これは語られるはずのない物語   作:篠崎勇気

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お久しぶりです、篠崎です。
さて、今回から別の主人公・・・柊姫華楓の物語が開始されます。
ちなみに言うと、これは当初の予定通りの流れになります。

というか、もう結末までストーリーは組み終わってたりしますしね・・・。

と言う訳で、長い長~い序章がしばらく続きます。

・・・序章1終わらせるのに、半年かかったのに・・・これ完結までに何年かかるんだろう・・・。
どうか長い目で見てくださいな。


P.S.
私がいま最もはまっているゲーム、Fate/Grand Orderが10周年を迎えました!
FGO10周年おめでとうございます!
デスティニーは沖田さんとシエルパイセン、福袋はキングハサンが当たったぜ!
とりあえず俺のカルデアのグランドアサシンは決まったな(((o(*゚▽゚*)o)))


序章2『己を貫く青年』
余計な一言


{???}

 

世界は単純ではないと誰もが言う

 

それは当然のことでもあり、誰しもが知る事実だ

 

この世界には、無数の人が住み、その数だけ別の考えが存在する

 

同じ人間がいない以上、個々の趣味、思考、信念が絡み合い、世界は複雑になる

 

世界中の人間が考えを同じにすることはなく、共に手を取り合うことなど出来はしない

 

 

 

ゆえに、人は生まれながらにして、悪である

 

 

 

 

 

 

ざわざわと、木々のすきまを風が通る音が聞こえる。自然の中で生まれる音色といっていい心地の良い音。それは現代社会ではめったに聞くことはない音でもある。

そんな音色を聞きながら、青年はゆっくり瞼を開ける。

目を覚ました青年は、木々で覆われている周囲を見て、ここがどこなのかを把握する。

 

「目が覚めると、そこは見知らぬ森であった、か。・・・なるほど」

 

青年は体をほぐしながら、ゆっくりと立ち上がると、自身の背中に違和感を覚えた。

むず痒いような、まるで手でも生えたかのような―――。

 

「ふむ・・・。まるでではなく、翼が生えてるな・・・。しかも左右で色の違う、白と黒の翼が・・・。まるで厨二みたいな格好だな。勘弁してほしいのものだが」

 

青年は背中から生えた翼を動かしながら、そうつぶやく。

翼を動かす、という感覚はあまり慣れず、翼を大きく動かして飛ぶということはできそうにないが、小さく動かすことは可能なようだ。

青年はしばらく翼を動かしていたが、自身を囲む気配に気づき、意識を眼前に集中させる。

 

―――そこには、三匹の狼がいた。

狼たちは、青年を獲物と認識しているらしく、今にも襲い掛かってきそうな雰囲気を醸し出している。

状況を認識した青年は、周囲に武器がないか目を配るが、あたりにあるのは木だけであり、武器になりそうなものはない。

仕方なく、青年は構えを取り、狼たちを撃退する準備をする。

青年が戦闘態勢に入ったことにより、狼たちは警戒心を一段階上げ、青年を囲うようにそれぞれの距離を開ける。

青年はその様子を黙って見守り、狼たちは青年の正面に一匹、左右に一匹ずつ展開した。

 

一瞬の沈黙の後、青年が動いた。

青年は正面の狼に狙いをつけると、一息の間に距離を詰める。

その凄まじいスピードに、青年自身が驚いたが、迷わずこぶしを振りぬき、正面の狼に叩き付ける。

青年のこぶしを食らった狼は、大きく吹っ飛び、数本の木を根元からへし折る。

やがて勢いが完全になくなると、狼はぐったりとし、動かなくなる。

その様子を左右で見ていた狼たちは、驚きと恐怖で一瞬動きが止まるが、青年はその一瞬の間に距離を詰め、左側にいた狼の首に、蹴りを叩き込む。

青年の蹴りを食らった狼は、地面を陥没させながら埋まり、絶命する。

最後の一匹は本能に従い逃走を図るが、一瞬で青年に追いつかれ、恐怖のあまり、そのまま意識を失う。

意識を失った一匹を見て、青年は仕留めるべきか悩んだが、そのまま放置することに決めた。

 

「戦意を喪失した相手に手を上げるは武士として恥ずべき行為である。しかし、自身から仕掛けた勝負だというのに・・・情けない限りだな」

 

