これは語られるはずのない物語   作:篠崎勇気

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ノリノリで書いていましたが、後半は少々お目汚しな描写が入ります。
と言ってもグロいとかではなく、ちょいと世間一般には受け入れられない考え方と言いますか・・・。
そんなわけで少し覚悟して読んでいただけると幸いです。


コミュニケーションに大事なのはボケとツッコミ!

突然体を襲う衝撃によって、和希は目を覚ます。

すいせいの容赦ないツッコミにより、一時的に気を失っていたことを思い出すと、一度体を起こそうとし、一切体が動かないことに少し驚く。

視線を下に向けてみると、身じろぎ一つできないようしっかりと縛られた状態で体が板のような何かで固定されているらしく、まさにはりつけにされているかのような気分になる。

時よりいた全体に衝撃が走ることから、馬車の荷台のような場所で床に縛り付けられていることを理解する。意外と安定感があり、体を縛る紐も痛みが出るほど強く拘束されているわけではないので、なるようになれという気分で二度寝をしようと目を閉じる。

 

「って、寝るなー!」

 

耳元で聞こえる大きな声を聴きながら、心底疲れたかのような声で、和希は声をかけてきた少女———星街すいせいに言葉を返す。

 

「二度寝こそ至高也。故に我二度寝とする」

「ならそのまま永眠する?」

 

上の方、っといっても横たわっている状態なので物理的に上にいるわけではないが、そちらから聞こえてきた声に、首を上にあげながら答える。

 

「そいつは勘弁。んで、起きたからこの紐解いてくれん?・・・と言うかなんで縛られてるの俺」

「それはですね、すいせい先輩が『これは雑に扱っても構わない人間だから、貼り付けにして持ってこう』って言ったからでして」

「あとで覚えとけよすいせい・・・。んじゃあ、目を覚ましたから解いてくれ。身動き一つとれん」

「今戦闘中でござるから、少し待つでござる」

「なるほど戦闘中か。それなら仕方ないかって⁉」

 

急いで周囲を見渡すと、そこは埃が舞う廃れたビル群が並ぶ、まさに世紀末と言った感じの場所であり、自分たちを囲うように周囲にゾンビの群れがいることに気づく。

姫華楓が縦横無尽に飛び回り、一息の間に数十匹を吹き飛ばし、接近してきた個体を和希が縛られている荷車の左右に乗っていたいろはとすいせいの二人が倒し、和希の乗っている荷車をこよりが運んでいる。

 

「って!起きたらいきなりバイオハザード始まってるんだが⁉この状況だと縛られたままなの目っちゃ怖いんだが⁉」

「うるさいでござるよ、ナ〇キ殿!ナツ〇殿なら最悪死んでも大丈夫とすいせい先輩から聞いてるでござる!」

「誰が死に戻り系主人公だ!そんな便利・・・ではねえな。と言うか絶対にもらいたくない能力ランキングトップ三には入るな」

「何冷静にノリツッコミしてんの⁉ってそろそろ足が疲れたから、荷車引くの変わってほしんだけど~!」

「残念だが、それは不可能だ。いろはとすいせいでは荷車を引きながら走ることは無理。そして俺は見ての通り殲滅に専念しなければならない」

 

そう言いながらか姫華楓では翼を大きく広げて空を飛び、翼から落ちる羽を弾丸のように射出する。

およそ時速100㎞程度の速度で放たれる小さな羽が、瞬く間に数十匹のゾンビを蹴散らしていく。

最も、ゾンビの数が多すぎて焼け石に水程度だが。

こよりはヒイヒイ言いながらも懸命に足を動かし、荷車の左右に乗ったいろはとすいせいが、近づくゾンビを切ったり、潰したりして凌ぐ。

口ではふざけているが、実は結構余裕がないことを悟る和希。

走る速度と周囲の環境を素早く把握するために目とかすかに動く首を回す。

周囲を観察する中、200mほど先に交差点を見つけると、縛られた状態のまま指示を出す。

 

