるといった。

そのあまりにも、普通と言っていい答え。単純で、簡潔で、そして、あまりにも子供らしい答えに、ミオは吹き出してしまう。

 

「・・・ぷっ、プハハハハハ!」

「おい!笑うなって言ったろ!」

 

笑うなというほうが無理だろう。これまで利終は、様々な場面でリスクやリターンを考え、行動してきた。まだ高校生だというのにだ。そんな大人びていると言っていい彼から出た、あまりにも年相応の言葉に、安心を覚えるのは普通のことだろう。

ひとしきり笑ったミオは、すねている利終を見て、慌てて訂正する。

 

「いや、おかしくて笑ったんじゃないよ!ただ、安心しちゃって・・・」

 

利終はミオが言いたいことを理解しているが、それとこれは話が別だ、と言わんばかりにそっぽを向いている。

まだ笑いが収まらないミオだったが、聞きたいことがあったため、笑いをこらえながら利終に聞く。

 

「・・・ふぅ。利終君は獅子原君を友達だと思ってたんだね。でも、どおして?」

「・・・まあ、ミオにはいいか」

 

利終は何かを決意し、ミオに話し始める。

その日、利終の部屋から明かりが消えることはなかったと言う———

 

 

 

翌日、居間に集まった全員で作戦会議を行う。

 

「さて、当初の目標である『生活基盤を整える』が達成された今、次の目標を立てる必要がある。ここまでに異論がある奴は?」

 

利終の言葉に、異論は一つも上がらない。

そのことを確認した利終は、居間に置かれているホワイトボードを持ってきながら言う。

 

「・・・ところで、俺が仕切るってことで本当にいいのか?」

 

利終の言葉に全員が頷く。

全員で話し合った結果、利終が集団のまとめ役に決まった。利終はフブキやすいせいといった面子のほうがいいと思っていたが、フブキは利終のほうが向いているからと辞退し、すいせいは、自分がそう言うのに向いていないからと辞退してしまった。

いろはたちは、先輩たちを差し置いてなど恐れ多いと言い、姫華楓は『え、無理』と一言。残ったのは利終、和希、スバル、おかゆの4人になるのだが、おかゆはマイペース過ぎて却下、スバルは頼りないため却下、和希は自由行動が目立つため却下、となり、消去法のような形で利終となった。

しかし、完全に消去法というわけでもない。

 

「まあ、うち達をまとめてたのは利終君だしね~。そこらへんは実績からも信用できるよ~」

「悪い人ではないことも分かってるでござるしな。それにいろいろ細かい点に気づけるところも、今の状況に必要な力だと思うでござる」

「設計図を基に、計画を立てたのも利終君だったしね~。こよはさんせ~」

「まあ、利終がこの中だと適任だろう。俺は頭を使う仕事は苦手だ」

 

一部の声に、利終は少し照れながらも、気を取り直してホワイトボードに向きなおる。

利終は、ホワイトボードに『今後の目標』と書き込み、意見を集める。

 

「さて、今回は人数も多いため、ブレインストーミング方式で意見を集める。とりあえず、案がある奴は手を上げてくれ」

 

利終の言葉に、スバルが真っ先に手を上げる。

 

「よし、スバル。どんな意見がある?」

「はい!利終せんせい!ぶれいんすとーみんぐって、何ですか!」

 

スバルの言葉に、思わずずっこける利終。よく見ると、ミオや和希といった一部の人間もずっこけているが、姫華楓も頭に?を浮かべていた。

 

「おいおい・・・。ブレインストーミングってのは、なるべく多くの意見を出して、その中から考えましょうって方式のことだよ。要は質より量って考え方の会議だな。特徴として、出た意見を否定するのは禁止、出た意見から派生した考え方を歓迎するって感じだな。ってこれで合ってたよな利終」

「まあ、概ねあってる。実現可能かどうかは後に回して、とにかく案を出そうってのがこの方式だからな・・・。ってことだ。わかったか馬鹿一号」

「分かったけど、馬鹿一号は酷くない⁉ミオちゃんもそう思うでしょ⁉」

「おうおうスバルよ。なぜそう言われるのかを、一度考えなさい」

 

ミオのとどめの一言で撃沈するスバル。さすが畜ミオ様である。利終との出会いで、さらに磨きがかかった気がするが、どうなんだろう?

