これは語られるはずのない物語   作:篠崎勇気

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新年、あけましておめでとうございます。
このような小説を読んでくださった皆様の一年が、良き一年になるよう心から祈っております。

と言う訳でお久しぶりです。約三ヵ月ぶりかな()。
いや違うんです。サボってたとかではないんです。
ただ、ゲームとか仕事とゲームとかの予定で書く暇がなかっただけ何です。
FGOの終章が終わっちゃったよ~。゚(゚´Д`゚)゚。

ってことで、今後は投稿ペース上げられるよう頑張っていきます。
そして今話以降キャラ崩壊(最早原型無)注意です()。


P.S
作者の今年のおみくじは凶だったぜ!
なんでや・・・


普段怒らない人ほど、怒るときは怖い・・・。え?怖くない?

巨人たちの群れを討伐し、その場から急いで離れた姫華楓といろはの二人は、雪原地帯を抜け、草原地帯を訪れていた。

正確言いうのなら、この場所は寒冷草原地帯であり、肌寒さの残る気候が再現されたエリアとなっている。

冷たい風が肌を撫で、いろはは思わず身震いする。

その様子を見た姫華楓は空を飛び、周囲を見渡して風が凌げそうな場所を探すが、小さな小屋くらいしか見つからなかった。っていや待て。

 

「風を凌ぐどころか安定した拠点になりそうだな。・・・まあ、争いにならなければ、だが」

 

姫華楓がこの世界に来てから三日目になるが、争いが起きない日というのがなかった。初日は狼の群れ、二日目は巨人の群れと、碌な目に遭っていないのが現状だ。

あの小屋もそう言った人外の拠点ではないかと考えると、戦闘を行う覚悟をしてから訪れたほうがよさそうだ。

そう考えた姫華楓は、いろはの隣に降り立つと、小さく震えているいろはに自身の考えを打ち明ける。

 

「近くに小屋を見つけた。敵がいる可能性は否定できないが、安定した拠点を手に入れられるかもしれない」

「小屋を拠点にするってこと?」

「ああ。拠点ができれば取れる行動も多くなるしな。と言う訳で、今から小屋が使えるか見てくる」

「待って」

 

即座に行動に移ろうとする姫華楓に、いろはは待ったをかける。

姫華楓が何故と言う表情をすると、いろはが答えを返す。

 

「風真も行くでござる」

「・・・いや、いろははここで待ってた方が」

「姫華楓殿。一人で背負おうとする姿は姫華楓殿の・・・いや、姫華楓君の良いところだけど、悪いところでもあるよ。少しは頼ってくれた方が、風真としても・・・いや、『私』としてもうれしいんだよ?」

 

いろはの真剣なまなざしに、姫華楓は一瞬躊躇する。

しばらく考えた結果、説得は不可能であるという結論に達した姫華楓は、せめての条件を一つ設定することで、いろはの動向を認める。

 

「・・・分かった。けど、自分の身の安全を最優先に考えること。これだけは譲る気はない」

「うん。姫華楓君も風真のことは気にしないで、自分の身の安全を考えてね」

 

姫華楓がいろはの言葉に頷くと、いろはも少し安心したという表情を浮かべる。

二人は警戒心を最大まで上げると、一斉に小屋まで走る。

そうなった場合、圧倒的な速度で走れる姫華楓が真っ先に小屋にたどり着くわけであり、小屋にたどり着いた姫華楓は、中に気配があることを確認する。

 

「いくか・・・。スゥゥゥ」

 

姫華楓は扉に手をかけると、思いっきり息を吸い、出来る限り大きな声で小屋の中にいる人物に声をかける。

 

「御用改めである!直ちに武装を解除し、おとなしく縄につけぇぇぇええ‼」

「イヤァァァァァァァァァアアアアアア⁉」

「いや中にいる人が敵と決まったわけじゃないよぉぉぉおおお⁉」

 