「こよりは速度を維持したまま次の交差点を右に曲がれ!そんで姫華楓は俺たちがターンする箇所に一枚だけ羽を落とせ!いろはとすいせいは振り落されないようしっかりつかまってろ!」

 

和希の指示を聞いた姫華楓達は一瞬顔をしかめるも、問いただす時間はないと判断し、即座に指示に従う。

すいせいは持っていた斧を大きく振ることで、周囲に纏まっていたゾンビの群れを一蹴し、いろはは刀を納刀した後、まとめて近くにいるゾンビを切り飛ばす。

姫華楓はいろはたちの周囲にいるゾンビの排除を優先しつつ、一枚だけ羽を交差点に飛ばし、こよりは急カーブの為に集中力を高める。

こよりが交差点に入ると、勢いよく交差点を右に曲がり、荷車がそのまま宙を舞いそうになる。

和希は必死に荷車につかまっているいろはとすいせい、そして姫華楓が飛ばした一枚の羽を確認すると、能力を使って姫華楓の羽を、自分を縛っている縄めがけて飛ばす。

少し調整をミスり、浅く頬の皮膚切ってしまったが、和希の狙い通り自由を得ることに成功する。そのまま左手で荷台を掴みつつ、いろはに噛みつこうとしたゾンビを、能力を使って押しつぶす。

こよりは全員が体制を整えられるよう、走る向きと荷車の傾きを調整し、それを理解した三人は素早く体制を整える。

こよりが安定した体制で走れるようになると、和希は荷車の周りを、能力を使用し『重く』する。

和希の能力である『重力操作』は名前の通り重力を操る能力だ。射程範囲は自身を中心とした10m程度であり、最大出力では、重力を三倍程度まで上げることが出来る。

この地に生きる生物たちにとって重力の三倍とは、『通常の速度が三分の一程度になる』と言ったものだが、元々新幹線並みのスピードで走る連中が相手だ。能力を使用したところで、『新幹線並みで迫ってきた生物が10m手前でそこらの路上を走る自動車並みのスピードに落ちた』程度の変化である。人間が持っていても特に意味がない能力だろう。

本来であれば先の通り、ほんの少し楽になるかな程度の能力ではあるのだが、ゾンビ相手には違うらしい。

和希の能力圏内に入ったゾンビ達は軒並み潰れ、大量の血を吹き出しながら絶命する。

よくよく考えれば当たり前なのだが、ゾンビ達はその性質上、耐久力がひどくもろいらしい。能力を使って敵の弱点を見ることが出来るいろは曰く『全身が弱点そのもの』らしいので、何の能力も持たない一般人でも唯一相手にできる敵と言えるだろう。最も一対一であるのならという話にはなるが。

体制を整え迎撃に入ろうとしたいろはとすいせいは、和希の能力でつぶれるゾンビの群れを見て、迎撃の構えを継続しながら和希に尋ねる。

 

「〇ツキ(仮)殿!その能力はいつまでもつでござるか⁉」

「持って五分と言ったところだ!それ以降の俺はただのイケメンになる!ってなんだその(仮)は⁉」

「つまりその間に安全地帯を見つければいいんだね⁉姫華楓くーん!周囲に身を隠せる建物とかない⁉」

「そのまま真っすぐ進んだところに学校と思わしき建物がある!幸い屋上には敵影は見えん!屋上まで突っ切って出入り口を封鎖してしまえば安心だろう!」

「なら最速で学校まで向かうね!みんなしっかりつかまっててよ!あ!ス〇ル君(偽)は能力を使ったままでいてね!」

「俺のボケをスルーした挙句、(仮)だの(偽)だの酷くねえか⁉」

「自分でふざけた自己紹介したからでしょ!ふざけてないで真面目にやれ!」

「アイアイサー!」

 