馬鹿なやり取りが終わった後、利終は再び意見を集める。

意外にも、最初に手を挙げたのはすいせいだった。

 

「すいちゃんは、探索に出たほうがいいと思うな。ここにいる人全員が思ってるだろうけど、最終的な目標は現実の世界に帰ることなんでしょ?そしたら情報を集めるのが最優先なんじゃないかなって」

 

すいせいの意見を聞き、利終はホワイトボードに『探索して情報を集める』と書き込む。

次に手を挙げたのは、こよりだ。

 

「はいはーい!こよは防衛力を高めるのがいいと思いまーす!今の状態だと、拠点に敵が攻めてきたとき、まともに守ることが出来ないからでーす」

 

利終は追加して、こよりの意見『防衛力を高める』と書き込む。

更に意見を求めると、今度はフブキが手を上げる。

 

「白上は、半分すいちゃんと被るんですけど、周囲の情報を集めるのがいいと思います。遠出をする前に、周囲一帯の安全を確保したほうが良いかと」

 

利終は、ホワイトボードに『周囲の情報を集める』と書き込む。

さらに意見を求めるが、これ以上の意見は出なかったため、利終達はこの三つから選ぶことになった。

 

「さて、とりあえずこの三つから選ぶわけだが、多数決にしようと思うが、何か意見はあるか?」

 

利終の言葉に、和希が手を上げる。

 

「なあ、この三つって分ける必要あるか?探索チームと防衛チームで別れて、防衛チームが周囲の探索を行えばいいと思うんだが」

 

和希の意見を聞き、利終は確かに、とつぶやく。

防衛力を高めるためには、どのみち周囲一帯の情報を集める必要があるし、せっかく十一人もいるのだから、半分に分かれても問題はないだろう。

そう考えた利終は、全員に意見を求め、結果、二グループに分かれることが決まった。

 

「んじゃあ確認するぞ。探索チームは、俺、姫華楓、ミオ、風真、猫又の五人。んで、防衛チームが、和希、フブキ、スバル、星街、博衣、沙花叉の六人。異論はないか?」

 

利終の言葉に頷く一同。

この編成になった経緯は以下の通りだ。

まず利終。最初は能力『物質生成』を生かすため、防衛チームになる予定だったが、現場での判断力や危機感知能力が高いことから、探索チームに加わった。

次に姫華楓。最高戦力の姫華楓は、その高いステータスを生かして探索を行う。

ミオやいろはは、利終や姫華楓とのチームワークが抜群なため、二人と同じ探索チームに。

おかゆは風の刃という、奇襲やトラップに活躍できる汎用性の高さから探索チームに入った。

和希は『重力』の能力が戦闘向きではないこと、運搬に便利な点から防衛チームになった。

こよりは言わずもがな。

クロヱは能力『超音波』で周囲の敵を先に感知できるという点から、どっちにするか意見が分かれたが、利終の危機感知と被るため、防衛になった。

スバルは移動が遅いため、防衛向きだと判断し、すいせいも似たような理由で防衛チームに加わった。

最後にフブキだが、能力、ステータス、ともにミオと同じなため、ミオと別れる形となった。

 

二チームに分かれた利終達は、それぞれのチームでやるべきことを決める。

と言っても、探索チームの行先は決まっていた。

 

「遺跡地帯・・・。うち達はここを目指すんだよね?」

「ああ、今のところ、俺たちの誰も行ったことがないところだからな」

「だが、廃墟地帯のほうが資料などはありそうじゃないのか?さらに言うと距離も近い」

 

姫華楓の疑問に利終は答える。

 

「それも考えたんだが・・・。あそこには一度行った時、『黄道』の一匹と出くわしている。危険すぎると言っていい」

「俺が倒すって選択肢は?」

 

利終の言葉に、そう返す姫華楓。

それを聞いた利終は静かに首を横に振る。

 

「いくら姫華楓が強いと言っても、戦闘は許可出来ない。奴のステータスはそこらの敵とは桁が違う。勝算が低いうえ、そもそも倒したところで意味がない」

 

驚異の排除、それ自体は意味があるだろう。しかし、日記によれば、黄道の三匹は廃墟地帯にいるらしい。その三匹のうち一匹の排除では、あまりに戦うリスクが大きい。

無論、遺跡地帯に『黄道』がいる可能性は否定できない。ゆえに、『黄道』と出くわしたら即撤退が基本だ。

そう言うと姫華楓はしぶしぶ納得する。

他に反対意見が出ないことを確認した利終は、さっそく準備を始めるよう皆に言う。

利終は、後腰にサバイバルナイフ、背中に黒の弓を背負い、横腰に矢筒さげ、それに十本の矢を入れる。

他の探索チームもそれぞれ持ち物を整理し、全員で問題がないことを確認する。

準備が整った探索チームは、防衛チームに別れを告げ、拠点を後にするのだった。

 