とんでもない馬鹿をやらかす姫華楓に、いろはが全力のツッコミをする。

中にいる人が敵でない場合、完全に怯えられるだろうが、そんなことは知ったことかと言わんばかりの表情をする姫華楓。ちなみに姫華楓は基本脳筋の部類ではあるが、こんなバカをやらかすほどではない。しかし、先ほどのいろはの発言により、ちょっとテンションが上がっていたため、こんなアホをやらかしたのである。

何一つ悪びれる様子のない姫華楓にあきれつつ、中から聞こえてきた声の主を探し始めるいろは。

いろはは声の主であろう人物をすぐに発見することに成功するが、その人物は完全に姫華楓に怯えきっており、物陰に隠れてビクビクしている。

いろはにとってあまりにも見覚えがありすぎる桃色の尻尾をした少女は、その特徴的な桃色の耳を両手で抑えながら、食器棚の陰に身を縮こまらせて隠れていた。

その少女の姿を見たいろはは、一人の仲間を彷彿とさせ、半信半疑で少女に尋ねる。

 

「え・・・、もしかしてこよちゃん?」

「いやぁぁぁ・・・。え、その声。もしかしていろはちゃん?」

 

全身桃色の獣人の少女———こよりは、いろはの姿を確認すると、安心のあまり泣き出してしまう。

 

「うえええぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええええん!」

「おーよしよし、怖かったね~。大丈夫だよ~」

 

いろはは泣き出したこよりを胸に抱きしめ、その頭を優しくなでながら、キッとした表情で姫華楓を睨む。

まさかの知り合いだと思っていなかった姫華楓は、やってしまったという罪悪感と、こちらを睨むいろはに対するちょっとした恐怖で、おろおろとするしかなかった。

そんな状態が五分ほど続き、泣き止んだこよりがいろはの後ろに隠れながら、姫華楓に問う。

 

「えっと・・・。その男の人は誰?」

「ああ、俺の名前は柊姫華楓だ。わけあっていろはと行動を共にしている。そして申し訳ありませんでした」

 

こよりに自己紹介をした姫華楓は、そのまま土下座をかまし、完全におびえさせてしまったこよりに謝罪をする。

こよりは姫華楓の行動に一瞬肩を跳ねさせるも、姫華楓に自己紹介を行う。

 

「こよの名前は博衣こよりって言います・・・。知ってくれてると嬉しいんだけど」

「あ~、そのあたりを姫華楓君に期待しても無駄だよ。姫華楓君はスマホすら持っていな人だから」

「え、それってホントに現代人?タイムトラベラーだったりしない?」

「れっきとした現代人でございます。ちょいと生まれが特殊なのは否定しないが」

 

そんな茶番を繰り広げていると、だんだんと警戒心が解けてきたのか、徐々にいろはの陰から出てくるこより。

その様子を見た姫華楓は、もうそろそろいいだろうと考え立ち上がろうとするが、それをいろはの一言が遮る。

 

「あ、姫華楓君。後一時間はそのままね」

「あ、はい」

「いろはちゃんがなんか怖い・・・」

 

その後本当に一時間ほど正座させられた姫華楓であった。

 

 

 

 

「さて、これからどうするでござるか?」

 

姫華楓の正座の刑が解かれた後、これからの方針を決めるために、三人は話し合いを行う。

ここがどういう場所なのかわからない状態なので、情報を集める必要があるというのが三人の共通見解であるが、どこに何があるかわからない以上、どこに行けば情報が手に入るのか、皆目見当もつかない。

しかし、闇雲に探しても何も見つからないというのは十分にあり得る。ゆえにある程度の方針を絡めたほうがいいという考えの元、作戦会議が行われたわけなのだが。

 

「・・・とりあえず、歩き回るしかなくないか?どこに何があるかわからないんだから」

「「そうだよねー」」

 

闇雲に探すしか考えが思いつかない一同。何のための作戦会議なんだろう?

