最近モチベが上がってきたので早めの投稿です!
次回は今月中に出せるといいな()
「和希!」
すいせいはとっさの判断により、和希の首に噛みつこうとしていたゾンビの獣人に対し、自身が持っていた斧を振るう。
すいせいの攻撃は間一髪と言うところで間に合い、ゾンビの獣人を大きく後退させる。
和希は自身の命をすいせいが救ったことを認識すると、少し驚いた表情し、すぐさま意識を切り替える。
「悪ぃ、助かった」
「今は向こうに集中」
短くお互いに言葉を交わすと、二人は視線をゾンビの獣人に合わせる。
吹き飛んだゾンビの獣人は空中でその身を一回転させると、屋上から落ちないための金網のフェンスに足裏を合わせ、凄まじいスピードで再び接近してくる。
和希は周囲の重力を増加させようとしたが、素早く動き回るゾンビの獣人を捉えることは不可能だと判断し、能力の使用を中断する。
和樹の『重力操作』は対象を選んで重力を増加させることが出来ない。
素早く動くゾンビの獣人に当てようとすれば、すいせいを巻き込むことになり、重力増加に耐えきれなかったゾンビ達は違い、すいせいは耐えれるだろうが、動けなくなるのは明らかであろう。
そして、今この場で動けなくなるのは死を意味する。
ゾンビの獣人———ビーストグールは瞬きの間に距離を詰めると、この場で最も弱いと判断した和希に狙いを定める。
そのことにすいせいが気づき、和希をかばう形で前に出る。
ビーストグールの鋭い爪がすいせいの斧と衝突し、互いの間に火花を散らせる。
能力によって身体を強化させたすいせいは、力づくでビーストグールを押し返そうとするが、その圧倒的な力によって、逆に自身が横に弾き飛ばされてしまう。
弾き飛ばされたすいせいは、そのままフェンスに衝突すると、床に倒れ動かなくなってしまう。
「すいせい!」
和希がとっさにそう叫ぶが、すいせいの体はピクリとも動くことはなかった。おそらく、フェンスに衝突した際、後頭部を強く打ってしまったのだろう。今すぐ治療しないと危険な可能性がある。
そう判断した和希は、周囲の重力を三倍にし、ビーストグールを押しつぶそうとする。
しかし、和希が能力を発動する前にビーストグールの腕が和希に振るわれ、和希は大きく吹っ飛ばされる。
吹き飛ばされた和希は、背後にあったコンクリートで作られた壁を陥没させ、その衝撃で内臓がいくつか破裂する。和希は口から込みあがってきた吐き気に逆らえず、その場にうずくまって吐血する。
ビーストグールが現れて、わずか五秒。すいせいと和希の二人はあっさりと敗北した。
これが人間と獣人の差だ。特殊能力を持っていたとしても、この世界での人間は他種族から見れば吹けば飛ぶような小さな埃に過ぎない。
それこそ、英雄と呼ばれるような強力な能力を持つ以外、人間は他種族に勝つ方法を持たない。
とある青年は、この世界でも下の中程度に入るウルフにすら、傷一つつけることが出来ない。
絶対的な壁、生まれ持った種族の差。
更に、ビーストグールは知性を失った代わりに、獣人が本来持つ身体能力をすべて活かすことが出来る存在だ。
生物が普通の状態で使える力は、全体の二~三割程度であり、それ以上は自身の身が持たない。獣人と言った他種族もこの例にもれず、身体能力にリミッターがかけられているが、ゾンビとなった存在にはそのリミッターがない。
既に死んだ身である彼らは、ただ朽ち果てていくしか未来がない存在であり、人や獣人などを食らうのはただの本能だ。
いくら他の生物を食らっても彼らは延命されることはなく、時間が経てばその身を維持できず、ただの肉片へと変わる。
ゆえに、自身が傷つくことに一切の躊躇がなく、本来の力を発揮することが出来る。
種族の差をさらに大きく開く絶対的な差は、五秒という結果で現れた。
本来であれば二人はこのまま何もできず、殺されていただろう。
二人でだけであれば、と言う話ではあるが。
「おい。お前、そこで何してる」
和希に向かって歩き始めたビーストグールに対し、すいせいが和希に対する攻撃を弾いた音を聞き、駆け付けた姫華楓はそう問いかける。