 

 

 

「んで、ここが遺跡地帯ってやつか」

拠点を出発して半日、遺跡地帯に利終達は訪れていた。途中、大きなトラブルもなく、サクサク進めたことに少し驚くが、トラブルがないのはよいことだと、利終は己に言い聞かせる。

遺跡地帯は、大きなピラミッドがそびえ立っており、入り口が目の前にあった。この島の構造上、入り口は二つと考えられるが、わざわざ確認することもできないため、利終は中に入ることを決める。

 

「よし・・・。中に入るぞ。念のために聞くが、大丈夫か?」

 

利終の言葉に頷く四人。姫華楓、いろは、利終、ミオ、おかゆの順で中に入っていく。

 

 

 

 

ピラミッドの中は意外に広く、そして———。

 

「あっれぇ?ここピラミッドだよな?遺跡地帯だよな?なぁんでSFみたいな通路なんですかねぇ?」

 

あまりにも近未来的であった・・・。

あまりにも謎過ぎる光景にフリーズする一同。外見からして、いつ崩れてもおかしくない古代遺跡のようなものを想像していただけに、目の前の光景を理解するのに時間がかかった。そして、考えをまとめた姫華楓が一言。

 

「俺、この世界作ったやつ、一回ぶっ飛ばさないと気が済まないわ」

 

あまりにもふざけた光景に、うなずく一同。

しかし、このままここにいても何もないのは事実なので、奥を目指そうと歩き出す。

 

その瞬間、地震が起こったかのような、激しい揺れが一同を襲った。

すぐさま、姫華楓は戦闘態勢に入り、利終は耳を澄まして状況を把握しようとする。ミオといろは、おかゆの三人は何があってもいいように警戒をしながら、利終の指示を待つ。

利終は既視感を覚えながらも、姫華楓に問う。

 

「姫華楓!目に見える範囲でいい!敵影は⁉」

「敵影はない!が、ここにいるのは得策ではないと思う!進むにせよ、戻るにせよ、早急な対処が必要だ!」

 

姫華楓の答えに、利終の勘も同じ答えを出す。

何があるのかわからない以上即座に撤退を、と利終が考えたとき、利終の耳がその音をとらえる。

 

「・・・‼」

 

利終は直感に従い、迷わず奥に進む。

利終の急な行動に、ミオ達は反応が遅れる。

しかし、利終は構うことなく、直感に従い動く。迷路のような道を進み、一つの部屋にたどり着く。

数泊遅れて、姫華楓達も到着する。そして、目の前に飛び込んできた光景に、全員が即座に行動に移った。

 

目の前に飛び込んできたのは、倒れる少年をかばうように戦う一人の青年と、五人の少女達だった。青年たちは必死に戦っているが、青年たちの間を抜けた一匹の天使のような存在が、倒れている少年に剣を振り下ろそうとしていた。

利終は矢を構え、倒れている少年を襲おうとしていた天使めがけて放つ。天使は即座に気づき、剣で矢をはじく。

次の瞬間、姫華楓がものすごい勢いで天使を殴り飛ばし、そのまま他の青年たちが戦っている天使を蹴り飛ばして行く。

そのあまりにものスピードに天使たちはなすすべなく、吹き飛ばされていく。

利終は少年をかばうように前にでて、全員に指示を出す。

 

「ミオ!猫又!天使を牽制しろ!風真は怪我人の保護を最優先に!姫華楓は自由に動け!」

「「「「了解‼」」」」

 

利終の言葉をきっかけに、この場にいる全員が動き出す。ミオやおかゆは、能力を使って天使たちの動きを止め、その動きが止まった天使を、姫華楓が蹴散らす。

五人の少女のうち、角が二つは得た少女が、倒れた少年に近づこうとする。

 

「拓斗君!」

「来ちゃだめだ!」

 

駆け寄る少女の背後に、一匹の天使が現れ、少女を手に持った剣で切り裂こうとする。

 

「それはさせないでござる!」

 

しかし、切られる直前、いろはが間に入り、天使の剣を受け止める。

角の少女は、襲われたことに気づき動きが止まる。

 

「止まるな!出口まで走れ!この子は俺が何とかする!」

 