青年はそう言うと、自身が倒した狼に近づく。青年は狼を持ち上げ、肩に担ぐと、移動を開始した。

 

「食料になりそうなものも確保できた。なら次は、安全な寝床を探さなければ。・・・しかし、先ほどのアレは何だったのだろう?」

 

青年が気になっている物は、自身の戦闘能力の高さだ。

青年の身体能力は、かなり高い方だ。実際、青年は世界大会で実績を残すレベルの実力者であり、『生きる伝説』とまで呼ばれている。本人は心の底から嫌がっているが・・・。

しかし、先ほどの戦闘能力は人間に収まるレベルではなかった。一歩で5mという距離を詰め、腕の一振りを当てるだけで、木々をなぎ倒しながら数10m吹き飛ばす。

これは明らかに人間をやめている。最も、翼がある時点で人間からは程遠いが・・・。

 

「なるほど。だんだん理解できて来たな。つまり、俺は知らぬうちに人体改造でもされて、人間をやめていたらしい。・・・人間をやめたのか・・・」

 

現実にかなりのショックを受ける青年。もともと半分ほど人間をやめていたが、本当の人外になると、心に来るものがあったらしい。

青年はしばらく放心状態になった後、森を抜けるため歩き出す。

その背中には哀愁が漂っていたという・・・。

 

 

 

 

 

「俺は今、どこにいるんだ?」

 

歩き始めて半日が経ち、月が出てきたが、未だに変わらぬ景色にげんなりする青年。

森は思っていたより深かく、青年は迷子になっていた。

さらに、この森はただ深いだけではない。

 

「っと、またお前たちか。いい加減うんざりなんだが・・・」

 

青年の前に12匹の狼があらわれる。

青年は表情を曇らせながらそう言うと、戦闘態勢をとる。

先ほど背負っていた狼の遺体は、青年によって無事食いつくされた。味は・・・察してほしいとのことだ。

青年は距離を詰め、右手で一匹を掴むと、そのまま別の一匹に叩き付ける。二匹の絶命を確認した青年は、掴んだままの狼の遺体を、そのまま他の一匹に向かって思いっきり投げつける。狼は迫ってくる仲間の遺体を避けれず、大きく吹き飛び、木を根元からへし折る。

残った9匹の狼たちはいっせいに青年に飛び掛かるが、青年は左手で一匹の顔面を殴り、右手で別の狼の首を砕き、蹴りでさらに別の一匹の脊椎を破壊する。

あっという間に半数にまで減った狼たちは、青年に恐怖し、その場から逃走する。

戦闘が始まってから約3秒の出来事である。

青年はため息をつくと、そのまま歩き出す。ちなみにだが、青年が狼に襲われるのは、これで六回目である。

 

「いい加減、この景色にも飽きてきたんだが・・・ん?」

 

青年が歩き出してすぐ、鈍い光が青年の視界に移る。光はそれほど強くなく、月明かりを何かが反射したものに見えた。

青年は光の正体を確かめるべく、その光の出所を目指す。

チカチカと点滅を繰り返す光を頼りに、青年は走り続ける。ほんの5分程度走り続けると、突然視界が開け、青年は森を抜けたのだと理解した。

ようやく森を抜けたことに安堵する青年だったが、目の前にそびえ立つ大きな崖と、その崖の下にあるあるものに目を引かれる。

 

「ぴゃああぁぁぁぁぁあああ!」

 

そこには、数えるのも面倒なほどの大量の狼と、狼に囲まれて叫び声をあげながら、崖を背に刀を振り回している少女がいた。

少女は金髪碧目で、羽織とミニスカートという袴のような服装をしており、緑がかった水色の鞘を背負っている。

少女は半狂乱状態であり、めちゃくちゃな軌道で刀を振るっているが、そのあまりの軌道の読めなさに、狼たちは攻めることが出来ず、少し距離を取っている。

青年が見た光というのは、少女が持っている刀が月の光を反射したものだろう。

狼たちは青年に気づいておらず、このまま背を向ければ安全に逃げられる。―――一人の少女を犠牲に。

青年は軽く500は超えている狼たちを一瞥すると、その場で両足に力を籠める。

 

瞬間、常人離れした脚力によって青年は高く跳び上がる。

高く跳び上がった青年は、少女に群がる狼たちを吹き飛ばしながら、少女の目の前に着地する。何が起こったのか理解できていない狼たちの群れを一瞥した後、青年の登場によって驚いた表情の少女にこう言った。