ビーストグールはその音が聞こえていないかのように、姫華楓を無視して和希に歩き続けるが、姫華楓はその無防備な体に横から蹴りを打ち込む。
ビーストグールは姫華楓の蹴りによって大きく吹き飛び、そのまま壁に激突すると、全身を破裂させ、壁一面の染みとなって絶命する。
ゾンビ化した存在は、身体能力が著しく上昇する代わりにひどく脆くなる。
最初のすいせいが和希に対する攻撃を弾くことでなく、ビーストグールの横っ腹に攻撃をたたきつけるという判断をしていれば、その場で決着がついただろう。最も、その場合は和希が死んでいたわけだが。
二人があっさり敗北した相手を一撃で片づけた姫華楓は、まず口から血を吐いている和希に呼びかける。
「おい!大丈夫か⁉」
「ガハッ‼ゴホッ‼ゴホッ‼・・・大丈夫とは言えねえ。ある程度予想していたが、まさかここまで何にも出来ねえとは・・・ゴホッ‼」
「とりあえず今はしゃべらないほうがいいな。すぐに治療する道具思って持ってこねえと‼」
和希の様子を見てすぐに治療しないとまずいと判断した姫華楓が周囲を見渡すと、姫華楓に遅れてこちらに来たいろはとこよりを見つける。
「ッ‼すいせい先輩‼」
「すいせい先輩‼獅子原君も‼」
いろはは意識がない状態で横たわるすいせいと、うずくまった状態で血を吐いている和希を見つけると、すぐさますいせいの元へ駆けつける。
対し、こよりは二人を見つけると、状況判断の為に先に来ていた姫華楓に声をかける。
「姫華楓君‼いったい何が起こったの⁉」
「そこで壁の染みになってるやつが二人を襲った。すいせいの方はまだ見てないからわからないが、獅子原の方は危険だ。絶えずに血を吐いているということは内臓が損傷している可能性が高い」
「ゴホッ‼・・・俺は最悪後回しでいい。すいせいのほうが重要だ」
「ッ‼そんなわけないじゃん‼どうにかして止血しないと‼」
こよりはそう言うと、姫華楓と同じようにあたりを見渡し、何かにかと探し始める。
そんなこよりの様子を見た和希は、心の中でお人好しめ、と悪態をつくと、その場で立ち上がろうとする。
その様子を見た姫華楓は、和希の傷に響かないよう細心の注意を払いながら、肩を貸して支える。
「悪ぃ、助かる」
「気にするな」
短いやり取りをした後、すいせいの様子を見るために、姫華楓はいろはに問いかける。
「いろは。すいせいは無事か?」
「・・・頭を強く打ってるけど、外傷はほとんどない。しばらくすれば目を覚ますと思うけど、目に見えない傷がないとは言えない」
「うまいこと金網のフェンスが衝撃を吸ってくれることを祈るしかないか・・・。二人とも精密な検査をする必要があるな」
「ゲホッ‼っといっても、荒廃した都市でそんなことできるわけねえ。そこはどうする気だ?」
「探すしかないだろう。とりあえずすぐにでも行動を起こして———」
「あの~、なんか出たんだけど」
こよりが遠慮がちに、三人にそう呼びかける。
三人が振り返ると、こよりはその手に一枚の紙きれを持っていた。しかもただの紙切れではなく、何かが書かれているように見える。
四人は互いに目を合わせると、示し合わせたかのように同時に紙きれを覗き込む。
それは何かの設計書のようなものであった。
「これは・・・複雑すぎてわからないな」
「全身MRI装置って書いてあるが?こんなの機械の専門家じゃねえとみてもわからねえよ?」
「全身MRI装置って、確か癌とかを発見するために使う機械じゃなかったっけ・・・。まあ、今欲しいものではあるけど」
「設計書だけあっても材料がないと作れないでござるよ?あったとしても作れないと思うけど」
「つか作れたところで電気がないから動かせないだろ・・・。と言うかこよりちゃんや、どっからこんなもの持ってきたの?」
「精密な検査に必要なものって考えたら、いつの間にか手に持ってた」
こよりの言葉を聞いた和希は一人静かに納得する。
分かったかのように頷いた和希に対し、何もわかっていない三人が説明を求める。
和希は先ほどよりは少し落ち着いた吐き気と戦いながら、三人に説明をする。