利終の言葉に少しためらう少女だが、利終を信じると決めたらしく、扉に向かい走り始める。他の五人も出口に走り、全員でここから脱出しようと試みる。

姫華楓は右手で一匹の胸を貫き、左手でほかの天使の首をへし折り、右足で天使の頭蓋を踏み砕く。そのあまりもの戦闘力に、天使たちは危機感を覚え、逃げる少女達ではなく、姫華楓めがけて襲い掛かる。

その襲い掛かる集団目がけ、ミオの炎が放たれ、おかゆの鎌鼬が火の勢いを強める。

風の刃と言っても、所詮は風だ。そして、風は火を巻き上げ、さらに火力を増強させる。

天使の集団がそろって焼かれ、動く敵影は見えなくなる。勝ちを確信した姫華楓達は戦闘態勢を解こうとするが、利終が背負った少年がそれを止める。

 

「まだです!そいつらは倒しても倒しても無限に湧いてきます!」

 

その言葉お通り、天井にある照明から、天使が一人、また一人と降りてくる。

ジリ貧を悟った一同は、少女たちが出口から脱出していることを確認すると、出口に向かって走る。追撃をしてくる天使たちを遠距離の能力で牽制し、全員がその部屋から脱出する。しかし———

 

「まあ、追ってくるよな!」

 

利終の言葉通り、天使たちは逃げる利終達を追ってくる。

利終は能力を使って、鉄の壁を作り、天使たちの行動を阻害する。しかし、数秒もせず壁は破られ、追っ手を撒くことはかなわなかった。

 

「だが、その数秒があれば十分だ」

 

姫華楓はそう言うと、思いっきり地面をけり上げ、天使たちをまとめて吹き飛ばす。吹き飛ばされた天使たちが体勢を立て直したころには、利終達は遺跡から脱出しているのだった———。

 

 

 

 

「思ったより早く帰ってきましたね、っていうか、なぁんで増えてるんですか⁉」

 

遺跡から脱出した利終達は、少年達から事情を聴いた。その事情を聴いた結果、驚くべき真実が明らかとなったため、全員で拠点に戻ることにしたのだ。

ちなみに、利終達は全員の名前を既に聞いており、利終は頭を抱えていた。

 

「んで、増えたのが、百鬼あやめちゃんと雪花ラミィちゃん、天音かなたちゃんに兎田ぺこらちゃんと、見知らぬ少年一人に、見知らぬおっさん、見知らぬ少女の計六人と・・・。この世界に来た人間の法則がよくわかんねえな」

 

和希は利終達を見ると、そう言って明後日の方向を見る。

その目にはあきらめの表情が浮かんでおり、利終も同じ気持ちだった。

 

「あ!そうでしたごめんなさい!あやめちゃんたちはともかく、僕たちはわからないですよね。僕の名前は雨衣(あまい) 拓斗(たくと)です!よろしくお願いします!」

 

少年・・・拓斗はそう言って全員に頭を下げる。

青髪に金色の瞳をした少年は、少し幼い印象を受ける。この中でも、最も年齢が低いのは確かだろう。

拓斗は、顔を上げると、そのキラキラした目を全員に向ける。特に利終を熱心に見ており、利終は首を傾げる。

 

「元気がいい子だな。俺は柊 姫華楓だ。よろしく」

「元気がいいのはいいことだ。俺は獅子原 和希!よろしくな、拓斗君!」

「俺は葛音利終だ。んで、なんでそんな目を俺に向ける?俺なんかしたっけ?」

 

疑問に思った利終は、拓斗にそう問いかける。

拓斗は利終の手を両手で握ると、そのまま激しく降る。その様子は、尻尾を激しく降る犬にそっくりであった。

 

「はい!僕たちを助けてくれたのはもちろん、ここに来る途中、大神さんからいろいろ聞きました!自分の命を懸けても、誰かを助けるヒーローのような人だって!まさしく僕が憧れとする生き方そのものなんです!」

「なあミオ?お前、この子に何吹き込んだんだ?」

 

拓斗の言葉に、思わずミオを詰め寄る利終。ミオはそっぽを向き、自分は悪くないというアピールをする。

利終は少しあきれつつ、拓斗の誤解を正そうとする。

 

「あー、雨衣君「拓斗と呼んでください!」、OK、拓斗君?残念だけど、俺はヒーローとかからは程遠いぞ?」

 

利終は、ありのままの出来事を伝えようとしたが、拓斗の誤解はますます深まってしまった。

 