もはや作戦会議の時間が無駄だと思われていたが、ふと思い出したかのように、こよりが二人に話し始める。

 

「そう言えばなんだけど、ここにはあんまり長くいないほうがいいよ。たまにおっかないのが来るからね」

「おっかないもの・・・?」

 

こよりの言葉に首を傾げて答える姫華楓。姫華楓といろはは、最初に出会ったウルフや巨人たちのことを言っているのかと考えたが、その後のこよりの言葉に認識を改める。

 

「こう・・・すっごい大きい羊?でね?一歩歩くごとに地震が起きたかのような地響きを起こすの。その羊を、中型くらいの大きさのワンちゃんたちが二十匹くらいで襲い掛かってたんだけど、その羊に生えてた毛が、急にすごいスピードでそのワンちゃんたちをやっつけちゃったんだ。」

 

こよりの言うワンちゃんとは、姫華楓達が戦ったウルフで間違いないだろう。姫華楓といろはの二人はそう考えたが、実際には異なる。

それを後ほど知ることになるのだが・・・今は置いておこう。

自身に生えている体毛の一つ一つを武器とし、ただ歩くだけで地響きを起こす巨大な羊。にわかには信じがたい生物だが、姫華楓達がこれまで出会ってきた生物たちのことを考えると、ありえない話ではないのだろう。

姫華楓はそう考え、ふと疑問に思ったことをこよりに尋ねる。

 

「すごい大きい羊と言っていたが、こよりはそいつを直接見たのか?だとしたらどれくらいの大きさなのかわかるか?」

「んーとね、この小屋の窓からだけど、一応見たことには見たよ?大きさは・・・頭のてっぺんがスカイツリーの半分くらいかな?」

「・・・えっと、こよちゃん?そのスカイツリーって、東京スカイツリーであってる?」

 

いろはの言葉に、首を縦に振ってこたえるこより。

東京スカイツリーの高さは634mであり、それほどの半分ほどの高さがあるのなら、体長は500m以上あるという大怪獣になる。

世界最大の生物とされているシロナガスクジラが全長50m程度であるのに対し、その羊の大きさはそれ以上どころか、十匹並べてようやく同等くらいの大きさ。測ったわけでないため、実際にはそれ以下の可能性も十分に考えられるが、

 

「・・・なるほどな」

「姫華楓君、ステイ」

 

話を聞いた姫華楓は、その羊を一目見てみたいという気持ちに駆られたが、それを一瞬で見破ったいろはによって、事前に釘を刺される。

釘を刺された姫華楓はおとなしくその場に正座する。何故正座した?

その様子を見たこよりは、自身が思った感想を率直に口にする。

 

「いろはちゃんと姫華楓君って仲いいんだね」

「ん?そうか?」

「まあ、なんだかんだお互いに命預けて一緒に戦った仲だしね」

「言われてみりゃそうか。戦友ってやつだな」

「一応こよ達アイドルなんだけど・・・。なんか姫華楓君って変わってるね」

 

アイドルを戦友扱いする姫華楓。そんな感覚で彼女たちと接しているのはこの世でこいつ一人なのでは?

ちなみにいろはは、戦友扱いされたことに一切の不満がないどころか、ちょっぴり嬉しそうにしている。

いろははコホンと一息入れると、自身の考えを二人に言う。

 

「そうなると長居は危険でござるな~。こよちゃんの言う通り、はやめにここをでたほうがいいでござる」

 

二人の意見を聞いた姫華楓は、思案する。

こよりの見た怪物がどれほどの強さなのかはわからないが、限りなく低く見積もっても先ほど戦った巨人の群れ以上であることは確実だろうと姫華楓は考える。

巨人たちの戦闘力はかなり高く、いろはがいなければ姫華楓自身がやられていたことは明白である。

だが、その戦闘力が高い巨人たちが群れを成しているということは、巨人たちですらこの世界を生き抜くのに群れを成す必要があるということであり、その時点で群れを成すことなくただの一匹でそこらを歩く巨大な羊は、その巨人の群れに襲われても返り討ちにできるほどの実力を秘めていると推測できる。

謎の巨大羊について、姫華楓は脳内でそう結論を出す。

 