「つまりこれがこよりちゃんの能力ってやつなんだろ。俺は『重力操作』。すいせいは『流星』。そんでもっていろはちゃんにもなんかしらの能力があるだろうし、姫華楓は・・・存在がバグみたいなもんだから何とも言えん」
「まず、すいせい先輩の能力を初めて聞いたのでござるが?風真にもあるとしたら、どんな能力なので・・・あ」
「ん?何か思い当たる節でもあったのか?」
さらりと明かされたすいせいの能力について、いろはがツッコミを入れつつ、自身の能力は何だろうと考えた結果、心当たりが一つ浮かんだ。
戦闘中にだけ見える謎の線。視界が煙に覆われようとその線が消えることはなく、線をなぞるだけであっさりと敵を切ることが出来る力。
これがいろはの能力なのだろうと思い当たったのは当然と言えるだろう。
「姫華楓君には前話したと思うけど、戦闘中に謎の線が見えるんだよね。その線になぞって剣を走らせると、豆腐のように敵が切れるでござる」
「謎の線?俺の知っているもので言うと『直死の〇眼』が該当するか?けどあれは常時発動型のはずだから、戦闘中しか見えないなら別ものか?」
いろはの能力について考察する和希だが、自身の知っている能力のどれとも当てはまらないことから、かなりマイナーな部類の能力あるいはこの世界特有のものだと結論付ける。
詳細を聞いて能力の全容明かしたいところではあるが、今はその時ではないと判断し、目線をこよりに向ける。
こよりの能力が『設計書作成』みたいな能力であるのなら、現状を打開できる可能性が見えてくる。
もし、和希の考えが正しいのなら作るものはこれが正しいはずだ。
「こよりちゃん、今度は『体力を回復させるアイテム』って思いながら能力を使ってみてくれない?」
「『体力を回復させるアイテム』?それってエナジードリンクとかってこと?」
「いや、もっと言うならゲーム内でよく使われている物って感じだね。例えばドラ〇エの薬草とか」
「HPを回復させるアイテムってことね!けどそんなもの現実にはないよ?」
「ここが現実なら、な」
少なくとも『能力』と言う非現実的なものがある時点で、ここは現実からは程遠い非現実であることは明白だ。
そのことに賛同するように、以前の出来事思い返しながら姫華楓はこよりに告げる。
「獅子原の言うことは最もだな。以前、いろはが重傷を負った時、洞窟にあった水を飲むことで治ったことがある。そのことから考えるに、ここは俺たちの現実とは違うようだ」
「そうでござるな。物は試しと言うことで、やってみてはどうでござる?」
姫華楓といろはの言葉に、一度試してみるこより。
こよりはどんな傷でも治す薬をイメージし、先ほどの感覚を思いだす。
先ほどは無意識で行ったが、目を閉じ意識を内側に向けると、自身の胸のうちに何があるのがわかる。その何かに語り掛けるような、そこから引っ張り出すかのような、不思議な感覚を『使用』する。
こよりが目を開けると、その手には一枚の設計書があった。
先ほどとは違い、材料も完成したアイテム名も聞いたことがないそれは、今姫華楓達が求めていたものでないことを直感で理解する。
「『古の蘇生薬』か。絶対過剰だろ」
「材料が『ハナエルの心臓』と『神の浄血』だからな。ゲーム脳で言うならラスボス手前とかで手に入るレベルのものだろ。そもそもこの世界に神がいるのか不明だが」
「裏世界とかにいそうだよね。少なくとも今はいいかな」
どうやら効力としては十分だったが、やりすぎだったらしい。しかし、これで確証が取れた。こよりは知らないものでもイメージさえできれば、作り方を把握することが出来る。どこからその知識を持ってきているのかが疑問として残るが、それを言い始めたら和希の能力などもどこから力を持ってきているのかという話にもなるため、そう言うものだと無理やり理解する。
こよりはもう一度目を閉じ、今度は『内臓の損傷を治せる薬』と『脳へのダメージを治せる薬』をイメージし、能力を使用する。
こよりの手に二枚の設計書が現れ、それぞれの内容をよく見てみる。
片方は『頭痛薬X』。なめてんのか?