「そんなことないです!利終さんは、仲間を助けるために、腕を失い、それでも助けるために敵と戦う、そんな生き方ができる人だって聞きました!自身の身に危険が迫ろうと、誰かを助けることを優先する・・・それこそ、僕が憧れたヒーローなんです!そんな生き方をしてる利終さんは、僕にとっての憧れになるんです!その謙虚なところも尊敬できるんです!」

「こうして客観的に聞くと、なかなかやべぇことしてんな、利終」

 

拓斗の言葉に、思わず利終を見る和希。利終は照れくさそうな、うれしいような、それでいて訂正したそうな、とても複雑な表情を浮かべている。

拓斗が言ったことがすべて事実なのが、言い返しずらいところといえる。そして、利終の視点から見ると微妙に違ってくるのだが、その純粋な憧れを壊したくないと思った利終は、複雑な表情で固まるしかなかった。

ミオのほうを向くと、拓斗の言葉に頷いている姿が見えたので、確信犯であることは明白であった。

 

「さて・・・そろそろ私達も自己紹介していいかしら?」

 

そう声をかけてくるのは、青髪の少女。腰までのいる長い髪に、どコメでも冷たい印象を受ける青い瞳が特徴だ。その少女は、利終達が頷くのを見て、自己紹介を始める。

 

「初めまして。私は美津濃(みずの) 舞香(まいか)。よろしく頼むわ」

「ワシは(あずま) 東郎(とうろう)じゃ。よろしくの~」

「次は余かな?余の名前は百鬼あやめっていいます。よろしくです」

「そしたら僕だね。僕の名前は天音かなただよ。よろしく~」

「次はラミィですね。雪花ラミィと言います。よろしくお願いします」

「最後はぺこちゃんぺこね~。ぺこちゃんの名前は兎田ぺこらぺこ~。よろしくぺこ~

「キャラ濃い人ばっかだなー」

 

利終は、幼馴染が原因で、何人か酷い覚え方をしたりしている。その中でもひどいのはラミィだったりするのだが・・・。本人は知らぬが仏というものだろう。ちなみに覚え方は、酒カスラミィという覚え方だったりする。

よって、利終はラミィには近づかないということを心に決めている。これが偏見ってやつですね。

舞香の自己紹介をきっかけに、自己紹介が始まる。利終達も自己紹介を行ったが、割愛させていただこう。

 

「ってそういえば利終君、何か情報は手に入ったんですか?」

 

フブキの言葉に利終は頷きながら答える。

 

「ああ、それについて話すから、全員を居間に集めてくれないか?あそこなら、この人数でも全員入れるだろ。って感じで、アンタらもいいか?」

 

利終はそう言いながら、拓斗達・・・正確には舞香を見ながら言う。舞香はこの集団の中でもひときわ異彩を放っており、男を決して近づけようとしない。それを理解していた利終は、確認の意味も込めて、舞香たちに言ったのだ。

拓斗やほかのメンバーはすぐに頷き、舞香も一拍おいてから頷いた。それを確認した利終は、全員を居間に案内する。

 

 

 

「さて、話を始めよう」

居間に全員が集まったことを確認した利終はそう言った。

全員の表情が固まり、居間を緊張が包み込む。

全員の表情を見た利終は、口を開き、知った情報を開示していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして狂気の青年、葛音利終の序章が終わり、彼らの物語が本格的に始まる

 

ここから、彼らの物語は加速し、新たな事実と疑問が彼らを待ち受けるだろう

 

何故、自分たちはこの世界に呼ばれたのか、どうすれば元の世界に帰ることが出来るのか

 

 

何故、利終達が選ばれたのか

 

 

 

だが、その疑問にたどり着く前に

 

彼の軌跡を語るとしよう

 

自身を貫く青年、柊姫華楓の物語を———

 

 

 

 

 

 

 

~序章1『狂気の青年』~

~END~

 

 

 

 

 




と言う訳で、序章1終了です。
初の感想で舞い上がり、いつも以上の文になってしまった・・・。



次回から序章2『自身を貫く青年』を開始します。
しばらく利終君はお休みしてもらいます。

謝罪:風真いろは様の名前を、風間いろは様と書き間違えておりました・・・。
友人からの指摘で気づき、訂正させていただきます。
大変申し訳ございませんでした。

いやマジで、気づかんかった。
ホロにわかなのがばれる・・・。
そしてタグもこれ以上増やせないぞ!
いや、予定してたキャラ全員出たから、これ以上増やす気はないだけどさ・・・。
取り合えず、処女作のタグは、文字制限の都合上、削除されました。
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