「・・・そうだな。確かに『今は』逃げに徹したほうがいいか」

 

姫華楓の結論を聞いた二人は、ほとんど同時に首を縦に振る。

いろはは姫華楓の言葉に一瞬、何か含みを感じたが、今は考えないことにした。

 

「・・・さて、なるべく早くここを離れるということに異存はないが、問題はどこに行くかという点だな」

 

姫華楓の言葉に二人は言葉を詰まらせる。

現状、この世界?の地図は全くと言っていいほど埋まっていない。

姫華楓の脳内で理解できている事は、森、山、雪、そして草原と全く持って関連性のない環境が隣合わせで存在しているという現実ではありえないということだけである。

自分一人で考えていても答えが出ないと考えた姫華楓は、二人(と言うよりこよりに対し)情報の共有を行う。

 

「・・・つまり、この世界は現実じゃない可能性が高く、いわゆる『異世界召還』の可能性が高いって姫華楓君は言うんだね?」

「本当に異世界召還だとするのなら、いろいろ違和感が多いがな。だが、現状ではそれ以外に説明がつかないと判断する」

「確かに、姫華楓君やこよちゃんの二人って、いわゆるファンタジーな種族みたいだしね!って考えると『転生』って可能性のほうが高いのかも」

「俺死んだ記憶ないんだが・・・。と言うより二人がそろってここにいることからその可能性は低いだろう。どちらかと言うと、『召還』の際に『チート』として臨んだ姿を手に入れたとかのほうがあり得そうだが・・・。いや、俺の場合望んだ姿だと現実の姿になるから、『自分の持つアバターの姿』が全員に渡されていると考えたほうがいいか」

 

少し話題がずれているが、三人はそのことに気づかず、雑談を続ける。

結局、今後の方針が決まったころには日がすっかり暮れてしまい、出発を明日にする方針となったのだった———。

 

 

 

「それで、アンタはどっちだと思うの?」

「唐突な質問に驚きを隠せないんだが、君って俺のこと嫌いじゃなかったっけ?」

 

いろはと姫華楓の二人が無事、こよりと合流したことを確認した青年と少女———、『獅子原和樹』と『星街すいせい』の二人はリンゴをかじりながらそんな会話をする。

え?そんなあっさり二人の正体を明かしていいのかって?いや、分かり切った結論をいつまでも後に引っ張る必要はなくない?

っと、そんなメタい話は置いとくとして、二人は焚火を囲みながら雑談を続ける。

 

「・・・そうだけど、今は二人しかいないからしょうがないじゃん。少なくとも、アンタの考えることは結構当たるっていうのは、これまでの経験で分かってるし、こういう質問に嘘で答えることはしないっていうのも分かってるしね」

「いや、こんな雑談で嘘ついてどうすんの・・・。いつまでも気を張ってると疲れちゃうよ?たまにはのんびりしないと」

「アンタの前で気を抜くことだけは絶対しない。何されるかわかったもんじゃないし」

「何もするわけないだろ・・・。んで、さっきの質問に戻るが、俺としてはどちらでもないが結論かなぁ」

「・・・つまり、ここは現実だと言いたいの?」

「んにゃ?俺の予想では『現実に存在する物語』を再現した空間・・・、いわゆるゲームの中のようなものって考えてる」

 

そう、ここはあまりに作り物と言う感覚が強いのである。

全くと言っていいほど無関係な土地が隣り合わせで存在するし、空想のような生物が跋扈する世界。森の中は自然豊かな生態系が成り立ち、山の中は木一つ生えない不毛の地、そして雪原では雪が降り続け、草原では少し冷たい風が常に吹いている。

まさしくゲームの中と表現するのが正しいだろう。

和樹の発言に少し眉を顰めつつ、すいせいは尋ねる。

 

「・・・つまり私たちはゲームの中の住人じゃないかってこと?」

 

すいせいの言葉に少し笑いが漏れる。

こちらを睨むすいせいに対し、悪いと声をかけつつ、言葉を返す。

 

「悪ぃ、悪ぃ。その発想はなかったなって思っただけさ。俺が考えてたのはここが仮想世界・・・いわゆる『VR』で作られた空間なんじゃないかってことさ」

「『VR』ね。そう言えば、一時期話題になってたっけ。ついに人類はフルダイブ技術を手に入れたって。けど、実用化するには後十年は必要とか言われてなかったっけ?」

「・・・え、何それ。初耳なんだが」

 

え?うそやろ?そんな発表いつされてた?