もう片方は『ポーション』。
『頭痛薬X』は『マンドラゴラの葉』をすり潰し、『巨人の延髄』と混ぜ合わせたものであり、どんな頭痛にも効くと書かれている。これ外傷に使えなくね?
対し、『ポーション』は『薬草』と『清潔な水』を『魔法窯』で煮たものであり、回復量こそ少ないもの、軽い内臓の損傷なら治すくらいには強力である。これだけでよくね?
全員で設計書を見た結果、『ポーション』を作成することに決定する。
『頭痛薬X』はそもそも効くか怪しいし、『魔法窯』さえ作れれば、『ポーション』の量産は容易であると考えたためだ。
その為にはまず『魔法窯』が必要になるのだが、『ただの鍋』に『魔力草』と『水』を入れて混ぜれば出来上がるらしい。
廃墟であるここなら『ただの鍋』はいくらでも拾えるし、『水』や『薬草』もそこらへんで採取できるものだ。
問題となるのは『清潔な水』と『魔力草』になるが、これもこよりの能力によってあっさり解決する。
「なるほど。『清潔な水』はそこら辺にある水を濾過したもので、『魔力草』はそこら辺の草に魔力を込めればいいのか」
「濾過は簡単にできるとして、問題は魔力を込める方じゃない?魔力ってどうやって込めるの?」
「そこはやってみてから考えてみるでざる。全員でやれば案外何とかなるかもでござるよ!」
「ゴホッ‼・・・とりあえず、材料集めね?そろそろ意識保つのも一苦労なんだけど」
さすがの和希の状態をよくないと判断したのか、三人は会話もそこそこに各々材料集めに走る。
空を飛べる姫華楓は少し遠出して、ゾンビの少ない建物に入っては、使えそうな鍋や薬草、水など、必要な材料を持ってくる。
こよりといろはは空が飛べないため外に出れないが、和希やすいせいの容態を見ることは出来る。
いろはは、すいせいの様子を見ながら、回復体制を取らせながら息遣いなどが苦しくならないよう細心の注意を払い、こよりは和希を横たわらせながら、膝枕を行って心臓より頭の位置を高くすることで頭に血を登らせないようにする。
二人は姫華楓が戻ってきたときに備えて、出来る限りの処置を行う。処置が正しかったのかはわからないが、すいせいの息は大分やわらぎ、和希の表情は安らかな———いや、にやけ顔である。
姫華楓が材料を探しに行き初めて約十分。
すいせいがうめき声をあげたかと思うと、少しづつ目を開ける。
「すいせい先輩!よかった!」
「・・・いろは?」
真っ先に飛び込んできたいろはの表情を見て、いろはの名を呼ぶすいせい。
尻尾が生えていたら、全力で左右に振ってそうな笑顔を見ながら、すいせいは頭痛と共に気を失う前の出来事を思い出す。
「‼そうだ‼和希は⁉」
「この通り生きてますよ~と。まあ、無事とは程遠いが」
飛び起きたすいせいの言葉に、横になったままの状態で和希は答える。
すいせいはこよりに膝枕されて横になっている和希を見て、安心すると同時に少し怒りを覚える。
「・・・何してんの?」
「見ての通り安全な態勢になってるだけよ?内臓に損傷がある可能性が高いから、足を曲げて心臓の位置より高くしつつ、頭に血が上らないように膝枕してもらってるってだけで。頭の位置を高くするための道具がないから仕方ないよな」
「それにしてはにやけた顔でござるな」
「そのようなことがあろうはずがございません」
「それで、本音は?」
「めっちゃ柔らかいし、なんかいい匂いするし約得です。ありがとうございます‼」
「こよりちゃん。そいつ落としていいよ」