和希はそう言うと、自身の能力を発動させ、周囲のゾンビ達を押しつぶす。

ゾンビ達には知性がないらしく、目の前で仲間が潰されているのにもかかわらず、いろは達に襲い掛かり続ける。

和希は近づくゾンビを片っ端から潰し、たまに和希の能力を耐える個体はいろはとすいせいの二人が処理する。

こよりは学校に向かって全力で走り、姫華楓はいろは達に群がるゾンビ達を殲滅する。

そうして約三分後、目的としている学校にもう少しで到達できるというところまできた。

 

「ッて!学校の中にもゾンビが大量だよ⁉これじゃあ、中に入れないよ~⁉」

「問題ない!そいつの能力なら近づく奴らは全員無力化できる!」

「頼ってくれてるところ申し訳ないが、それはやめた方がいい。まず移動しながらこの能力を維持するのは無理だし、屋上まで能力を発動し続けることは困難極まる!」

「なら姫華楓君が〇ツキ殿を背負っていくのはどうであるか⁉」

「いや、それよりもっと単純なやり方があるぜ?」

 

そう言って和希はにやりと笑う。

その怪しげな笑顔を見たすいせいは、いやな予感がし、抗議の意を唱える。

 

「それって安全なんでしょうね⁉」

「(肉体の)安全面に関しては姫華楓君に任せるとしか言えん。まあ、正面突破よりはましだと断言するぞ」

「考える時間もなさそうでござるな・・・。姫華楓君!頼めるでござるか⁉」

「承った。俺は何をすればいい?」

「んじゃあ、こよりが荷台に飛び乗った瞬間、荷台を屋上めがけて放り投げてくれ」

「こよは荷台に飛び乗ればいいんだね!・・・って今なんて?」

「了解」

 

和希の言ったことをこの場の誰も理解できず、一瞬思考が真っ白に染まる。

姫華楓は深く考えず、固まったままのこよりを荷台に乗っけた後、全力でその荷台を上に乗った全員事屋上に放り投げる

 

「「「キャァァァァァァァァアアアアアア⁉」」」

「たのスィィィィィィィィィイイイイ‼」

 

いろは達は悲鳴を上げ、和希はこの状況を全力で楽しんだ。

安全バー無しのジェットコースターあるいはパラシュートなしでのバンジージャンプと言った状況とほぼ同じと考えれば、三人の悲鳴は当然と言える。

ちなみになぜこの例えをしたかと言うと、結果が同じだからである。

 

すなわち『他の人がいないと死ぬ』という点だ。

 

屋上にうまくたどり着くよう、和希は荷台にかかる重力を操作する。

と言っても、遠くまで投げ飛ばされないよう重力を強くしただけなのだが・・・。

きれいな放物線を描いて屋上に放り投げられた一同は、和希の絶妙な重力操作と、投げた直後、いろは達を通り越して屋上に着地した姫華楓によって、無事に着地することに成功する。

姫華楓は、両手と両翼を使って、落ちてくる四人を受け止めると、そのまま安全に地面に下ろす。もし姫華楓がいない場合、屋上に叩き付けられて獣人のこより以外はミンチになっていただろう。最も姫華楓がいないと地獄の荷台移動は実現しないのだが。

 

無事に目的地についた一同は、出入口の封鎖を始める。

と言っても、屋上に通じる唯一の道である階段を崩しただけだが。

姫華楓がいる以上、階段は敵が通ることしかない危険因子となったため、階段を崩し、二度と誰も通れないようにしたのだ。ちなみに崩したのはすいせいだったりする。

そうして安全を確保した後、これまでのことを整理するため、一同は話し合いを行うことにした。

 

「さて、すいせいの容赦なき一撃で自己紹介もできていなかったから、改めて・・・。俺の名は獅子原和希だ。気軽にかっちゃんとでも呼んでくれ」

「分かったでござる獅子原殿」

「・・・えっと気軽に———」

「分かったよ!獅子原君!」

「・・・えっと」

「獅子原、よろしく頼む」

「・・・あ、はい。よろしくお願いします」

「ざまーみろ」

 

どうやら初対面の印象が良くなかったらしく、かたくなにあだ名で呼ぼうとしない三人。

まあ、呼ばれたら呼ばれたで某アニメに登場する、爆発系幼馴染のあだ名と被るのでありがたいけど。

そんな風に見事なスルーをかまされた後、姫華楓も和希に自己紹介をする。

 