 

「こうして近くで見ると、だいぶ痛々しい格好のやつだな・・・。それはそれとして、助けはいるかい?お嬢さん?」

 

余計な一言がついているが・・・、これが青年と少女―――柊姫華楓と風真いろはの出会いである。

 

 

 

いろはは混乱していた。

突然見知らぬ土地で目覚め、知らぬうちに大量の狼に囲われ、半狂乱になりながら刀を振り回していたら、突然目の前の狼たちが吹き飛んだかと思ったら、今度は名も知らぬ青年がとても失礼な言葉を投げかけてきたのである。これは誰でも混乱するだろう。

いろはが頭の中を整理する前に、狼たち―――ウルフの群れが頭の整理を終える。

剣を振り回すのをやめ、無防備な状態で互いを見ている姫華楓達が隙だらけだと判断した一匹のウルフは、自身に背を向けている姫華楓の背中に飛び掛かる。

 

「危ない!」

 

狼たちの行動に気づいたいろはがとっさに声を上げるが、姫華楓は眉一つ動かす冷静に告げる。

 

「安心しろ。問題はない」

 

姫華楓は体をひねり、後ろにいたウルフを蹴り飛ばす。

姫華楓の蹴りをまともに食らったウルフは、他のウルフたちを巻き込みながら、ボールのように吹き飛ぶ。

たった一回の攻撃で、十数匹のウルフたちが命を散らしていく。

その現実離れした光景を目の当たりにしたいろはは、口を開けたまま動けなくなる。

姫華楓はそんな様子のいろはを見て、再び声をかける。

 

「・・・おい、呆けるな。そんなことをしていると死ぬぞ?」

 

姫華楓の口から出てきた『死ぬ』という言葉に、一瞬冷たいものを感じ、いろははすぐに頭を振って、意識を切り替えようとする。

姫華楓はウルフたちを牽制しつつ、いろはが意識を切り替えるのを持った。

いろはは意識を切り替えると、周囲のウルフたちに目を向けながら姫華楓に話しかける。

 

「・・・礼を言うでござる。そして助けてほしいでござる~!」

「・・・はぁ」

 

姫華楓はいろはの雰囲気に緊張感がない奴だ、と思いため息をつく。

しかし、すぐに意識を切り替えウルフの群れに向きなおる。

 

「了解した。あんたは死なないよう、自分の身を守ることだけ考えてろ」

「・・・へ?」

 

姫華楓はそう言うと、ウルフの群れに突撃する。

無謀としか思えない行動だが、姫華楓は一切気にすることなくウルフの群れの中心、まるで何かを守ろうとするかのような動きをするウルフたちを目指して走り続ける。

ウルフたちは姫華楓の動きを止めようと、いっせいに飛び掛かるが姫華楓はそのすべてを返り討ちにし、徐々に中心に近づいていく。

中心にたどり着く前、一匹のウルフの遠吠えが姫華楓の耳に届く。姫華楓はただの鳴き声と判断し気にせず中心を目指すが、頭上から降り注いできた、直径2mほどの隕石が姫華楓の足を止めさせる。

当たる直前で隕石に気づいた姫華楓は、避けることは不可能と判断し、腕をクロスしてその攻撃を受け止める。

隕石は姫華楓に命中すると、小規模な爆発を引き起こし、周囲にいた数匹のウルフを巻き込む。

その爆発を見ていたいろはは悲鳴を上げそうになるが、翼の先が少し焦げた程度の変化しかない姫華楓が姿を見せたことで、安堵する。

その心が緩んだすきを見計らい、一匹のウルフがいろはを襲う。

とっさに刀を構えたいろはだが、ウルフの動きは想像以上に素早く、蹴りをまともに食らってしまう。

崖に叩き付けられ、背中に襲い掛かる激痛に悶えそうになるが、ウルフが飛び掛かってくる様子が見え、とっさにウルフの首に見える一本の線めがけて刀を振るう。

線に吸い込まれるように刀を振るった結果、一切の抵抗もなく刀はウルフの首を切り落とした。

その様子を目に焼き付けたいろはは、呆気に取られてしまい大量の返り血を浴びる。

金髪の髪が真っ赤に染まるが、いろはは気にする余裕もなかった。

いろはが一撃で同胞の首を切り落としたと判断したウルフたちが、いろはの脅威度を一気に引き上げ、一斉に襲い掛かってきたからだ。

いろはは死にたくないという思いで必死に刀を振るい続ける。

それぞれの首や背中と言った一部の部位にのみ存在する一本の線めがけて刀を振るうと、驚くほど簡単にウルフを倒せることに気づいたいろはは、自身の直感と見える線を頼りに自身の身を守り続ける。