こよりは和希の本音を聞いてもなお、すいせいの言葉通りに落としたりすることなく、和希を労わる。
ゆっくりと、不快にならないように、こよりは和希の頭を撫で続ける。
突然のこよりの行動に、和希は一瞬体をはねさせるも、こよりの行動を咎めることはせず、ただされるがままでいる。
こよりの行動に驚いたのは和希だけでなく、すいせいやいろはも同様であり、こよりに行動の意味を尋ねる。
「ちょちょ⁉こよちゃん何してるでござる⁉」
「そうだよ!その変態を撫でるなんて⁉」
「いや~、なんかこうしてると撫でたくなっちゃって。顔色からして無理してるってことがわかっちゃうとね?」
こよりの言った通り、和希の顔色はあまりよろしくない。
大量に出血したのが原因か、元々白かった肌は白を通り越して青くなり始めており、こうして話しながらも、大量の汗が止まることはない。
表情がたるんでるのも、気を抜けば意識を失いそうな全身の痛みを表情に出さないようにするためのものだ。
最も、こよりにはそのやせ我慢もばれていたようだが。と言うか、この距離で気づかないほうが無理であると言っていい。
そんな会話を繰り広げていると、材料を集め終わった姫華楓が翼を広げながらも土てくる。
「とりあえず、拾える範囲で集めてきた」
「鍋に水を入れて持ってきたでござるか。草はいくつかあるようでござるが、どれがどれだか、わからないでござるね」
「そもそも、薬草ってのが何なのかわかってないしね~。こよりちゃんの設計書に書いてある薬草とおんなじなのは———これかな?」
「見比べてみると形がそっくりですね。ってなるとこれが薬草ですかね~」
「ただの草については見分けつかねえだろこれ・・・。解析や分析と言った能力があるなら話は別だけど」
どれが正解なのかもわからないため、とりあえずできることを試すことにした五人。
姫華楓は濾過に必要な小石や砂を集めに出かけ、こよりは引き続き和希の看病を行い、いろはとすいせいは集められた草に魔力を込める。
しかし、そう簡単にはいかないのが世の常である。
「ッ~‼って、とりあえず念みたいのを込めてみたけど、何の変化もないでござるね」
「すいちゃんの能力でもダメ見たい。まず魔力ってやつの流れが見えないや」
「・・・ねえ、獅子原君。魔力を作る方法って思いながら能力使ったら、人体錬成書が出来上がったんだけど」
「なんつう特急呪物作ってんだよ・・・。と言うか作れるんか、それ」
途中、こよりが満場一致で特急呪物と判断するものを作るというアクシデントがありつつも、いろはとすいせいはできることをしていく。
こよりも何かできないかと、能力を使って様々な特急呪物を量産するが、まともな設計書は作れなかった。
そして、何もすることが出来ない和希は、こよりの膝を堪能しつつ、こよりが作り出した特急呪物を眺めていく。
何も進展がないまま三十分が過ぎ、そろそろ試せることもなくなってきたといろはとすいせいが感じ始めたとき、二十枚近くに増えた特急呪物を見ていた和希があることに気づく。
「なあ、こよりちゃん。一枚でも人間を作成する特急呪物を見たか?」
「?ここにあるものは全部、人間の設計書だと思うけど」
「いや、種族としての人間だ。俺は一枚も見ていない」
和希の言葉を聞いたこよりは、散らばって設計書を集めると、『作成物』欄を見ていく。
全ての設計書を見終わったこよりは、和希の言うことが正しいことを認識する。