「俺は柊姫華楓だ。と言ってもずっと後をつけていた獅子原は知っているだろうがな」

「風真たちは・・・する必要あるでござる?すいせい先輩から聞いたでござるが、姫華楓君と違い、風真たちのことは知っていると聞いているでござる」

「まあ、ある程度知ってるから大丈夫よ~。と言ってもどこまで知ってるかというのも言いずらいから、ここは質問形式にしようか」

「質問形式だと?」

 

姫華楓の言葉に頷きを返す和希。

何故、と言いたそうな姫華楓の表情を見た和希は、理由を説明する。

 

「ぶっちゃけ、俺は全部をここでしゃべるつもりはない。特に俺の目的とかな。けど、君たちから信用を得るためには話さないわけにもいかないだろう。君たちが知りたがっている情報は開示し、俺の隠したい情報は隠匿する。だから質問形式で知りたがっていることを教えようってことさ。ちなみに質問権は一人二回までとしよう。一応安全は確保できたとはいえ、完璧ってわけでもないからね」

「なるほどな。質問の内容が隠匿したい情報である場合、質問権は一回消費になるのか?」

「ん~それだと俺の采配で全部の質問に答えないという選択が生まれるから、隠匿したい情報の場合は、質問権は消費されないってことにしよう。他に質問は?」

「ならその質問権を後に取っておくことは出来るのかな?」

「それは構わない。別にこれは強制ではないしね。正確に言うのなら、『俺が一切の虚偽を行わず、知っている情報を開示する』っていう権利なだけだしね。まあ、答えのない哲学的な質問については、俺の考えを開示するって形になるけど」

「なるほどでござる・・・。では一個目の質問をするでござるが、いいでござるか?」

「ほかに質問事項がないのであれば。・・・と言ってもなさそうだけどな」

 

和希の言葉に、姫華楓とこよりは同意を示す。

それを確認したいろはは、和希に一個目の質問をする。

 

「では、なぜ風真たちの後をつけていたでござるか?」

「その質問については一部回答を控えさせていただこうか。俺の目的に関わることなんでな。ただ、一つ誤解を解かせてもらうが、別に俺は君たちをつけていたわけではない」

「・・・?いや、あきらかにつけていただろう。俺が気づいたのは巨人たちとの戦闘後だったが、それより以前からつけていたのは間違いないだろう?」

 

和希の答えに納得のいかなかった姫華楓は、和希の言葉に反論する。

その姫華楓の言葉に、和希は頷きつつ言葉を続ける。

 

「ああ、君たちが狼たちと戦闘を行っていたところから後をつけていた。俺が言ってるのは、『姫華楓君達』をつけていたのではなく、『姫華楓君ただ一人』をつけていた。と言うことさ」

「・・・つまりこよといろはちゃんには一切興味はなかったってこと?」

「まあね。君たちの性格は何となくだが理解していたし、探る必要はないと判断した。だけど、そこの姫華楓君は話が別だ。全く知らない性格の人間が、圧倒的ともいえる実力を有している。姫華楓君をつけていたのは、その警戒心からってのが理由の一つになるね」

「なるほどな・・・。それ以外については言う気はないと?」

「いや?それ以外にも姫華楓君本人に興味を持ったってのも言えるね」

「?警戒心を抱いていたのに、興味を持ったのでござるか?」

「まあぶっちゃけ、最初の方でそこまで悪意を持った人間ではないと気付いているからねー。悪意を持った人間の場合、いろはちゃんが無事だとは思えなかったし。それにここにいる全員そうだと思うけど、この世界で目覚める前は普通の人間だったわけでしょ?それがいきなりあんな風に動けるとは思えなかったんよ」

 

和希の言葉に、すいせいとこよりの二人は静かにうなずきながら答える。

 