 

「え?ほんの一月ほど前に発表されてたじゃん。ネット界隈とかもお祭り騒ぎだったじゃん。ついにS〇Oの時代が訪れたんだって」

「リアルデスゲームだけは勘弁してほしいけどな。・・・いや、ある意味今の俺らってリアルデスゲームやってるようなもんか。先月ってことは二月くらいか」

「え?先月は8月だよ?」

「は?」

 

すいせいの発言に思わず思考がフリーズする。

数秒間固まった後、脳内で出た結論に顔が青ざめる思いがする。

そんな表情を察したのか、『彼女』はこちらを見ながら、珍しく心配そうな表情を浮かべる。

 

「どうしたの?ボケでも来た?」

「俺はまだ十九だっつうの・・・。まだ酒飲めないのに、そんな早くボケが来てたまるか。ってそんなことより重要な質問だ。『今日は何日だ?』」

 

現在の日付はきっちり覚えている。

記憶が正しければ今日は2026年3月7日であるはず———。

 

「んーと、2028年9月25日じゃない?」

 

———確定だ。

少なくとも和希、又はすいせいのどちらかが、記憶を操作されている。

記憶を消されたのか、あるいはない記憶を植え付けられたのかはわからないが、『記憶』に干渉していると言うことが、今のすいせいの発言で確定する。

ということは今ここにいる自分が本当の自分なのかにすら疑問がわいてくる。意識のみを複製された、『クローン人間』のようなもの、あるいは『ないはずの過去を持つ人工知能』の可能性も———。

 

そこまで考えて、思考を一度中止する。

和樹にとって、今いる自分が本物なのかは考えることではないのだ。

少なくとも、今ここにいる『俺』は本物だ。たとえそれが、最初から偽りだらけの存在だとしても———。

 

「ねえ?一人で考え込むのはやめて欲しいんだけど」

 

すいせいの言葉でいつの間にか沈んでいた思考が浮上する。

頭を軽く左右に振って、余計な思考を追い払うとすいせいに向きなおる。

こちらを見るすいせいの瞳にはわずかな心配の感情が見える。和希に脅されてここにいるのにも関わらず、脅した人間を心配するなんて、どこまでお人好しなんだろう。

 

「ああ、悪ぃ。ちょいとここに来るまでの光景を振り返ってたところだ。そういや、今年は2028年だったなー。大学に入ってから曜日感覚どころか、何年なのかすら忘れちまってたか」

「しっかりしてよね。あんたみたいなろくでなしでも、いなくなったりするのは嫌だから」

「・・・え?」

 

なんか好感度高くね?あれか?ストックホルム症候群ってやつか?

ストックホルム症候群とは誘拐や監禁、虐待などの極限状況下で、被害者が加害者に対して好意や共感、信頼といった肯定的な感情を抱き、さらには加害者を擁護するようになる心理現象のことであるが、まさに今ピッタリな状況かもしれない。

 

「・・・なんか変な勘違いしてそうだから言っておくけど、アンタの寝言を聞いちゃったってだけ。だからストックなんちゃらとかは違うからね?」

「え、いつから俺の思考読めるようになったん?つうか寝言って何?俺、変なこと言ってなかったよね?」

「アンタ———いや、獅子原君の目的をはっきり口に出してたよ?最初から言ってくれれば協力したってのに」

「うっそだろおい」

 

自分の最終目的を寝言で言ってたん?管理意識低すぎない?