一方、隕石を食らった姫華楓は、翼の先が少し焦げる感覚を味わいながら今の隕石の正体を探った。

姫華楓めがけて一直線に飛んできた隕石が、自然のものだとは考えられなかったからだ。

そうして周囲を探り、一匹の遠吠えを聞いた姫華楓は、とっさに頭上に目を向ける。

何もない空中に光の粒子が集まり、再び隕石を作り上げると姫華楓めがけて落下する。

隕石が自身に迫ってくる様子を確認した姫華楓は、足元にあった小さな石ころを拾うと、隕石めがけて放り投げる。姫華楓が投げた石ころが隕石に衝突すると、隕石は再び爆発した。

頭上から破片が落ちてくることを確認した姫華楓は、周囲のウルフたちを蹴散らしながらひとり呟く。

 

「・・・なるほど。どうやって隕石を作っているのかはわからないが、対処法がわかれば簡単だな。問題はいつ降ってくるのがわからないという点だが・・・。まあ常に上を気にしてればいいか」

 

脳筋である。完璧なまでに脳筋である。

しかし、これは姫華楓の『見てから動く』ができるからこそ言える点であるあだろう。人間離れした身体を扱える姫華楓の反応速度があればの荒業である。

姫華楓は隕石を見つけ次第撃ち落とし、中心に迫る。

その時、何度目かわからぬ遠吠えが姫華楓の耳に入ってくる。しかし、それまでと違い、姫華楓は遠吠えに違和感を覚えた。

 

「・・・なるほど。先ほどから遠吠えを行っていた個体とは別の個体の遠吠えだからか・・・ん?」

 

姫華楓が頭上を見上げると、隕石に追加して、三本の氷柱が落ちてくるのが見えた。

氷柱の先端は鋭くとがっており、さすがの姫華楓もまともに食らえば無事ではないだろう。

 

「だが、それは当たればの話だ」

 

姫華楓は落ちてくる氷柱を掴むと、そのまま空の隕石めがけ投げつけ、隕石を爆発させる。

他の二本は左右で一本ずつ掴むと、ウルフの群れの中心があると思われる場所めがけて一本を投げつけ、もう片方をいろはがいる方向に投げつける。一拍おいた後、二つの衝撃音が立て続けに聞こえ、それと同時に数十匹のウルフがこの世から姿を消した。

姫華楓はその様子を見ていたが、気にせず走り続ける。

ちぎっては投げ、掴んでは放り投げ、そんなことを繰り返していると、いつの間にかウルフの群れの中心に到着していた。

その中心には、子供のウルフと思われる小さなウルフが三匹座っていた。

 

「・・・どうやら、見かけ通りというわけではないようだな」

 

姫華楓は子ウルフの一匹に高速で接近すると、その首めがけてこぶしを振り下ろす。こぶしの風圧により、周囲一帯に砂塵が舞い上がり、地面が陥没する。しかし、そこに子ウルフの姿はない。