「確かにね~。こよも自分の力を制御するの大変だったもん」

「私も始めて能力を使った時はそうだったね」

「と言われても、使える者は使えるとしか言えないんだが」

「まあ、その理由は予想がついてるから大丈夫よ~。とまあ、そんな風に明らかに普通じゃない姫華楓君に興味を持ったってのが、二つ目の理由ね」

 

いろはは和希の言葉に頷きを返しつつ、先ほどの言葉について疑問に思ったことを告げる。

 

「その予想ってのは何でござる?」

「ん~。これに関しては黙秘を貫かせてもらおうかな~。プライバシーの配慮的な意味合いで」

「・・・そのプライバシーの配慮ってのは誰に対するものだ?」

「もちろん姫華楓君のよ~。リアルについての言及はされたくないっしょ?」

 

和希の答えに、姫華楓は首を横に振る。

そのことに和希は驚きつつも、言葉を続ける。

 

「いやいや、ネットリテラシーって知ってる?あんまりリアルの言及は避けるのがネットの使い方よ?」

「いや、ここはネットの世界じゃないから・・・。獅子原君の言うことは最もだと思うけど」

「だよな~すいせい。だがまあ、本人がいいっていうなら気にしないほうがいいか」

 

そう言うと和希は戦闘態勢を取りつつ、姫華楓について質問をする。

 

「んじゃあ、ここではっきりさせようか・・・。

 

———君は人を殺したことがある、又はそれに近いことをしたことがある人に育てられた、裏社会で生きている人間・・・でしょ?」

 

 

和希が質問をした瞬間、その場の空気が固まった。

事前にそのことを聞かされていたすいせいは、距離を取りつつもすぐ動けるよう斧に手を添え、こよりは大きく目を見開きながら、姫華楓の様子を確かめ、いろはは和希の質問が、姫華楓の侮辱と考え、怒りをその目に宿しながら和希を睨みつける。

そして、質問を受けた姫華楓は———

 

「ああ、その認識で相違ない」

 

平然とした表情で和希の質問を肯定した。

 

 

 

始まりは純粋な尊敬だった。

圧倒的な数の暴力。中心で必死に手に持った刀を振り回して対抗しようとする少女。

その現場を見ながら、俺は助けに行かなかった。

———いや、行けなかったというべきか。

情けなくも臆病な俺は、助けに行けば自分も死ぬという状況で動くことが出来ない人種だった。

当然だ。誰だって自分が大切だ。こんな状況で迷いもなく助けに行ける人間は、強迫観念にも似た何かの後押しを受けた人物、あるいは元から頭が少しおかしい人間だけだろう。

 

だから、迷いもなく助けに入ったその姿に希望を見た。

友がそうであったように、まるでそうすることが当たり前だと言わんばかりの精神に、素直に尊敬の念を抱いた。

自分のような普通の人間からは程遠い精神。まさしく、あんな風になれたらな、と言う見本。

救われたことのある自分だからこそ、その精神が本物であるということに気づいた。

彼であれば、と言う希望を抱かずにはいられなかった。

だから証明したかったんだ。

普通とは程遠い人に育てられた彼の『精神(ほんしつ)』は、素晴らしいものであると。

 

 

 

「やっぱりか。あまりにも慣れ過ぎているもんね、姫華楓君は」

「その様子だと、ほとんど確信を得ていたな?」

「感にも近いものだけどね~」

 

軽い口調をしながら笑う和希だが、警戒は未だに解いていない。

和希は明るい表情をしながらも、常に一人を視界から外さないようにする。

 

「ああ、勘違いしないでほしいんだけど、姫華楓君のことは信用してるよ?今の質問だって、攻めたりする意図は全くないしさ」

「なら、いつでも戦えるようにするのはおかしいのでは?動いた瞬間、問答無用でっていう風に見えるでござるよ。・・・すいせい先輩もでござるが」

 

いろはは姫華楓と和希の間に入りながら、そう告げる。

一瞬だけ悲しげな眼をすいせいに向けるも、その手は腰の刀から離さない。

そのいろはを見ながら、和希は笑いながら答える。

 