「確かに・・・。獣人種や天使族、ホムンクルスと言った人外の種族はあっても、人間だけない」
「考えられる可能性は二つだな。一つ目は人間だけ作れないという説。人の手で作られた人間はホムンクルスという名称になり、純粋な人が作れないと言う可能性。もう一つは———」
「すいちゃん達人間には、魔力を作れないっていう可能性かな」
和希の言葉に続けて、すいせいがそう言葉をこぼす。
すいせいの言葉に頷いた和希は、痛む全身を抑えながら体を起こす。
その様子を見たいろは達はおどろきつつも、和希に横になるよう勧めるが、和希は静かに首を横に振りつつ、三人に答える。
「大丈夫だ。最初の頃と比べるとだいぶ痛みも引いてきたし、このままだとこよりちゃんが身動き取れないしな」
「でも、あんまり動くべきじゃないでござるよ?傷に響くでござる」
「そうだよ。こよは大丈夫だから、このまま横になってて?」
「いや、こよりちゃんは魔力を込める作業をやってほしい。もし、仮説が正しければすいせいといろはには無理だから」
「そうそう。獅子原のことは私に任せて、こよりちゃんは作業をお願い」
すいせいはそう言うと、立ち上がろうとしていた和希の頭を軽く誘導し、自身の膝の上に乗せる。
無論、特別な感情があるとかではなく、頭を低くするわけにはいかない為の応急処置的なものである。
しかし、この光景を見たものは皆こう思うだろう。そこを変われと。
実際、すいせいのファンであるとある彼女は、この光景を見て血の涙を出さんばかりであった。
こよりは和希とすいせいの言葉に従い、周辺に落ちている草に対し、魔力を籠めようとする。
一枚拾っては目を閉じ、能力を使う時と同じ感覚で草に『何か』を送り、一切の変化が見られないときは次の草を試す。
そうやって、六枚目の草に魔力を籠めようと目を閉じたとき、持っていた草が光り始めた。
まぶしくて目を開けられないようなまぶしい光ではなく、例えるならスマホやパソコンのブルーライトに似た光を発している。
約三秒間、草は光り続けたが、徐々に光が落ち着き、光が消えたときにはうっすら青みがかった色をまとっているような草に変わった。
「これが『魔力草』ってやつ、なのかな」
「分からない。けど、こよは多分これがそうだと思う」
「どうやらすいちゃん達の予想は当たってたみたいだね」
「ああ、俺達人間・・・いや、この言い方は悪いか。『人間種』ってのは魔力を使えないらしいな。この世界、極端に人間が生きにくくね?」
『人間種』に生まれただけで、この世界の難易度は一気に跳ね上がる。それを痛感させられる出来事であった。
元々、この世界は人間が生きるには厳しすぎる世界だとは認識していたが、その認識が甘かった。
この世界は、『獣人種』や『天使族』、『悪魔族』と言った幻想が生きる世界であり、人間とは他種族から見ると、言葉を話す猿くらいの認識でしかないだろう。
もちろん、姫華楓やこよりはそうは思わないだろうが。
そんな考えが頭をよぎる中、濾過に必要な材料を集めた姫華楓が屋上に帰還する。
姫華楓はどこから見つけたのかわからないペットボトルを持ち、その中に小さめの石や砂を入れて持ってきた。
ペットボトルを半分に切った後、五人はお互いの知識を集めながら、濾過装置の作成に取り掛かる。
「とりあえず、砂を一番下にする。っで、あってたか?」
「いや、小石が先じゃなかったじゃないかでござる」
「いろはちゃん正解!下から順番に、石、炭、砂、布の順番だね!」
「炭は残念ながらないか。まあしょうがないよね」