子ウルフたちは先ほどいた場所から数m離れた場所に立っており、姫華楓に向けて殺意を向けている。

子ウルフたちは一斉に体を縮こまらせ、全身を震わせる。

一拍置いた後、子ウルフたちの体が小さくはね、大きさが何倍にも膨れ上がっていく。

あっという間に普通のウルフの三倍程度の大きさになると、衝撃波を生むほどの大きな咆哮を上げる。

姫華楓は子ウルフたちの大きさの変化に少し驚いたが、すぐに気を持ち直し一匹の元子ウルフ・・・変異種のウルフに向かって走り出す。

三体の変異種はこちらめがけて走ってくる姫華楓めがけて咆哮を放つ。当たれば大岩を砕く咆哮を気にすることなく姫華楓は突撃する。

姫華楓は全身に凄まじい衝撃が走るのを無視し、一匹の変異種に接近すると、そのままアッパーカットを顎に食らわせる。

姫華楓のアッパーカットを食らった変異種は10mほど浮き上がるが、変異種は空中で体制を変え、大きな咆哮を上げる。

次の瞬間、生成された隕石が姫華楓めがけて落下し、空中の変異種は安全に着地しようとする。

姫華楓は落下してきた隕石を掴むと、変異種めがけて投げつける。

この行動はさすがに予想していなかったらしく、変異種は自分が生み出した爆発する隕石をまともに食らい、背中から地面に落下する。

変異種が地面に衝突する寸前、別の変異種が落下する変異種を助け出す。

助けに入った変異種は自身の尻尾を使い、空中で味方をキャッチした後、足から落ちるように体制を変えたのだ。かなり器用な行動に姫華楓は少し驚くが、さらに別の変異種が咆哮を上げたことで意識を切り替える。

頭上を確認し、隕石も氷柱も降ってこないことを確認した姫華楓は一瞬不思議に思ったが、次の瞬間、全身切り裂こうとする鋭い風を受け、翼で自身の体を覆う。

攻撃が止んだことを確認した姫華楓は、翼を大きく広げ周囲に群がろうとしていたウルフたちを吹き飛ばす。

 

「・・・なるほど。咆哮を上げると特殊な攻撃が飛んでくるのか・・・。他の普通サイズのやつが撃ってこないところを見ると、特殊な攻撃が撃てるのはお前ら三匹だけか・・・」

 

姫華楓は小さく笑みを浮かべると、先ほどより速いスピードで隕石を降らす変異種―――長いから隕石種でいいや、隕石種に迫ると隕石種が反応できない速度で拳のラッシュを放つ。

隕石種は姫華楓の攻撃から逃れようともがくが、数段早くなった姫華楓の動きに対処できず、かかしのように立っていることしかできない。

その様子を見た氷操種と風操種の二匹は、仲間を助けようと姫華楓に攻撃しようとする。しかし、姫華楓のあまりのスピードに二匹はとらえるすべがなく、隕石種が倒れるのを見届けることしかできなかった。

 

「少しこの身体にも慣れてきた。あと二匹、このまま潰させてもらう」

 

姫華楓は自身の翼で空を飛びながら、残った二匹にそう宣言する。

その姿は、罪を犯したものを裁く天使にも、悪意のまま力を振るう悪魔にも見えた。

 

 

 

 

 

いろはは視界に移るウルフを片っ端から切り捨てていた。

最初は刀を我武者羅に振るうだけっだったが、時間が経つに連れ動きが良くなり、今では最小限の動きで切り捨てることが出来るほどに上達していた。

いろははそうして次々に襲い掛かるウルフたちを二〇匹ほど切り捨てたが、無傷とはいかず、ところどころ噛み傷や打撲跡が残っていた。

それでもなお、見えるウルフの数は減らず、少し諦めそうになるが、そこに頭上から氷柱が降ってきて、目の前にいたウルフたちをまとめて吹き飛ばす。

凄まじい衝撃に吹き飛ばされそうになりながらも、刀を地面に突き立て、どうにかやり過ごす。

衝撃がなくなった後、その場に残ったのは衝撃をうまく流したいろはと、五匹のウルフだけだった。そのウルフたちも重症であり、満足に動くことが出来ない。

いろはは心を痛めつつも、動けないウルフたちにとどめを刺していく。

人間を襲う以上、ここで見逃せば他の人が犠牲になると理解していたからだ。

動くすべての生き物を光る粒子に変えたいろはは、刀を背中の鞘にしまい、全身に襲い掛かる倦怠感を無視しながら、姫華楓のもとに向かう。

姫華楓のもとに行ったウルフたちはいろはが相手してた数とは比較にならないほど多く、このままでは姫華楓が危ないと判断したからだ。

見知らぬ人とはいえ、自身を助けた人を見殺しにすることが出来ないいろはは、体を引きずりながら、姫華楓のもとに向かう。

 

 

 

 

 

―――奴を脅威と認識していたのは正しかったが、我らは一つ間違いを犯していた

 

変異種の一匹、風操種はそう考えていた。

姫華楓は徐々に体に慣れてきており、動きが徐々に早くなっていく。

風操種と氷操種の二匹は姫華楓と殺そうと躍起になっているが、姫華楓をとらえることが出来ずにいる。その焦りから、二匹の動きは段々単調になっていき、姫華楓を余計とらえずらくなっていく。