頭を抱えているとこちらを見るすいせいが、少し罰が悪そうな顔をする。

 

「・・・まあ、ちょこっと能力の応用で吐かせたって感じだけどね」

「あれ?すいせいの能力って確か」

 

聞かされている話では、すいせいの能力はそんなことは出来ないはずだが?

そんな風に思っていると、すいせいは驚きの発言をする。

 

「・・・あれ、うそ」

「うっそだろお前!あの状況で平然と俺に嘘ついたん⁉」

 

よくあの状況で嘘をつけたな⁉図太い神経してんだ⁉

そんなことを考えていると、すいせいが耳をふさぎながら、頭を左右に振る。

 

「あー!あー!聞こえなーい!もうすいちゃんは寝るもんね!おやすみ!」

 

そう言うとすいせいは持っていた斧を枕替わりにし、そのまま寝息を立てる。

あまりもの変わり身の早さに少し茫然とするも、仕方ないかと意識を切り替え、ふと気づいたことを口にする。

 

「・・・今日の見張りはすいせいが先って話だったろ・・・」

 

俺の声は誰の耳にも届くことなく風に流されていった・・・。

 

 

 

「さーて!二人とも!準備はいいでござるか!」

 

久しぶりにきちんとした睡眠をとれたいろはは二人を見ながら元気いっぱいにそう言う。

反対に少し寝不足気味なこよりと、寝起きゆえに思考が回っていない姫華楓がいろはに答える。

 

「おー」

「こよも大丈夫だよ。・・・ふゎぁぁ」

「姫華楓君はともかく、こよちゃんは寝不足かな?昨日は寝れなかったの?」

 

いろはの言葉に少し言いづらそうに姫華楓を見るこより。

こよりの視線の意味を一瞬で理解したいろはは、こよりを安心させるために、優しい声で言う。

 

「大丈夫だよ。姫華楓君はああ見えて、結構優しいから。一緒に寝てても襲ってきたりしないって」

「いや、姫華楓君のいびきがうるさくて寝れなかっただけなんだけど」

 

訂正、いろはは何も理解していなかった。どうやら姫華楓のいびきはうるさいらしい。その状態で平然と寝れるいろはもだいぶ凄いが。

こよりの言葉を聞いた姫華楓は、思考が半分も回っていない状態でありながら、自分が悪いということだけは理解していたらしく、謝罪の言葉を口にする。

 

「ん?悪い。今度からはなるべく離れて寝ることにするわ」

「いや、そこまでしなくてもいいんだけど・・・。ちょっと待って」

 

そう言うとこよりは、周囲を見渡し、一本の木を差しながら姫華楓に頼みごとをする。

 

「あの木の枝を一本持ってきてほしいかな。いろはちゃんは刀で枝を小さく切ってほしいんだけど」

「なるほど。即席の耳栓を作るのでござるな?けど、衛生面的に大丈夫でござる?」

「確かにそれは重要だな。病院とかもないわけだし、変な病気にかかったら治しようがないかもしれん。やっぱり俺が距離を取った方がいいだろう」

 

睡眠の質を上げるという意味ではこよりの言うことが正しいと思われるが、いろはたちの言うことは最もであるため、一時的にではあるが、こよりと姫華楓の距離を離してなることで解決を図ってみる方針となった。

姫華楓はそんな話し合いをしている最中に目が覚めたらしく、軽く全身を伸ばしてほぐすと、いろはたちに進言する。

 

「さて、とりあえずの方針として、安全な場所を見つけるために、森を右手にひたすら歩き続けるという方針でいいな?」

 

姫華楓の言葉にしっかりと頷く二人。

二人の同意を得た姫華楓は、一瞬だけ森の方へと視線を飛ばすと、何事もなかったかのように翼を広げ、二人に向かって言う。

 

「いろははわかっていると思うが、ここが未知の世界である以上、戦闘が避けられない事態になることも多いだろう。そうなった場合、こより、君は臆さずに戦うことが出来るか?」