「炭を作るってなると、いろいろ準備が必要にはなるからな。濾過を何回か繰り返した後、念のため沸騰させれば問題ないんじゃね?」
そうして話し合いながら進め、約十分後。何とか濾過装置(仮)の作成に成功する。
早速試しに、姫華楓は鍋に入った水の半分を注ぎ、水の濾過を始める。
布に染み込んだ水は大きな不純物を取り除きつつ、砂に染み込み、重力に従って小石の間を通り、ペットボトルの下半分に落ちる。
その水は一目見た感じでは不純物は見られず、『清潔な水』と言っていいと思われた。
「やったね!濾過装置は成功だよ!」
「そうでござるな!こよちゃんが魔力草を作ってくれたし、さっそく作業に取り掛かるでござる!」
いろははそう言った後、鍋に残った水に魔力草を入れ、火にかけようとする。
そして、その時にふと思い出した。
「・・・火ってどうやって起こすでござる?」
「「「「・・・あ」」」」
まず火を起こす方法がない件について。
そのことに気づいた一同は、慌てて火を起こす方法を考えるが、一つしか思い当たらなかった。
「・・・姫華楓!GO!」
「まあ、だろうな」
和希が合図を出すと同時に、少しあきれた表情をした姫華楓が木の枝を探しに空を飛ぶ。
姫華楓は一瞬だけいろは達に目を配るとそのまま森を目指して飛んでいく。
姫華楓が木の板と木の枝を持ち帰ってきた後、思いもよらないハプニングが一同を襲った。
「・・・俺はどうやら無力らしい」
一番頼りにしていた姫華楓が、火を起こせないことが判明したのだ。
木の枝を木の板に当て、摩擦を使って火を起こそうとしたのだが、姫華楓の力が強すぎて、火を起こす前に枝が折れるのだ。
かといって折れない程度に力を抜くと、今度は摩擦が全く起こらず、火を起こすことは困難であった。同様の理由でこよりも戦力外となった。
「大丈夫でござる!今まで助けられてきた分、風真が頑張るでござるよ!」
そう言いながら、いろはは木の棒を板にこすりつけ、火を起こそうとする。
二十分くらい格闘を続けたが、火が起こる気配は一切なく、いろはの腕の疲れのほうが先に来てしまう。
「ハァ、ハァ。ちょっと腕が」
「そうそう、両端を糸でまとめてだな」
「こうか?なるほど。これなら俺でも問題なく行けるかもしれん」
「いや、それ壊れると面倒だからやめて?」
「大丈夫だ。問題ない」
「フラグ立てんなや」
いろはが頑張って火を起こしている間、和希は姫華楓に指示を出しながらある道具を作っていた。
小さな弓のようなそれは、火を起こす道具の一種であり、『ゆみきり式』と呼ばれる方法で使用するものである。
姫華楓は作り上げた弓の紐を木の棒に巻き付けると、前後に弓を動かし素早く摩擦を起こしていく。
木の板と棒の間で煙が発生し、少しづつ板が焦げる匂いが出てくる。
が、あともう少しと言ったところで、弓から小さく音が発生し、その音に気づいた瞬間、慌てて和希が止めようとするが、少し行動に移すのが遅かった。
姫華楓が握っていた個所から全体にあっという間に罅が走り、小さな音と共に弓が壊れてしまう。
一瞬の沈黙の後、何もなかったように姫華楓は立ち上がると、いろは達に言葉をかける。
「よし。いろは頼んだ」
「やっぱりフラグだったがじゃねえか!」
予想通りの結果に、和希は全力でツッコむのであった———。
前書きや後書きは必要と思うか
-
いる
-
いらない
-
まあいるんじゃない
-
まあいらないんじゃない
-
作者が決めろや