「そりゃあ、そうでしょ。俺は『姫華楓君と言う個人』を信用してるのであって、『姫華楓君の仲間である風真いろはちゃん』を信用してるわけじゃないからね?」

 

和希はそう言いながら、姫華楓から視線を外し、いろはの腰に目を配る。

いろはは和希の言葉が完全な予想外だったのか、口を小さく広げながら目を見開く。

その様子を見た和希は、口元に笑みを浮かべながら、追い打ちをかけるかのように言葉を続ける。

 

「あれ~?そんなに予想外だった?姫華楓君と一緒にいるからって、信用されているとでも思った?それとも、有名な自分を知ってれば信用するとでも思った?

 

———そんなわけないじゃん。偶像(アイドル)が本物なわけないんだからさ」

 

歪な笑みを浮かべながら、和希はそう言ってのける。

ねじ曲がった価値観を持つ和希は、世間一般の人からはこう呼ばれる。・・・超ドがつくほどの捻くれ者と。

侮蔑を含んだ和希の目に怯えながら、いろはは次に言う言葉を考えるが、何も思い浮かばず、下唇を噛む。

そんな息苦しい沈黙を破ったのは、なおも笑いながらいろはを・・・正確にはいろはとこよりを見る和希である。

 

「ああ、勘違いはしないでね?別に君たちのアンチとかではないし、君たちが嫌いだってわけでもないから。って、この二つは言ってる事ほぼ同じか。まあ、どうでもいいか」

 

心底どうでもいいと言いたげな和希の表情を見つつ、いろはは息苦しい思いをしながらも、和希に問いかける。

 

「・・・そうは見えないでござるな。風真を見る目には確かに『嫌悪』の感情が見えるでござる」

「そんなことないさ。むしろ尊敬までしてるよ。俺にはできないからね~。どうでもいい他人から好かれようと努力することはさ?」

「それはこよ達に対する侮辱と何が違うの?そんな風に思われたくて、アイドルをやってるわけじゃないんだけど」

「・・・まいったな。尊敬してるのは本当なんだが、それじゃあ侮蔑だと思われるのか」

 

少し苦笑交じりに和希はこよりの言葉にそう呟き返す。

正直な話、和希の価値観と言うのは世間の人たちからしたら到底受け入れないものだろう。と言うか、ネットとかで言ったら炎上する可能性が高い。

しかしそれを隠して生きることは出来ない。それくらい和希と言う人間は不器用だからだ。

 

一触即発の雰囲気が漂う中、突然動き出した一人の行動によって、その雰囲気が崩されることになる。

 

「ねえねえ?」

「ん?どうしたすいせ————い⁉」

 

拳骨である。慈悲なき・・・というか完全に自業自得なのだが、すいせいの一撃によって、和希は悶絶する。

すいせいの行動に一緒、いろはとこよりは呆けるが、和希の言葉によって我を取り戻すことに成功する。

 

「まあ、価値観は人それぞれと言うからな。とりあえず獅子原が言いたいことは何となく理解できた」

「・・・どういうことでござる?」

 

姫華楓の言葉に、いろはは首を傾げながら聞き返す。

こよりもいろはと同意見なようで、姫華楓に答えを求めるかのような表情をする。

その様子を見た姫華楓は、和希の行動の理由を説明するために口を開こうとするが、その口から言葉が飛び出すより前に、すいせいの言葉が耳に入る方が早かった。

 

「つまり獅子原君が言いたいのは、疑っているのはどちらともだってことだよ。私達がどんな人間かは直接自分で判断するし、私達も獅子原君のことを自分で判断しろってね。さっきの言葉は、『自分はどういう人間か』を分かりやすく伝えるためってところかな」

「・・・概ね、すいせいの言う通りだ。まあ、わざとらしい悪役口調なのは謎だが」

「まあその通りなんでけどさ・・・。というか脳筋の癖に意外とこっちの芯を見てくるね姫華楓君」

「取引とかで腹の探り合いは嫌と言うほどしてきたからな。いやでも相手の感情には敏感になるというものだ」

「という割合に、女心理解してねえよな?いや、女の子と付き合ったことがない俺が語れる立場ではないが」

「・・・?何の話だ?」

「OK。一回ぶん殴らせろ」

 