そんな悪循環を風操種は感じ取っていた。どうにか打開しなければ、と頭を回転させるが、その思考に至るまでの時間が長すぎた。

 

「・・・これで後一匹だな」

 

そう言うと、姫華楓は氷操種の溝内を全力で殴打し、氷操種の意識を刈り取る。

ついに一匹になった風操種に残されていた手はたった一つだけであった。

 

そう判断するや否や、風操種は姫華楓から全力の逃走を試みる。

姫華楓は去っていく風躁種の後姿を見ながら、追跡の用意をする。

戦意を喪失した相手を追撃することは基本ない姫華楓だが、今回は話が別だった。

ウルフは集団で人間を襲い、食らう生物である。その認識を強くした今、姫華楓はこれ以上の被害が出る前に仕留め切ると決めていた。

一歩踏み出し、風躁種を追跡するため駆けだす直前、二つの音が姫華楓の耳に入ってきた。

 

「君!大丈夫でござるか⁉」

 

一つはいろはの声。姫華楓を見ながら心配そうな表情を向けている。

 

もう一つはウルフの遠吠えだ。

 

姫華楓がとっさに咆哮が聞こえた方向を見ると、かろうじて生きていた隕石種が遠吠えを上げている。

その様子を見た姫華楓は隕石種との距離を一瞬で詰め、止めを刺す。

しかし隕石の生成はすでに始まっており、それを見た姫華楓は、隕石を掴んで風躁種に投げつけようと考えていた。

 

生成された隕石はまっすぐいろはに向かって落下を始めた。

 

「なっ⁉」

「えっ?」

 

姫華楓はとっさにいろはの元まで移動すると、翼を大きく広げていろはと自分を包み込む。

翼でいろはを包んだ瞬間、翼に衝撃が走る。

間一髪のところで防御は間に合い、姫華楓の翼が少し焦げる程度の被害で済み、姫華楓は安堵の息を吐く。

いろはは守られたことを理解し、お礼を言おうとするが、翼から煙が出ているのを見てしまい、心配の声が出てしまう。

 

「あ、ありがとう・・・、って!翼!大丈夫でござるか⁉」

「・・・ん?ああ、少し焦げた程度だ。たいした傷じゃない。あんたと比べれば軽傷だ」

 

実際、かすり傷程度しか外傷がない姫華楓と違い、いろはの方は噛み傷や打撲跡が目立っており、かなりの重症であるように見える。

 

「・・・少し待ってろ」

 

姫華楓はそう言うと、翼を大きく広げ空を飛ぶ。

空から周囲を見渡すと、先ほどまでいた大量のウルフたちは姿を消しており、風躁種の姿もどこにも見えない。

逃がしたことを後悔しつつ、いろはの怪我を治療することが先決だと考え、休める場所がないかあたりを見渡す。

近くに洞窟を発見した姫華楓は、いろはの横に降り、声をかける。

 

「こっちの方向に洞窟があるのを見つけた。そこであれば手当もしやすいだろう。・・・そこまで動けるか?」

「ん~、ちょっと距離が遠いでござるけど・・・。問題ないでござる!道案内を頼んでもいいでござるか?」

 

姫華楓は頷きながら、いろはの様子を見る。

いろはの顔色は大分悪く、無理をしているようにも見える。

そう判断した姫華楓は、いろはが背中に背負ってる刀を奪うと腰に着ける。

いろはは姫華楓の突然の行動に呆気にとられるも、自身を思っての行動だと悟り、無抵抗なままでいた。

 

まあ、次の展開は予想していなかったらしいが。

姫華楓は刀をしっかり固定した後、いろはをお姫様抱っこの形で抱え上げる。

予想外の行動にいろは思考が固まるが、状況を理解すると姫華楓に抗議の声を上げようとする。

 

「えぇ⁉ちょ、ちょっといきなり」

「口閉じてろ。舌、噛むぞ」

 

いろはの抗議の声を無視し、姫華楓は空に跳び上がる。

驚きの連続で思考が動かないいろはは、落ちないよう姫華楓にしがみつくことしかできなかった。

姫華楓は自身の胸あたりの服を掴むいろはを見て、胸にこみあげてくるものがあった。

それは尊いという感情であるのだが、姫華楓はその感情から目を背け、飛ぶことに集中する。

ほんの数秒間の飛翔であったが、いろはには永遠に等しい時間を味わった気分だった。後にいろははこの時のことを、紐無しバンジージャンプをしているみたいだったと語る・・・。