「・・・正直、怖いから戦いたくなんてないよ?ゲームとかと違って、負けたら本当に死んじゃうんだし。けど、二人が戦うって言ってるのに、一人で逃げたくはない」

 

こよりのまっすぐな瞳を見た姫華楓は、大丈夫と確信を終えた後、森の方に向き直り、いろはとこよりその二人と、こそこそ隠れてこちらを監視し続けていた人物に話しかける。

 

「分かった。なら二人に悲報だが、さっそく戦わないといけない場面が来たらしい。なぁ?ずっと俺達の後をつけていた誰かさんよ?」

 

姫華楓の視線がまっすぐ森に刺さり、そこにいる人影をじっと見つめる。

ずっとつけられていたことに気づいてていなかった二人は、目を丸くしながら、戦闘態勢を取り、いつでも仕掛けられる準備をする。

姫華楓は相手が格上であった場合、二人だけでも苦られるよう準備をしながら、物陰の人物の動きを待った。

 

 

 

「普通にばれてるじゃん」

 

いきなりこちらに向かって語り掛けてきた姫華楓の言葉に、攻めるような視線をこちらに向けながらすいせいはそう言う。

両手で頭を抱えながら、すいせいの言葉に反論を行う。

 

「いや結構な距離を取ってたはずなんだが?いつ気づいたんだ?って、あの時だよなぁ」

「あの時っていつ?」

「アイツらに手を貸したとき」

 

姫華楓といろはが巨人たちと戦っている最中、すいせいは石を投擲することで二人の援護をしていた。

当然、ただの人間であるすいせいの投擲なんぞ巨人たちの皮膚を貫くどころか薄皮一枚だって破くことは出来ない。それは同じ人間であるいろはも同じである。すいせいが援護できた理由はすいせいが持つ能力、そして和希が持つ能力を組み合わせた結果だ。対し、いろはが持つ能力は明らかに近接戦闘のみに特化したものであり、遠距離から巨人の頭部を吹き飛ばすなんて芸当はできない。

巨人たちに囲まれていた姫華楓を救うため、とっさの判断で最も厄介な盾持の頭部を吹き飛ばしたが、どうやらそれが原因で気づかれたらしい。

 

「それで?どうするの?」

 

すいせいの言葉に少し思案した後、一つ目の案を上げる。

 

「Situation1.このまま距離をとる。多分追っかけてくるから逃げられないだろうし、逃げ切ったとしても、アイツらの警戒心を上げるだけで何の意味もない」

「じゃあだめじゃん!」

 

そりゃそうだ。とりあえずの案として挙げただけなんだから。

ゴホンとわざとらしく一息ついた後、二つ目の案を上げる。

 

「Situation2.ザ悪役って感じでアイツらの前に出てみる。十中八九戦闘になるだろうし、万が一にも勝ち目なさそう」

「碌な案が出てこないんだけど⁉普通に出てくのじゃダメなの?」

「インパクトが足りない」

「そんな理由⁉」

 

ギャアギャアと二人であーでもないこーでもないと話していると、会話がすべて筒抜けだったらしく、姫華楓が声をかけてくる。

 

「あー、とりあえず、インパクトとかどうでもいいから出てきてくれないか?悪い奴らでないことだけはわかったから」

 

姫華楓の言葉を聞いた後、二人で顔を見合わせ、トボトボと言った効果音が聞こえてきそうな足取りで、三人の前に出る。

こちらを———、いや、正確にはすいせいを見て驚いているいろはとこよりの二人をしり目に、和樹は天高く人差し指を突き上げながら自己紹介を行う。

 

「俺の名前はナ〇キ・スバル!天下不滅の———」

「そんなところでボケんでいい!」

 

鋭いすいせいのツッコミの後、和樹の後頭部に凄まじい衝撃が走り、画面から地面に倒れ伏す。

薄れゆく意識の中、このネタがわかっていないのか、ポカンとした表情の姫華楓が視界に入ったのが見える。

 

———これ絶対能力使って殴ってるよな?

 

そんなことを思いながら、俺の意識は暗転する。

 

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