姫華楓に殴りかかろうとする和希をすいせいが羽交い絞めして止める。

和希の力で能力を使用したすいせいにかなう訳もなく、そのまま三人の見えない位置まで運ばれる。

 

「HANASE‼ふざけるなァァァァアアアア‼」

「ふざけてんのはアンタでしょ!いいからおとなしくこっち来なさい!」

 

まるで駄々をこねている子供を、無理やり連れて帰ろうとする母親の図であったと、のちに白衣こよりは語るのである。

 

 

 

「んで、本当の目的は?」

 

怒っているのかと思いきや、意外とそうでもないすいせいを見て、和希は違和感を覚える。

その和希の視線を知りつつも、すいせいは先ほど聞いたことの返答を待ち続ける。

互いに数秒見つめ合う形となったが、和希のほうが先に折れ、すいせいの質問に答える。

 

「・・・今後の為だよ。こういうタイプの人間がいれば、今後は見知らぬ人間に警戒するだろ?あいつらは俺たちが後をつけていたと知っても、普通に受け入れる気だった。そんな風に無警戒に人を集め続けていたら、集団は内側から崩壊し、大勢の被害を出す」

「そのために、わざわざ嫌われ役を演じて、疑心暗鬼にさせようってこと?こんな状況じゃあ、お互いを信じて助け合う必要があると思うんだけど」

「そりゃ俺も同意見だ。だが、信じ切った結果、死人を出すようなことになっては元も子もないということだ。お互いに生き残るための助け合いが、裏切り、互いを殺し合う結末になるなんて、ただの悲劇にしかならないだろ?」

「それはそうだけどさ・・・。もうちょっとやりかたをえらべないかな~って思うんだよね」

「残念だけど、俺はこのやり方しか知らないんでね。それにすいせいみたいに知ってくれている人がいるのなら、俺は別にいいと思ってるし」

 

和希はそう言いながら、校舎の下で未だにたむろっている大量の屍人を見る。

あれがどういう経緯で生まれたのかは知らないが、この世界で生きた人間の成れの果てなのだろうか。自分たちもあと一歩間違ったらあんな風になるのだろうと考えると、詩人富がこわばってくる。・・・最も、この世界の場合、普通にくわれてBAD ENDとかのほうが可能性は高そうだが。

そんな風に半ば現実逃避気味に思考を回していると、視界の端にそれをとらえる。

 

「・・・ところで、唐突に話は変わるんだが、すいせいたちはあいつらに噛まれたりしてないよな?」

「本当に唐突だね・・・。まあ、すいちゃん達は大丈夫だよ。あれに噛まれたら、仲間入りしちゃうかもしれないし」

「やっぱり思う?・・・こよりちゃんみたいな獣人が噛まれたら、どうなるんだろうね?」

「そりゃあ、もちろん。私達よりはるかに速いスピードで動き回るゾンビが誕生するんじゃない?・・・ってまさか!」

 

周囲にいる人間のゾンビを蹴散らしながら、それはまっすぐこっちに向かってきている。

姫華楓達と違って、ゾンビに噛まれても一切影響のないそれは、突然体をかがめると、一気に屋上まで跳躍してくる。

 

「———ぁ」

 

その行動を目にしたときにはもう遅く、それ———赤い髪色をした獣人型のゾンビは和希の肩に爪を食い込ませる。

油断大敵———その言葉を思い出しながら、和希の視界は腐臭漂う大きな口で覆われた。

 





一応補足程度に説明ですが、作者は風真いろはさんのこと嫌いじゃないですからね?
後別にアンチでもないです。
あくまで人の考え方って、みんな違っていてときに対立することもあるよねってだけなんで・・・。



まあ、和希君の思考って作者自身の思考回路と非常に似てるのは否定しませんけどね!

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