姫華楓は洞窟の前に着地すると、いろはを優しく足から降ろす。

いろはにとって、ほんの数秒間の飛翔体験だったが、地面に足をつけると安心感がこみあげてくる。

姫華楓はいろはが落ち着いたのを確認した後、洞窟の中に入っていく。

いろはも姫華楓の後をついていき、二人の姿は洞窟の中に消えていった。

 

 

 

 

 

「・・・止まれ」

 

姫華楓は鼻につく鉄の匂いを嗅ぎ取り、いろはに止まるよう指示を出す。

匂いに気づいていないいろはは、少し疑問に思うも、中の様子が見えたことで、姫華楓の言いたいことを理解した。

 

そこには小鬼―――俗に言うゴブリンの死体が転がっていた。

 

「・・・弓矢が頭に刺さっていることから、誰かがここで争ったみたいだな。数は・・・全部で十八匹か。・・・少し休んだらここを離れるぞ」

「・・・うん」

 

いろはは姫華楓の言葉に力なく返事をする。

姫華楓は特殊な家事情ゆえに、こういった光景には慣れているが、いろははそうはいかないだろう。

この世界は生存競争が激しく、こういった光景はこれからも見続けることになる。それを理解していたとしても、つい昨日まで平和な日常を送ってた人間にいきなり慣れろというのは、非常に酷だと言える。

そう考えた姫華楓は、翼をそれとなく広げ、いろはに気づかれないよう、彼女の視界を狭める。

そうやって奥まで歩いていき、二人は池を見つけた。

 

「ッ痛!」

「染みるかもしれないが、耐えてくれ」

 

傷口から菌が入らないよう、いろはの傷を洗おうと姫華楓は池の水を手ですくい、その水をいろはの傷口にかける。

いろはは痛みに一瞬顔を歪めるが、姫華楓の行動が正しいことを理解していたため、おとなしく痛みに耐える。

 

すると不思議なことに、水をかけた個所の傷に光る粒子が集まり、傷が一瞬でふさがった。

その光景に目を見張る二人。二人はこの池が特殊であるがゆえに、この場所で戦闘が起こったのだと考えた。

二人はこの場所にとどまり続けるのは危険だと判断し、いろはが完治次第ここを離れようと決めた。

この池の効力は非常に魅力的だが、戦闘が発生しやすいところに留まるのは危険だと判断したためだ。

姫華楓は池の水をかけ続け、いろはの傷はすぐに完治した。

いろはは少し体を動かし、どこにも異常がないことを確認すると、姫華楓と洞窟を出る。

二人は月明かりの下、これからのことを考えるのだった―――。

 

 

 

 

 

 

 

{逃げ出した変異種の末路}

 

―――その存在は焦っていた。

生まれながらにしての強者。絶対的とまでいかずとも、この世界でトップレベルの力を持っていると自負していた。・・・それが井の中の蛙だということも知らずに。

昨日、同じ仲間と狩りを行っていたところ、翼をはやした男によって狩りが失敗どころか仲間の大部分を失う羽目になった。

その存在は復讐を誓い、再び仲間を集おうとした。

現在の自身の群れは百匹程度。あの男と会う前と比べると二割にも満たない数であった。

必ず男を殺して食ってやる―――その存在はそう思いながら、三匹の手下を連れて狩りに出かける。

しばらく歩いていると、一人の男がこちらに近づいてくるのがわかった。

―――手始めに、その男を食ってやろう。その存在はそう思い、木の上からこちらを見下ろす緑色の目をした青年に攻撃を仕掛ける。

 

―――生き残った風操種がその後どうなったのかは、語るまでもないだろう

 

 

 

 

{???}

人は生まれながらにして、悪である

 

しかし、それでも私は信じたい

 

誰からも信用されぬ私だからこそ、人には可能性があるのだと信じたい

 

 

誰もが偽物の世界

本物などない世界

見た目も、性格も、言動も

そんな世界で、誰かが見た幻想を演じるしかない者たちは

 

 

手を取り合うことが出来るのだと

 

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